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2022.03.14

犯罪学研究センターシンポジウム(私立大学研究ブランディング事業 最終報告会)開催レポート前篇【犯罪学研究センター】

【成果報告編】新時代の犯罪学の創設に向けて

2022年3月5日13:00より龍谷大学犯罪学研究センターは、「犯罪学研究センターシンポジウム(私立大学研究ブランディング事業 最終報告会)」を龍谷大学深草キャンパスとYouTube配信にて開催しました。6年間の研究活動の成果と展望を発表する今回のシンポジウムには、会場の参加者が約40名、配信の視聴者が約70名、計110名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-9976.html

概要
龍谷大学 犯罪学研究センター(CrimRC)は2016年6月に発足し、同年11月に文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」に採択されました。CrimRCは、犯罪現象を人間科学、社会科学、自然科学の観点から明らかにし、対人支援に基づく合理的な犯罪対策の構築を目指してきました。2022年3月にCrimRCの私立大学研究ブランディング事業が終了することから、本シンポジウムは最終報告会です。


本シンポジウムは二部制で、セッション1は「新時代の犯罪学の創設に向けて」と題した各部門の成果報告、セッション2は「グローカル展開~犯罪学は地域に何をもたらすのか~」と題したトークセッションでした。総合司会は、古川原明子教授(法学部/CrimRC「科学鑑定」ユニット長)が担当しました。

開会のあいさつは、津島昌弘教授(社会学部/CrimRC研究部門長)が行いました。津島教授は、これまでの活動の経緯を説明し、今回のシンポジウムでは「CrimRCの6年間の事業期間を振り返り、グローカルな視点から、新時代の犯罪学の現状と到達点を共有し、今後の展望を検討したい」と述べました。


津島昌弘教授(社会学部/CrimRC研究部門長)

津島昌弘教授(社会学部/CrimRC研究部門長)

セッション1:成果報告「新時代の犯罪学の創設に向けて」
CrimRCには教育、研究、国際の3部門があります。教育部門は研究成果の社会実装、研究部門は犯罪をめぐる多様な<知>の融合と体系化、国際部門は諸外国の研究者・実務家・研究機関との学術交流と日本の<知>の発信を目指して活動をしてきました。セッション1では最終成果報告として、各部門の6年間の総括が行われました。

※CrimRCが作成した「私立大学研究ブランディング事業 最終報告書」は以下のページにて公開しています。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10084.html

教育部門総括「教学主体設置に向けた試みと若手育成」
はじめに石塚伸一教授(法学部/CrimRCセンター長)が教育部門の総括を行いました。石塚教授は、日本には研究と教育と人材育成を行うような犯罪学部がないことから、犯罪学部・犯罪学研究科の設置を目指したことを説明し、到達目標として①犯罪学カリキュラムの構想、②刑事政策の評価と提言、③担い手の育成を挙げました。石塚教授は、教育部門での検討にあたり、ウィズ・コロナ下においてはICT(情報通信技術)など新しい媒体を使うことを重視したものの、犯罪学の良いところはタンジブル(実体的)に物事をみる、犯罪現象を数字でみるなど経験性にあり、直接的な経験を重視する犯罪学とICTの導入が調和するのかという問題があったことを説明しました。しかし、ICTを使用することで国境を越えて海外の研究者・学生と交流することができるようになり、ICT化の促進は、研究や教育の国際的な実践を可能にしたと述べました。また、犯罪学の担い手となる研究者の協力を得て、犯罪学部のシラバス構想を行ったことが報告されました。それぞれの授業について担当者が5分と15分の動画を作り、ネット上で視聴できるようにしたことが紹介されました。さらに教育メソッドの開発と普及についても報告されました。石塚教授は、従来、犯罪学は刑事司法にかかわる実務家、研究者など専門家のためのものだったが、「学」として犯罪学が成立するためにはもっと広いマーケットが必要である、と述べました。犯罪学を本当に必要としているのは、罪を犯した人、犯罪の被害に遭った人など、犯罪が起こったことによって困っている人たち、すなわち市民であり、「市民の、市民による、市民のための犯罪学」という視点から犯罪をみていく必要があると述べました。犯罪に関する情報を読み書きする能力を社会に定着させる工夫として、カルデモンメ劇団、B級法教育フェスタ、模擬裁判、えんたくなど「わかりやすく、楽しい授業」をこころがけて実践を行ったことが報告されました。しかし、ここまでやってきたものの、研究者や教育者の不足、「犯罪」への暗いイメージなど、日本には犯罪学部ができない現状がある、と石塚教授は述べました。そして日本DARC(薬物依存からの回復を支援するグループ)の創始者である近藤恒夫氏の「世の中で必要なものは、できる」という言葉を紹介しました。石塚教授は最後に「犯罪現象をつぶさにみましょう。困っていることにみんなで取り組みましょう。そうすることでその先に何かが見えてきます。これが犯罪学です。差別や常識で曇っているためにみえないもの、現場に行かないからみえないことも、犯罪学的な視点からみればわかります。いつかこの国には犯罪学部が必ずできます。なぜならば、犯罪学は必要だからです」と述べ、成果報告を終えました。


