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卒業式・入学式

2023年度 入学式 式辞

文学部・文学研究科、国際学部・国際学研究科、心理学部、短期大学部、実践真宗学研究科、留学生別科のみなさまへの式辞

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。龍谷大学を代表して、皆さんに心からお祝いを申しあげます。また、ご家族の皆さまにも心よりお慶びを申しあげます。

龍谷大学は本年度新たに心理学部を開設いたしました。心理学部新入生のみなさんは栄えある一期生です。心から歓迎いたします。

新入生の皆さんはこの3年、新型コロナウイルス感染拡大に翻弄され、活動の制限もあって、かなり精神的につらい局面がこれまで何度かあったかと思います。

しかし今日晴れて新たなスタートラインに立ったのです。龍谷大学は、「真実を求め、真実に生き、真実を顕かにする」ことのできる人間の育成に努める大学です。そして、わが龍谷大学はみなさんを偏差値だけで見たりはしません。一人ひとりがかけがえのない人間であると受けとめ、人間としての成長をしっかりと支え続けます。人生においてターニングポイントとなる、大事な学生生活です。ぜひとも充実したものにしてください。

本学の歴史は古く、その始まりは1639(寛永16)年にまで遡ります。西本願寺境内に設けられた教育施設「学寮」がその出発点です。龍谷大学は本年で384年の歴史を刻むことになります。

龍谷大学の長い伝統は、深く人間存在をみつめる気風を育みました。これは、激動の鎌倉時代を生きた親鸞聖人の生き方に由来します。親鸞聖人は人間の根源的なありようを問いかけました。龍谷大学は創立以来、親鸞聖人が開かれた浄土真宗の精神を建学の精神に掲げ、現在に至っています。今年は親鸞聖人ご誕生850年という記念の年にあたります。

大学は新たな出会いの場です。教室での出会い、クラブやサークルでの出会い。出会いは人生を変えます。いい出会いは学びの情熱をかきたててくれます。自分の頭でしっかりと考えることの重要さに気づかせてくれます。

先日野球のWBCが大いに盛り上がりました。優勝した侍ジャパンを率いたのが栗山監督です。栗山監督は人生を変えたのはある出会いであったと言います。プロ野球に入った栗山選手はヤクルトスワローズで落ちこぼれであったそうです。二軍で苦しんでいた時に二軍の内藤監督から「人と比べるな」と声をかけてもらったとのことです。人と競争していくのがプロ野球の世界。その世界にあって、他の選手と比べるよりも、まずは今日よりも明日、明日よりも明後日と、少しずつでも自分自身の野球が上達すればいいと内藤監督は栗山選手に伝えたと言います。それが栗山選手の大きな転機となったのでした。監督が選手の可能性を信頼する。この度の栗山監督の采配に見事にそれは受け継がれていました。みなさんにも、大学で素敵な出会いがあることを願っています。

さて、大学では幅広い教養が身につきます。心の窓に新鮮な空気が入ってきます。そうすると人生が楽しくなってきます。逆に、興味が狭かったり、無関心であったりすると、自分の知らないことに対して、知らないがゆえに攻撃的な気持ちを抱きがちになります。いまSNS上には攻撃的な言葉が溢れています。心の窓を閉ざし思い込みの世界に籠れば、誰もがそうなってしまう可能性はあります。大学は多様な考え、多様な価値にふれる場です。知的な刺激を受け、各人がもっている潜在能力が芽生えるところです。そう考えると、どんな人も未知の可能性に満ちた面白い存在なのです。

龍谷大学は仏教系の大学です。ですからこの式典も仏式で執り行っています。大半の人は「なんだ、これは」と思ったことでしょう。仏教について知らないと当然なことです。でも、少し知っていくようになると、そこに深い世界があることがわかってきます。必修科目「仏教の思想」でしっかり学んでください。

新入生のみなさんは大学の科目の多さに驚かれると思います。登録するとき、取りたい科目が取れなかったりすると面白くないと感じます。でも他の科目であっても、これまで関心のなかった領域に接することで視野を広げることができます。若い時にはアンテナを広く張ることが必要です。大学には未知なるものがたくさんあることを知っておいてください。図書館、ミュージアムも皆さんを待っています。

皆さんはレイチェル・カーソンという方をご存知でしょうか。生物学者にして作家の彼女は『Sense of Wonder』という名作を遺しました。『沈黙の春』という作品で鋭く環境問題に切り込んだ彼女の遺作が『Sense of Wonder』です。翻訳者の上遠恵子(かみとお けいこ)さんはこの言葉に、「美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性」という訳語をあてられました。自然やいのちに対する畏敬の心のことです。子どものときにもっていたこの感性を多くの人は大人になるにつれて失っていきます。それをどうか持ち続けてほしいと願ってレイチェル・カーソンは『Sense of Wonder』を書き遺したのでした。皆さんがかつてもっていたSense of Wonderをどうか呼び覚ましてください。

この度の新型コロナウイルスの件にしても、現代人がSense of Wonderを失いつつあることが問題ではないでしょうか。自然の奥地にいる野生動物の体を宿にしているウイルスがどうして人間に移ってくるのか。現在、鉱物採掘などのための森林伐採や食肉・ペット利用の野生生物の乱獲などが世界各地で行われています。こうした人間の自然を冒涜する活動と動物由来の感染症が無関係であるはずはありません。

自己利益を増大させようとする人間の意識が人間社会に新型のウイルスを招き寄せている現実に目を向けない限り、今回のような感染拡大はこれからも繰り返されるでしょう。問題は、「人間」なのです。

人間という存在をしっかり見つめる。人間の意識と行動をつねに省みる。そこにこそ龍谷大学の学びの本質があります。龍谷大学はよりよき社会を「共に創る」ことを目指します。一人ひとりの人生にしても、自分一人で人生は創れません。よき人間関係を育み、多くの人に支えられての人生なのです。

「共に創りましょう、よき人生を」
「共に創りましょう、よき社会を」
「共に創りましょう、よき未来を」

皆さんが龍谷大学で実り豊かな学生生活、研究生活を送られることを願って、私の式辞といたします。

ご入学まことにおめでとうございます。

2023(令和5)年4月1日

龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長  入澤 崇