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2024.04.05

2023年度人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会・開催レポート前編【研究部】

本学らしい特色ある研究プロジェクトの相互連携をめざして

人間・科学・宗教総合研究センター(人間総研)は、本学の建学の精神に基づき、本学の所有する資源を活かして、本学らしい特色ある研究を推進し、世界に発信することを目的としています。本研究センターにおいては、上記の目的に鑑み、研究プロジェクトを選定し、全学部横断型・複合型・異分野融合型等の学際的研究を推進しています。

2024年3月22日(金)12:30~16:30、 深草キャンパス 和顔館4階会議室3およびzoomにおいて「2023年度 人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会」がハイブリッド開催されました。
開催挨拶に立った宮武智弘 研究部長(本学先端理工学部・教授)は、「今回の研究交流会は人間総研が所管する各研究センターの活動にかかる情報共有を通じて、研究プロジェクト間の相互連携による新たな展開の可能性を探る機会として開催する」と趣旨を述べ、会がスタートしました。


宮武智弘 研究部長(本学先端理工学部・教授)

宮武智弘 研究部長(本学先端理工学部・教授)


研究交流会の様子

研究交流会の様子

当日は10センターの代表者が、活動状況や研究成果、そして本学の学際的研究の進展に向けて還元しうる知見について報告しました。
※本レポートでは、主に活動から得られた知見について、キーワードと共に一部抜粋して紹介します。設立経緯や活動状況の詳細は、各研究センターのHPを参照ください。


古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター(DARC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者::三谷真澄(DARCセンター長/文学部・教授)/中田裕子(DARC兼任研究員/農学部・准教授)
◎キーワード:アーカイブ・学際研究・国際連携・モンゴル・文化遺産


DARCは、本学の建学の精神に基づいて収集した古典籍・文化財の資産を有効活用し、超臨場感技術等の最先端の手法を用いて、学術資料の多面的公開のためのデジタルアーカイブの形成を目的としています。研究ユニットは、自然科学系の「デジタルアーカイブと多面的展観手法研究」と、人文科学系の「コンテンツとデジタルヒューマニティーズ研究」の2つから成り、相互交流しながら研究活動を遂行して組織しています。
はじめに報告に立った三谷教授は、DARCの概要について、「学際研究・国際連携・多面的公開」のキーワードを用いて紹介。2023年度の主な取り組みを一覧で示し、特に龍谷ミュージアムにおける特別展や特集展示にはのべ5ヶ月間ほど参画したこと、活動成果については人間総研の2023年度研究紀要(2024年3月刊行)に寄稿したことを報告しました。また直近の活動として、今年3月に大宮キャンパスにおけるパネル発表や国際シンポジウムの開催を挙げ、パネル発表については他のキャンパスでの展開を計画中である旨、紹介しました。
次いで報告に立った中田准教授は、DARCの国際連携プロジェクトの一つである、モンゴル国・カラコルム博物館における「勅賜興元閣碑」の復元プロジェクトに関して報告しました。「勅賜興元閣碑」はモンゴル帝国時代の草原の都・カラコルムに建てられた仏教寺院「興元閣」の再建を記念して刻されたもので、台座である「亀趺」がカラコルム遺跡の前に残るだけでしたが、2019年以来、復元が企図され、DARCの支援のもと2022年にレプリカが完成しました。このようにモンゴル国に現存する他言語碑文の調査・研究を目的とした日本(龍谷大学他)とモンゴルの共同研究「ビチェース・プロジェクト」は、1994年の発足から今年で30年の節目の年を迎えます。中田准教授は、本学の研究メンバーが関わった近年のモンゴルにおける文化財の発見例などを紹介し、「今後もDARC で培ってきた知見・技術を活用し、最新の展⽰⽅法を現地機関とともに開発・研究していく。また、全世界にその技術を提供し、貴重な人類の遺産を後世大切に守り伝えていくことを期待する」と述べ、報告を締めました。

【→関連News】2024.03.01 大宮キャンパス・東黌1階多目的エリアにおいてパネル発表を実施
【→関連News】2024.03.22 特別講演会「古典籍・文化財のデジタルアーカイブが魅せる未来像」を開催


三谷真澄(DARCセンター長/文学部・教授)

三谷真澄(DARCセンター長/文学部・教授)


左:中田裕子(DARC兼任研究員/農学部・准教授)・右:三谷真澄教授

左:中田裕子(DARC兼任研究員/農学部・准教授)・右:三谷真澄教授

地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:阿部大輔(LORCセンター長/政策学部・教授)
◎キーワード:理論と実践・地域再生政策・まちづくり


