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2022.06.22

公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第3回レポート【犯罪学研究センター共催】

ウクライナの現状に関する質問にジャーナリストが回答

2022年6月6日、龍谷大学犯罪学研究センターは、「公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第3回 「ウクライナの現状についてジャーナリストが語る」【質疑応答編】」をZoomLIVE配信形式で共催しました。本研究会には、約60名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10564.html

今回の研究会は、シリーズ第2回「ウクライナの現状についてジャーナリストが語る」(>>実施レポート)の際に寄せられた質問や感想に応答することを目的として実施しました。
ゲストに、第2回目の公開研究会に登壇した綿井 健陽氏(ジャーナリスト)と小熊 宏尚氏(共同通信社 外信部編集委員)を再びお招きし、司会を石塚 伸一教授(本学法学部)、コーディネーターを舟越 美夏氏(ジャーナリスト、龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)が務めました。
はじめに、石塚教授が公開研究会シリーズの趣旨説明を行いました。


石塚伸一教授(本学法学部)

石塚伸一教授(本学法学部)


舟越 美夏氏(ジャーナリスト、犯罪学研究センター嘱託研究員)

舟越 美夏氏(ジャーナリスト、犯罪学研究センター嘱託研究員)

つづいて、本企画のコーディネーターである舟越 美夏氏が綿井 健陽氏と小熊 宏尚氏の紹介をし、公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第2回目の振り返りとして、記録動画のハイライト部分(約5分)が映し出されました。舟越氏は、「戦場とその周辺に住んでいる方々の生活の困難、戦争の被害を受けて死亡した若い兵士等を映す綿井氏の未編集映像は、戦争について考えるにあたって目にする必要性のある、貴重な情報である」とコメントしました。そして、参加者からの質問に対する応答時間に繋げました。

■質疑応答
第2回研究会の際に寄せられた質問や感想、そして登壇者による答えは以下の通りです。(※一部抜粋)

Q:欧米の報道各社との取材方法の違いを、現地で体感されたことと思います。報道体制や陣容、資金力の差、検問突破の交渉力の違い、そして現地取材の経験の差について、教えてください。

A (綿井 健陽 氏) :今回のウクライナに関しては、イギリス、フランスとドイツをはじめとして、ヨーロッパが非常に手厚く報道しており、取材に10人~20人ほどのスタッフが務めることもあります。ロシアとの国境がある北欧、そしてルーマニアやポーランドも大きな体制で取材を行いますが、日本のジャーナリストの場合は、一般的に記者とカメラマン、そして場合によって通訳者を含む2人~3人の体制で取材を行うことが多いです。しかし、アジアでは、例えば中国と韓国に比べて、日本のフリーランスジャーナリストやテレビ局のジャーナリストが意外と多く、長期間に渡って取材をしていたと思います。全体的に、ジャーナリストが多く取材している戦争であると思います。おそらく、2003年のイラク戦争と2006年にあったイスラエルのレバノン攻撃の時以来の規模だと思います。また、「フィクサー(fixer)」と言われる、取材のアレンジ、ウクライナ軍との交渉等を担当する現地の協力者の料金が非常に高かったです。イラク戦争やアフガン戦争に比べて、3倍くらい高かったです。
 検問突破の交渉力の違いについては、どこの国でもそうですが、かなり厳しいです。パスポート又は現地のプレスカードを見せたりしますが、今回は検問自体に近づくことが難しく、カメラを止めて、あるいは可能な場合は隠し録りをせざるを得なかったです。取材現場へのアクセスについては、フィクサーがウクライナ軍司令官等をどのくらい懇意にしているかという点が、今回非常に重要な点でした。欧米の大手メディア関係者は、いち早くその現場に入って、取材を行っていたことが印象的でした。例えば、地下鉄で行われたゼレンスキー大統領の記者会見は、私には案内すら届きませんでしたが、大手メディアには数日前から情報が入っていました。
 現地取材の経験の差については、やはり言語が重要な要素だったと思います。ロシア語が喋れる外国人記者でも、スパイと思われる可能性を配慮して、あえて分からないふりをする人もいました。私自身は、中東での取材が多かったので、フィクサーと通訳者に頼らざるを得ませんでした。Facebookには、ウクライナだけではなくて、世界各国での取材で利用可能なフィクサーの紹介がなされる「アイ・ニード・フィクサー(I need fixer)」というページがあって、使う記者が多いと思います。


Q:ウクライナ市内で見たロシア兵の遺体の処理は、どうするのでしょうか?仮埋葬するか、遺骨にするか、又は後でロシア軍に連絡し、返却するのでしょうか?

