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2021.07.29

龍谷コングレス2021「課題共有型“えんたく”大麻論争とダイバーシティー(多様性):薬物使用は、犯罪か?〜使用罪は、何を奪おうとしているのか?〜」を開催【ATA-net研究センター・一般社団法人刑事司法未来主催/犯罪学研究センター共催】

日本における大麻政策の在り方とは?アジア犯罪学会 第12回年次大会記念サイドイベント3日目

 2021年6月20日、ATA-net研究センターおよび一般社団法人刑事司法未来は、犯罪学研究センターとの共催で「課題共有型“えんたく” 大麻論争とダイバーシティー(多様性):薬物使用は、犯罪か?〜使用罪は、何を奪おうとしているのか?〜」をオンライン上で開催し、約80名が参加しました。
 厚生労働省は「大麻等の薬物対策のあり方検討会」*1を立ち上げ、医療用大麻の使用を拡大する一方で、これまで処罰の対象となっていなかった大麻の使用を犯罪化・刑罰化しようという論議を開始しました。これを受け、ATA-net研究センターでは、薬物をとりまく現状を知り、薬物政策の意味を学ぶため、大麻問題に関する計7回の連続ティーチイン(時事問題などを討議するフォーラム)*2を実施してきました。これを受けて、当イベントでは、本学がホスト校をつとめる「アジア犯罪学会第12回年次大会(ACS2020)」のサイドイベントの一つとして、改めて大麻に関する課題と知見を共有することを目的に企画されました。
 課題共有にあたっては、ATA-netが推進する「課題共有型円卓会議“えんたく”」*3を活用しました。今回は3つの基本形を有する“えんたく”のうち、“えんたく”C(Collaboration)とよばれる方法を用いました。“えんたく”Cは、結論を出すのではなく、当該問題に関与する人や関心を持つ人が集まって話し合い、課題を共有し合ことで問題点や行うべき対策を考える方法で行われます。課題共有にあたっては、ホワイドボードを利用し、発言内容をリアルタイムで視覚化するファシリテーション・グラフィックを活用しながら、相互理解を深めました。
当イベントでは、話題提供に関連して各登壇者が知見を示したほか、参加者も少人数に分かれてブレイクアウトルーム上で意見交換を行いました。おわりには、登壇者と参加者によるこれから検討すべき課題の共有が行われました。今回共有した課題をさらに検討していくため、大麻問題に関するティーチインを継続して開催することを確認しました。
>>イベント概要:【龍谷コングレス2021】課題共有型“えんたく” 大麻論争とダイバーシティー(多様性):薬物使用は、犯罪か? 〜使用罪は、何を奪おうとしているのか?〜/犯罪学研究センター共催

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 はじめに、ATA-net研究センター・センター長の石塚伸一教授(本学・法学部)より、企画趣旨の説明が行われました。石塚教授は、「世界では大麻に対する規制が緩和されつつあるにも関わらず、日本では逆に大麻使用罪を設けて規制を強める動きになっている。そこで、このえんたくで大麻に関する課題を共有するのが今回の目的である。」と述べました。

 “えんたく”を始めるにあたり、加藤武士氏(犯罪学研究センター嘱託研究員・木津川ダルク代表)が話題提供を行いました。「処罰を強くするのではなく、社会保障や教育を充実させていくことの方が薬物問題を小さくするということを学んできたので、大麻の所持罪や使用罪で、取り締まりを厳しくするのはデメリットの方が大きいのではないかと考えます。2020年の世界薬物報告書によると、大麻に依存するのは使用者の約10%とされており、大麻使用者全体の一部です。


加藤武士氏(犯罪学研究センター嘱託研究員・木津川ダルク代表)

加藤武士氏(犯罪学研究センター嘱託研究員・木津川ダルク代表)

さらに、シンナーやたばこなどを使用する若者は減っているのに大麻だけ使用者が増えているから、なんとかしなければと考えられている一方で、精神疾患と診断されて向精神薬などを処方されて、家でインターネットやゲームにはまっていく若者がいます。また、日本の若者の自殺者も減らないと言われていますが、多くの大麻が許された国より日本の若者の自殺者は多いことも踏まえると、社会的な状況や、精神疾患、薬物を使った事故などがどれくらいなのかということをきちんと調べたうえで薬物との向き合い方を考えていくのが大事ではないかと考えます。大麻を厳罰化するのではなく、購入方法の工夫や教育によって、使う人はいても問題は極力小さくしていくような形で薬物問題に対応していけるのではないかと考えます。薬物からの回復支援中に自殺する人も存在するため、そういったこともふまえて、薬物問題に対して自分たちに何ができるか考えるような地域であってほしいと考えます。大麻に関して様々な視点や関係を持つ人たちがいるので、そういった意見を交流させて日本では薬物にどう向き合うのかということを考えられるような、多様な社会になればいいなと思います。」と述べました。

この話題提供に関連して、登壇者が順番に発言を行いました。


長吉秀夫氏(ノンフィクション作家・舞台制作者)

長吉秀夫氏(ノンフィクション作家・舞台制作者)

