• HOME
  • > 最新情報

最新情報

デンプンからバイオエタノールを一気通貫生産できる酵母を発見

  • Twitterに投稿する
  • Facebookでシェアする

2015年4月1日

龍谷大学農学部の島 純 教授、京都大学の谷村 あゆみ 研究員、小川 順 教授らは、JST 戦略的創造研究推進事業において、新規な酵母株を見いだし、食品廃棄物などに多量に含まれるデンプンから、多糖分解酵素などを使用しない一気通貫プロセスによりバイオエタノールを生産できる可能性を明らかにしました。
従来は、デンプンなどの多糖類からバイオエタノール生産を行う場合には、アミラーゼなどの多糖分解酵素で処理した後、酵母株Saccaromyces cerebisiaeによりバイオエタノールを生産することが一般的でした。多糖分解酵素処理は、高コストの要因となり得ることから、多糖分解処理を必要としない一気通貫プロセス注1)の開発が望まれていました。遺伝子組み換え株を用いる技術は開発されていましたが、遺伝子組み換え株を用いた場合には物理的な封じ込めが必要になるため生産プロセスが煩雑になるという問題がありました。
本研究グループは、酵母の自然分離株を対象にして、デンプンからのバイオエタノールの一気通貫生産能を持つ探索研究を行いました。その結果、京都大学構内の土壌より単離したScheffersomyces shehatae JCM18690株を用いることにより、デンプンからバイオエタノールを一貫生産できる可能性を示しました。さらに、S.chehatae JCM18690株は、植物バイオマスに含まれるキシロース注2)の発酵性や高温耐性注3)も持っていることから、食品廃棄物も含めたさまざまなバイオマス資源からエタノール生産に適していると考えられます。
これらの研究成果は、バイオマスの有効利用やバイオ燃料生産を介して、化石燃料を代替し、温室効果ガス排出の大幅な抑制や環境保全が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開される予定です。

本成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
研究開発課題名:「未利用バイオマスを活用したバイオリピッドプラットフォームの構築」
研究開発代表者:島 純(龍谷大学農学部 教授)
研究開発期間:平成24年10月~平成30年3月(予定)
JSTは本事業において、温室効果ガスの排出削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を持つ技術を創出するための研究開発を実施しています。

<研究の背景と経緯>
低炭素・循環型社会の構築に向けて、さまざまな視点からの取り組みが進められています。国内外で、温室効果ガスの削減に向けて、化石燃料を代替可能なバイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料生産の試みがなされています。第一世代バイオ燃料生産では、食糧や飼料として使用可能な資源が原料として用いられてきましたが、原料の高騰や食料不足につながる可能性が指摘されています。一方、第二世代バイオ燃料生産では、食料として利用される可能性の低いバイオマス資源を用いた燃料生産技術の構築が試みられていますが、生産コストの低減化やエネルギー収支の健全化などの技術的な問題も残されています。
日本を含めた先進国では、膨大な食品廃棄物や食品ロス(食べられる状態にありながら廃棄されている食品)の問題が顕在化しています。日本では、年間約1,700万トンにもおよぶ廃棄物が生じ、そのうち約800万トンが食品ロスであると考えられています。その食品廃棄物のほとんどは焼却や埋め立て処分されているため、フードチェーン全体のコスト増や温室効果ガスの発生の加速など、自然環境への悪影響も甚大です。
そこで、本研究では、食品廃棄物や食品ロスに豊富に含まれるデンプンをバイオマス資源として、低コスト・バイオエタノール生産技術の構築に向けて研究を行いました。特に、デンプンの糖化に必要なアミラーゼなどを添加しない一気通貫プロセス(図1)に焦点をあてて、有用微生物の探索を行いました。また、遺伝子組み換え微生物を用いた場合には、物理的封じ込めにより高コストにつながる可能性が高いため、自然分離株を活用することを想定して研究を進めました。

<研究の内容>
本研究は、まず、デンプンを単一炭素源とした寒天培地を用いて、デンプンで生育ができる酵母菌株の選択を行いました。その結果、自然界から分離した530株の酵母のうち、79%にあたる419株に生育が見られました。次に、10%のデンプンを含む液体培地において、静置培養を行い、生産されたエタノール量を測定しました。419株のうち3株が、6g/Lのエタノールを生産しており、特に、JCM18690株は、9.78g/Lという高い値を達成しました。残りの2株は、ゲノムDNAを抽出し塩基配列を決定することで、同定を行い、それぞれ、Candifa subhashii、Sheffersomyces属であることが分かりました。
コントロールとしてSheffersomyces shehatae NBRC1983株を用い、この3株について、10%のデンプンを含む液体培地における生産エタノール量(図2)、アミラーゼ活性(図3)の経時変化の測定を行いました。10日間、観測をした結果、JCM18690株は、エタノール量が7日目で約8g/Lに達しており、他の菌株よりも高いエタノール生産能力があることが分かりました。α-アミラーゼ注4)活性(図3(a))に差は見られませんでしたが、グルコアミラーゼ注5)活性(図3(b))は、JCM18690株は他の株よりも約1.6倍高く、これが、高いエタノール生産能力につながる主な理由だと考えられました。
他にも、JCM18690株は、グルコースからのエタノール生産能力(図4)も高く、エタノール耐性(図5)も持っていることが分かりました。
・高いグルコアミラーゼ活性
・高い発酵能力
・高いエタノール耐性
の3つの特性を持つことから、JCM18690株は、デンプンからのバイオエタノール一貫生産において有望な菌株と考えられます。

