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2021.06.30

龍谷コングレス2021「龍谷コングレス「龍谷・刑事政策構想」発表 市民のための刑事政策構想〜人に優しい刑事政策をめざして〜」を開催【犯罪学研究センター】

「人に優しい犯罪学」って何だろう?アジア犯罪学会 第12回年次大会記念サイドイベント4日目

2021年6月21日(月)、犯罪学研究センター「龍谷コングレス「龍谷・刑事政策構想」発表 市民のための刑事政策構想〜人に優しい刑事政策をめざして〜」をオンライン上で開催しました。
当イベントは、本学がホスト校をつとめる「アジア犯罪学会第12回年次大会(ACS2020)」開催を記念し企画されたサイドイベントの一つで、これまでに「犯罪学教育のICT化」、「テロとの戦いと国際人権」、「多様な生き方と薬物政策」など、幅広いテーマをとりあげました。最終日となる今回は、3部構成となっており、1.研究部門からの報告、2.本年3月に開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)の振り返り、3.「人に優しい犯罪学とは何か?」をテーマに、参加者約50名とともに課題や疑問を共有するラウンドテーブルディスカッションを行いました。
>>イベント概要:【龍谷コングレス2021】龍谷コングレス「龍谷・刑事政策構想」発表 市民のための刑事政策構想〜人に優しい刑事政策をめざして〜/犯罪学研究センター主催
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はじめに、犯罪学研究センター長の石塚伸一教授(本学・法学部)より開会の挨拶が行われました。石塚教授は「当センターの研究は、犯罪原因や刑事司法のプロセスを科学的観点からとらえ、科学的根拠に基づいた政策提言を目的とする。このたび当センターの研究ブランディング事業が最終年度を迎え、研究の成果をとりまとめるにあたって、『人に優しい犯罪学』を方向性として提示したい。犯罪の原因は『孤立』にあり、『孤立からの脱却』と『回復の支援』のあり方について今後検討を重ねる。今日は龍谷大学というプラットフォームの中で行われている多種多様な研究を皆さんに見ていただきたい」と述べました。


石塚伸一教授(本学・法学部、犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学・法学部、犯罪学研究センター長)


当日のプログラム。司会進行は西本 成文氏(本学犯罪学研究センター 研究員)が担当

当日のプログラム。司会進行は西本 成文氏(本学犯罪学研究センター 研究員)が担当

第1部:研究部門*1からの報告


 津島昌弘教授(本学・社会学部、犯罪学研究センター研究部門長)

津島昌弘教授(本学・社会学部、犯罪学研究センター研究部門長)


つづいて、犯罪学センター研究部門長である津島昌弘教授(本学・社会学部)より報告が行われました。津島教授は「犯罪予防と対人支援を基軸に、諸学問の学融化と合理化を求めて、当センターでは人間・社会・科学をキーワードに犯罪現象をさまざまな角度から捉えるために9つのユニットを配置した。そして、本学の多様な研究の蓄積と多彩な人的資源を開拓するため、全学に協力を呼びかけ、4つの公募型研究を採択した。また本学は40年余の長きにわたり建学の精神を具体化する事業の一環として社会復帰を支援する矯正・保護事業を展開してきた*2。その伝統を鑑み、更なる展開を目指して2016年に設立されたのが犯罪学研究センターだ。コロナ禍のなか、社会は大きな変化の兆しをみせている。本学もまた『仏教SDGs』*3構想を打ち出した。犯罪学研究センターの目指す『人に優しい犯罪学』のもと、これから紹介するユニットの研究成果をどのように活かしていくのか、現実の施策と突き合わせてどのようなことが言えるのか、が課題となる」と述べ、ユニットの紹介に移りました*4。あらかじめ各ユニットにはそれぞれの研究活動を紹介する動画作成を依頼し、当日はそれを編集してつなぎ合わせたものを参加者とともに確認しました。各ユニットは5分のユニット紹介動画に加え、今後15分のユニット研究成果報告動画を新たに作成し、犯罪学研究センターHP上で2021年12月の公開を目指します。

