Need Help?

News

ニュース

2024.03.27

再審法改正をめぐる現状を考える研究会を開催【刑事司法・誤判救済研究センター】

立法論としての再審研究と法改正をめぐる議論の最前線

龍谷大学 刑事司法・誤判救済研究センター(RCWC)は、2024年3月23日(土)、本学深草キャンパスおよびzoomにおいて再審法改正をめぐる現状を考える研究会をハイブリッド開催し、約50名が参加しました。
→イベント概要】 【→プレスリリース

誤判によるえん罪被害者を救済する唯一の制度「再審(裁判のやり直し)」について、刑事訴訟法にはほとんどその規定がないことから、制度的・構造的問題点を抱えていることが指摘されてきました。研究会の冒頭、挨拶に立った斎藤 司教授(本学法学部/RCWCセンター長)は、「RCWCではこの1年間、立法論を中心に再審法改正に向けた議論を重ねてきた。従来の刑事訴訟法改正においては、被疑者・被告人の権利強化vs捜査権限の強化とのバランスをめぐる議論が行われてきた。私たちは、再審法改正においてどのようなグランドデザインを描けるのか。立法論を前提に本日の議論を深めていきたい」と開催趣旨を述べ、会がスタートしました。


実施風景(深草キャンパスとzoomのハイブリッド開催)

実施風景(深草キャンパスとzoomのハイブリッド開催)


はじめに報告に立った鴨志田祐美氏(弁護士・京都弁護士会)は、日本弁護士連合会・再審法改正実現本部で本部長代行を勤めるなど、まさに現在の再審法改正ムーブメントの中心的な存在です。『再審法改正をめぐる現状と課題 ~これまでの歩みと現在地~』と題した報告では、まず、1975年に出された最高裁・白鳥決定による新証拠の「明白性」判断基準の変化(※)と1980年代には4人の死刑囚が死刑台から生還した「死刑4再審」にふれ、1962年からスタートした日弁連による再審法改正運動の歴史を概観しました。21世紀の再審は、証拠開示ルールの不在や検察官による抗告、裁判所ごとの「再審格差」など、法の不備が浮き彫りになっているのが現状です。
そして、2019年10月以降、再び加速した日弁連の再審法改正運動の状況や、2023年2月公表の日弁連「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」の要点、同意見書について多くの地方公共団体議会で採択されている現状(→京都府議会では2024年3月22日議決)について報告しました。

鴨志田弁護士は「長期化した袴田事件こそが再審法の不備を浮き彫りにしている。今年中に再審無罪が確定しても、はたして本当にそれで良いのか? 今こそ法整備が必要だ。2024年を再審法改正実現の年にしたい」と強調し、報告を締めました。
(※)白鳥決定については、以下の関連記事を参照のこと。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-11821.html


鴨志田祐美氏(弁護士・京都弁護士会)

鴨志田祐美氏
(弁護士・京都弁護士会)

次いでオンラインで参加した後藤 昭教授(一橋大学・青山学院大学名誉教授)は、『再審法改正と研究者の役割』と題し、日弁連の改正案(2023年7月)の評価や、再審法改正の可能性と研究者の役割について報告しました。
報告の冒頭、後藤教授は近年の刑訴法の改正に関する審議会等に参加した経験や刑事控訴制度の研究歴を有することにふれ、上訴と再審の関係理解のために「ドイツ法の歴史からは、刑訴法典制定後も控訴制度のない重罪事件では、再審が控訴の代わりとみられてきた。すなわち、被告人にとって再審が上訴より困難でなければならない必然性はない」ことなどを紹介しました。
日弁連「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」の改正案については、再審理由規定の改正や証拠開示制度、事実取調べ請求権などのポイントを明示し、つぶさに評しました。とりわけ、証拠開示制度(新設445条の9~11)については、「現行の公判前整理手続における証拠開示制度に似た構想。ただし、検察官に対して開示を請求するという形ではない。日弁連の前提として、警察の捜査段階からの記録保存と目録化を提案しているのは注目点である」と述べました。
そして、研究者は立法にどう関わりうるのかという点について後藤教授は、「建前論に満足せず、法運用の現実から問題を読み取ること。具体的な立法案の論点を広い視野の中で位置づけること」などのポイントを挙げ、「研究者は日弁連とすべて同じ意見である必要はない。誤判の不可避性に鑑み、研究者は機会をとらえて、法律家以外の人々へも意見を発信することが求められる」と述べ、報告を終えました。


