Need Help?

News

ニュース

2021.04.02

「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」第3部開催レポート【犯罪学研究センター】

対人支援によって再犯防止をめざす、市民の、市民による、市民のための 龍谷独自の刑事政策構想の構築に向けて

2021年3月12日、犯罪学研究センター主催のシンポジウム「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」をオンライン上で開催し、約60名が参加しました。
【>>イベント概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-7969.html
【>>第1部開催レポート】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8179.html
【>>第2部開催レポート】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8180.html


第3部「みんなで話そう龍谷・犯罪学」は、赤池一将教授(本学法学部、当センター教育部門長・「司法福祉」ユニット長)による話題提供とディスカッションで構成されました。
赤池教授は「龍谷コングレス・テーゼに向けて」と題し、これまでの当センターの活動・研究成果と、今回の京都コングレスおよび京都宣言で取り上げられたトピックを対比・整理しながら、京都宣言から見えてきた刑事司法をめぐる日本の課題について報告をしました。
【参考記事>>】犯罪学研究センター教育部門長・司法福祉ユニット長 インタビュー「龍谷大学だからできる犯罪学」

文部科学省 「私立大学研究ブランディング事業」に採択された(2016年11月〜2020年3月)犯罪学研究センターの研究プロジェクトは、2016年6月の設立当初から京都コングレスを念頭におきながら進めてきました。全13のユニットによってなされる多岐にわたる研究を学内外の研究者の協力を得て行ってきました。赤池教授は、当センターの知見をとりまとめ、京都コングレスにあてはめて下図のように対比しました。


赤池教授の報告(京都コングレスの議題・ワークショップトピックに当センターの知見をあてはめる)

赤池教授の報告(京都コングレスの議題・ワークショップトピックに当センターの知見をあてはめる)


赤池教授は「国連に属する研究機関が設定したワークショップトピックに対して、犯罪学研究センターはどのような原理・原則を念頭に置きながら考えるのか、抽象的ではあるがここに示したい」と提示します。つづいて、京都コングレスのハイレベルセグメント、国家間の調整で浮かび上がってきたトピックとの対比に移っていきます。


赤池教授の報告(日本政府の提案と当センターの視点との比較)

赤池教授の報告(日本政府の提案と当センターの視点との比較)


「日本政府の対応策はあまりにも実務的観点に基づく現状の肯定・延長上にある手堅い提案に留まり国内外の批判に応えるような大胆な改革案は示せていない。犯罪学研究センターのものと比較することで、その相違が浮かび上がってくると思う」と赤池教授は日本政府の案に疑問を呈します。
つづけて、赤池教授は「今後のディスカッションのために、今回の京都コングレス・京都宣言をめぐって、国際化・法律化・社会化を問い返すという形でまとめたい」と述べ、それぞれの論点や課題を次のように整理して、参加者と共有しました。

1. 国際化の視点の変化と課題
「50年前であれば、日本の制度をいかに国際化するかということが基本であった。国際準則に対してどのように対応するかが真剣に議論されてきた。国連の議論は地域バランス、開発の段階、ジェンダー・バランス等をふまえた議論をしている。各国の進んでいる点、遅れている点をリフレクシブにとらえて考えようとしている。日本政府・法務省は、なぜ、そして、いつから、日本の法制度への理解と法順守の文化を他国の範として誇るようになったのか。日本の刑事司法に対する無謬信仰に陥っていないか?が大きな問題である」

2. 法律化の視点の変化と課題
「民主主義社会では多数決がひとつの意思決定手段として用いられ、その利益の表明が「法律」である。しかし、多数者であるからといって少数者から奪ってもよいというわけではない。何人も奪うことができない利益が「権利」であり、多くの場合は憲法のなかで基本的人権として定めている。国際人権基準への「法律」による対応は充分か、その新動向の障害となる実務の有無は吟味されているか、実務に対する批判的主張に対応しているか。法律をもって執行され、国際的な人権規約からみて犠牲となるような人々についてどのように考えるべきかが問われるべきである。京都宣言の50には、『犯罪者に対する刑罰の厳しさが犯罪の重大性に見合うものとなるように、犯罪者の処遇に関する量刑の刑罰の政策、実務又は指針を国内法の範囲内で推進する。』とあるが、たとえば死刑問題を議論の俎上に乗せることは困難になるだろう。また実質的な終身刑である無期懲役の実態、仮釈放の運用、刑務所の実務状況といった国内での実務上の課題について外から議論することが難しくなるのではないかという懸念がある。「法の支配」が「法による支配」によってゆがめられていないか、法律化という側面で議論すべきではないか」