石塚伸一教授(法学部/CrimRCセンター長)

石塚伸一教授(法学部/CrimRCセンター長)

研究部門総括「<知>の集積と融合」
次に津島昌弘教授(社会学部/CimRC研究部門長)が研究部門の総括を行いました。津島教授は、犯罪・非行現象の解明には、その背景にある家族・地域社会・全体社会・国家、そして人間そのものについての総合的研究が必要であると述べ、社会秩序の強化による厳罰化の標的となったのは、司法と福祉のはざまにとり残された薬物依存症者・高齢者・障がい者などの社会的弱者であり、その結果「再犯の防止等の推進に関する法律」「再犯防止推進計画」が成立した、と説明しました。そして、犯罪予防と罪を犯した人の社会復帰支援には「刑事司法機関での取組みには限界がある」ということをCrimRCの研究部門の出発点として挙げました。津島教授は、犯罪学研究のミッションは、犯罪予防と対人支援という視点から犯罪をめぐる多様な「知」を融合する新たな学融領域としての「犯罪学」の構築である、と述べました。CrimRCは人間、科学、社会という領域で計14ユニットを配置していることを説明し、研究部門の活動の方針として「体系化」「学際性」「学融性」「多様性・発展性」を挙げました。①犯罪・非行に関する専門知をひとつのまとまりをもった形にする「体系化」②個々の社会問題に対する専門知の相互連環による共同研究を模索する「学際性」、③学際的活動を通して得た知見を社会実装するよう試み、課題の共有のみならず解決の共有を目指す「学融性」、④学内外のみならず国境をも越えたさまざまな利害関係者を巻き込むことによってネットワークを構築する「多様性・発展性」である、と説明しました。また2021年3月の「京都コングレス」での政策提言との比較検討から、犯罪・非行に至るプロセスに関する独自の理論的仮説を提示したことが報告されました。そして津島教授は、この理論的仮説と研究ユニットの提言をふまえてCrimRCとして3つのテーゼを提示しました。1つ目のテーゼは、「犯罪問題に対して一般市民のリテラシーを高める」です。市民に対して、メディアからのメッセージや統計データを主体的に読み解く能力を涵養することが重要であると説明されました。2つ目のテーゼは「社会全体の多様性を尊重する」です。「多様性」には、犯罪の被害者と加害者、その家族、広い意味において、女性、高齢者、障がい者、子どもなどが含まれ、そのような社会的に不利な立場にある人を尊重する、と説明されました。3つ目のテーゼは「国と市民、市民同士での科学的根拠に基づく対話の機会を積極的に設ける」です。これまで犯罪問題は警察・刑事司法の専門家が主導してきたが、これからの犯罪予防については、当事者や広く一般市民を巻き込んだ対話とそこで集約した意見の反映が求められる、と説明されました。津島教授は最後に「CrimRCの各研究ユニットが扱ったテーマの多くは市民目線の視点から生み出されたものでした。これらは従来、国が語ろうとしなかったもの、語りたくなかったものでした。リテラシーを持った市民が社会の多様性を尊重することによってはじめて、民主主義社会の成立に貢献することができます。犯罪の予防や対応には、国と市民の間、市民同士での科学的根拠に基づく対話が不可欠です。そのためには国による刑事司法に関する情報の開示、提供が必要であるとともに、それを理解できるリテラシーを持った一般市民の存在が必要です」と述べ、成果報告を終えました。