2名の報告後、会場参加した村山浩昭氏(弁護士・東京弁護士会)が、10年前に静岡地裁の裁判長として袴田さんの再審と釈放を認める決定を出した元裁判官の経験を交えてコメントをしました。村山弁護士は「再審手続の詳細を定めた明確なルールがないことから、裁判官の裁量に任せられており、証拠開示の取扱いについても非効率であるとも言える。今こそ、信頼される刑事司法、法的安定性について問い直す必要がある」と述べ、再審法改正の重要な点として、えん罪による被害者が多くいるという現状を指摘しました。


小休憩を挟んで行われた議論の時間では、再審法改正と再審法理論のあるべき融合を目指して、参加者からの質問や感想の声が次々とあがりました。

1)「再審請求審における証拠開示」というテーマに関しては、再審請求は日弁連の支援対象事件にでもならないと非常に困難である現状に鑑み、証拠開示のためのスクリーニングの当否(どの事件を支援対象とするのか?)のあり方についての議論や、台湾では近年、二度にわたり証拠開示に関する法改正が行われたことで再審請求が進んだという情報共有がなされました。

2)「再審開始決定に対する検察官抗告」というテーマに関しては、「職権主義」と言われる再審請求手続において検察官の言う「公益の代表者」性とは一体何なのか?といった点に関して議論が進みました。また、1985年に採択された「国連被害者人権宣言」では、“誤判を受けた人は、公権力の濫用による被害者であり、犯罪被害者と同等である”と記されていることや、イギリス刑事事件再審委員会(CCRC)は司法から独立して存在して、誤判を調査する責務と権限を有し、公的機関や私的団体から文書を入手する権限を付与されていることなど、国際的な知見も共有されました。


議論の終盤に登壇した葛野尋之教授(青山学院大学法学部)は、冒頭、今年海外調査に赴いたドイツやイギリスで得たものとして、「他国の制度運用を知ることは、日本の制度運用を考えるうえでも示唆的である。他国では法律家が誤判救済について熱心に活動していることを強く実感した」と述べました。そして、『再審法改正の幾つかの論点』と題した資料と共に、ドイツにおける請求事件のスクリーニングの状況やイギリス刑事事件再審委員会(CCRC)の経験に学びうる点などを紹介。葛野教授は、「裁判所の職権解明義務、裁判所はどういう時に何をするかという手続を規定するのは非常に難しいが、再審法改正については裁判所も積極的にコミットすべき課題であろう」と述べ、本日の報告と議論を総括しました。


写真左:葛野尋之教授(青山学院大学法学部)写真右:斎藤 司教授(本学法学部/RCWCセンター長)

写真左:葛野尋之教授(青山学院大学法学部)
写真右:斎藤 司教授(本学法学部/RCWCセンター長)

さいごに登壇した斎藤教授は、「本日の議論を通じて、再審法改正にあたって検討すべき問題が山積していることが判明した。ただ、袴田事件の再審公判は2024年中に判決が出る見込みであり、今年3月には再審法改正を早期に実現する超党派の議員連盟が発足するなど、えん罪や再審をめぐる社会の状況は活発に動いていることから、迅速に解決に導く必要がある」と述べ、閉会しました。

刑事司法・誤判救済研究センター(RCWC)は、今後も多くの法律実務家や研究者と協力して再審法改正をめぐる研究を進めていく予定です。