3. 社会化の視点の変化と課題
「『総合的アプローチ』『多面的アプローチ』という言葉が多く出てくるが、官・官ないし官・民協働の昨今の理論的背景をなす意義については検討する必要がある。犯罪者処遇を、刑務所内だけの法律ではなく、社会一般の法と制度によって実施するという観点が重要だと思う。例えば教化・教育を、昨年まで小学校で教えていたふつうの先生が今年は人事異動で刑務所の先生になるというような、社会一般の法と制度によってまかなう「社会化」が重要である。法律化の問題ともかかわることであるが、社会化とその担い手「多様なステイク・ホルダー」がなぜ問題になるのか考えなければならないと思う。少数者を擁護すべきピアグループや当事者の存在が、法律による支配が行われようとするとき、重要な役割を果たしている」


赤池教授の問題提起を受け、石塚教授がディスカッションのコーディネーターを務め、参加者に今回の京都コングレスおよび京都宣言に対するコメントを求めました。

石塚教授は「京都宣言の国内法の範囲で推進するという点は理解できるものの、これではむしろ国内法は変えなくて良いという現状肯定につながる。各国間の同意の形成の中で巧みに盛り込まれた「国内法の範囲で推進する」という現状肯定を認めるような消極的な同意形成を止めるために、国際会議におけるNPO・NGOなどが果たしてきた役割は大きい」と述べ、NPO・NGOの活動に詳しい前田 朗教授にコメントを求めました。


前田 朗教授(東京造形大学・造形学部)

前田教授は、はじめに国際人権機関におけるNGOの役割について、メンバーの一員として四半世紀活動してきた経験から昨今の状況について説明しました。前田教授は「1990年代からNGOの活動が活発化したが、米国・日本・中国などが「NGOが多すぎる」と批判をするようになり、当初はNGOを擁護した欧州が姿勢を変えたため、2000年代にはNGOの活動が制限される方向になった。その後は特定政府の意見を述べるNGO(GONGO)が登場してきた。政府等からの多額の研究費・助成金が降りてくる状況で、受け取ったNGOと受け取らなかったNGOとに分かれた。そのことでお金のためにやっている団体、政府の代弁者としての役割を果たす団体とが出てきて人権フォーラムをめぐる周囲の様相が変質した」と指摘します。また、新型コロナの影響で2020年6月以降、人権理事会にオンライン導入がされ、他の条約委員会にもそれにならいます。前田教授は「やむを得ない事情であるが、各国外交官、テーマ別特別報告者、人権高等弁務官事務所スタッフと情報共有や交渉する機会であるロビー活動がしにくい状況になっている」ことを報告しました。


つぎに石塚教授は、京都コングレスの議題のテーマのうち、とりわけ「あらゆる形態の犯罪を防止するための国際協力及び技術支援」にふれながら、なぜコングレスにおいてテロの問題を取り扱いながら「戦争犯罪や戦時下の人権」という視点は抜け落ちているのか?」という疑問をなげかけ、この問題に詳しい舟越 美夏氏にコメントを求めました。


舟越 美夏 氏(ジャーナリスト、犯罪学研究センター嘱託研究員)

