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卒業式・入学式

2020年度 卒業式 式辞

文学部、短期大学部、留学生別科のみなさまへの式辞

龍谷大学文学部、短期大学部、留学生別科で学問を修め、本日ここに、晴れて卒業を迎えられた皆さん、おめでとうございます。龍谷大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、今ネットでご覧いただいているご家族の皆さまにも心よりお慶びを申し上げます。

この一年は新型コロナウイルスの蔓延に翻弄された一年でした。まだまだ不安は拭えません。卒業生の皆さんには、言い知れぬ困惑と苦労があったかと思いますが、見事に成果を出し、本日晴れて学位記を授与される運びとなったのです。皆さん方の努力に敬意を表すとともに、入構制限などこれまで大学のとった措置に協力をしていただいたことに対し感謝の気持ちを表明したいと思います。

また不安定な気持ちになりがちであったご子息ご息女をしっかりと支え、温かく見守り続けてくださいました保護者の皆さまにも深く敬意を表します。

いま全人類がコロナ禍という同じ課題に直面しています。あらゆる局面に強い影響を及ぼし、私たちのいのちを脅かしています。大きな社会変動が起きている中、卒業生の皆さんは船出していくことになるのです。

地球的視野で現代社会をみつめるならば、コロナ禍を初めとしてあまりに多くの深刻な課題があることに気づきます。紛争、貧困、経済格差、気候変動など、いまや地球が危機的状況にあります。地球が悲鳴をあげているのです。決して大げさな表現ではありません。

人類の活動が地球の在り方を根本的に変えてしまったことで、近年「人新世」という地質学の概念が様々な分野で使われるようになっています。新型コロナウイルスのパンデミックに見られるように、次々と数多くの危機事象が私たちの生活を脅かす、これが「人新世」の特徴です。まさに今、人間の営みが問われているのです。人間の行き過ぎた自然開発や過剰なる二酸化炭素の排出が生態系に大きな影響を及ぼしています。人間の行為、人間の行動、これが問題を引き起こしているとするならば、卒業生諸君にとっても他人事ではないはずです。

コロナ禍のような非常時には冷静な行動が求められます。ステイホームは本を読むいい機会でもあったはずです。言葉が紡ぎだす小説を読むことで、多様な価値観にふれることもでき、遠く離れた異国の地での出来事に立ち会うこともできます。このコロナ禍でアルベール・カミュの『ペスト』が多くの人に読まれたのには理由があります。この作品には私たちが直面している状況とよく似たパンデミックのありさまが描かれています。舞台はアルジェリアの港町オラン。そこにペストが蔓延し、「どのように生きたらよいのか」を模索する人たちが多数登場します。この小説は群像劇です。魅力ある人物はみな考えや思いは違います。作者カミュはどれが正しい考えかを提示してはいません。それは読者である私たち一人ひとりが考えることなのです。

私にとって登場人物のひとり、医師のリウーが次のように言った言葉が印象深く残っています。「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さです」。そう発言した後、誠実さとは何かと問われたリウーは「自分の仕事を果たすことだ」と答えます。

「自分の今なすべきことをなす」。そこにこそ人間の希望がある。これが『ペスト』の基調音であると感じます。優れた文学を初めとする芸術作品には困難な状況を乗り越えさせる大きな力が潜んでいます。人文学の利点は多くの人が見ているのとは違う視点でものごとが見られるようになることだと思います。皆さんが大学で培った人文学的素養はこれからの人生の土台となるものです。

短期大学部、留学生別科の皆さんは在学中の大半がコロナに染まってしまいました。たいへん心苦しく思っています。しかし、先生方はどんな状況になろうとも教育の手は休めなかったことだけはしっかりと胸に刻んでおいてください。

2019年、龍谷大学は創立380周年を迎えました。そのとき私は「自省利他」という行動哲学を掲げました。自らのありようを省みて、他者の安寧のために尽力する。こうした人格を形成していくことこそが現代社会に急務であると判断しました。この「自省利他」は本学の建学の精神に繋がります。

わが龍谷大学の建学の精神は周知の通り、「浄土真宗の精神」すなわち親鸞聖人の精神です。激動の鎌倉時代、親鸞聖人が人間のありようを根源的に問いかけ、まことの生き方を求められた。阿弥陀仏の誓願に出遇われ、誓願に照らされた「真実の生き方」を顕かにされたのです。まさにその点にこそ龍谷大学のエッセンスがあります。いかに自分というものが至らない存在であるか、その至らぬ存在の自分に対し智慧と慈悲の光が届いているという不思議。この思議を超えた働きかけこそが、常にわが身を省みて社会のために尽くす人格を形成させるのです。自らのありようを省みて、他者の安寧のために尽力する、「自省利他」。みなさんのこれからの行動指針にしていただければ幸いです。

今日からは、皆さんも龍谷大学の卒業生として伝統を背負う一員です。今後皆さんは卒業生で構成する龍谷大学校友会に属することになります。卒業生からの在学生への助言は時に闇を照らす光となります。卒業生と在学生が一体となって取り組む仏教SDGsの取り組みはすでに始まっています。今後、龍大卒業生ならではの力をどうか私たちに貸してください。在学生・卒業生がスクラムを組み、希望に満ちた明るい未来を社会のために切り拓いてもらいたいのです。

卒業生のみなさん、どうか誠実に課題と向きあい、何事にも丁寧に対処する人間になってください。どうか困難に直面している人の声なき声に耳を傾けることのできる人間になってください。どうか周りから信頼され、周囲を明るく照らす人間になってください。

最後に皆さんの健康を心から願って、私からの式辞とさせていただきます。

ご卒業、誠におめでとうございます。

2021(令和3)年3月18日

龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長  入澤 崇