<今後の展開>
今回の結果は、低コスト・バイオエタノールの実用化につながる重要な成果です。JCM18690株を用いることにより、従来の酵素の添加を必要とするプロセスや、遺伝子組み換え株を用いたプロセスに比べ、酵素のコスト削減だけでなく、生産プロセスの簡易化も期待できます。
さらに、JCM18690株には、キシロースからの高い発酵能力、および、高温耐性があることが既に分かっています文献1)。デンプンだけでなく、さまざまな未利用バイオマスからのバイオエタノール生産に寄与すると考えられます。本株のゲノムシークエンスも進んでおり、遺伝資源としての活用も視野に入れています。これらはバイオ燃料生産を介して、化石燃料を代替し、温室効果ガス排出の抑制が期待されます。
食品廃棄物などに含まれるデンプン質バイオマスを用いることができれば、環境負荷の軽減に寄与し、循環型社会の実現へ大きく貢献できます。今後は、より実用的なプロセスにするために、培養日数の短縮化を目指すと同時に、不溶性デンプンや、実際の食品廃棄物を原料にして研究を進めていく予定です。

文献1)
Tanimura et al. "Isolation of a novel strain of Candida shehatae for ethanol production at elevated temperature", SpringerPlus 2012, 1:27

<参考図>

図1 デンプンからのバイオエタノール生産の概略
従来の方法では、酵素のコストや工程の煩雑さがネックとなっていた。遺伝子組み換え酵母を用いることで1ステップ生産は可能だが、遺伝子組み換え株を封じ込める設備や工程が必要となり、コスト高につながる。

図2 デンプンを含む培地から生成したエタノールの濃度の経時変化
JCM18690株は、他の2株(ATY945、ATY1112)およびコントロール株(Scheffersomyces shehatae NBRC1983株)に比べ、約2倍のエタノールを生産した。

図3 (a)α-アミラーゼ活性の経時変化、(b)グルコアミラーゼ活性の経時変化
α-アミラーゼ活性に有意な差は観察されなかったが、グルコアミラーゼ活性はJCM18690株において、約1.6倍(6日目)高いことが示された。JCM18690株は、グルコアミラーゼ活性が高いことで、より多くのデンプンを糖化していたことが示唆された。

図4 グルコースからを含む培地から生成したエタノールの濃度の経時変化
グルコースからの発酵能力も、JCM18690株が他の酵母株と比較して高いことが示された。JCM18690株が、デンプンからのエタノール生産能力が高い要因の一つだと考えられた。

図5 エタノール耐性試験(スポットが右に行くほど、植菌濃度が低い)
エタノールを含まない培地上(左)では全ての株で生育が観察されたが、7%エタノールを含む培地上(右)ではJCM18690株とATY945株のみで生育が観察されたことから、高いエタノール耐性を持つことが示唆された。

<用語解説>
注1)一気通貫プロセス
糖化工程と発酵工程を同時に行うプロセス。

注2)キシロース
植物系バイオマスを糖化すると生じる単糖。グルコースの次に多く含まれている。

注3)高温ストレス耐性
通常の温度帯(20~30度)よりも高い温度で発酵能力があること。

注4)α-アミラーゼ
デンプンを分解する酵素。デンプンを、グルコースが数個つながったオリゴ糖に分解する。

注5)グルコアミラーゼ
デンプンを分解する酵素。デンプンやオリゴ糖を、グルコースに分解する。

<論文タイトル>
“Direct ethanol production from starch using a natural isolate, Scheffersomyces shehatae: Toward consolidated bioprocessing”
(Scheffersomyces shehataeを用いた一気通貫プロセスによるデンプンからのエタノール生産)
doi: 10.1038/srep09593


<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
島 純(シマ ジュン)
龍谷大学農学部 教授
〒520-2194 滋賀県大津市瀬田大江町横谷1-5
Tel:077-599-5601 Fax:077-599-5608
E-mail:shima@agr.ryukoku.ac.jp

谷村 あゆみ(タニムラ アユミ)
京都大学 大学院農学研究科 研究員
〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
Tel/Fax:075-753-9544
E-mail:ayumit@kais.kyoto-u.ac.jp

<JSTの事業に関すること>
吉田 秀紀(ヨシダ ヒデキ)
科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部 低炭素研究担当
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533
E-mail:alca@jst.go.jp

島 純 教授の紹介ページ

一覧ページへ戻る >>

このページのトップへ戻る