舟越氏は「虐殺やジェノサイドがあった現場を取材してきた身としては、コングレスにおいて戦争犯罪が取り上げられないことが残念であるし、違和感を持っている。国家による犯罪を阻止し、実効力のある国際的な法制度をどのように確立するか、という課題は国連という場で模索されるべきである。」と強く参加者に訴えかけました。つづけて「過去2度の大戦の反省から人道に対する罪、ジェノサイド罪を規定し*2、2005年から国連首脳会合では、保護する責任を負うということも規定されている。その責任には犯罪の予防というものも含まれている。早期の警戒についても国連が支援することも謳っている。しかし、このことをもって阻止できたことは皆無に近く、人道に対する罪が司法の場で裁かれることも難しい。なぜならば、国連安全保障理事会の付託(常任理事国の同意)が必要で、各国の利害が対立するからである。しかしこのような実情を無視するなら『SDGs : だれひとり取り残さない持続可能な社会』は実現しないのではないか。最近はテロ鎮圧を名目に過剰な公権力や武力の行使が黙認される状況で、世界の不安定化が促進される」と最近のミャンマーの政変の事例*3を交えながら説明し、憂慮の念を表明します。最後に民主主義を謳う大国が人道犯罪を犯す事例として、モーリタニア人のモハメド・オーラド・サラ匕氏の手記を映画化した『THE MAURITANIAN』を紹介し、「今年10月に日本で公開されるこの映画を一人でも多くの人に視聴してもらうために準備をしたい」と抱負を述べ、報告を終えました。

つづいて石塚教授は、「国際的視点からみた日本はどういう国であるのか、刑事司法は日本が言っているように他国に誇れるものなのか?『人質司法』と揶揄されている刑事手続の何が問題なのか考えていきたい」と述べ、えん罪救済を目的とする日本版イノセンスプロジェクト「えん罪救済センター」*4の活動に関わっている笹倉 香奈教授にコメントを求めました。


笹倉 香奈 教授(甲南大学・法学部、犯罪学研究センター客員研究員)

笹倉教授は、日本側が準備・用意したコングレスのアンシラリー・ミーティング(Japan’s Ancillary Meetings)のひとつである「日本の刑事司法を比較法的観点から考える」というセッションの動画*5を取り上げ、人質司法をめぐる問題*6についてコメントしました。笹倉教授は「先ほど赤池先生が『国際化、法律化、社会化を問い直すべきだ」と仰っていたが、このイベント(Japan’s Ancillary Meetings)についてもやはり、この3点を問い直すべきではないかと思う。この動画の基本的な立場は、『それぞれの国の制度を単純に比較することはできないし、日本の刑事司法に対するこれまでの批判にはあたらないものが多い。安易な批判をするべきではない。そして基本的に日本の刑事司法制度は適正に運営されている』というものである。例えば国連人権理事会の恣意的拘禁(に関する)作業部会は2020年の11月20日にカルロス・ゴーンさんの事件について見解をだしているが*7、この中で指摘されている人質司法への批判には、本動画は正面から答えていない。しかし、長期の身体拘束から虚偽の自白をおこなったという実際の被疑者・被告人の例は後をたたない。日本の冤罪の原因や構造をどのように見るのか、本セッションはそのような点にふれていない。実務を被疑者・被告人の権利という観点からみる、防御権の観点からみるということが必要ではないか。各国の制度は確かに異なるものではあり、安易な批判は避けるべきなのかはしれないが、その根底にある人権といった共通の価値への意識が及んでいなかったという意味で、この動画が日本の刑事法研究者の見解として語られるということには危機感を覚える」と主張しました。


さいごに石塚教授は、「ダイバーシティ(多様化)、ジェンダーの語が京都宣言に盛り込まれているが、従来の龍谷大学刑事系のグループは、ジェンダーや被害者という論点が弱かった。犯罪学研究センター設立を機にその点について知見を深めたいと考えている」と述べ、当センターの博士研究員である牧野 雅子 氏にコメントを求めました。


牧野 雅子 氏(犯罪学研究センター・博士研究員)

「京都宣言には、犯罪防止におけるジェンダーの視点の主流化、および、刑事司法制度におけるジェンダーの視点の主流化と、ジェンダーの視点が盛り込まれている*8。このことは評価されるべきだと考える。ジェンダー問題の改善には、意思決定過程への女性の参加が必要だと主張されるが、女性が問題なのではなく、女性をはじめとするマイノリティを周縁化しているシステムや、マジョリティの差別性が問題なのだということは強調しておきたい」