A (綿井 健陽 氏) :実は、私が見たロシア人の遺体は一体だけであって、ほかウクライナ人の遺体の方が圧倒的に多かったです。ロシア人の遺体は、どこかの時点で回収するのですが、保管をするケースが多いです。しかし、場所によって差があるようです。例えば、東部では、ウクライナ人の埋葬所に混じってロシア兵の遺体が埋葬されていると言うニュースがありました。他方、近郊の町では、ロシア兵の遺体が見つかった場合は、比較的早く回収されます。

A (小熊 宏尚 氏) :ロシア兵の遺体は、基本的に火葬はしません。ロシア正教とウクライナ正教において、遺体を焼かない伝統があることも、火葬が行われない一つの理由でもあると思います。
ボディーバッグに入れられて、保管されることが一般的です。それは、遺体がとても大事であるからです。例えば、1人のウクライナ兵が捕虜になっていて、生きている人がいる場合は、生きている一人の兵士と遺体10体とを引き渡しすることすらあり得ます。こうした遺体と捕虜の交換はロシア・ウクライナ間だけでなく、パレスチナとイスラエルの間でも行われています。
6月4日には、ウクライナ軍とロシア軍が回収したそれぞれの遺体を相手方に引き渡したとウクライナ政府より発表されました。このように、遺体の引き渡しは敵国間の接触の機会をつくることにもなり、意味があることだと考えられています。


Q:メディアの報道について、アメリカやNATOの空爆が正当化されていた「イラク・アフガニスタン・リビア」と、プーチンを悪魔のように徹底的に批判する「ウクライナ」との間に大きな違いを感じます。(ロシアが悪くない、という意味ではなく、両方よくないもののはずなのに、なぜ米やNATOは正当化されたのか疑問という意味です)。
ジャーナリストとして現地を訪れた綿井さんとして、その差は納得のいくものだったのでしょうか?


A (綿井 健陽 氏) :実は、私がウクライナに行く前、そしてウクライナに滞在した間は、現地の情報を英語サイトで見ていましたので、日本でどう報道されていたか把握していませんでした。私は、ロシア軍が“悪”でウクライナが“正”だと思いませんが、一義的にロシアが侵攻した戦争で、戦争が終わるにはその侵攻をやめなければならないので、その責任がロシアの側にあると思います。なので、現在、日本ができるのは、ウクライナに対する経済的な支援などよりも、外交ルートを使って、ロシア政府との交渉をして、戦闘行為を踏みとどまるように働きかけることだと思います。

A (小熊 宏尚 氏) :プーチン大統領が悪魔のようだと言う指摘もともかくですが、21世紀になって、アフガニスタン、イラクとウクライナという大きな戦争がありましたが、メディアによる報道のトーンに差がでたと言うことに対して、おそらく二つの要素があるのではないかと思います。一つ目は、「国連や国際社会が戦争をどういう風に受け止めているのか、あるいは、戦争を行うと決めた主体を支持しているのか」だと思います。もう一つは、「侵略された側の人々や政府がどう受け止めているのか」だと思います。この2点は、それぞれの戦争で違っています。アフガニスタンの場合は、戦争の前にアメリカ同時多発テロ事件があって、その首謀者を匿っているアフガニスタンのタリバン政権を攻撃するということでした。国連は基本的に戦争を禁止していますが、自衛権は認められており、一応、国連のお墨付きが得られた戦争でした。そのため、イギリスに限らず、ロシアなどが基地を貸したりしたように、世界全体が比較的にアメリカを支持した戦争でした。後は、開戦してしばらく、アメリカの指示を受けて、タリバンを倒した後にカブールに入った北部同盟が市民に歓迎されたことも、報道のトーンに影響を及ばすように思われます。イラク戦争に関する国際社会のスタンスは、アメリカに拡散された、フセイン政権が大量破壊兵器を持っているという偽の情報を信じ、アメリカを支持したイギリス、オーストラリアや日本と、不必要なせんそうであると主張したロシア、ドイツやフランスに分けられていました。結局、アメリカが実際戦争を始めて、サダム・フセインを倒しましたが、最初の頃、市民の大多数はアメリカの行為を歓迎しました。そのことも、報道のトーンに現れたと思います。一方、ウクライナの場合だと、ロシアは国連において自衛の戦争だという決議を得ようとせず、ウクライナの一部でジェノサイドが起きていることやNATOが拡大していることといった、相当な誇張のある理屈に基づいて戦争を始めました。このようにして、正当性の薄い戦争として捉えられていることが大きな要素だと考えられます。また、ロシアがウクライナに入ってきて、ウクライナの市民がロシアを歓迎したのかというと、ほとんど歓迎していない、むしろロシアの行為を批判していることが明らかだと考えられます。そういういったことが報道のトーンに関わってくると、私は理解しています。


