2023.03.25
第3回オンライン高校生模擬裁判選手権・傍聴レポート【犯罪学研究センター後援】
古典落語『河豚鍋』をモチーフにした模擬裁判で14チームが対戦!文学模擬裁判を通じて、人間や社会を考える眼差しを深める
2023年1月29日(日)に、全国14チームの高校生が対抗する文学模擬裁判イベント「第3回オンライン高校生模擬裁判選手権」が開催されました(犯罪学研究センター後援)。当大会は2020年8月9日の初開催以来、選手権や交流大会などを含めて今回で6回目の開催となりました。
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当イベントは、犯罪学研究センターの兼任研究員である札埜和男准教授(本学文学部)及び、オンライン高校生模擬裁判選手権実行委員会による主催。後援には、当センターのほか、京都教育大学附属高等学校模擬裁判同窓会、龍谷大学矯正・保護総合センター、刑事司法未来PJ、法情報研究会が名を連ねました。
今回は、北海道から九州まで全国から13校(14チーム)が参加しました。
[参加校(順不同)]
宮城県宮城野高等学校(宮城)
東邦大学付属東邦高等学校(千葉)
中央大学杉並高等学校(東京)
京都女子高等学校(京都)
京都府立莵道高等学校(京都)
神戸女学院高等学部(兵庫)
神戸海星女子学院高等学校(兵庫)
岡山学芸館高等学校(岡山)
創志学園高等学校(岡山)
広島女学院高等学校(広島)
上智福岡高等学校(福岡)※2チーム
佐賀県立佐賀西高等学校(佐賀)
大会に先駆けて3ヶ月前から全10回、多様な講師陣(弁護士、元検察官、研究者、えん罪被害者、ユーモアコンサルタント、ふぐ処理師等)によるオンライン事前配信講義を実施。当日は、2校ずつ検察側と弁護側にわかれ、7つの模擬法廷で2 試合(午前・午後)が行われました。
今大会で取り上げた事件は、古典落語「河豚鍋」をモチーフに、場面設定を1831(天保2)年の大坂船場の商家を舞台にアレンジしたものです*1。
[事件の概要]
1831年天保2年睦月15日暮れ五つ時頃、摂津国船場・西横堀川玉水町の商家・鹿嶋屋仁左衛門の屋敷内において、仁左衛門の妻・照は、仁左衛門の「大変だ!」という声を聞き駆けつけたところ、うろたえている仁左衛門の前で、住み込みの手代・富政が倒れているのを発見した。医者である緒方諭吉が往診して懸命の処置を行ったが、富政は16日子刻頃に死亡した。同日午前子刻頃に大阪町奉行所の同心が駆け付け現場を検証したところ、富政の死に不審なところがあり、大阪奉行所は、関係者を召喚して事情聴取をした。その結果、仁左衛門が富政に河豚を無理矢理食べさせたのではないかとの嫌疑が判明したため、仁左衛門は1週間後に殺人容疑の疑いにより逮捕された。逮捕の決め手となったのは、照の次のような証言であった。①仁左衛門は、丁稚や手代の代わりはいくらでもいると公言し、使用人の命を軽視していたこと、②事件前に、仁左衛門が富政に河豚を食べることを強要したこと、③富政が武家に関わる女性との恋に走ったこと、④大事な取引先の加賀藩を相手に粗相をして大きな損失を被りかけたこと、⑤それらの事実に仁左衛門が腹に据えかねていたこと、⑥日頃より照自身が仁左衛門からモラハラを受けていたこと。これに対し、仁左衛門は「河豚鍋をふるまったのは、あくまでも労いのためであり、強要どころか、食い意地の張った富政が自ら進んで食べた、決して無理強いしていない」と供述している。
本件について、検察官側は、被告人が殺意を持って被害者に河豚食を強要したことによる殺人罪を主張。対して弁護人側は、本件の結果は、被害者本人の意思に基づく行為によって引き起こされたものであり、仁左衛門の殺意及び当該強要行為を否認する旨、主張する。