LORCは、2003年の設立から18年にわたり、世界的視野から地域課題をとらえ、市民・企業・自治体など多様な主体と連携し、研究と現場の互恵的な還流による持続可能な公共政策の理論・実践のモデルを構築・提示してきました。
報告の冒頭、LORC第6期となる現在の研究事業の目的として「ポスト・コロナ期の地域社会における包摂的・レジリエントな再生戦略の再構築」の概要を紹介し、具体的な研究活動においては①包摂的発展研究ユニット、②グリーンリカバリー研究ユニット、③ウェルビーイング研究ユニットの3ユニットの諸活動において、理論と実践との連携をはかってきたことを紹介しました。
そして、阿部教授が関わる包摂的発展研究ユニットの活動の一例として、スコットランド南西部のグラスコー市における空地の暫定利用による社会的包摂の可能性に関する研究について報告。阿部教授は「考察を通して、未利用地の暫定利用が地区に及ぼす影響は、地区の物理的環境改善に寄与する一面をもつだけでなく、地区のまちづくり活動などの社会的環境の回復・強化にも寄与する一面をもつことがわかった」と述べました。
また、2023年度の活動の一例として、グリーンリカバリー研究ユニットの研究メンバーが知見提供で関わる地域新電力会社を通した地域貢献の実績から「2023年度ソーラーウィーク大賞・優秀賞」を受賞したこと、ウェルビーイング研究ユニットでは本学深草キャンパスに隣接する伏見区西浦町をフィールドに「異文化共生まちづくり」をテーマとしたアクション・リサーチを地域社会と協働して研究してきたことなどを紹介。そして、研究の成果について「多様性の価値を政策的に維持することが“包摂的”、そして“レジリエント”な地域再生戦略に繋がる、というのが本研究事業の一つである」と総括しました。

【→関連News】2023.10.31 龍谷大学が知見提供で関わる地域新電力会社が「2023年度ソーラーウィーク大賞・優秀賞」を受賞


阿部大輔(LORCセンター長/政策学部・教授)によるオンライン報告

阿部大輔(LORCセンター長/政策学部・教授)によるオンライン報告


地域新電力会社「たんたんエナジー株式会社」と福知山市が行う市民出資型オンサイトPPA事業の取り組み

地域新電力会社「たんたんエナジー株式会社」と福知山市が行う市民出資型オンサイトPPA事業の取り組み

里山学研究センター(RCSS)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:村澤真保呂(RCSS兼任研究員/社会学部・教授)
◎キーワード:国際的学術課題・自然共生型社会・生物多様性


RCSSは、瀬田キャンパスに隣接する「龍谷の森」とその周辺をフィールドとして、里山保全活動を介した環境教育の実践と地域自然共生モデルの構築を目指して、2004年に「里山オープン・リサーチ・センター」として開設されて以来、その研究対象を地域の里山から琵琶湖を中心とする地域市民社会へと広げ、現在ではグローバルな自然共生型社会の実現に向けた文理融合型の研究機関として活動してきました。
センター長の代理でビデオ報告を行った村澤教授は、「近年、環境を巡る国際政策における大きなパラダイムシフトが起こっている。生物多様性をめぐる問題が文化や社会の問題と一体であることが明らかになり、文化と自然を一体的に捉える学術的方法論の構築が喫緊の課題となった。加えて、里山という言葉の示す領域が大きく変わってきた。
とりわけ、2018年のIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)の方針転換によって、自然と文化の多様性が評価されるようになったことから、学術的な捉え直しが必要になっている。すなわち、2010年頃より“二次的自然(人間の手の入った自然)”として里山の保全が国際的に注目されるようになってきたが、2020年頃より地球環境のほとんどが“二次的自然”であることが明らかになり、国際社会では“二次的自然”をベースとした政策モデルへと移行し始めていることから、里山研究においても地球環境全体を視野に、文化や宗教、世界観などの自然をとりまく抽象的な部分をも対象にする必要が出てきた」と研究を取りまく現状を説明しました。
そして、2023年度の研究プロジェクトでは新たな状況に応じた研究体制へのアップデートを試み、生物多様性保全をめぐる人々の生活に根ざす文化的価値観と政策・学術の接合について研究を行ってきたことを報告しました。


村澤真保呂(社会学部・教授)によるビデオ報告

村澤真保呂(社会学部・教授)によるビデオ報告


村澤教授 報告資料より「里山研究をめぐる状況の変化」

村澤教授 報告資料より「里山研究をめぐる状況の変化」

グローバルアフェアーズ研究センター(GARC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:陳慶昌(GARCセンター長/国際学部・教授)/山田直史(GARC嘱託研究員/立命館大学国際関係大学院博士後期課程)
◎キーワード:国際関係・二項対立