津島昌弘教授(社会学部/CrimRC研究部門長)

津島昌弘教授(社会学部/CrimRC研究部門長)

国際部門総括「地域課題とグローカル展開」
最後に浜井浩一教授(法学部/CrimRC国際部門長)が国際部門の総括を行いました(浜井教授の報告は事前収録動画を上映しました)。国際部門では、グローバルな活動として、①海外の大学・研究機関等への報告者の派遣、②国際学会での企画セッションによる成果報告、③国際学会の開催協力、④シンポジウム・セミナー等の開催、⑤海外の研究者の受入れ・交流協定等の締結など、日本独自の知見を世界に発信してきたことが報告されました。浜井教授は国際部門の成果として特に、2021年6月に龍谷大学を中心にオンラインで開催された「アジア犯罪学会第12回年次大会」を挙げました。全体講演・基調講演はオンラインの特性を生かし、講演だけでなく質疑応答の時間を設けたこと、アジアからだけではなく、欧州、米国、オセアニア等からも参加者が集まり、国際的な犯罪学者が講演を行ったことなど、大会は成功裏に終了したことが報告されました。ここで、浜井教授は大会で行った全体講演「“安全な”国の犯罪学のパラドックス:日本の事例からー日本はいかにして低犯罪率を維持してきたのか?」を題材に、今後の犯罪学の向かうべき方向性について説明しました。はじめに日本の犯罪は年々減少し、刑事施設も年々閉鎖されているにもかかわらず、刑事施設に収容される高齢者の数は増加していること、社会に居場所がないために再入所してくる受刑者もいることが紹介されました。浜井教授は、そのようななかで日本の治安が良好である理由として、日本の刑事司法は再統合的に機能しているためであるとするジョン・ブレイスウェイトの研究、交番に象徴される地域警察活動によるものであるとするデイビッド・ベイリーの研究、国民の刑事司法に対する信頼が高いためであるとする法務省の説明を紹介しました。しかし、浜井教授が津島教授と共同で実施した実証研究の結果からみると、日本の市民は刑事司法に対する知識がないことから、刑事司法への信頼は必ずしも高いとは言えず、上記の説明は支持されなかった、と述べました。浜井教授は日本の治安が良い理由は、現在の日本社会における孤独や孤立の背景にある、「人に迷惑をかけてはいけない」という特性にあると指摘されることが多いと述べました。さらに、家族の一人が罪を犯すと他の家族も社会的に排除されるという「家族人質社会」である日本では、家族との絆が犯罪抑止力となる(トラビス・ハーシーの社会的絆理論)と説明しました。また、大会で基調講演を行ったデイビッド・ガーランドが「コロナ禍において現実の脅威を科学的に人々に伝え、行動変容を促した公衆衛生の専門家を犯罪学者は学ぶべきだ」と述べたことを紹介しました。そして浜井教授は、犯罪者という特別な人がいるわけではなく、感染症と同様、誰もが犯罪というウィルスに感染する可能性があり、誰もがその感染から回復できる、ということをエビデンスに基づいて、市民に分かるかたちで伝えることこそ、犯罪学者が伝えていかなくてはならないことだ、と述べました。浜井教授は最後に「特別な人が罪を犯すわけではありません。人はめぐりあわせや出会いで変わるという親鸞聖人の考え方があります。人は縁によって生まれ、縁によって死ぬ、人は縁によって生かされているわけです。良い縁をつないでいく、これが犯罪のない社会を生み出すためには重要です。良い縁とは何か、どうやってそれを作り出すのかということを科学的に研究するのが犯罪学です。いまの日本は相互監視社会ですが、これからは相互信頼社会としてお互いに信頼していく。そのためにはどうすればよいかを考えるのが犯罪学だと思います」と述べました。さらに、こうした国際部門の活動によってグローバルに得た知見は、地方自治体との連携、社会実装のなかでエビデンスとして生かしていくというグローカル展開に力を入れてきているということを紹介し、成果報告を終えました。


