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卒業式・入学式

2018年度 卒業式 式辞

社会学部、社会学研究科のみなさまへの式辞

 龍谷大学社会学部で学問を修め、本日ここに、晴れて卒業を迎えられた皆さん、社会学研究科で研究を深められ、晴れて修了された皆さん、おめでとうございます。龍谷大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、ご家族の皆さまにも心よりお慶びを申し上げます。これまでお子様の成長をしっかりと支え、温かく見守り続けてくださいましたことに対し、深く敬意を表します。

 卒業される皆さんにとって龍谷大学における学生生活はどのようなものであったでしょうか。充実した4年間であったという方もいるでしょう。いささか不本意な学生生活であったと悔しい気持ちを抱えている人もいるでしょう。ここでいま確かに言えることは、今日という日が皆さんにとって新たなる旅立ちの日であるということです。

 皆さんは今日で大学を卒業しますが、学びが終わるわけではありません。学びに終わりはないのです。皆さんは今日晴れて自分の学歴欄に2019年3月龍谷大学卒業と書き込めます。ただ書類上はそうであっても、学歴を「学びの歴史」と受けとめれば、これは一生のことです。どのような職につくにせよ、学びが基本です。実社会に出て、これからいよいよ実践的な学びがスタートするのです。「仕事」が学びの場となり、「社会」そのものが大きな学び舎となるのです。

 初めはわからないことばかりです。とまどうことも、足がすくむことも、気持ちが萎えることもこれから多く経験することでしょう。しかし、「学びの姿勢」を持ち続ける限り、困難を乗り越えることはできます。龍谷大学で培った「学びの姿勢」をどうか失わないでください。大学院へ進学される方は専門知に磨きをかけてください。

 皆さんがこれから船出でする社会という海は荒波がたっています。状況をよく見極めないと、荒波に飲み込まれてしまいます。地球的視野で現代社会をみつめるならば、あまりに多くの深刻な課題があることに気づきます。

 排他的な思想が蔓延し、国家や地域間で紛争がそこかしこで発生しています。その結果として、貧困や飢餓が多くの人たちの生命を奪い、生活を危機にさらしています。紛争、貧困、経済格差、気候変動など、いまや地球が持続不可能な危機的状況にあります。地球が悲鳴をあげているのです。決して大げさな表現ではありません。

 こうした危機的状況を真摯にうけとめ、2015年に国連において、地球上の人類社会のための行動計画として「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」といった17の目標と169の達成基準が定められました。より良い社会を目指して各国、地域、企業、個人がそれぞれの立場で取り組んでいく、これがSDGsです。「誰一人取り残さない」という崇高な理念が掲げられています。とりわけ各企業の取り組みが注目されています。

 経済発展の過程で、環境を破壊したり、人間の命を奪ったりすることが行われるということには眼をそむけてはなりません。近代文明というのは負の側面があるのです。そこをしっかりと直視する必要があります。

 皆さんは石牟礼道子さんをご存知ですか。作家である彼女は『苦海浄土』という作品を1969年に公にしました。その作品には水俣病で苦しむ人々の呻きがストレートに綴られていました。

 水俣病というのは、有機水銀が原因となった公害病です。熊本県水俣市のチッソ株式会社が戦後まもない頃から、工業排水が有機水銀を含むことを知りながら、水俣の海に工業排水の放出を続けたのです。結果、何が起こったか。汚染された海で獲れた魚を食べた人たちは神経を傷つけられ、身体の自由を奪われたのです。身体はねじれ、視聴覚を失い、話すこともできなくなり、やがて死を迎える。こうした苦痛を背負った人々が公害に犯されたと認定されるまでに実に15年かかったのでした。石牟礼さんは患者の方々に寄り添い続け、彼らの声を聞きとりました。

 石牟礼道子さんは水俣病患者の言葉にならない言葉に身を献げたのです。結果として、これまでにない文学作品となりました。この作品は本当の苦難を抱えている人の存在に気づかせる稀有な作品となっています。『苦海浄土』、これを宗教書として読むことも可能です。作家の池澤夏樹氏が個人で編んだ世界文学全集の中で日本文学の作品として唯一選ばれたのが石牟礼さんの『苦海浄土』でした。水俣病で倒れた方々はある意味、近代文明の犠牲者であり、経済至上主義の犠牲者ともいえる存在です。こうした事例を、もう生み出さないというのがSDGsであると思います。

