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卒業式・入学式

2022年度 卒業式・修了式 式辞

本日ここに、晴れて卒業を迎えられた皆さん、ご卒業おめでとうございます。龍谷大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。また、ご家族の皆さまにも心よりお慶びを申し上げます。

この三年間、新型コロナウイルス感染に翻弄されました。出口は見えつつあるように見えますが、まだまだ不安は拭えません。卒業生の皆さんには、これまで言い知れぬ困惑と苦労があったかと思いますが、見事に成果を出し、本日晴れて学位記を授与される運びとなりました。皆さん方の努力に敬意を表すとともに、入構制限などこれまで大学のとった措置に協力をしていただいたことに対し感謝の気持ちを表明したいと思います。

また不安定な気持ちになりがちであった学生をしっかりと支え、温かく見守り続けてくださいましたご家族の皆さまにも深く敬意を表します。

皆さんは今日で大学を卒業します。しかし、学びに卒業はありません。このコロナ禍からでも学び得たことはあったはずです。いかに日々の暮らしが多くの他者に支えられていたか、実感されたことでしょう。医療従事者や介護士、清掃員、消防士、コンビニやスーパーの店員さん、物流業務に従事されている方々など、皆さんが自室に閉じこもることを余儀なくされていても、社会機能を維持するためにそうした方々が皆さんを支えてくれていたのです。コロナ禍が教えてくれたのは私たちの生きているこの世界は支え合いの世の中であるということです。私たちは「関係性」の中で生きている、このことは皆さんが一回生の時、「仏教の思想」で学んだはずです。

これから新たなステージに立つわけですが、新たな始まりには自分の思考様式と行動様式を一度点検してみることが大事です。

今WBCの侍ジャパンの活躍で大いに沸き立っていますが、中でもメジャーリーガーの大谷翔平選手に注目が集まっています。皆さんが新たな一歩を踏み出そうとしている今、大谷選手が花巻東高校の一年生のときに書いた目標達成シートに目を向けたいと思います。この目標達成シートというのは別名マンダラチャートと言われており、仏教の教えに感化を受けた松村寧雄(やすお)氏が考案したもので、花巻東校野球部佐々木監督が部員のために採用しました。

シートの中心に最終目標を書き、それを実現するために何をするかを書きます。取り組むべきメインテーマや解決すべき問題点を配置し、具体的な方法まで書き込むように工夫されていて、全部で81マスあります。高校一年生の大谷選手が何を書き込んでいたかはネットで見ることができます。機会があればご覧になってください。

注目すべきは野球技術のことと並んで、日頃から心がけることに彼が留意していることです。人間性の項目には思いやり、感性、愛される人間、計画性、感謝、継続力、信頼される人間、礼儀をあげています。別の項目には、道具を大切に使う、あいさつ、ゴミ拾い、部屋掃除、審判さんへの態度、本を読む、応援される人間になる、プラス思考を挙げています。ゴミ拾いがあるのは驚きです。

メジャーリーグで以前、大谷選手が試合中にゴミを拾ったことがメディアで大きく取り上げられたことがありましたが、高校一年の時から、15歳の時から続けていることなのです。このシートからは大谷選手が目標を達成するために何を習慣にしたらいいのかを考えて書き込んでいたことがわかります。サステナブルな努力、ここに大谷選手の魅力の源泉があります。自分の思考様式と行動様式、新たな始まりにあたって皆さんもこのことに意識を向けてみてください。

さて世の中はポストコロナに向けた議論が活発になってきています。しかし、この3年で73,000人を超える人が新型コロナ感染で亡くなったことは忘れてはなりません。一体どれだけ悲しみの涙がこぼれたことでしょう。自分が感染させてしまったのではないかと自責の念にかられている人もいます。家族の最期に立ち会えなかった悲しみを抱えたままでいる人も大勢おられます。龍谷大学はそうした悲しみに寄り添う大学です。先週3月11日に本学の社会的孤立回復支援研究センターが新型コロナで身近な人を亡くしたご遺族に呼びかけ、西本願寺で追悼の集いを行ないました。どこまでも成長神話にすがる世の流れにあって本学の営みはマイナーに映るかもしれません。しかし、人間にとって本当に大切なことは何かを追求することは本学の使命です。人偏に「憂い」と書けば優しいという字になります。他者の悲しみにそっと寄り添える人間でありたいものです。真の優しさを具えた人間になることを切に願います。

浄土真宗の精神、すなわち親鸞聖人の精神を建学の精神とする本学の根底には「人間とは何か」「私とは何か」という、自分自身を真摯に問い直す営みがあります。今年は親鸞聖人がご誕生になられて850年を数える記念すべき年にあたります。改めて自分自身を厳しく問い直す姿勢を親鸞聖人に学び、他者に対してはあたたかい心で向き合っていくことをどうか心がけてください。

今日からは、皆さんは龍谷大学の卒業生として伝統を背負う一員です。今後皆さんは卒業生で構成する龍谷大学校友会に属することになります。卒業生からの在学生への助言は時に闇を照らす光となります。すでに、在学生と卒業生の間の新しい交流プログラムを展開している学部もあります。卒業生と在学生が一体となって取り組む仏教SDGsの取り組みはすでに始まっています。皆さんの先輩方の中には、人間の欲望をよりよき社会の構築にふり向け新たな価値創造を目指すべく「煩悩とクリエイティビティ」というイベントを開催してくれている人たちもいます。常にわが身を省みて、よりよき社会の構築のために力を尽くす。在学生・卒業生がスクラムを組み、希望に満ちた明るい未来を皆さんの手で切り拓いてもらいたいと思っています。

共に創りましょう、われわれの未来を。
見せましょう、龍大卒業生ならではの優しさを。
進みましょう、かけがえのない自分の道を。

またお目にかかる日を楽しみにしています。どうか、お元気で。本日は、ご卒業、まことにおめでとうございます

2023年3月16日・17日    
龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長 入澤 崇