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保健管理センター

健康情報シリーズ 5月号

親は子供のメンタル変化にどこまで気づけるのか?

子供から連絡なければ無事である証しだ、こんな言葉が使われて久しいが、最近ではその信憑性が怪しくなっている。何故なのか?理由はいろいろあるが、最も大きいのは元来の親子関係が希薄になっていることである。

幼少時からの親子関係は、ほとんど全ての領域において力量的に親が優位に立っているというほど、上下関係が明瞭である。その上下関係の中で親から子供に対して用いられるコミュニケーションは、命令、指示、教育の視点によってなされる。子供側も初めの頃はこうした視点を全面的に受容し、自分の生きる術として親の意見を活用して行くのである。

それが、子供の成長とともに、いくつかの分野で力関係が逆転してくると、状況は変わる。今まで、親から子供に対して命令・指示調に行われていたコミュニケーションが円滑に行われなくなる。子供側でも状況の把握や対処能力がある程度備わってくると、状況を自分で考え、対応するというモチベーションが出てくる。その時点で、親側からこれまでのように命令・指示調のコミュニケーションが継続されていると、反発が起きるのは必至であろう。これがいわゆる反抗期である。

親側はこうした子供の反抗期を経て、コミュニケーションの在り方が変化して行く。つまり、命令・指示調のものから相手の立場を考慮して話すという、相手のアイデンティティを意図においたコミュニケーションになって行くのである。

例えば、勉強をせずに、ゲームばかりしている子供に対して、「ゲームばかりして!何やっているの!早く勉強しなさい!」という口の聞き方から、「あなた、成績を上げたいと言ってたわね、だったら今どうしたらいいと思う?」という言い方の方が説得力を持っていることに、自然と気づいていくのである。

こうした親と子供のコミュニケーションの変化の中で、子供は成長して行く。しかし、成長によって子供の方があらゆる領域で力が優位になってきても、根本的に変わらないのは、親と子という絆である。絆によって、自分の成長を乳児の頃から現在まで支えてきたのが親であるという事実を子供が認識できていることである。そこにはいつまでたっても越えられない壁という親と子の上下関係がある。

こうした親と子供のコミュニケーションの構造が、最近かなり変容を来している。上下関係が失われ、対等性の概念が初期の頃から家族内に見られることである。それは、親と子供が友達のように接していることで、一見するととても仲の良い親子間に見えるが、実はこれまでの成長過程と大きな違いがある。

子供からの視点で親という認識が、友人と同格になっているのである。社会的見識や教育環境の中で、人と人の平等・対等概念が歪曲された形で常識化され、親への尊敬・尊重が希薄となっている。特に、父親に対する尊敬・尊重指向は、子供と母親と父親との3者コミュニケーションの中で幼少時から失墜しているのが現状である。そして、一見和やかに見える家族間の有り様が、対等なものとなり、親のオーソリティーが消退している。

こうした構造変化から生じるものは、親子間の希薄化で、子供が状況対処に苦慮しても最終的に親に相談するという切り札を用いなくなってしまう。これまでも反骨精神から親などには相談しないという気持ちはあった。しかし、それは常日頃の対処であって、極限状態におかれても全く親の相談を求めなかったのではない。

それが、最近のように、親が友人と同格視しされたまま子供が成長して行くと、コミュニケーションの中での親の位置づけが低くなって行く。ちょっと困った時には親に気軽に相談できても、極限状態では相談しないという逆転現象が生じるのである。

これが、連絡無ければ子供は無事だという昔の言葉が通用しなくなった大きな理由である。

それでは、親側としてどうしたらいいのか?親と子供の関係を人生の中で再教育することは途方もない労力を要することで現実化しにくい。だからといって、途方に暮れていていては何ら解決にならない。何か術はつかんだ方がいい。

その1つが、直接対面して会話をすることである。希薄化した、親と子のコミュニケーション構造の中で、親が子供のメンタル変化に早期に気づくには、直接対面して相互に確認しあうしかない。

困ったことが相談されるまで待っていては、いつまでも相談されないであろう。メールやライン等の言葉のやり取りなのではほとんどメンタル変化はつかめない。時々、親側から子供と直接向き合って、相手の目、表情を見ながら話をすることが最も必要なのである。最近の会話が暗くなったとか、対面していても笑いが見られないとか、口数が少なくなったなどもメンタル変化の指標であり、会話の状況を親側が常日頃から把握していることが必要である。

しかし、さらに希薄な親子間になって、対面会話すら困難になった場合においても子供を知る手がかりは残されている。それがバイオロジカルな変化である。特に、最も自殺リスクと関連性が高いのは、体がだるいこと、食欲がないこと、そして眠れないことという調査結果が出されている。自殺既遂者の事前調査で、睡眠障害は70%に見られている。特に、中途覚醒がもっともよくみられる症状だと言う。

親子間の会話が希薄になってきた現代社会の中で、唯一頼りになる子供のサインをつかむのは、「最近眠れてる?」という言葉なのである。

保健管理センター
センター長 須賀 英道