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Health Care Center

保健管理センター

健康情報シリーズ 12月号

ブータンからの来日講演に想うこと

先日、ブータンから精神科医が来日して日本で講演が行われた。京都に立ち寄る希望があり、龍谷大学での講演をお願いした。そこでのお話を紹介したい。 ブータンは人口約70万人のインドと中国の間に挟まれた小国である。ヒマラヤの山麓に立地し、自然にとても恵まれた国である。産業的には未開発のいわゆる発展途上国の1つでもある。その国が最近脚光を浴びているのは、国民総幸福感(GNH)が国連で報告され、国民の80%以上が幸福感を持っていることが世界中に知られてからである。日本でも、昨年ブータン国王夫妻が来日され、王女が龍谷大学で講演されたのも周知のことであろう。その中でGNHという概念が注目を浴びたのである。今回の精神科医の講演もGNHに関連した内容である。

GNHとは、現実生活の中での幸福感についての指標を、心理的幸福、教育、健康、文化、環境、コミュニティ、良い統治、生活水準、時間の使い方といった9つの要素によって数値化したものである。こうした調査が国民全員に施行された結果、80%以上の人に幸福感の高い数値が示されたのである。講演の前に個人的に考えていたことは、この幸福感の高い数値は、ブータン国内での流通物や情報といった外的資源が著しく少なく、現実生活において要求される外的資源が少ないことから相対的に現実への幸福感が高まっていたのではという見方である。これについては講演者も否定せず、今後のブータンの経済成長の中で幸福感の低下はある程度予想されると言われた。しかし、ブータンでの幸福感を高める根本的要因は、仏教習慣・哲学の中での個人の捉え方であるという。ブータンでは欧米のような個人主義がなく、家族集団での共存、安定を求めているからだという。つまり、今の自分が幸せになれば満足するといった見方でなく、家族が幸せであること、さらにそれは現在にとどまらず、先祖代々永劫に続くというのである。こうした考え方は、カルマ論、いわゆる輪廻転生である。今の自分がその一時を生きているに過ぎない。それも家族を中心とした人・動物、自然とのつながりの中で一生懸命生きていくこと、それが最も幸せだという考え方である。これを聞いて、何とも壮大な理念であり、その魅力にとても惹かれた。しかし、今の日本での現実社会にはほど遠い、理想郷での理念なのかという失望感もあった。

実は、その2週間後、最近ブームとなっているポジティブサイコロジーの研究者Richard Ryan氏の講演を聞いた。彼はこれまでアメリカの大学で幸福感を高める要素を様々な実験心理によって実証報告してきている。その最大要素がrelatedness(人のつながり)だというのである。個人の欲求充足より人のつながりでの充足に効果が大きいというエビデンスを報告していた。

これを聞いて、ブータンの人々が自らの生活の中で築いてきた「つながり」による幸福感としての人生哲学は、科学的裏付けもされていることに気づいた。そして今後、日本においても幸福感を高めるのに有効な方向性は、人や自然との「つながり」であり、そのための多くのツールを実践的に行うことで十分な成果があると再認識できたのである。

保健管理センター長
須賀 英道