まず、長吉秀夫氏(ノンフィクション作家・舞台制作者)は、「自分が大麻に強い関心を持っている理由には、大麻の他に様々な薬物を試した際、覚せい剤にはまってしまい、大麻を使用することでそこから脱却したことや、医療大麻の裁判に関わったことなども関係しています。これは山本さんという末期がんの患者さんが痛み止めとして大麻を使用して起訴された事件で、私はずっと山本さんの支援をしていました。がんの薬を飲むと体はどんどん弱くなっていきますが、大麻を吸うことによってその薬の量が半分に減り、食欲が出て、よく眠れるようになります。これはすごい効能です。それにも関わらず現在は医療大麻も違法であり、それによって勾留されただけでも社会的に避難されるので、そのような手続きもなんとかしなければなりません。医療大麻というのは必要なものであり、ただ恐れるだけではなく理解をしてほしいと考えます。今まさに戦後初めて大麻と向き合って話をする場面に来たと思うので、有識者会議などの場で、きちんとそれぞれの立場で意思表明をして、話し合うのが大切だと考えます。」と述べました。

次に、高樹沙耶氏(石垣島のキャンピングロッジ「虹の豆」オーナー)は、「2016年に東京において、参院選で、医療大麻推進を掲げて出馬し、その年に大麻を所持しているとされ、マトリの方たちに逮捕されました。通常、勾留は20日間のはずですが、証拠隠滅のおそれがあるとされ、3か月間勾留され、その後また3か月かけて裁判をすることになりました。私が2つおかしいと思うのは、あまりにも勾留期間が長いということと、逮捕時にメディアが来ていたのですが、それが国家公務員の守秘義務違反によるものだったということです。メディアの報道は逮捕された後もひどく、大麻で捕まってしまった人たちのスティグマ(烙印)の苦しみを、身をもって感じました。大麻のような問題は、国民の皆様の理解がないとますます苦しくなります。しかし、いまだにマスメディアの大麻に関する報道には大きな問題があります。国家公務員の守秘義務違反によって、大麻を使用して捕まった人たちをどう扱うのかということと、逮捕された後の社会復帰に関して、今のままではリスクが大きすぎて、かつ大麻の真実が知られていないというのが非常に残念です。そういったことは、インターネットやメディアより、人と人とのコミュニケーションを強化して、そこから伝えていければいいなと思います。」と述べました。


高樹沙耶氏(石垣島のキャンピングロッジ「虹の豆」オーナー)

高樹沙耶氏(石垣島のキャンピングロッジ「虹の豆」オーナー)


吉田智賀子氏(Always Pure Organics(APO) アジア地域オペレーション・ディレクター)

吉田智賀子氏(Always Pure Organics(APO) アジア地域オペレーション・ディレクター)

続いて、吉田智賀子氏(Always Pure Organics (APO) アジア地域オペレーション・ディレクター)は、「日本の大麻に関する政策が世界の動向に逆行しているという実感はあります。国際社会では、医療用大麻の有用性が認められているほか、嗜好用大麻の合法化や非犯罪化が進んでいます。また、開発途上国の中には、医療・産業用として大麻栽培を合法化し、外貨取得や開発事業プロジェクトとして大麻を有効活用する方向に舵を切った国もあります。例えば、パキスタンのような大麻が自生している国では、大麻樹脂等の不法薬物が闇取引されテロの資金に回るという構図があります。これを合法化することで、取締り対象外となり、ブラックマーケットから消えれば、法執行機関の負担減少にもつがなります。また、世界では、医療用大麻を使った患者及びその家族がどんどんメディアに出るようになりました。25年以上前の話しですが、私の弟は白血病で亡くなりました。もし当時、医療大麻が使用できれば、もう少し生活の質を上げることができたのではないかという思いもあります。今までダメだとされてきた薬物が、医療や経済開発に役立つ可能性があることを否定してはならないと思いますし、社会において、これら薬物に関する間違った認識が植え付けられてしまっていることが一番の問題なのではないかと考えます。国連では、SDGsに則り、薬物政策に基づいた刑罰や社会的隔離から、健康や人権といった基本原理を重んじる方向に転換してきています。こうした国際的な動きが日本でも多く報じられるようになれば、世論も変わるのではないでしょうか。」と述べました。

そして、丸山泰弘氏(立正大学法学部教授)は、「アメリカにはドラッグコートという、薬物専門の裁判所があり、薬物からの回復プログラムを修了すれば、裁判を取り消して、前科もつかないという仕組みになっています。これは、薬物をやめたくてもやめられない人に裁判でどう対応するかというもので、日本の薬物政策よりかなり漸進的です。この制度は治療的、福祉的ですが、薬物の末端使用者に対する根強い差別が存在する日本での実現は少し難しいと考えました。また、ポルトガルは2001年に、ほぼすべての薬物を非犯罪化しました。そして、薬物問題だけでなくその背後にある社会的な生きづらさをすべてサポートする、その人らしい生き方というものを全力でサポートするという方針をとっています。刑罰で薬物に対応するのは、違反者を社会から排除するような運用になっているように感じます。そうではなくアメリカやポルトガルのように、まずは使った人を助けるような、生きる希望が持てるような方法が良いと考えます。世界的に、薬物と刑罰で戦うのが失敗であったとはっきり言われています。また、薬物に対して厳罰化派の人も非犯罪化派の人も、問題使用を減らしたいのは同じで、効果があったのが刑罰ではなかったと世界中が言っています。そうなると、日本で大麻使用罪を設けるという話や、若者を集中的に逮捕しようとしているのは、世界と逆行していると思います。薬物には偏見ではなくきちんとした証拠をもって対応するべきです。また、薬物を使うことは人権問題にも関わるため、薬物を使う人がいれば、そういう生き方もあるということは否定することではなく、まして刑罰で対応するものではないと思います。」と述べました。