紛争問題の解決やその先を研究するGARCは、国際的な研究協力を通じて既存の学問の範囲を超えた学際的な洞察を加え、グローバルな問題に取り組むことを目的に掲げています。コロナ禍の2021年度よりほぼ毎月オンラインのセミナーを開催し、近年は国内外のシンポジウムや研究会に積極的に参加して報告するなど、国内外の研究者との交流・関係強化を継続してきました。また、国際ジャーナルへの論文投稿や独自のワーキングペーパーシリーズの刊行、海外の著名な研究者に引用される出版物の発行など、研究成果を積極的に国際発信してきました。
陳教授の研究報告は『二項対立の暴力をローカルとグローバルレベルで再考する』と題し、国際ジャーナルThird World Quarterlyに2024年に掲載された論文“Political healing in East Asian international relations: what, why and how”(※)の成果について紹介しました。陳教授は「この研究は、東アジアの医学的知見に基づき、東アジアで現在進行中のさまざま政治的紛争を地域社会・共同体の病気として治療しようとするものだ。従来、紛争やそれに伴う暴力は、ウェストファリア的関係性にもとづく二項対立の枠組みを通じて理解されてきたが、東アジアの政治的議論には、異なる考え方や行動を促すための代替的な転換が必要だ。私たちの考えるアプローチでは、東洋医学の思想を政治学に転換した“ポリティカル・ヒーリング”によって、紛争を長期化させている従来の国家中心の国際関係研究のパラダイムを転換することを目指してきた」と説明。そして、研究を通じて明らかになったこととして「社会政治的な身体は、明確に区切られた境界線を持っているわけではない。重要なのは、身体の各部分がどのように調和して機能するかということだ。“ポリティカル・ヒーリング”は、凝り固まった地政学的対立を再考する機会をもたらしうる」と述べ、報告を終えました。
(※)https://doi.org/10.1080/01436597.2024.2322087

次いで報告に立った山田氏は、『日韓「慰安婦問題」におけるロゴスと縁起のあいだ』と題し、GARCの国際関係研究に関連した自身の研究を紹介しました。まず、2015年の日韓合意は当事者である女性たち不在の国家間合意であった点を指摘し、国際関係における関係論の視座と存在論の必要性について説明しました。そして、仏教における現象の理解の仕方である「縁起」をキーワードに、 他者との関係の時間的側面を含む「縁起的関係性」の概念を紹介し、存在論・時間論から日韓「慰安婦問題」を問い直してきたことを報告しました。


陳慶昌(GARCセンター長/国際学部・教授)

陳慶昌(GARCセンター長/国際学部・教授)


山田直史(GARC嘱託研究員/立命館大学国際関係大学院博士後期課程)

山田直史(GARC嘱託研究員/立命館大学国際関係大学院博士後期課程)

革新的材料・プロセス研究センター
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:富﨑欣也(革新的材料・プロセス研究センター長/先端理工学部・教授)
◎キーワード:循環型社会・リサイクル・研究シーズ公開


2006年度開設の革新的材料・プロセス研究センターは、「つかう」視点にたった「ものづくり」に取り組み、私たちのこれからの未来に、省エネルギー・省資源という観点から材料を創出する革新的な設計と製造プロセスを構築する研究を行うと同時に、持続可能な循環型社会に「もどす」視点にたったリユースプロセスの研究にも力を入れています。
富﨑教授は、これまでの材料科学研究の実績を概観した後、現在は「ひと、もの、環境の調和」に立脚した研究を展開していることを紹介。2023年度の活動の一例として、龍谷エクステンションセンターと共催した「REC BIZ-NET研究会」を挙げ、産業界への研究シーズ公開および技術移転を指向してきたことを報告しました。また、研究の具体例として、【革新的リサイクル】金を選択に回収するペプチドを用いて化学的性質の類似している金と白金のうち、希薄な均一水溶液から金だけを安価に回収する方法、【革新的環境浄化】モリンガの種子から抽出した物質による天然凝集剤を用いた湖水・河川水の処理の可能性などについて紹介しました。


富﨑欣也(革新的材料・プロセス研究センター長/先端理工学部・教授)

富﨑欣也(革新的材料・プロセス研究センター長/先端理工学部・教授)


富﨑教授 報告資料より「植物の種由来の凝集剤」

富﨑教授 報告資料より「植物の種由来の凝集剤」