本事件のポイントの一つに、仁左衛門の故意(殺意)をどのように立証するのか、が挙げられます。検察官役・弁護人役は、その立証・反証に挑戦。文学模擬裁判は、冒頭手続きからはじまり、仁左衛門(被告人)や、照(証人)、に対する尋問・質問(反対尋問・反対質問)による証拠調べが行われ、最後に意見陳述(論告、弁論)で終了しました。検察官役・弁護人役のみならず、被告人役や被害者・証人役を務めた生徒の熱演によって、模擬裁判はおおいに盛り上がりました。
全ての裁判が終了した後、閉会式が行われ、そこで、上位4校と各法廷のMVPが発表されました。
[結果発表]
準優勝:東邦大学付属東邦高等学校(千葉)
3位:神戸女学院高等学部(兵庫)
4位:佐賀西高等学校(佐賀)
[MVP]
第1法廷:東邦大学付属東邦高等学校の弁護側・被告人役
第2法廷:中央大学杉並高等学校の検察側・起訴状朗読、主尋問役
第3法廷:佐賀西高等学校の弁護側・弁論役
第4法廷:岡山学芸館高等学校の検察側・反対質問、論告役
第5法廷:上智福岡高等学校(Sチーム)の検察側証人役
第6法廷:岡山学芸館高等学校の弁護側・主質問役
第7法廷:創志学園高等学校の弁護側・冒頭陳述役
[裁判官役による総評]
文学模擬裁判大会に企画段階より関わった伊東隆一弁護士(京都弁護士会、第3法廷裁判長役)は、「今回の事例は、不明確なところ、決まってない事実が多すぎると感じられた方もいると思う。出題者の意図としては、そこをどのように乗り越えるのかを見たかった。つまり、どのような補助線を引くことで明らかになっていない事実を埋めることができるのか。被告人や証人それぞれに立場からみて揺るがない事実があり、それを踏まえたうえで論理を組み立てることができるかが大事。今大会では、こちらが苦慮するくらいどの高校も素晴らしい準備を行っていた」と述べました。
当日は、各法廷の裁判長や陪席裁判官役を務めた全員より、高校生に向けてコメントが寄せられました。以下では、その中から事前講義*3を担当された二人のコメント要旨を紹介します。
■石塚伸一教授(龍谷大学法学部、第1法廷裁判長役)
「事件の筋を考えるうえで、登場人物の動機をどのようにとらえるかが重要。ばらばらにある事実をひとつのストーリにどうやってまとめるのか、この点を採点する際に重要視した。参加校の生徒は、いろいろ創意工夫しながら作り込んでこられた。そこから更に一歩先へ進むために大事なことは、状況にあわせてどこまでアドリブを効かせることができるかだろう」
■遠山大輔弁護士(京都弁護士会、第2法廷裁判長役)
「大事なことは、パッション。パッションを法廷での発言にのせるためには、記録をよく読むことが重要。今回の文学模擬裁判は皆さんにとって、人にものを伝えること、人を説得することの楽しさや難しさを知る良い機会になったのではないか」
[お知らせ]
今回の河豚鍋裁判について、オンライン模擬裁判大会の参加校を招き、対面での模擬裁判をおこないます。ご関心のある方は、ぜひご参加ください。
日時:2023年3月30日(木) 10:30-17:30
実施方法:対面実施 傍聴参加:無料
会場:龍谷大学深草キャンパス 至心館1階 矯正・保護総合センター内 法廷
詳細・お申込み:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-12323.html
[脚注]
*1. 今回モチーフとした文学作品
・古典落語「河豚鍋」参考:武藤禎夫(2007)『定本落語三百題』岩波書店「鰒汁」p.381
・古川智英子(2015)『小説土佐堀川:広岡浅子の生涯』潮出版社
*22023.01.12模擬裁判に挑戦する高校生と一緒に学ぶ法教育:Part4「法廷プレゼンテーション術」【犯罪学研究センター後援】
2023.01.25 模擬裁判に挑戦する高校生と一緒に学ぶ法教育:Part5「人はなぜハラスメントをするのか?」【犯罪学研究センター後援】