Need Help?

Health Care Center

保健管理センター

健康情報シリーズ 9月号

知れば知るほど体を動かしたくなる
「身体活動の医学的効用」のあれこれ

10月には職員定期健診があります。これにあわせて当センターでは9月よりウォーキングキャンペーンを行っています。そこで、今回のテーマは運動が病気の発症を減らして寿命を延ばし、さらに神経機能も高めるというお話です。

身体活動と病気との関係について初めて指摘されたのは英国です。図1は1953年に医学専門誌(ランセット)に掲載された論文から転載したものです。

その報告によりますと、ロンドンの2階建てバスの車掌の冠動脈疾患(心筋梗塞と狭心症)の発症率は、同じバスに乗る運転手よりも少なく、全年齢で比較すると車掌の発症は運転手の2分の1であったといいます。この違いの原因として、車掌は料金徴収のためにバスの階段の昇降やバス内の移動をするが、運転手は運転席に座り続けていることを指摘しています。つまり、両者に勤務時間内に運動量の差が生じていたためではないかというものです。この考察ですべてを説明できているかは分かりませんが、この発表を契機に、身体活動と病気の発症率や死亡率についての研究が発展しました。現在では、身体活動をすることが多くの病気の発症を低下させ、また死亡率を下げることが分かっています。

例えば、図1は米国健康女性(45歳以上、27055名)の平均身体活動量と約12年間の心血管病(心筋梗塞、狭心症、脳卒中)発症の関係を調査したもので、循環器病専門誌(Circulation, 2007年)に掲載されました。1週間の活動量が200kcal/週未満の人を1とした時にこれより活動量が多い人たちの死亡リスクはどうかをみたものです。右ほど活動量が多い人たちですが、発症リスクは右下がりになります。つまり、発症が少なくなっています。

身体活動は病気の発生を予防するばかりではなく、死亡率も低下させることが明らかになっています。図3は身体活動と死亡率の関係を調査し、医学専門誌(N Eng J Med, 1998年)に掲載されたものです。オアフ島在住の日系アメリカ人男性(61-81歳 707名)での調査です。12年間追跡調査したところ、毎日歩く距離(マイル/日)が長いほど、死亡率は低くなっています。

いろいろな病気の予防になり、寿命も延ばしてくれる運動ですが、近年の脳科学の調査では身体活動が認知機能にもよい影響があることを明らかにしました。図4は米国4州在住の白人女性(65歳以上)5925名を対象として身体活動が認知機能へ与える影響を6~8年間にわたり追跡調査し、内科専門誌(Arch Int Med、2001年)に掲載されたものです。身体活動量は階段昇降数、歩行距離の総和から算定され、認知機能を簡易知能検査で測定しています。認知機能の低下の程度を消費カロリー量で比較した結果、消費エネルギーの多い人ほど認知機能の低下が少なかったという結果が得られています。つまり、認知症になりにくい可能性があります。また、昨年のことですが、脳の海馬という記憶の要になる領域は身体活動量が多い人ほど加齢による萎縮の程度が軽いという結果が頭部MRIを用いた研究で明らかとなり、米国科学アカデミー提要に報告されて話題になりました。

身体活動が健康におよぼす効用についての研究は枚挙にいとまがなく、以上の報告例はそのごく一部です。身体活動は私たちの身体・精神の健康に対して想像した以上に好ましい影響を与えてくれることが証明されてきました。

最後に、私たちにとって身近で切実な問題となっている生活習慣病のことです。厚生労働省は運動と生活習慣病についての医学研究の結果を以下のように総括して運動を勧めています。

  1. 高血圧への影響
    30分以上の運動を週3回すると血圧を10週間で収縮期血圧20mmHg、拡張期血圧10mmHg低下させる
  2. 脂質異常症への影響
    HDLコレステロールを増加、中性脂肪を低下させる
  3. 糖尿病への影響
    インスリンの働きを改善し、血糖上昇を抑制する
  4. 肥満への影響
    内臓脂肪を減少、基礎代謝を上げる
  5. 心筋梗塞・脳卒中への影響
    運動が様々な危険因子を減らし、発病を予防する
  6. ストレスを解消

効果的な運動としては、ウォーキングや軽いジョギング、平らなところでのサイクリング、ゆっくりと長い距離を泳ぐなどの有酸素運動がよいです。

定期健康診断を受けるこの機会に運動習慣を身につける提案をしたいと思います。

保健管理センター
中村 慎一

図1

図2

図3

図4