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2021.12.01

第28回CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会を開催【犯罪学研究センター】

バーチャル犯罪学部カリキュラム構想〜こんな犯罪学部で勉強してみたい!Season 2

2021年11月22日18:00より龍谷大学犯罪学研究センターは、第28回CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会「バーチャル犯罪学部カリキュラム構想〜こんな犯罪学部で勉強してみたい!Season 2」をオンライン上で開催しました。石塚伸一教授(本学法学部、犯罪学研究センター長)をはじめとして、約45名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-9452.html

龍谷大学 犯罪学研究センターが提案するポスト・コロナの時代のICTを活用した犯罪学部のカリキュラム構想について、今年6月18日に「アジア犯罪学会第12回年次大会(ACS2020)」サイドイベントとしてそのカリキュラム構想の全容を報告し、10月17日に「日本犯罪社会学会 第48回大会」において、ラウンドテーブル形式のテーマセッション「龍谷大学構想にみる新時代の犯罪学」を行いました。両イベントを通じて法学・社会学・ 福祉学などの研究者のみならず、様々な実務に携わる方々が、新たな犯罪学のニーズや可能性を探りました。

本企画は、6月・10月のイベント開催を通じて浮き彫りとなってきた課題や可能性について、さらに意見交換や検討を深める「Season 2(第二章)」という位置付けです。はじめに、暮井真絵子氏(本学ATA-net研究センターリサーチアシスタント)が犯罪学部カリキュラム構想の目的や開設科目について概観し、10月17日の学会報告で寄せられた多様なニーズについて紹介しました。そして、犯罪学に関連するプログラムに参加した本学法学部の学生・卒業生が感想や意見の報告を行い、参加者を交えたディスカッションを行いました。

バーチャル犯罪学部構想
犯罪学研究センターでは、「ポスト・コロナ時代の新しい時代の犯罪学〜“つまずき”からの“立ち直り”を支援する「人に優しい犯罪学」〜」というテーマで、犯罪学部創設のための構想を行いました(詳細はhttps://crimrc.ryukoku.ac.jp/curriculum/を参照ください)。
犯罪学部カリキュラムのポイントは2つあります。1つ目はグレード化による段階的教育の実施です。グレード100~500(※グレード=講義の難易度を示した数値)を設定して法学、社会科学(社会学、心理学、福祉学など)、英語教育を重点にした初期教育・教養教育から始めます。その上で犯罪学の基礎(犯罪学理論、刑事政策、統計学など)、実践(被害者学、修復的・治療的司法、保育と人権など)、応用と段階的に学習するような科目配置をすることで、学際的・学融的な教育を目指しています。2つ目はICT(Information and Communication Technology)を活用した効果的な犯罪学研究・教育の実施です。ICTを活用することで遠方に居住する学生が学習できるだけでなく、社会人に対するリカレント教育も容易になります。教員についてもICTを活用することで全国各地から犯罪学の教育・研究のプロフェッショナルを集めることができます。これらのカリキュラムを実施することで、法曹三者、矯正保護関係者に体系的な知識を提供し、裁判員になる可能性のある市民にも犯罪学の知見を提供することを目指しています。