予定されたプログラムが全て終了し、黒川雅代子教授(本学短期大学部、犯罪学研究センター副センター長)が閉会のあいさつを行いました。黒川教授は「本日登壇いただいた皆様に心より感謝申し上げたい。本日のシンポジウムでは、京都コングレスについてさまざまな熱い議論があり、さまざまな課題が抽出されたところで、さらに突き詰めていくべきだと思うが、残念ながら時間の制約上、つづきは618日から21日に龍谷大学で開催される「アジア犯罪学会 第12回年次大会(ACS2020)」サイドイベントの場で継続できれば、と考えている。また、私は社会福祉学が専門のため少しピントがずれた意見になるかもしれないが、刑事政策はソーシャル・エクスクルージョンではなく、ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の視点で議論されているのだということを、本日の議論を通じて深く考えさせられた」と述べ、シンポジウムは成功裏に終了しました。

───────────────────────────

【補注】
*1 国際連合人権理事会(United Nations Human Rights Council : UNHRC)とは、国際連合経済社会理事会の機能委員会の一つであった国際連合人権委員会(United Nations Commission on Human Rights : UNCHR)を改組・発展させた組織で、2006年に正式発足した。理事会は、国連加盟国の人権状況を定期的に把握することで、人権侵害の問題に取り組み、それに対応する勧告を行う。https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/hr_bodies/hr_council/

*2 ジェノサイド条約(Genocide Convention)は通称。集団殺害罪の防止および処罰に関する条約:英Convention on the prevention and Punishment of the Crime of Genocideは、集団殺害を国際法上の犯罪とし、防止と処罰を定めるための条約。「ジェノサイド」(「種族」(genos)と「殺害」(cide)の合成語)を定義し、前文及び19カ条から成る。日本は未加盟。批准していない。
>>参照:衆議院 第185回国会 法務委員会 第4号(平成25年11月5日(火曜日))

*3 議長声明案に「非難」明記 ミャンマー巡り国連安保理(日本経済新聞2021年3月8日記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN073YY0X00C21A3000000/

*4 イノセンスプロジェクトとは、1992年にアメリカでCardozoSchool of LawのPeterNeufeldとBarry Scheckによって設立されたNPO。その目的は、DNA鑑定を通じて冤罪証明をしたり、刑事司法制度におけるさまざまな改革を訴えることにある。同NPOの活動に共鳴し、世界各国に同種のNPO団体が設立されることになった。
>>日本版イノセンスプロジェクト「えん罪救済センター」
参考:「"イノセンス・プロジェクト"の可能性と課題(視点・論点)」(NHK、2017年11月21日 記事)

*5 2021年3月7日 14:00-15:30 Room B-2で行われたサイドイベント「日本の刑事司法システム―比較法的観点から(法務省大臣官房国際課)」日本の刑事司法手続きについて、内外の有識者が比較法的観点から議論を行った。
詳細:http://www.un-congress.org/Session/View/ef0678bc-7b8e-437b-af96-10dffcafc810
その様子:https://s3.amazonaws.com/us.inevent.files.general/0/0/1qo3ITmrqrJhVDYTjw01wUpeiPXkTx6LHoTSWbaRMlwo.mp4

*6 なお、これに対し日本の法務省は下記のような見解をとる
【参照】法務省トップページ  >  政策・審議会等  >  刑事政策  >  我が国の刑事司法について,国内外からの様々なご指摘やご疑問にお答えします。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.html
* 「人質司法」の誤解アピール 法務省、ゴーン事件受け世界へ動画発信(産経新聞、2021年3月7日記事)
https://www.sankei.com/affairs/news/210307/afr2103070013-n1.html

*7 意見書の原文
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Detention/Opinions/Session88/A_HRC_WGAD_2020_59_Advance_Edited_Version.pdf
参考記事:ゴーン被告逮捕は「不当」 国連作業部会が意見書(時事通信JIJI.COM11月24日記事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112400028&g=soc
外務省トップページ > 会見・発表・広報 > 報道発表 > 国連の恣意的拘禁作業部会(ゴーン被告人案件)による意見書公表
「報道発表 国連の恣意的拘禁作業部会(ゴーン被告人案件)による意見書公表(2020年11月23日付)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000373.html

*8 京都宣言「犯罪防止におけるジェンダーの視点の主流化(27・28)」、「刑事司法制度におけるジェンダーの視点の主流化(43・44)」