綿井 健陽氏(ジャーナリスト)

綿井 健陽氏(ジャーナリスト)


小熊宏尚氏(共同通信社外信部編集委員)

小熊宏尚氏(共同通信社外信部編集委員)

■司会者からの補足・追加質疑:
Q(舟越 美夏 氏):綿井さんはイラク戦争の前後に関する作品(ドキュメンタリー映画) を作っていますが、戦争の正当性について、イラクの人々がどういう風に感じていたかについて、お話していただけますか?

A (綿井 健陽 氏) :イラクも、多宗派・多民族であり、戦争の正当性に対する市民の態勢はその間に分かれていました。例えば、人口の6割だと言われるシーア派の人達は、フセイン政権が倒されたことに対して最初は喜んでいたのですが、その後イラクが内戦状態になって、戦争の後に亡くなったイラク人の人数が圧倒的に多いと言う観点からは、治安に関しては、フセイン政権の方がはるかによかったと言う人が多いです。しかし、フセイン政権のような政権体制に戻りたいかと聞くと、一般的に否定的な答えをされます。なので、治安レベルと政権体制レベルに分けて考えなければならないと思いますね。アフガニスタンの時も、タリバンを支持していた人が少なかったですね。ウクライナの場合だと、市民に聞くと、ゼレンスキー大統領の命令の下で動いていると言うよりかは、ロシアの侵攻に対して、志願して、例えば領土防衛隊に入る人が少なくないです。

(舟越美夏 氏):私自身、アメリカ同時多発テロ事件が起こる2ヶ月前に、タリバン政権下のアフガニスタンに行ったのですが、当時一緒にいた国連の方は、「内戦と大干ばつで何百万人の国内避難民が出た時、そして、その前の冬に大寒波が来て避難民キャンプで子どもたちが凍死した時にも、国際社会の反応がほとんどありませんでした。この国家は、失敗国家なんですよ」と話していました。そして、アメリカ同時多発テロ事件が発生して、タリバン政権がアルカイダを囲っていることや、「女性たちの人権などを守る必要がある」ようなことを理由に、世界最強の国が世界最貧国を空爆したわけですね。イラクと違って、アフガニスタンで行われた空爆の映像がなかったことは、同情が得られなかった理由の一つでもあって、「アルカイダを囲っている側が悪い」という一辺倒な報道となって、世論が作られたという感じでした。それに対して、私も含めて、アジアの視点から色々書きたかったのですが、なかなか目に留めてもらえないという悔しい現状がありました。それを思い出しながら、戦争が世界的に正当化されることはどういうことなのかをよく考えています。


Q:制圧直後のブチャ近郊でプレスツアーがあり、綿井さんも死体に群がるようなメディアを見たとのことですが、当時日本のメディアでツアーに参加している社はあったのでしょうか?ブチャやボロディアンカなど、甚大な被害を受けた地域に日本メディアが入ったのはしばらく時間がたってからだったと記憶しています。