司会進行は暮井 真絵子氏(本学ATA-net研究センター リサーチ・アシスタント)が担当

司会進行は暮井 真絵子氏(本学ATA-net研究センター リサーチ・アシスタント)が担当

2021年10月の「日本犯罪社会学会第48回大会」におけるテーマセッション
話題提供者は大谷彬矩氏(日本学術振興会)、デイビッド・ブルースター氏(金沢美術工芸大学)、上田光明氏(同志社大学)の3名でした。大谷氏は「刑事政策学の観点から見た龍谷大学構想の批判的検討」と題した報告を行いました。大谷氏は、近年の刑事政策学の研究動向を調査・分析したところ「つまずき」から連想される「薬物」「依存」等のキーワードが多数みられたものの、分析・評価の担い手が不足していることを指摘しました。その上で、本構想は犯罪と、犯罪の前段階である「つまずき」への多様なアプローチの展開に寄与するのではないかと考察しました。ブルースター氏は「英国の犯罪学にみる日本の犯罪学の課題」と題した報告を行いました。ブルースター氏は犯罪学の専門知識の価値は「実証的な研究と理論」にあること、政府機関・刑事司法機関等との連携をはかりつつ実証研究を行うという役割があることを指摘しました。一方で、学術的自由・独立を保持する必要もあることから、犯罪学は当該機関との連携と批判的視点のバランスが重要であると述べ、日本の犯罪学も政府機関や刑事司法機関等との連携・強化が必要になると指摘しました。上田氏は「『犯罪学理論入門』シラバス作成から見えたもの」と題した報告を行いました。上田氏は、日本の刑事政策学における理論研究が衰退したことによって、誤った犯罪学理論の理解・認識が引き起こされ、諸外国の研究者とのミスコミュニケーションにつながる恐れがあると指摘しました。そこで、シラバスとして「犯罪学理論入門」を作成する際には、自由意思論と決定論を対立軸にした犯罪学理論を再構成し、この論点の克服が日本の犯罪学理論の発展の機会につながるのではないかと述べました。さらにこれまで犯罪社会学は海外の研究成果だけに依拠していたということを指摘しつつ、世界の動向を意識し、日本国内のデータを用いた実証的調査研究が必要であると述べました。これらの報告を踏まえ、フロアからはまず「日本における犯罪学のニーズ」に関する発言がありました。「日本ではルール(法律)に基づいて権力を行使することになっている。(中略)犯罪学を通じてルールを変えるには、世論に訴えかけること、すなわち、加害者/被害者の視点を含めて刑事分野について国民の理解を仰ぐことが大事ではないか」「政府や公的機関との連携については、資料アクセスが制限されている日本の状況下で、はたしてどこまで実現できるのか。理論構築/理論検証のためのデータ収集の困難さを強く指摘する」「日本でも研究者が行き過ぎた管理的評価や施策に迎合するという問題がある。バランスをとるためには、犯罪学の視点や外部組織とのコラボも有意義であるだろう」「日本独自の犯罪学が望まれる。日本の実務現場を、他国の理論だけを用いて批判することに違和感がある。理論的・方法論的な研究リテラシーがあって、その研究がどこの誰のために繋がっていくのかという視点で考えられる研究者を養成すること、さらに市民との協働や共生・地域創生という概念が必要ではないか」などの意見が提示されました。つぎに「犯罪学教育」についてもフロアから発言がありました。「他学部、他大学のプログラムを利用できるような仕組みづくり、実務家との連携や現場でのインターンなど、実社会を知り、自ら体験できるような科目の充実が望まれる」「犯罪学教育に対する社会的な『ニーズ』を踏まえて、入り口をどう設計するのかを検討する必要がある。出口については、思い切って留学を義務化し、国際的なスタンダードを早期に知る機会があると良いのではないか」「実学的になることの功罪もある。再犯防止のために対人支援をうまく使えないかという方向になっていきがちなので、あくまでも実践を通して、批判的な視点を身につけることが大切ではないか」「法科大学院教育において法医学の教育が不足しているように聞いた。法曹の実務家に向けた法哲学や社会調査などのリカレント教育のニーズがあるのではないか」などの意見が提示されました。
(詳細はhttps://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9430.htmlをご参照ください)。

本学法学部生・卒業生からの話題提供
三須愛子氏(2回生)、森本夏樹氏(4回生)、森下真妃氏(卒業生)より話題提供がありました。三須氏は2021年3月の「京都コングレス・ユースフォーラム」に参加した感想を述べました。三須氏はそれまで犯罪について考えたことがなかったものの、ユースフォーラムがきっかけで犯罪について視野を広げて考えてみることができた、議論を通じてより深く調べてみることで犯罪が実はとても身近なことであり、「つまずきやすさ」「生きづらさ」を抱えた人たちについて知り、考えることができたと述べました。さらに参加した後もより広い視野で犯罪について考えることができるようになった、犯罪学部があれば、こうした問題にも目が向けられやすいのではないかと述べました。森本氏は、「ドイツ×日本 犯罪学学術交流セミナー2019」、「京都コングレス・ユースフォーラム」等に参加した感想を述べました。これらのイベントは、他の学生と協力して実際に起こっている問題の解決を考えるものだった、これまでの高校や大学での授業・講義にはなかった「ハマって」しまうような内容であったと述べました。犯罪学部のニーズとしては、学生の大半は就職のために漠然と受講していることが多いが、参加したイベントは今後取り組むべき目的意識をもって課題をみつけることができる機会になったので、学生にとって「学問が楽しい」と思える、現実社会とのつながりが感じられる講義があると良いと思うと述べました。森下氏は、「ドイツ×日本 犯罪学学術交流セミナー2019」「英語犯罪学」「CETプログラム」に参加した経験から、犯罪学部は犯罪に関する職業に就くための特別な訓練だけでなく、犯罪学を足場としつつも犯罪だけにとらわれず、広い目線で学習できる場になると良いと思うと述べました。最後に「京都コングレス・ユースフォーラム」のとりまとめを行った古川原明子教授(本学法学部、犯罪学研究センター科学鑑定ユニット長)からは、3名の発言を聞いて、イベントでの成功体験がそこだけで終わらず、その後の活動にも結び付いていること、学生の学びを通じて刑法と犯罪学のつながりを感じられたことが指摘されました。
(ユースフォーラムに向けた活動とドイツの大学との学術交流セミナーについてはhttps://crimrc.ryukoku.ac.jp/youth_forum/、ユースフォーラムの参加レポートについてはhttps://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8151.htmlを参照ください)