 企業に勤められる方、行政の仕事につかれる方はいかに現代社会は矛盾が多いかにとまどうはずです。よりよき社会を構築していくには何が大切なのかを常に考えることが大切です。価値観の異なる人との対話を粘り強く続けてください。「ことの本質」を見極める目をどうか養ってください。

 SDGsの「誰一人取り残さない」という理念は仏教の慈悲の精神に通じるものがあります。私はいま仏教とSDGsを繋いだ「仏教SDGs構想」を考えていて、近く取り組みを開始する予定にしています。卒業生諸君にも参画を呼びかけるつもりです。

 さて、皆さんが学んだ、ここ龍谷大学は江戸時代の寛永16年、西暦で言えば1639年に西本願寺に創設された「学寮」からスタートしました。本学は今年、創立380周年を迎えました。卒業生の皆さんは龍谷大学の長い歴史に名を刻むことになり、これからは龍谷大学の卒業生として行動していくことになります。

 わが龍谷大学の建学の精神は周知の通り、「浄土真宗の精神」すなわち親鸞聖人の精神です。鎌倉時代、親鸞聖人が人間のありようを根源的に問いかけ、まことの生き方を求められた。阿弥陀仏の本願に出遇われ、本願に照らされた「真実の生き方」を顕かにされたのです。まさにその点にこそ龍谷大学のエッセンスがあります。いかに自分というものが至らない存在であるか、その至らぬ存在の自分に対し智慧と慈悲の光が届いているという不思議。この思議を超えた働きかけこそが、常にわが身を省みて社会のために尽くす人格を形成させるのです。自らのありようを省みて、他者の幸福のために尽力する、「自省利他」の精神、皆さん方はその精神をくみ取り、これからいよいよ自分で未来の扉を開くことになります。

 本学の建学の精神を具えた者は、日々のありふれた日常がかけがえのない日常であることに気づきます。本学の建学の精神を具えた者は、悲嘆にくれる他者の痛みに心から共感することができます。本学の建学の精神を具えた者は、生きる意味を深く問い、常にわが身を省みる習性を身につけます。

 先輩達が伝え残してくれた建学の精神、それは本学にとって大きな宝です。気づかないばかりに喜べることが喜べない、空しく過ごす人生であってはなりません。卒業にあたって、襟を正せば誰しも重大な気づきがあるはずです。多くの支えがあったればこその今の自分。支えがあったればこその現在の自分であることは、卒業式の今この瞬間に深く思いを致すならば、大いに実感できると思います。どうか感謝の気持ちを保護者の方に、お世話になった先生方に、そして励ましてくれた学友に伝えてください。

 今日からは、皆さんも龍谷大学の卒業生として誇りある伝統を背負う一員です。今後皆さんは卒業生で構成する龍谷大学校友会に属することになります。皆さんがこれから社会で体得することになる新たなる知見は今後の龍谷大学にとっての知的資源となりうるものです。在学生にとっても大きな刺激となるでしょう。今後、卒業生ならではの力をどうか私たちに貸してください。創立380周年を機に、大学と卒業生との関係をさらに強化したいと私は考えています。在学生・卒業生がスクラムを組み、希望に満ちた明るい未来を社会のために切り拓いてもらいたいのです。卒業生からの在学生への助言は時に闇を照らす光となります。どうか、卒業生にしかできないことをしていただきたいと願っています。

 龍谷大学はさらに中身を充実させて、魅力ある大学へと突き進みます。本学が皆さん方の誇りとなるように、私たち教職員も懸命に努力してまいります。

 大きな社会変動が起きている時代であればこそ、永久に揺るがぬ教えに耳をすます必要があります。龍谷大学はまぎれもなく皆さんの母校です。人生の歩みの中で、大きな壁にぶつかることもあります。今一度学び直したいと思うこともあるでしょう。自分の原点に立ち戻ってみたいと思うこともあるでしょう。そのときはどうぞまた本学に戻ってきてください。私たちはいつでも皆さんを歓迎します。

 どうか光り輝く人生を歩んでください。どうか周囲を明るく照らす人間になってください。大学は人を育成するところです。皆さんが光り輝くとき、大学も輝くのです。

 「見よ黎明の空澄みて 吾等が学府 光輝あれ」

 龍谷大学の歴史が放つ輝きをさらに増すよう、共に力強く歩んでいきましょう。本日はまことにおめでとうございます。

2019(平成31)年3月15日

龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長  入澤 崇