A (綿井 健陽 氏) :今回、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日の時点で、例えばキーウには共同通信社、朝日新聞社そしてTBS、3つの日本メディアの記者がいたと思います。その後(3日から5日後くらい)、空爆によって、キーウから日本メディアの記者が一旦いなくなったのですが、一方、西部の町のリヴィウや南部の町のオデッサ辺りに、フリーランスジャーナリストを含めて日本のメディアが割と入っていました。また、虐殺があって、ウクライナ戦争の象徴ともいえるブチャという町は4月上旬に制圧されたのですが、私が最初に行ったのは4月5日だったと思います。その時は、プレスを集めて、バスで移動して報道公開する形になっていたのですが、それ以降は、自前の車で行くことになっていました。しかし、これに先んじて、4月3日か4日に、大手メディアを筆頭としてウクライナ軍と話をつけて現地入りしている他のメディアがありました。5日に行われたバスでの報道公開は、確か日本のフリーランスジャーナリストは10名ほどいたと思います。プレスツアーだと、すべての情報がコントロールされていると思う人がいるかと思いますが、基本的にどんな現場でもメディアの報道が制約されることがあって、例えば、過去の戦争の時は、自国の人の遺体が大量に発見されたりする場合大きく公開されていました。一方、今回はウクライナ軍の兵士の遺体の映像はあまり出てきていないと思いますね。それは、情報が国内でも公開されるので、やはり自国の戦争を伝えることが非常に困難であると現地メディアの方も説明していました。


Q(舟越美夏 氏):小熊さんに対する質問ですが、ウクライナの情報統制というのはどれぐらいされているのでしょうか?

A (小熊 宏尚 氏) :情報統制は当局がどのくらい発表するかということによると思います。当局の軍事的な作戦などに対する発表はかなり限定的です。一日に一回参謀本部が発表をするのですが、極めてあっさりとしか書いていません。ただし、例えばどこかでミサイルが落ちて、沢山の人が亡くなりましたと言うのは、特に問題なく報じているように見えます。また、軍あるいは政府が特に統制しているのは、死者の数です。これは非常に不正確だなと常に感じています。それはロシアも同じく、お互いに、相手の兵士が沢山死んだと言うこと伝えたいわけです。そして、逆に、自分の国の兵士の数を出すことによって世論の支持を失うかもしれないという恐れから、公表したくないというふうに考えられます。


Q(舟越美夏 氏):ウクライナの領土防衛隊の人達の死者も、兵士の死者数に含まれているのでしょうか?

A (小熊 宏尚 氏) :そこはよく分からないです。かなりあっさりとした発表しかしないので、防衛隊のような準軍事組織がそこに含まれているかどうかという情報はほとんど出していないように見えます。
A (綿井 健陽 氏) :実は、市近郊の町で領土防衛隊の葬儀があって、その撮影はできるのですが、ウクライナ兵士の埋葬あるいはその遺族がいるところは見たことがないです。やはり、兵士に関する情報は非常に制限をしているのは間違いないです。兵士と比べて、領土防衛隊に関する制限は若干緩いように感じます。


Q(舟越 美夏 氏):攻撃による死者の数はどういう風に出しているのでしょうか?

A (綿井健陽 氏) :これは完全に軍発表によって出されていないので、カウントをしようがないです。
A (小熊 宏尚 氏) :ロシアに攻撃されて、何人が死んだかというのは、割と発表しているように見えます。数えにくいと思いますが、軍、市長や知事による発表では明らかになっています。


Q:フリーランスジャーナリストの方が紛争地などに行くとき、ジャーナリストやカメラマン、通訳などのネットワークがあるのですか? 大手メディアとの違いを、詳しく知りたいです。 命の危険もある状況で、取材する方がいるからこそ知ることができることに感謝します。

A (綿井 健陽 氏) :先の質問と重なるのですが、ネットワークに関しては、「アイ・ニード・フィクサー」というFacebookページはやはり世界各地で使われています。今回、私自身は、最初日本のエージェントを通して行ったのですが、やはり、現地に入ってから別の通訳者を雇わざるを得ませんでした。「アイ・ニード・フィクサー」のページに打診したり、西部の町リヴィウとキーウにある、記者会見などを行っているウクライナメディアセンターに「だれか通訳者いませんか」と相談して、通訳者を紹介してもらったりしました。しかし、大手メディアの場合は、1ヶ月から2ヶ月の長期雇用という形で通訳者を雇うことが多かったです。一方で、私達フリーランスジャーナリストは1週間単位などで雇うことが多かったです。特に外国人ジャーナリストが死亡した時は大きく意識されているのですが、実は、地元のジャーナリストや通訳者、フィクサーや運転手の安全については、特に気を使うべきことだと以前から思っていました。それで、取材中に何かがあった場合のために、今回は現地の通訳者やフィクサーと覚書のようなものを交わすようにしました。通訳者とは、それができるのですが、運転手はその日たまたま来る人やタクシー運転手だったりすることもあるので難しい場合もあります。それと関連して、私は現地で防弾チョッキやヘルメットをレンタルして着用していましたが、通訳者や運転手が身につけていないケースが結構あります。このような戦争取材の場合、現地の協力者の安全や問題が起きた場合の責任の所在は非常にシビアでセンシティブな問題だと思いました。


