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2023.03.30

公開シンポジウム「死刑を考える一日〜絞首による死刑は残虐か?〜」を開催【犯罪学研究センター】

死刑制度の「いま」について、多角的な視点から捉え、共に考える機会に

2022年12月23日(金)、龍谷大学 犯罪学研究センターは、公開シンポジウム「死刑を考える一日〜絞首による死刑は残虐か?〜」を開催しました。本シンポジウムは、石塚伸一教授(本学法学部、前犯罪学研究センター長)が、龍谷大学に赴任してから刑事政策の受講者を対象に、年の瀬に行っていた催しです。なぜ、年の瀬のイベントなのか?それは、死刑の執行は、国会閉会後に行われることが多いからです。今回の「死刑を考える一日」は、死刑の存廃を議論する前に、日本の死刑の現状を一人でも多くの人に知ってほしいという思いから始まりました。

当日は3部構成で行われました。まず【第1部:死刑とはどんな刑罰なのか?】では、趣旨説明と死刑の執行方法を紹介する映像『絞首刑を考える』(制作・大阪弁護士会)が上映されました。つづいて【第2部:みんなで死刑について考える】では、話し手:元刑務官(本学卒業生)/聞き手:堀川惠子さん(ジャーナリスト、ノンフィクション作家)による対談と、弁護士・宗教者・研究者のリレートークが行われました。さいごに【第3部:みんなで死刑について考え、そして、語りましょう】として、参加者を交えたフリーディスカッションが行われました。
【>>EVENT概要】
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【>>法学部実施レポート】

日本は、米国や韓国などと並んで、死刑制度を存置する民主主義国です。しかし、米国では、死刑を廃止または執行停止している州が過半数になろうとしています。韓国は、20年以上もの間、死刑を執行しておらず、国際的には「事実上の廃止国」と位置付けられています。先進諸国においては、人権や手続き的正義の観点から、死刑を廃止したり、執行を停止したりすることが主流となっているのに対し、日本政府は、現在でも世論調査の8割が死刑を支持していることを理由に存置の姿勢を崩していません。2022年6月には刑罰のあり方をめぐって115年ぶりに刑法が改正され、“懲役”と“禁錮”一本化した「拘禁刑」が創設されたものの、国会では、死刑について議論をしようとすらしません。2022年7月には、再審請求中であったにも関わらず死刑が執行されるという事例がありました。日本における死刑の方法は1882(明治15)年以降、140年間変わらず絞首刑です。




■【第1部:死刑とはどんな刑罰なのか?】より企画趣旨

第1部の企画の趣旨説明に立った石塚教授は、日本の死刑制度をめぐる現状について、次のように述べました。

「日本における死刑廃止論や死刑存置論というものは、主に強盗殺人罪と殺人罪など重犯罪事件をめぐって行われているようだ。一方では、“被害者がいて亡くなっているから、死刑が妥当だろう”という意見があり、他方では、“死刑は人権の核である人の生命を奪う刑罰だからこそ、世界各国は死刑廃止を選択している”という意見もある。現行法においては、あくまでも裁判官や裁判員の量刑判断によって死刑判決が下されている。
(中略)
明治期の司法大臣(現在の法務大臣)は、法律家としての見識のある方が任命されていたことから、実際のところ死刑の執行数は少なかった。法務大臣が死刑執行を命ずるのであれば、相応の節度と理性を持った人であるべきだと思う。それは、国家が人の命を奪うのは、犯罪者が被害者を殺害するのとは違うからだ。
人を殺すのは違法であり、不法である。だからこそ、国家による刑の執行は、いついかなる時でも、法に則って、正義にかなったものでなければならない。刑を執行する国家公務員は、法のもとに正義を実践するのだから。私たちは、“何が正しいのか?”ということをいま一度問う必要がある。死刑はどのような刑罰なのか、まずはそれを知ることからはじめましょう」


石塚伸一教授(本学法学部・前犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部・前犯罪学研究センター長)

■【第2部:みんなで死刑について考える】対談より

第2部の前半では、話し手:元刑務官(本学卒業生、以下「卒業生の方」)/聞き手:堀川惠子さん(ジャーナリスト、ノンフィクション作家)による対談が行われました。
これまで死刑の執行について、関係者の証言が表にでることはほとんどありませんでした。浄土真宗本願寺派を母体とする龍谷大学は、戦前より培ってきた教誨活動の歴史と伝統を継承し、1977年、特別研修講座の一つとして「矯正課程」(1995年「矯正・保護課程」に改称)を開設しました。それ以来30年以上にわたる教育活動の成果として、本課程で学んだ卒業生が、矯正や更生保護の分野で実務家として活躍しています。卒業生の方は、これから矯正・保護の仕事に携わる可能性がある母校の後輩に向けて、いち刑務官としてどのようなことに留意し職務にあたったのかを、この度はじめて公の場で語ってくださいました。

卒業生の方は話の冒頭に、「刑務官の仕事というのは、拘禁者を確保して、未決拘禁者には円滑な刑事裁判を受けさせて、受刑者には改善更生していただいて社会に出ていただく。いわゆる入ったときよりも健康で、なおかつ精神的にも社会人になって出てもらうというのが基本だ。唯一、人の命を奪う死刑執行もまた刑務官の仕事の一つで、法律で認められた刑事施設内での死だと思う。」と述べました。

