Need Help?

Health Care Center

保健管理センター

健康情報シリーズ 11月号

薬物依存の怖さ

薬物依存で使われる薬物とは、覚せい剤、MDMA、大麻、シンナーなどであるが、実際は別称で出回っている。覚せい剤(スピード、ビーンズ、ベンツ、クリスタル、エスなど)、MDMA(エクスタシー、バツ、エックスなど)、大麻(チョコ、ハッパなど)、シンナー(純トロ)と、数えきれないぐらいの別称で出回っている。その理由は簡単である。暴力団組織の資金源になっており、親近感のある名称で大量にさばかれているのである。多く稼ぐには、多く売る。多く売るためには、多くの人に薬物を使わせないといけない。しかし、彼らの組織にとって肝心なのは、とにかく最初に薬物の使用体験をさせることである。気軽に薬物を体験させる場を作ることである。そこには暴力団組織のイメージは全くなく、イケメンの優しいお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが、とても親切に接してくれて、無料で体験する機会を提供してくれるのである。ここに恐ろしさがある。一度、体験すると、その後は自ずと薬を求めて来るようになるのである。何故か?

薬物は一度試すと、その快感、衝撃感が快記憶として脳の海馬に刷り込まれる。この脳に刷り込まれた記憶データは決して消し去ることはできない。一度経験された快感や衝撃感は必ず再度体験したいという欲求を呼び起こすのである。これは動物の本能であり、なくすことはできない。この欲求を押さえるためには、常にその欲求以上の制御心が備わっていないと、欲求が上回ることになる。これはちょっとした状況の変化で簡単に起きる。環境や食事・睡眠、疲れ、体調、心境の変化で、欲求がすっと頭をもたげるのである。これがフラッシュバックである。その時、薬物を再体験すると、ますます快記憶は明確なデータとして保持されて行く。一度経験された快記憶は死ぬまでフラッシュバックし続けるのである。一度手を染めると二度と立ち直れないといわれるのは、このような医学的根拠による。最近は、こうした薬物の危険性の情報は充分知られているといわれる。それでも根絶しないのは何故か?

もともと「薬物を体験したい」という気持ちから薬物に手を出す人は数少ない。ほとんどの人は、最初は何か分らず手を出す。その時に得られた快感、衝撃感が、再体験の欲求をもたらすのである。この初体験によくあるケースは、何人か集団で集まった時にみられる仲間としての連鎖反応からの体験である。最初は自分が状況を察し、「羽目を外してはならない」と、拒否的であっても、周りにいる仲間がひとり、そしてひとり、またひとりと体験し、その不安から安堵と驚喜に変貌する仲間の状態を目前にしていくことになる。そして、体験した仲間たちからの「お前もやってみろよ。すごく気持ちいいぜ。できないのは臆病者だ。やらなかったら縁を切るぞ。」などと迫る言葉の怖さや仲間としての帰属意識からつい体験してしまうのである。このような集団の中では法律に基づく規範は何ら意味を持たない。集団から生まれる帰属意識の方が優先されるのである。こうした心理構造は、学校でのいじめにみられるものと何ら変わらない。法律を破るより、 仲間との連帯を破ることの方が辛く恐ろしいような環境におかれ、 川の流れのように自然と加害者側になっていく。 数日前には薬物に手を出す人を奇異な目で見ていた自分が、今では 「おまえもやってみろよ」と仲間に薬物をすすめるような立場に変わっていく。薬物依存とはこうした表裏一体な怖さを持っているのである。

保健管理センター
センター長 須賀 英道