浜井浩一教授(法学部/CrimRC国際部門長)

浜井浩一教授(法学部/CrimRC国際部門長)


古川原明子教授(法学部/CrimRC「科学鑑定」ユニット長)

古川原明子教授(法学部/CrimRC「科学鑑定」ユニット長)

総合司会の古川原教授は各部門の総括を聞いて、「研究と教育の両輪で進み、さらにそれを国外の議論へと広げていく在り方は、研究教育機関のひとつの理想であろうと思います。先ほど浜井さんよりご紹介のあったアジア犯罪学会では私も学生と一緒に報告をしました。自分の研究を進め、それを学生の教育に反映させる、そしてその成果を国際学会で報告する、そのような経験はCrimRCなしでは実現しなかったと思います。また各ユニットが開催する研究会はとても新鮮でした。今、社会にある問題に対して、どのような視点から、どのような仮説を立てるのか。その仮説に向けて、どのように研究をデザインするのか。そしてその成果をどのように還元するのか。とても刺激的なものでした。それぞれの部門長、センター長の人柄もあり、フランクな意見交換が可能であったこともまた、CrimRCの特長であったと思います」とコメントしました。

各部門の総括を受け、入澤崇学長(文学部教授)がコメントを述べました。入澤学長は、「現在、盛んにSDGsが叫ばれているものの、一人ひとりの意識が変わらないとSDGsの達成目標の実現はできません。人間の意識や行動を変えることは仏陀の教えであることから、龍谷大学では『仏教SDGs』を発信しています。昨年秋に開催された、龍谷大学エクステンションセンター30周年記念シンポジウムで『龍谷大学はすでにSDGsを行っているのではないか』という指摘がありました。それが本学の矯正・保護課程の取組みや犯罪学研究センターの活動です。龍谷大学のなかにある潜在的な能力は非常に高いと確信しています。6年間の集大成として各部門の報告を聞きましたが、そこに多くの学生がかかわったことで、学生の心のなかで化学反応が起きたと思います」と述べました。さらに入澤学長の専門であるインド仏教に関する研究を紹介しつつ、「仏教というのは古くから、罪に対する意識が非常に高い教えです。人間の行う罪、そして意識的に行う行動だけでなく、知らず知らずのうちに犯してしまう罪、つまり人間の行為に対する意識の高さ。仏教の特長はそこにあると思います。犯罪学は仏教とも結びつきますし、心理学、社会学、子ども教育にも結びつく学際的な性格をもつ学問だと思います。また報告にありましたが、縁という仏教の中核的な教え、中心的な思想である『縁起』に立脚すれば、平和は構築できると強く思っています。ところが自分自身も多くの関係や支えによって成り立っている、ということが日常生活のなかで失われる瞬間が度々あります。自己中心になってしまい、自分自身でも思いもよらなかったことをやってしまうこともあります。私たちは罪を犯さない環境を作っていく、そして一旦つまずいた人がいれば、そのつまずきから立ち直る環境を作っていく。そういう営みを龍谷大学から発出していきたいと思っています。ブランディング事業は終了しますが、今後は若い人たちに継承してもらいたいと強く思います」と述べました。


入澤崇学長(文学部教授)

入澤崇学長(文学部教授)

 
当日の配信動画(【セッション1_成果報告「新時代の犯罪学の創設に向けて」】)は、YouTubeにてご覧いただけます。



つづきは、レポート後篇を参照ください。