そして、本レポートでは詳細は控えますが、刑務官時代に体験された死刑執行にかかる命令から準備、執行に至るまでの体験談を、堀川さんの質問に答える形で、一つひとつはっきりとした口調で答えていきました。会場は、水を打ったように静まり、緊張感に包まれました。

聞き手の堀川さんは「私たちは死刑という言葉を聞かされた時に、見えないところで行われていることだと感じていないだろうか。今日うかがったような細かな情報というのは、これまで公には出ていないと思う。そうしたことを知らないにも関わらず、何か重大事件が起きれば“死刑、死刑”と叫ぶ人もいる一方で、矯正現場の刑務官の方々、そして教誨師の方々が死刑執行の現場に携わり、そして社会でいわれる正義を実行してくださっているのが現実なのだろう。
こうして皆さんの前でお話をしてくださったのは今日が初めてということでした。なぜ今日は語ってくださったのでしょうか。」と問いかけました。

卒業生の方は、「やはり龍谷大学を卒業したことに感謝しています。今日は多くの学生の皆さんが聴講されていますが、私の話によって刑務官の志望を諦めてほしくない。こういうこともある世界なんだ、と受けとめてもらえたら。そして、刑務官を志望すれば犯罪者の社会復帰という一番大きな仕事ができるということを知ってもらいたいと思い、引き受けました。」と述べました。

■【第2部:みんなで死刑について考える】リレートークより

つづいて、宗教者・弁護士のリレートークが行われました。
刑事収容施設の被収容者や、刑を終えて社会に出てきた人の支援を行っている五十嵐弘志氏(NPO法人マザーハウス理事長)は、自身が刑務所の中で改心し、ひとりのキリスト者として、「人の命の大切さ」と「加害者と被害者との対話」の可能性を訴えました。そして、五十嵐氏は、死刑の存廃は難しい問題であり、自身も揺れ動いたと率直に心情を吐露しました。また、「死刑囚や被害者遺族とも交流を続けるなかで、加害者と被害者の双方が対話を必要としていることが分かった。死刑の存廃についても、私たち一人ひとりが真剣に考え、対話を重ねることが重要だと思うように至った」と述べました。
五十嵐氏に次いで登壇した金子武嗣弁護士(大阪弁護士会)は、自身が関与する死刑に関する訴訟を3つ紹介しました。①「再審請求中に刑を執行したことによる弁護権侵害に対する訴訟」、②「当日の朝を迎えないと刑の執行が行われるかわからない状況おかれること(「当日告知・即日執行」)で受けている不利益を争う事例」、③「絞首刑による刑の執行の違法性を争う訴訟」です。金子弁護士は「これらは死刑の廃止を訴えるための訴訟ではない。いずれも、従来から死刑存廃の論点として提示はされていた。しかし、裁判の場において争われることは稀であった。私たちは本気で死刑の問題に取り組むべきであるという姿勢を裁判所に示さなければならない。そこではじめて、米国のように日本でも、司法実務における死刑の議論ができる。日本において死刑の情報が隠され、秘密裏に執行されるようになったのは、大正の終わりから昭和のはじめに遡る。このような姿勢は新憲法が制定されても変わらなかった。死刑にはいろいろな実務家が関わっており、誰もが人に言えない秘密を抱え、苦労されたと思う。この度の訴訟をきっかけに情報公開を活性化させることで、死刑制度運用のあり方について国民的議論が盛り上がることを期待している。」と述べました。


五十嵐弘志氏(NPO法人マザーハウス理事長)

五十嵐弘志氏(NPO法人マザーハウス理事長)


金子武嗣弁護士(大阪弁護士会)

金子武嗣弁護士(大阪弁護士会)


つづいて行われた質疑応答や第3部・フリーディスカッションでは、会場参加者から多様な質問が登壇者らに投げかけられ、その一つひとつを丁寧に議論しました。


シンポジウム実施の様子

シンポジウム実施の様子

■総括

本シンポジウムの副題は「絞首による死刑は残虐か?」という問いかけでした。開催直前である2022年11月下旬には、大阪拘置所に収容されている死刑囚3名が、絞首刑による死刑執行は、残虐な刑罰を禁止している憲法や国際人権規約に違反するとして、国に対して刑の執行の差し止めなどを求める訴訟を大阪地裁で起こしています*1。

今回のシンポジウムを通じて、私たちが正義というものを考えるとき、現場では何が起きているのかを知ること、そして当事者や関係者の声に耳を傾けて想像力を働かせることの重要性を再確認しました。そして、現行法が続く限り、今回の問いかけは続くものではないでしょうか。

当日は、4時間を超える長丁場のイベントでしたが、全体で約300名(学生・一般)もの参加があり、会は盛況のうちに終了しました。

[補註]
*1 関連ニュース
2022年11月29日 NHK 関西 NEWS WEB「“絞首刑は残虐で憲法違反”死刑囚3人差し止め求め提訴 大阪」
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20221129/2000068622.html
2022年11月29日 朝日新聞「残虐でない死刑とは 140年続く絞首刑、海外では銃殺・斬首・注射」
https://www.asahi.com/articles/ASQCY6DP1QCXPTIL006.html