Q:危険を犯して取材くださったことに、少しでも我々が報いる(足りないとしても)方法はなんだろう、と思いました。

A (綿井 健陽 氏) :やはり反響だと思います。今回、ウクライナに関しては、今になっても関心がかなり高いです。ネットニュースで取り上げられるウクライナの記事などへのアクセス、そしてテレビで放送されるウクライナのニュースなどは視聴率が落ちません。今まで以前だと、例えばイラク戦争の場合、ある時期が来るとそれをテーマとしたニュースが始まったところに視聴者がチャンネルから離れるということは結構ありました。しかし、今回の場合だと、新聞も含めて注目度が高いと思います。ただ、私自身が日本に帰って思うのは、日本が受け入れたウクライナ難民の人についてのニュースが数多くありますが、ミャンマーや他の国の人達の受け入れはどうか、ということです。


Q:戦争で亡くなった兵士の遺体をはっきりと見たのは初めてでした。鬱血した顔、その表情、焼けた皮膚、繊細な指先。どんな生まれ、育ちで、どんな人に囲まれて、どんな人生だったのだろうと思わず考えてしまい、辛くなりました。私が、この映像を見る意味はなんなのだろうと今も考えています。

A (綿井 健陽 氏) :ネットとテレビのニュースでも、海外メディアは基本的に、遺体の映像が流れる前に、「遺体の映像が流れます」又は「Disturbing video (衝撃的映像)」と表示が出ることが多いです。日本でも、東日本大震災の映像が流れる時、「その後、津波の映像がでます」等の表示があります。ドキュメンタリーの場合は、遺体の映像が出ますが、日本のニュースでは必ずしもそうではないです。なので、私としては時々の状況に応じて、やはりこのような映像をニュースで見せるべきだと思います。そうすることにより、視聴者の人達は戦争の実態を知り、巡り巡って心の中で深く覚えていて、戦争や戦争の現場に対する認識を高めることになります。それは、戦争に対する直接的な抑止力ではなくても、選挙の時に、戦争に対する意識又は戦争の歴史に対して認識の危うい人にはせめて投票をしないでおこうという考え方につながりうると思います。なので、日本において今まで行われてきたように、とにかくすべてをモザイクで処理をして、すべてを見せないようにするという傾向に対して、私は反対的な立場を取っています。

(舟越 美夏 氏):私も同感です。質問にあったように、「どんな生まれ、育ちで、どんな人に囲まれて、どんな人生だったのだろう」という疑問に思いを馳せていただくと、ジャーナリストとして頑張ってよかったと率直に思ったりします。やはり、戦争は人間がやっていることだというのは、このような映像を見てはじめてリアルに感じられると思われます。

■小熊氏による報告
上記の質疑応答につづけて、ロシアの専門家であり、2014年に行われたマイダン革命又はロシアによるクリミア併合などを取材した小熊 宏尚氏が写真を用いて報告をしました。報告では、「恐怖」というキーワードを巡って、「今回の侵攻に当たって、ロシア側がどういう心理を抱いたのか」というテーマが挙げられました。

