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2024.04.05

2023年度人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会・開催レポート後編【研究部】

総合大学・龍谷大学の学際研究の最前線

人間・科学・宗教総合研究センター(人間総研)は、本学の建学の精神に基づき、本学の所有する資源を活かして、本学らしい特色ある研究を推進し、世界に発信することを目的としています。本研究センターにおいては、上記の目的に鑑み、研究プロジェクトを選定し、全学部横断型・複合型・異分野融合型等の学際的研究を推進しています。

2024年3月22日(金)12:30~16:30、 深草キャンパス 和顔館4階会議室3およびzoomにおいて「2023年度 人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会」がハイブリッド開催されました。
※本レポートでは、主に活動から得られた知見について、キーワードと共に一部抜粋して紹介します。設立経緯や活動状況の詳細は、各研究センターのHPを参照ください。

犯罪学研究センター(CrimRC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:津島 昌弘(CrimRCセンター長/社会学部・教授)
◎キーワード:国際的連携・暗数・自己申告調査


「犯罪学」(英:Criminology)とは、犯罪にかかわる事項を科学的に解明し、犯罪対策に資することを目的とする学問です。2016年度に発足したCrimRCは、建学の精神を具現化する事業として、犯罪予防と対人支援を基軸とする龍谷大学ならではの「人にやさしい犯罪学」の創生に向けた研究と国際発信、社会実装活動を展開してきました。
津島教授は報告の冒頭、「日本では先進諸国のように学際的な学問領域として未だ成立していないものの、これまでの活動を通じて国内外でのCrimRCの認知度が高まってきたことは確かである」と述べ、国内外から数多くの研究員の受け入れや交流事業を展開してきたことや、常勤職を得る若手研究者を例年輩出してきたことなど、研究機関としての有機的な連携の実績を紹介しました。

つづいて、2023年度の活動実績や成果を概観したのち、津島教授が代表を務めるISRDユニットの研究について、『犯罪少年と警察との接触~ISRD3日本調査の分析結果』と題して報告しました。報道等でも取り沙汰される警察統計は、必ずしも少年非行の現実を正確に反映しているわけではなく、実際に起きている犯罪の一部、通報により警察が把握している認知件数に過ぎず、暗数が存在することに言及。そこで、津島教授ら研究メンバーは、少年非行の「暗数」問題を解決し、非行の実態を把握するとともに、非行の原因をより深く理解するために、中学生を対象にした自己申告調査(統一化された調査票調査)の結果を比較する国際プロジェクトISRDに、日本代表として参加してきたことを紹介しました。
調査の背景として、「どのような少年が、どういった行為をすることによって、警察と接触することになるのか?」という問いに対して、先行研究などから幾つかの要因が考えられてきました。近畿圏に居住する中学生1,226人に対して行ったISRD3の調査では、性別や違法行為の種類別、リスク志向の有無などから分析を行い、結果として「犯罪少年と警察との接触は、犯行の種類だけではなく、性別など少年の属性によって異なってくる」といった点が明らかになったことを報告。さらに、実際に大きく報道された少年による万引事件を引き合いに出し、「犯罪少年の属性は調査結果とも重なる部分があるが、警察の事件の扱い方については考える余地があるのではないか」と主張しました。さいごに、CrimRCの研究活動は2023年度で終了し、2024年度以降は個々の研究メンバーでの研究を継続していく旨を述べ、報告を終えました。

【→関連ページ】ISRD-JAPANプロジェクト


津島 昌弘(CrimRCセンター長/社会学部・教授)

津島 昌弘(CrimRCセンター長/社会学部・教授)


津島教授 報告資料より「ISRD3の調査手法」

津島教授 報告資料より「ISRD3の調査手法」

生物多様性科学研究センター
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)
◎キーワード:生物多様性保全・環境DNA分析・産官学連携


山中准教授は報告の冒頭、“生物多様性の減少”が気候変動と並ぶ深刻な危機であること、世界規模でつながる経済活動が生物多様性へ影響を及ぼしていることから、「個人も企業も自治体も、日々の暮らしの向こう側 に思いをはせる必要がある」と強調しました。
2017年度開設の生物多様性科学研究センターは、新規の生態系モニタリング手法である「環境DNA分析」を主軸となる技術に据え、生物多様性保全に向けた各種活動や政策・施策判断に高解像度の生物多様性データ(エビデンス)を提供することで、SDGsの達成に向けた社会貢献を目指してきました。一例として、2021年度より滋賀県との共催でスタートした年に1度の市民参加型の全県一斉調査「びわ湖100地点環境DNA調査」には、一般市民や市民団体や地元企業の有志が調査に参加したほか、この3年間でのべ4社から協賛を得るなど、継続的な調査実施・データの蓄積に加え、資金的にも持続可能な体制確立に向けて活動を展開してきたことを紹介しました。
さらに、2024年度以降のプロジェクトでは、『実質的に機能する“生物多様性保全活動のシステム”の構築』として、資金・モチベーション・労力を循環させる課題解決型のプラットフォームの構築をめざすことを報告。具体的には、地元に根付いた保全活動のサポートや中学高校への出前実験教室等による環境教育、TNFD*対応のサポートにも取り組む予定であることが紹介されました。
また、技術面については、生物の年齢や活動レベル等の“状態”までを知ることができる「環境RNA分析」への期待が高まっていることや、採水〜濾過〜DNA抽出〜連続PCR〜 データ送信までを自動で実施する「全自動でのビッグデータ収集」の可能性について言及し、報告を終えました。

*TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosureの略で、自然環境と企業活動との関わりやリスクについて可視化しようとする試み。
【→関連News】2023.11.28 2023年度 びわ湖の日滋賀県提携 公開講座に山中裕樹センター長が登壇


山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)

山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)


山中准教授 報告資料より「びわ湖100地点環境DNA調査」

山中准教授 報告資料より「びわ湖100地点環境DNA調査」

発酵醸造微生物リソース研究センター
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)
◎キーワード:微生物探索・発酵食品・産学連携


発酵醸造微生物リソース研究センターは、「微生物研究を通して、滋賀県の発酵醸造産業を支援すること」を目的に2021年度に開設。発酵醸造に有用な微生物の収集とデータベースの構築、およびそれらを活用した応用研究の展開や、滋賀県の発酵産業での利活用を目指して研究活動を行っています。
微生物の探索源として鮒ずしや菜の花漬など滋賀県の特産品からも環境サンプルを採取し、微生物の分離培養を行ってきたことを報告。そして、研究メンバーの主な成果として、①滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見したこと、②菜の花漬けを使用した発泡酒『菜の花エール』の開発、③圃場における土壌微小生物DNA解析、④植物ー昆虫の相互作用から土壌微生物とのかかわりを解明、⑤湖南市との養蜂プロジェクトでの「Konan Honey」の開発と地域連携などを紹介。また田邊教授自身の研究では、鮒寿司を自宅で手軽に漬けられる「クラフト鮒寿し作製キット」を開発、実用新案を登録、滋賀県の支援事業を通じて各地で販売プロモーションを行ったことを報告しました。
田邊教授は今後の共同研究の可能性に関して、先の山中准教授による環境DNA分析の報告に照らし、「発酵食品の製造が環境に及ぼすインパクトの把握・評価についても関心がある。これに関連し、鮒寿司の乳酸菌について滋賀県内でサンプルを収集して乳酸菌の特性をみたところ、近江八幡の鮒寿司と他の地域の鮒寿司とでは随分違うことがわかった。近江八幡の環境中の乳酸菌に違いがあるのだとしたら、琵琶湖畔の水の環境DNA分析からも把握することができる可能性がある」と述べ、報告を締めました。

【→関連News】2023.10.02 滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見ー持続可能な油脂生産技術への応用に期待ー
【→関連News】2023.09.06 フナズシ作製キット事業が令和5年度「健康しが」活動創出支援に採択


田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)

田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)


田邊教授の報告資料より「微生物探索源の例」

田邊教授の報告資料より「微生物探索源の例」

社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)
◎キーワード:新型コロナ・社会的孤立・支援・地域貢献


2022年度に発足したSIRCは、with/afterコロナ時代においても顕著な 「社会的孤立」を研究対象とし、個々の孤独から社会的孤立に至るメカニズムの解明や回復のための理論仮説の検証、支援ネットワークの構築などに取り組んできました。
黒川教授の報告では、冒頭、孤立に対する社会的動きについて、孤立・孤独対策推進法(令和5年6月7日交付、内閣官房)の趣旨を参照し、「国が示す“孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会”、“相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会”を目指すという点や、本学が提唱する仏教SDGsとのつながりもあり、まさに時代にそったセンターであったのではないか」と述べました。
SIRCの研究体制は、臨床心理、政策、社会福祉、保育、刑法、刑事政策を専門とする研究メンバーによる8ユニットで構成。「社会的孤立」という現代の社会課題について、さまざまな角度から研究活動を行ってきたことを、2023年度の主な研究活動から報告しました。
臨床心理の研究メンバーが中心の「システムズアプローチ」ユニットでは、不登校やひきこもり、虐待、職場不適応、うつ状態など社会的孤立状態にある本人への直接的支援のみならず、周囲の関係者への支援として間接的アセスメントの方法について検討を重ねてきました。また「関係支援ユニット」と連携し、2023年10月には外部講師を招聘して「不登校・ひきこもりなど社会的孤立への家族支援」講演会・シンポジウムを開催し、地域社会へ貢献してきました。
黒川教授の「グリーフサポート」ユニットでは、新型コロナウイルス感染症で亡くなった遺族支援として定期的に遺族会を実施したほか、法要やシンポジウムを開催。さらに日本の若い世代の「死因トップが自殺」という現状を憂慮し、「京都府自死対策カレッジ会議」に本学の学生団体「龍谷オープンコミュニティ(ROC)」と共に参加したほか、学生の孤立について意識調査も実施しました。
短期大学部こども教育学科の教員5名による「子育て家庭」ユニットでは、子どもと保護者、子育て家庭の社会的孤立に焦点をあて、実態把握ならびにその緩和・解消の具体的な可能性を探索することを目的として、研究会を実施してきました。2024年3月には、研究成果を学生や新任保育者向けのパンフレットとして発行し、WEBでデータを公開しました。
この他にもユニットそれぞれの研究活動や成果を紹介し、多領域の研究をプラットフォーム的に統合してきたSIRCの2年間の活動を総括しました。

