Need Help?

Special

卒業式・入学式

2021年度 入学式 式辞

文学部、文学研究科、実践真宗学研究科、短期大学部のみなさまへの式辞

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。龍谷大学を代表して、皆さんに心からお祝いを申しあげます。また、本日ネットでご覧いただいているご家族の皆さまにも心よりお慶びを申しあげます。

新入生の皆さんは昨年、二転三転した入試改革に振り回され、そして新型コロナウイルス感染拡大に翻弄され、かなり精神的につらい局面がこれまで何度かあったかと思います。

しかし今日晴れて新たなスタートラインに立ったのです。龍谷大学は、「真実を求め、真実に生き、真実を顕かにする」ことのできる人間の育成に努める大学です。龍谷大学での学び、それは人生に深みと広がりをもたらします。いかに自分はこれまで物事を浅く考えていたか、いかに自分はこれまで狭い世界に閉じこもって世の中を見ていたか。こうしたことに気づかせてくれるのが龍谷大学です。

いま、新型コロナウイルスによって人間社会に甚大な被害がもたらされています。当面はワクチンに頼らざるを得ませんが、こうした事態を招いたのは何が主たる要因だったのでしょうか。改めて考えてみなくてはなりません。

自然の奥地にいる野生動物の体を宿にしているウイルスがどうして人間に移ってくるのか。現在、鉱物採掘などのための森林伐採や食肉・ペット利用の野生生物の乱獲などが世界各地で行われています。こうした人間の活動と動物由来の感染症が無関係であるはずはありません。

自己利益を増大させようとする人間の精神性が人間社会に新型のウイルスを招き寄せている現実に目を向けない限り、今回のような感染拡大はこれからも繰り返されるでしょう。問題は、「人間」なのです。紛争、経済格差、二酸化炭素排出など、現在の社会課題は全て人間の行いです。

コロナ禍のような逆境の時こそ人間の本質を見極めねばなりません。日常生活においても不条理なこと、経験もしなかったことに出くわすことは多々あります。学生の皆さんは、逆境を乗り越える術を体得するよう心がけてください。そうは言っても、現実は厳しいものです。様々な不条理なことに出会い、学ぶ意欲も喪失してしまう事態はこれから誰にでも起こりえます。

皆さんは塙保己一(はなわほきいち)という人を知っていますか。江戸時代の盲目の国文学者です。彼は、散逸や消失のおそれのある文献を集め、校正を重ねて編纂し、666冊からなる一大叢書『群書類従』を41年の歳月をかけて完成させました。目の不自由な彼の偉業は世界にも知られ、聴力、言葉、視力を失ったヘレン・ケラーが心から尊敬し、手本とした人物が塙保己一でした。若い頃の彼にはこんなエピソードが伝わっています。

雪のある日、歩いていると高下駄の鼻緒がきれたので、近くのお店に入って、紐をいただきたいと頼みました。そのお店は版木屋、いまでいうところの出版社です。店の者は保己一の前に紐を放り投げました。目の不自由な保己一は必死になって投げられた紐を探します。その様子を見ていた店の者達は保己一を笑いものにしたというのです。後年、保己一が『群書類従』を出版するときに、版元になんとこの版木屋を指名しました。版木屋の主人は保己一に礼を言うのですが、保己一はこう語ったと言います。

「私が今日あるのは、昔のみなさんの冷たい態度のおかげです。目が悪くとも、人から必要とされる人間になれば、決してあのような態度をされないだろうと、懸命に努力を積み重ねました。その結果、このような立派な本を出すことができました。お礼を述べたいのは私の方です」

このエピソードは逆境をバネにし、努力に努力を重ねることの尊さを伝えています。

事をなすに当たって重要なのは、強靭な意志と理想に向って突き進むひたむきな努力。このことをどうか忘れないでください。

さて、皆さんが入学した龍谷大学の歴史は古く、その始まりは1639(寛永16)年にまで遡ります。西本願寺境内に設けられた教育施設「学寮」がその出発点です。龍谷大学は2019年に、創立380周年を迎えました。

龍谷大学の長い伝統は深い人間洞察の気風を育みました。これは、激動の鎌倉時代を生きた親鸞聖人の生き方に由来します。親鸞聖人は人間の根源的なありようを問いかけました。龍谷大学は創立以来、親鸞聖人が開かれた浄土真宗の精神を建学の精神に掲げ、現在に至っています。

いま龍谷大学を特色づけるのは、他者と共に生きていく姿勢を形成しようとする空気です。近年、社会貢献活動に関心を示す学生が増えています。ボランティア活動、障がいのある学生諸君への支援といった本学学生の取り組みは社会から高い評価を受けつつあります。一方で、今、他者を排除しようとする排他的感情が世界的に渦巻きつつあります。龍谷大学では、すべてのいのちを大切にする利他的な生き方を培います。他者の幸福を願う「利他」は「排他」とは真逆の精神作用です。利他の精神は仏教が長きに渡って育み、伝えてきました。自分さえよければいいという自己中心的な事象が目につく昨今ですが、龍谷大学で学ぶ学生一人ひとりは、折につけ、助け合うこと、支援し合うことの大切さに目覚めるはずです。

私は2019年、本学の創立380周年にあたり、「自省利他」を行動哲学として掲げました。「自省」、自らを省みることです。自分は果たしてこのままでよいのかと自己を省みる。これまでの自分のありようを省みる。そしてさきほどから出ている「利他」。他者に利益を与えること。他者に幸福をもたらすこと。持続可能社会の実現に必要なのは「自省利他」と考えています。

自分は肝心なことは何も知らなかったと気づくとき、真の学びがスタートします。龍谷大学は、うそ・偽りの人生ではなく、本物の人生を目指す学生を育てる大学です。大学での学びは、高校までの勉強とは異なります。最初のうちはとまどうこともあるでしょう。大学院へ進学された方も、高度な知性が要求されることに対し怖気づく人もいるでしょう。そのとき、どうか自分に問いかけてみてください。「自分は何のためにここにいるのか」と。最初に抱いたはずの大いなる志をどうか忘れないでください。

いま何をなすべきか、いま何の時間なのかを自分に問う習慣が「今までなかった自分」を出現させます。現実を直視し、いま自分のなすべきことは何かをつねに問い、着実にステップアップしていってください。

未来社会を担うのは皆さんです。皆さんが龍谷大学で実り豊かな学生生活、研究生活を送られることを、そして皆さんの前途に輝かしい未来があらんことを願って、私の式辞といたします。

ご入学まことにおめでとうございます。

2021(令和3)年4月1日

龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長  入澤 崇