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2024.03.29

京都府再犯防止の推進に関する研修会「オレオレ詐欺とは何か、若者はなぜ闇バイトをするのか~特殊詐欺の加害と被害を考える~」を宇治市にて実施【社会的孤立研究回復支援研究センター】

ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用

ポイント
・ 龍谷大学は、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結し、2020年度より事業を開始。
・ 2021年度から、オール京都で再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用した研修会を実施。
・ 今回で第6回目となる研修会を宇治市で開催。特殊詐欺の加害・被害当事者にスポットを当て、行政機関や地域社会における課題を共有。


 2016年の『再犯防止推進法』制定によって、地方自治体においても再犯防止事業に関する法令の整備および事業計画の策定が求められたことから、犯罪学者の協力が求められる機会が増えています。当センターにも複数の自治体から要請があり、研究メンバーが専門家として関与し、研究から得たエビデンス等の社会実装に努めています。
これらの活動を踏まえ、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、2020年度には石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長・ATA-net研究センター長)が監修者となり『“つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』を発行しました。
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 2021年度から「京都府再犯防止の推進に関する研修会」と題し、このハンドブックで取り扱った内容やハンドブックから着想を得て、研修会を開催してきました。ATA-net研究センターは2022年度で活動を終了し、それ以降は、社会的孤立回復支援研究センターのATA-netユニット(ユニット長・石塚伸伸一名誉教授)が引き継ぎ、研修会を実施しています。
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 今回は京都府山城広域振興局宇治総合庁舎大会議室にて第6回目研修会「オレオレ詐欺とは何か、若者はなぜ闇バイトをするのか~特殊詐欺の加害と被害を考える~」を2024年2月7日に開催しました。
 府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、加害・被害の実態に詳しい多様な立場から約50名が参加しました。行政機関や地域社会において何ができるのか、「自分ごと」として一緒に考えて、理解を深めることを目的としました。

 研修の司会は、山口裕貴氏(社会的孤立回復支援研究センター・嘱託研究員)が担当し、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)がファシリテーショングラフィックを担当し、ここで共有された話題をホワイトボードにまとめて議論を可視化しました。


山口裕貴氏(社会的孤立回復支援研究センター嘱託研究員)

山口裕貴氏(社会的孤立回復支援研究センター嘱託研究員)

 はじめに、日本の暴力団や闇バイト問題に関する研究を行っている廣末登氏(犯罪学研究センター嘱託研究員)が話題提供を行いました。ここでは、いわゆる「半グレ」を含む「匿名・流動型犯罪グループ」の定義、特殊詐欺等の違法な資金獲得活動と闇バイトの実態、これらのグループに加入する若者の傾向等について説明しました。さらに、これらの特殊詐欺に加担した若者たちは、一度の犯罪「ワンストライク」で社会から排除され、社会からの排除が原因で再犯に至る「負の回転ドア」の存在を指摘しました。そして、犯罪や非行を行った若者が社会復帰しやすい社会を目指す必要があると述べました。

 この話題提供に関連し、これまで罪を犯した人や被害者にそれぞれ関与してきたステークホルダー4名(更正支援アドバイザー、少年鑑別所職員、警察関係者、消費生活相談員)が、組織上の立場だけではなく、それぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。そこでは、近年のスマートフォンやSNSの普及に便乗した詐欺の流行、犯罪に関わった本人には加害を行った認識がないという共通点があること、闇バイトを行う若者は、人との関係を上手く築くことができない傾向にあること、特殊詐欺に関与した場合には、銀行口座を開設することができなくなることで、本人が考える以上に社会復帰が困難になる可能性があること等、「特殊詐欺と若者」特有の様々な課題が共有されました。


課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

 つづいて設けられたシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行い、課題を共有しました。話し合われた課題は、グループごとに画用紙にまとめ、フロア全体でその内容を共有しました。各グループでは、「闇バイトが犯罪であるという周知不足」、「若者のコスパ重視が影響」、「加害を行った若者の更生をサポートする施設が必要」、「更生には銀行口座の開設が鍵」、「高齢者へのスマートフォン活用教育」、「消費生活センターと連携した講座の開講」等が挙げられました。ここでは主に、特殊詐欺に加担する若者と高齢者を中心とした被害者それぞれに対するアプローチ方法等について、幅広く話し合われたことがわかりました。
 会の後半では、ステークホルダーと話題提供者がそれぞれコメントを行い、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。


シェアタイムのようす

シェアタイムのようす


シェアタイムで挙がったキーワード

シェアタイムで挙がったキーワード

 最後に、暮井真絵子氏がファシリテーショングラフィックに沿って“えんたく”会議を振り返りました。


暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)

暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)

 “えんたく”終了後には、本会議を監修する石塚伸一教授(本学名誉教授・社会的孤立研究回復支援研究センターATA-netユニットおよび社会的孤立研究理論研究ユニット長)が、以下の通り総括を行いました。


石塚伸一教授(本学名誉教授)

石塚伸一教授(本学名誉教授)

 石塚教授(本学名誉教授)は弁護士として特殊詐欺事案に関わった経験を交えながら、「罪を犯した人の社会復帰を支援するために築いた人的ネットワークは、災害やその他の困難なことが発生した場合にも活用できる。そのネットワークを活用することにより、地域社会内で解決するための問題処理能力が高まる。とても辛い体験をした人が、語り部として次の世代に体験を伝えることは、再び悲劇が起きないように予防する力になる。それを私は『保水力』と呼んでいる。過去の経験に学び、情報が共有されている社会は強い。辛い体験を「悲劇」として終わらせることなく、そこから学ぶことが重要である。そうすれば、犯罪をなくすことはできなくても、犯罪が起こったときに被害を最小化させることはできる。引き続き京都府と協力し、本研修会を継続して実施する予定である。」と述べ、今回の“えんたく”を締めくくりました。
【>>Link】「えんたくトライアルのためのガイドライン 2020.09版」



補注:
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定
2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、再犯の防止等に関する施策を実施等する責務が、国だけでなく地方公共団体にもあること(第4条)が明記されるとともに、都道府県及び市町村に対して、国の再犯防止推進計画を勘案し、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務(第8条第1項)が課されました。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、庁内のすべての関連部局が連携し、再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP

*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
アディクション(嗜癖・嗜虐行動)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、その当事者の回復を支えうるさまざまな状況にある人々が集まり、課題を共有し、解決に繋げるための、ゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの場が必要です。石塚教授が代表をつとめる研究プロジェクト「ATA-net(Addiction Trans-Advocacy network)」では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を“えんたく”と名づけ、さまざまなアディクションからの回復支援に役立てることをめざしています。
地域円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに区分され、今回は府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど、受刑者の社会復帰に携わる多様な関係者を交えて、課題共有型・Cタイプ(Collaborators)の“えんたく”を行いました。