まず、小熊氏はロシア側の抱いている恐怖は敵に囲まれていることや、戦争に負けることに表れていると説明しました。イラク戦争と並行した分析を通じて、小熊氏はブチャとイルピンに起きた事件を取り上げて、撤退が近づくことにつれて高まるロシア軍の恐怖感が虐待や虐殺の方に噴出しているという意見を述べました。つづけて、小熊氏は、2013年から行った取材の際に撮った写真を共有しながら、報告を発展させました。ロシアを支持した政府に対するウクライナ人の反発やデモ、政府による武力的なデモ対策に伴ったキーウの独立広場の破壊、デモ隊と機動隊の激しい対立、そしてロシア派のウクライナ政権の失脚を意味したデモ隊の勝利を描く写真をもとに、今回のウクライナ侵攻の約7年前に起きたマイダン革命の経緯を説明しました。その上で小熊氏は、マイダン革命がどのようにして、ロシアによるクリミアの併合につながったかを解説しました。その際に、クリミア半島にあるロシアの軍港から来たと思われる軍者がウクライナ軍の施設、ウクライナの役所や議会などを占拠したと説明を行いながら、クリミア半島に集まったロシア軍の写真を示しました。これらの写真をもって、小熊氏は当時のクリミア併合と今回の侵攻を比較する発言を加え、流血の無さにより反映されたクリミア併合時のロシア軍の投降率が今回の侵攻と対照的であることを述べました。
最後は、クリミア半島の住民を対象とした選挙活動(ロシアに入るかウクライナに残るか)、それに伴ったクリミア半島の独立、そしてロシアによるその併合を描く写真を用いて、今回のウクライナ侵攻までの流れにおいて重要な位置を占めるクリミア半島の問題をロシア側の関心から分析を行って、報告を終えました。


小熊 宏尚氏による報告の様子

小熊 宏尚氏による報告の様子

■司会者からの補足・追加質疑:

Q(舟越 美夏氏):その後、アメリカとイギリスが軍事顧問団を送ったわけですね?
A(小熊 宏尚氏):実は、軍事顧問団を送っているのは比較的に最近のことですが、2014年以降はウクライナとNATOは様々な形で協力をしていますね。しかしながら、NATOがロシアを刺激したくないと言う意識が強いと私は理解しています。例えば、当時2014年のオバマ政権時には、ウクライナが強い殺傷力のある武器を求めても送らませんでした。

Q(舟越 美夏氏):それに対してロシア側は違う捉え方をしたのでしょうか?
A(小熊 宏尚氏):そうですね。ロシアは、基本的に被害者意識の強い国だというのは一つのポイントです。また、ロシアにとってウクライナはほとんど自国だという意識があることがもう一つのポイントだと思います。この2つの意識がないまぜになっています。被害者意識の観点から言うと、ウクライナがNATO又はE.U.に接近するだけでも怖いわけですね。それはおそらくロシアの長い歴史に関係していると考えられます。モンゴルに占領され(13世紀前半)、ポーランドに迫られ(17世紀初頭)、ナポレオンのモスクワ遠征(19世紀初頭)もあって、そして20世紀にナチスに広範な領土を占領されました。つまり、そういう歴史があるロシアは、常に外敵に襲われている国だと言う意識が強いと考えられます。その観点から、事実上自分の領土にあると意識を持っているウクライナがNATOに近づくことは待ってはいけないという立場ですね。

Q(舟越 美夏氏):この戦争をどう終わらせるかというのが非常に難しいところだと思います。今は、予測できない段階なのでしょうか?
A(小熊 宏尚氏):予測は難しいですね。今ヨーロッパでは2つの議論があります。一つは、侵攻をしたのはあくまでロシアであって、その行為が明らかに国際法違反であるという考え方に基づいている。その観点から、とりあえずは、ロシアを負けさせないといけないという意識ですね。つまり、開戦前の段階前(2月29日)ロシアを追い出して、ロシアが侵攻したにもかかわらず得るものがなかったというと言う風に思い知らせることです。もう一つは、戦争を終わらせることを優先して、そのために、何だか何かの妥協をしなければならないという考え方です。これらの2つの考え方が浮上しているのが現段階だと思っています。そしてアメリカはまだ態度を決めかねているのではないか、という風に考えられます。


最後は、登壇者と参加者に対するお礼の言葉と重ねて、石塚伸一教授は「戦争と犯罪」という今回の公開研究会シリーズにおける「恐怖」のキーワードの重要性について意見を述べた上、ヨーロッパを超える範囲までに問題意識を拡大させる必要性について説明をして、アフガニスタンをテーマとする次回研究会(公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第4回:国際社会はなぜ、アフガニスタンの平和構築と国家再建を失敗したのか)の企画趣旨の紹介につなげました。

当日の記録映像をYouTubeにて公開しています。ぜひレポートとあわせてご覧ください。
→YouTubeリンク

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https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10563.html