丸山泰弘氏(立正大学 法学部 教授)

丸山泰弘氏(立正大学 法学部 教授)


正高佑志氏(医師・一般社団法人GREEN ZONE JAPAN代表理事)

正高佑志氏(医師・一般社団法人GREEN ZONE JAPAN代表理事)

最後に、正高佑志氏(医師・一般社団法人GREEN ZONE JAPAN代表理事)は、「カリフォルニアに渡航し、両足が突っ張って動かない痙性麻痺という症状の患者さんに医療用大麻を投与したところ足が突っ張って動かなかったのが、筋肉のこわばりがとれて、痙攣の痛みがなくなるのでリハビリも毎日できるようになり、わずか2週間でどんどん歩けるようになったのです。また、てんかんの症状をもつ少女にCBDを投与しての治療も行いました。すると、それまでどんなに手を尽くしても1日に30〜40回の痙攣をおこしていたのが、完全に止まりました。これはきちんと論文として報告しています。そのような経緯を経て今度は、嗜好用大麻には実際どれほどの健康被害があるのかということを、4000人の方にアンケートに協力してもらい、調べました。すると、大麻を止めたくてもやめられない、大麻使用障害に当てはまるような人は、1割弱であることが判明しました。薬物は、基本的には吸わない方がいいという意見もありますが、私が思うのは、一部の人たちにとってはむしろ積極的に治療のために使った方がいいのではないかということです。1990年代には、人間の体にはエンドカンナビノイドという、大麻と同じような成分があり、心身のバランスを整える作用を司っていることが明らかになり、これが様々な要因で出づらくなっている人がいるのではないかという医学的な仮説もあります。それがCBDやT H Cの摂取によって緩和される可能性があり、大麻を手元に持つユーザーがいるのではないかと思うのです。これらを踏まえると、日本の薬物に関する政策決定はより科学的根拠に基づくものになるべきであると考えます。」と述べました。


“えんたく”の様子

“えんたく”の様子

 当イベントのおわりに、石塚教授は、「今後、大麻を非犯罪化・刑罰化した欧米諸国による産業化が進み、アジアにおいても大麻産業に参画する国が増えるであろう。その結果、人々が大麻の有する効能や有害性をよく知らないまま大麻の需要が高まる一方で、日本においても適切な対策を講じなければ闇のルートで流入し、アンダーグラウンドで拡大するおそれがある。大人たちが子どもたちに教えていくことが重要。私たちが大麻のことを学び、考えていくことが必要である。」と述べ、盛会のうちに終了しました。


ファシリテーション・グラフィック①

ファシリテーション・グラフィック①


ファシリテーション・グラフィック②

ファシリテーション・グラフィック②


ファシリテーション・グラフィック③

ファシリテーション・グラフィック③


ファシリテーション・グラフィック④

ファシリテーション・グラフィック④

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【補注】
*1 厚生労働省は「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を立ち上げ、医療用大麻の使用を拡大する一方で、これまで処罰の対象となっていなかった大麻の使用を犯罪化・刑罰化しようという論議を開始。これを受け、連続ティーチインでは、薬物をとりまく現状を知り、薬物政策の意味を学んできた。

*2 各ティーチインの開催要項についてはATA-netウェブサイト<https://ata-net.jp/archives/category/topics>を参照。なお、実施した内容についても本ウェブサイトにて随時掲載中。

*3 JST社会技術研究開発センター(RISTEX)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域採択プロジェクト「多様化する嗜癖。嗜虐行動からの回復を支援するネットワーク(ATA-net)の構築」が開発・推進。えんたくA(Addict)は、「当事者どうしがたがいの思いや現状・経験を率直にかたる場」として、えんたくB(Bond)は、「特定の当事者と回復支援に関わる人たち、すなわち、家族、知人、専門家、支援者(これからなろうとする人も含む)。で語り合い、当事者のかかえる課題を共有する場」として様々なアディクション回復に役立てることを目指している。詳細は、ATA-netウェブサイト「えんたくパンフレット2020.09」<https://ata-net.jp/wp-content/uploads/2020/09/えんたくパンフレット2020.09.pdf>を参照。
ATA-netではこれまで、アディクションをはじめとするさまざまな問題に関して、多数の“えんたく”を開催している。<https://ata-net.jp/archives/category/topics>を参照。