【→関連News】2023.12.07 講演会&シンポジウム「不登校・ひきこもりなど社会的孤立への家族支援」開催レポート
【→関連News】2024.03.13 子どもを見守る保育者にむけて、孤立した子育て家庭の「孤育て」に向き合うヒント集を作成


黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)

黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)


黒川教授の報告資料よりユニット構成

黒川教授の報告資料よりユニット構成

刑事司法・誤判救済研究センター(RCWC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:斎藤司(RCWCセンター長/法学部・教授)
◎キーワード:再審、えん罪、刑事訴訟法、立法


RCWCは、よりよい刑事司法と誤判救済のありかたを探求することを最大の目的として2023年4月に開設。実効的な誤判救済システムの構築とそのための実務の整備、その両者の協働のための基盤の構築を目指して、研究者だけでなく、弁護士を中心とする法律実務家に積極的に関与いただき、研究を推進しています。
斎藤教授の報告では、まず研究の背景として、刑事司法と誤判救済が動きつつある日本の現状を説明。近年の変化の中心は、2009年に導入され、刑事裁判の様相を一変させた「裁判員裁判」と、裁判員裁判で扱う事件および検察官独自捜査事件を対象に2019年6月に義務化された「取り調べの可視化」です。しかしながら、誤判によるえん罪被害者を救済する唯一の制度「再審(裁判のやり直し)」について、刑事訴訟法にはほとんどその規定がないことから、制度的・構造的問題点を抱えていることが指摘されてきました。そして、再審をめぐるこれまでの研究動向について、「再審請求審(やり直しの裁判を始めるかどうかを決める手続)」と「再審公判(再審請求手続の後に控えているやり直しの裁判)」という二段階構成を説明した上で、キーとなる「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に関する主要な見解について分析しました。
そしてRCWCの研究内容について、①解釈論としての再審研究から「立法論としての再審研究」へと舵を切ったこと、②諸外国の立法例や日本の現状を踏まえた指針を定立することを目的として研究に取り組んできたことを報告。具体的には、再審実務を担当する弁護士と協働すべくセンターの研究員に多くの弁護士を迎えて共同の研究会を開催したり、イノセンス・プロジェクト・ジャパンや日本弁護士連合会と連携した催しを行ってきたりしたこと、また、再審制度の国際的な特徴を把握・検討すべく国際的な研究会・学会にも積極的に参加し、発信を行ってきたことを紹介しました。
斎藤教授は「袴田事件の再審公判は2024年中に判決が出る見込みであり、今年3月には再審法改正を早期に実現する超党派の議員連盟が発足するなど、えん罪や再審をめぐる社会の状況は確実に動いている」と述べ、RCWCでは再審法改正のモデル構築や改正すべきポイントの明示などの成果を挙げてきたことに言及し、1年間の研究活動を総括しました。

【→関連News】2023.07.19 客員研究員の安部祥太と、嘱託研究員の鴨志田祐美・李怡修が、誤判・冤罪や再審に関する書籍を執筆
【→関連News】2023.09.15 ワークショップ&リリース「日本の死刑と再審」実施レポート


斎藤司(RCWCセンター長/法学部・教授)によるビデオ報告

斎藤司(RCWCセンター長/法学部・教授)によるビデオ報告


斎藤教授の報告資料より「研究の背景」

斎藤教授の報告資料より「研究の背景」

閉会/挨拶 宮武智弘 研究部長
全研究センターの報告後、閉会挨拶に立った宮武智弘 研究部長(本学先端理工学部・教授)は、「本学には500名以上の研究者が在籍しており、領域が異なると知らないことも多いが、本日の交流会のようにユニークな研究活動を知ることで触発される部分もある。研究活動について本学構成員のなかで相互理解が深まり、研究の面白さや大切さを共有できる雰囲気が学内で広まるよう今後とも発信にも努めていきたい」と述べ、研究交流会は盛会のうちに終了しました。


研究交流会 実施風景

研究交流会 実施風景