フリーディスカッション①英語教育
3名の発言についてさらに、古川原教授からは、ユースフォーラムでの取組みを通じて、英語の学習が目的ではなく、コミュニケーションのためのツールであるという意識の変化が学生にあったことが指摘されました。石塚教授からは、英語犯罪学、ユースフォーラムやCETプログラムの取組みの中で、英語で議論して専門用語を使わないようにすることで、お互いに理解・共有しやすくなること、犯罪学の良いところは、法律の文言に頼らないで説明するところであるとの指摘がありました。さらに石塚教授は、犯罪学は、「犯罪」という学際的・学融的に共有できる問題について考える学問であり、犯罪現象の裏にある心理的現象、社会的現象、法学的現象等を理解するためには相互のコミュニケーションが重要になると述べました。


フリーディスカッションのようす1

フリーディスカッションのようす1

フリーディスカッション②犯罪学教育構想
参加者からは、米国の犯罪学教育での実践を例に挙げ、犯罪について、どのように犯罪が起こるか、どのような裁判を受けるか、どのように刑務所で過ごすが、出所後はどうするかということを、人が生きていくなかで総合的にみる必要があり、犯罪学では法学、社会学だけではない学際的な視点で犯罪をみる必要があるという点が指摘されました。また、別の参加者からは、刑事司法システム側からみるのではなく、その人がそのプロセスから抜けていくにはどうすればいいかという視点の転換は犯罪学でないと難しいと思う、という意見がありました。さらに、浜井浩一教授(本学法学部、犯罪学研究センター国際部門長)は、犯罪学では、自分が何を知っていて何を知らないか、それぞれの学問分野において何が前提となっているのか、自分が意見として責任もって発言できることは何かをきちんと認識し、それぞれの境界を自覚しながら議論していく必要があると指摘しました。


フリーディスカッション③批判的思考・共通言語
参加者からは、一人ひとりが幸せであることが重要であるということをまず軸足に考える必要がある、犯罪学のキーパーソンは犯罪者をつくって刑務所に送り込む裁判官と検察官であるが、処分の選択と処遇の選択が異質なものであることを見えていない人が多いように思うので、その点では批判的な思考が必要だと思うという意見がありました。また、異業種の専門家と渡り合う際には違う言語を用いることになる、「裁き」と「正義」の言語と「立ち直り」と「ケア」の言語は違う言語であるため、お互いの理解が必要であり、両方の言語が分かる人が共通理解のための工夫をしていく必要があるという指摘もありました。さらに、別の参加者は、犯罪報道の観点から、事件について逮捕段階だけが報じられることで被疑者の犯人視報道が行われる一方、裁判段階での報道が減少するという問題点を指摘しつつ、報道記者にとっても犯罪学は重要だと思うと述べました。また、実務家は現場を明確に捉えて言語化することで、課題が見えていない人たちに提示する責務があり、研究者は別の側面から現場のことを知って言語化していると思う一方で、最近「立ち直り」に関する研究が増えている印象であるが、研究のための研究になっていないかという議論が必要ではないか、この犯罪学構想は議論の場を開く点で期待したいと意見もありました。


フリーディスカッションのようす2

フリーディスカッションのようす2

フリーディスカッション④犯罪学教育のニーズ
参加者からは、福祉の現場では対象者理解、対象者の「困り感」の理解と支援が重要であるが、対象者が「出所者」となると対象者理解が進まなくなる現状がある、原因の一つは共通言語がないことだと思うので、犯罪学教育で共通言語が学べると良いと思うという意見がありました。また、犯罪問題に対する行政のニーズは福祉の分野を中心にとても高いと思う、限られた公的資源を使って犯罪防止、再犯防止を行うかということは犯罪学的な発想が必要であるため、そうした素養のある実務家を輩出していくことは重要だと思うという意見もありました。さらに、犯罪者・出所者や刑務矯正・定着支援から遠い人に、犯罪について理解してもらえるようにする力をバーチャル犯罪学部で養成することが大切だと思う、行政向けには、エビデンスによる説明ができる力、一般やマスコミの人向けには、ことばで理解を広げていく説明ができるようになる力という「わかってもらう力」を身に付けられるといいと思う、という意見もありました。

参加者アンケートも概ね満足度が高く、「研究者だけにとどまらない広い分野の方々の発言が大変興味深く、参考になりました。学生さんの発言には、こちらもワクワクしました。」「犯罪学構想の背景や進行、内容についてよく知りませんが、犯罪をめぐり、なにか人間の本質をあぶりだすような試みが行われているらしい気配を感じました。つまずきが、道で転ぶようなものから、法にふれるものを分けるものが何なのか、そうした解明がゆくゆくは、再犯防止のみならず、犯罪を未然にふせぐ大きな取り組みにつながるといいのだろうと思います。犯罪は、起こった時のコストが大きい、被害者も加害者も社会も大きなコストを負うことになりますから。」「本日お話があったメディア・スクラム(集団的過熱取材)、オーディエンス(デスクがいう「みんな」)との相互作用、コメントいただいた共通言語などについて、何か私にできることがあれば、お力になれれば幸いですし、多方面の方達と議論できればこれほど嬉しいことはありません。」など多くの感想や意見が寄せられ、非常に有意義な企画となりました。