Need Help?

Health Care Center

保健管理センター

健康情報シリーズ 7月号

発達障害が最近流行している?

最近、発達障害という言葉が頻繁に聞かれる。テレビでも発達障害をテーマにしたドラマが複数出てくるようになった。SMAPの中居くんの演じた「ATARU」でもアスペルガー症候群のポイントが描かれていた。これだけマスメディア上でよく発達障害が取り上げられていると、最近発達障害が増加しているのかと見るようになる。発達障害そのものが増加しているかは別にして、社会的によく目立つようになってきたのは事実である。これは、ある事象に関心が高まると、その事象が意識野に止まることが増えるからである。次のような状況を体験されたこともあると思う。

何か近頃、うちの町内の近くに床屋や美容院が多いように感じる。ある日こんな風に意識されると、その後途端に床屋や美容院が眼に入るようになる。ここにも、ここにもと眼に入ると、カウントし始めたりもする。すると、昔はこんなにたくさんなかったのに最近明らかに増えていると、感じるようになるのである。つまりこの状況では、床屋や美容院を特に意識して生活しているからで、床屋や美容院という単語や概念が特に意識されていなかった時点では目の前に見えていてもさほど気づかないのである。さらに、床屋や美容院は既成概念であり、誰もが常識的に認識している言葉であるが、あまり社会的に知られていない概念や言葉であれば、特に意識されずに過ごすこともある。

発達障害という概念・言葉はまさにこれに近く、ここ数年のうちに大流行してきたものである。マスメディアによる流行によって、社会の中での人々の脳裏に発達障害という1つの尺度(物差し)ができるのである。昔は、コミュニケーションのやり取りの中でやや奇異な感じを受けた時に、「変わった人」という評価がなされていた。それがコミュニケーションでの「変わった」とかKY(空気が読めない)などを感じた時に、発達障害の物差しで人を見るようになってきたのである。当然そうなれば、発達障害者が目立ってくる。

現在、このようにどんどん発達障害者が目立ち、表面化してきているのが精神科診療の分野である。これまで精神科診療において診断の際に発達障害という物差しは使われて来なかった。それがこの数年、多くの精神科医がこの発達障害の物差しで診断するようになると、発達障害者が激増するのは当然といえる。ただし医療分野でははっきりとした定義があり、発達障害は幼少時より生活に支障をきたしているということが前提となっているのである。しかし、社会的にはこうした条件・前提は歯止めにはなっていない。そのため、幼少時は問題なかったけど、仕事についてとか、結婚してから発達障害が出てきたという人がとても多いことである。このベクトルを押し進めているのがマスメディアといえよう。

こうした傾向が果たして悪いことかというと、別論になろう。悪いという評価はそもそも「障害」を「悪いもの」と評価し、是正を図るべきという理念があるからである。「病気」は治すべきということも実はこの理念に基づいている。心身ともに健全な生活に支障をきたす病気は治療によって回復を目指すことが必要であろう。しかし、慢性疾患や難治疾患の場合では、治療を前提としながら、疾患との共存が人生にとって有意義な解釈となる。「障害」についても同様な解釈がありうる。

このように視点を変えると、「障害」は人の持つ特性と評価できる。特性は個性としても見なしうる。発達障害の特性は、コミュニケーション力の低下・こだわりの強さが最も目立つが、これは視点を変えると、他者からの意向・言動に影響されにくいという長所・強みとしてもみなしうる。過剰記憶については、情報資源として有用である。ほかにも、視点を変えることで強みが認識されるようになり、社会における必要性・有用性も再認されよう。ここで重要なことは、発達障害者の抱える問題点の解決に労力を費やすよりもむしろ、発達障害者のもつ長所・強みを発見し磨きをかけていくことである。そこには各人の特性が十分生かされる社会の受け入れも必要となろう。

現在、発達障害が流行していることは、こうした論理で行けば良い傾向といえる。誰もが身の周りに多くの発達障害者を見ることから、発達障害者の特性を知り、受け入れの基本姿勢が確立するからである。この流れの中で、発達障害についての小生の次の考え方をお薦めしたい。これによって社会での発達障害者への受け入れ態勢が推進することを望む。

「発達障害は誰もが何%は必ず持っています。私も33%持っています。60%以上持っている人が現代社会でただ目立っているだけのことです。0%の人がいたらかえって異常でしょう。」

保健管理センター
須賀 英道