龍谷大学大学院文学研究科、法学研究科、経済学研究科、実践真宗学研究科、政策学研究科、国際学研究科での研究を無事に修了され、学位を取得された皆さん、おめでとうございます。龍谷大学を代表して、心よりお祝い申し上げます。
皆さん方は学部を卒業して、さらに上のステージに上り、学問研究に研鑽を積まれた結果、本日見事に学位を取得されました。ここに至るまで、さまざまな出来事があったと思います。とりわけこの3年は新型コロナウイルス感染症のために、いろいろと苦労があったかと思います。今日に至るまでのプロセスをいま一度反芻してみてください。研究を続けるにあたり、つらい思いをしたこともあったでしょう。努力を重ねてもなかなか研究が進捗せず、焦りの気持ちにわしづかみされたこともあったでしょう。しかし、なんとか学位取得にまで辿り着かれたのです。
各人の専門領域で、課題を見つけ、新たな視点を確立し、自分の考えを論理的に整理していく。そして結論に導いていく過程、これこそが学問の醍醐味です。
学問研究を通じ、皆さんは確実にステップアップされました。学位取得という結果よりも、今日に至るまでのプロセスこそが皆さんの今後の人生における活力の源泉になるでありましょう。
今日は皆さん方にとって新たなる旅立ちの日です。これからさらにひき続き研究に邁進される方、社会に出て企業に就職される方、道は違えど、今日は皆さん方にとって節目となる日です。
龍谷大学は創立400周年を迎える2039年を目指して次のような将来ビジョンを掲げました。
「まごころある市民を育み、新たな知と価値の創造を図ることで、あらゆる「壁」や「違い」を乗り越え、世界の平和に寄与するプラットフォームとなる」。
この将来ビジョンは世界の現状を見渡してのことです。昨年、ロシア軍のウクライナ侵攻という、あってはならない事態が生じました。戦争は最大の暴力です。戦争は最大の犯罪です。戦争は最大の環境破壊です。大国の横暴、大国の為政者の都合によって多くの命が犠牲になるという不条理。その不条理の現場をテレビやネットで目撃している私たち。やるせない気持ちをきっと皆さんも抱かれているかと思います。そしてわが国も軍備増強に大きく舵をきりつつあります。不穏な空気が立ち込めてきました。
先日亡くなられた作家の大江健三郎さんはかつてこのような文章を書かれました。「今日の世界の暴力は、私ら大人が、その前の世代から受けついでいる現代史の宿題です。それを未解決のまま、次の世代に渡していいか?むしろ私たちは、さらに事態を悪化させることを知りながら、責任放棄しかねない瀬戸際に立っているのではないでしょうか?」(『暴力にさからって書くー大江健三郎往復書簡』朝日文庫)と。
私たちのもっている専門知を世界の平和に寄与する実践知に編み上げていかねばなりません。現在龍谷大学では社会課題に向き合う実践活動が活発になってきています。いかにして平和を実現するか、それに対する実践知をなんとしても構築すべきです。
省みれば近代以降の戦争は地下資源の争奪が大きな引き金になっています。平和構築を目指すにはそこにこそ焦点を当てる必要があります。果たして地上に資源はないのでしょうか?JEPLANという企業の会長である岩元美智彦氏は地上で生み出されるゴミを地上資源とするケミカルリサイクルという技術を開発し、世界から注目を集めています。目下、龍谷大学は岩元氏と協力して、リサイクルを生かした循環型社会の構築を目指すべく準備を進めているところです。このあたりのこと、まもなく発刊される広報『龍谷』の最新号をご覧ください。
課題が山積していく現代社会において、大学における高度な専門教育の価値は残念ながら社会で十分に理解されてはいません。これには大学にも責任はあります。閉塞感漂う現代社会に、新たなる価値が創出できていない。そこは大学が十分に反省すべきで、新たなる価値の創出を担うのが大学であると私は考えています。
学問研究の価値を社会に認知させるべく、大学から知の発信力を高めていかねばなりません。本学が「平和に寄与するプラットフォームとなる」と掲げたからには、それに向けて具体的なアクションを起こしていかねばなりません。大学構成員の意識変革が何より必要です。皆さんが本学の大学院を修了したことを誇りに思ってくださるように、私たちはこれからも魅力ある大学づくりに邁進してまいります。
そして、社会における意識変革の一翼を担うのは皆さん方一人ひとりです。大学院で習得したはずの課題解決能力をどうか社会で大いに発揮して下さい。その中核となるのは皆さん方の用いる言葉です。謙虚さを忘れず、対話する力を高める必要があります。皆さん方の専門知を封じ込めるのではなく、言葉で開かれたものにするのです。皆さんが身につけた専門性と言葉の力を駆使して、どうか雄々しく社会に立ち向かってください。学問研究は社会と隔絶したものではないはずです。微力であっても、どうかよりよい社会の構築に向けて力を尽くしてください。
大学に残ってさらに研究を続けられる方は、常にわが身を省みて、強靭な知性、身体性ある知性に磨きをかけていってください。期待しています。
皆さん方は龍谷大学で研鑽を積まれました。皆さん方の獲得された専門知の根っこには建学の精神があります。わが龍谷大学の建学の精神は周知の通り、「浄土真宗の精神」すなわち親鸞聖人の精神です。常にわが身を省みて社会のために尽くす人格を形成させる教育の根源はここにこそあります。
親鸞聖人が私たちに促すのは自分自身を真摯に問い直す営みです。今年は親鸞聖人がご誕生になられて850年を数える記念すべき年にあたります。改めて自分自身を厳しく問い直す姿勢を親鸞聖人に学び、他者に対してはあたたかい心で向き合っていくことをどうか心がけてください。
留学生の皆さんも、どうかいついつまでも龍谷大学での学びを忘れないでください。
皆さんはこれからも龍谷大学の仲間です。今後とも校友として篤いご支援をお寄せいただきますよう、最後にお願い申し上げて、私からの式辞とさせていただきます。
本日はまことにおめでとうございます。
2023年3月18日
龍谷大学 学長
入澤 崇