第2部:京都コングレスを振り返って
つづいて、3月に京都で開催された国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)の総括がおこなわれました*5。石塚教授は、「1970年の京都コングレスは、1954年に国際人権規約が起草され、1966年に国際人権規約B規約が採択されるような国際的な潮流のなかで、人権の尊重がテーマであった。日本は法律化、近代化、国際化をスローガンに行刑の改革に乗りだした。しかし2000年頃から国際的な潮流に変化が現れた。一部の先進国によって多国間の利害調整や国際ルールを定める動きが顕著になったことだ。国連犯罪防止刑事司法会議も例外ではない。罪をおかした人や一般の市民を置き去りにしたまま、さまざまな施策が国家主導で決定される。言い換えれば、国ができることが何かという視点からものごとが決定される」と50年前のコングレスのあらましと国際的動向の変化を説明しました。つづけて石塚教授は「日本の縦割り行政の中で法務省ができることは、再犯防止のために監視や支援をつづけることぐらいだ。ただ、この方向性には限界がある。法務省も対応に苦慮していると思う。今の時代に教育を受けさせて手に職をつけさせるだけでは犯罪をとりまく問題は解決されない。なぜならば教育と労働のみで社会は成り立っているわけではなく、犯罪や非行の問題は多様化しているからだ。犯罪学研究センターの各ユニットがおこなっている研究が、まとまりがなくバラバラであるように見えるのは、各ユニットが今の社会のニーズに対応した研究をしているからである。こんなに多くの領域、学内外の研究者の協力を得て犯罪学の研究をしているところはこれまで日本にはなかった。今回の龍谷コングレスは、『国ができること』ではなく、犯罪を止めるのにはどうすれば良いか、幅広い視野を持った市民サイドの視点を提示するために企画した。」と述べました。
最後に、石塚教授は、赤池一将教授(本学・法学部、犯罪学研究センター教育部門長、「司法福祉」ユニット長)を指定討論者に迎え、ラウンドテーブルのための論点として①1970年と2021年の京都コングレスをどのように評価するか、②戦後改革の一環として行われた監獄法改正作業の成果である「被収容者処遇法(2005年)」は、実務で実現されているか?、③「人に優しい犯罪学」を標榜する犯罪学研究センターの今後について、を提示し報告を終えました。



第3部:ラウンドテーブル「人に優しい犯罪学」とは何か?


赤池一将教授(本学・法学部、犯罪学研究センター教育部門長、「司法福祉」ユニット長)

赤池一将教授(本学・法学部、犯罪学研究センター教育部門長、「司法福祉」ユニット長)


赤池教授は、京都コングレスに向けて法務省がどのような準備をし、最終的にどのようなテーマを取り上げて議論したかに着目し「法務省はコングレスにおいて『語りたくないことは語らない』、『語りたくないことを語る場を塞いでいる』のではないか」と指摘しました。

具体的には、カルロス・ゴーン氏の事件で日本の刑事司法が国際的に問題視されたこと*6や、日本政府が死刑問題について国連からの勧告を受けている*7など、国内外から批判を受けていることに対して「コングレスにおいて日本の立場を改めて説明するチャンスであったのにも関わらず、正面から議論することを避ける姿勢を残念に思う」と述べました。つづけて「問題を正面から取り上げ議論することを恐れるような体質がここ50年でできて、1980年代から顕著になっているのではないか。その現れのひとつが『日本には日本の事情があり、海外と比較するにはあたらない』という姿勢だ」と重ねて指摘しました。次に『人に優しい犯罪学』について赤池教授は、「人に優しい犯罪学が目指すところは、犯罪の原因を孤立ととらえ、孤立している人に優しくするべきだということだと理解すると、我々は、人を孤立させる制度に対して厳しい目を向けなければいけないと考える。孤立した社会と一般社会とを対置した場合、両者をつなげるものは何か、そしてある意味で孤立せざるを得ない社会(例えば刑務所)において、一般社会の法や論理そして制度をどのように活かしていくかを検討することが政策提言に必要となる。犯罪学研究センターの各ユニットの扱っているテーマは市民主導の、国が語らなかったこと、語りたくないものである。これらをいかに共有するかだが、各ユニットの研究から導かれるテーゼに共通の認識がみられた。それは①犯罪問題に対する『市民のリテラシー』を高める研究の充実、②多様性の尊重、であり、リテラシーをもった人間が多様性を尊重することにより、本当の意味での民主主義社会を成立させるために貢献するだろうということだ。このことは我々が提示する市民主導の刑事政策構想の中に含まれなければいけないことであるし、そこは『国が語れない』ところであるので、検討を重ねたい」と述べました。

他に中根真教授(本学・短期大学部、保育と予防ユニット長)から「コミュニティーが崩壊している現代社会における保育のあり方」、金尚均教授(本学・法学部、ヘイト・クライムユニット長)から「他者への赦しについて」、井上善幸教授(本学・法学部、矯正宗教学ユニット長)から「コロナ禍における宗教的行事の動向や傷ついた人に対するケア」、吉川悟教授(本学・文学部、対話的コミュニケーションユニット長)から「社会的孤立に対する心理学の立場から見た課題」についてそれぞれ話題が提供され、意見交換がなされました。


黒川雅代子教授(本学・短期大学部、犯罪学研究センター副センター長)

黒川雅代子教授(本学・短期大学部、犯罪学研究センター副センター長)

さいごに、黒川雅代子教授(本学・短期大学部、犯罪学研究センター副センター長)から閉会の挨拶がおこなわれました。黒川教授は「当センターは『人に優しい犯罪学』という切り口で多様な研究がなされている。話を聞いて、SDGsの提示する持続可能な達成目標に即した研究や実践が実際に行われていることを改めて実感した」と述べ、4日間にわたるサイドイベントは終了しました。

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【補注】
*1 各ユニットの詳細については当センターHPの下記のリンクを参照のこと。
[参照]研究体制について
・「犯罪と人間」https://crimrc.ryukoku.ac.jp/org/human.html
・「犯罪と社会」https://crimrc.ryukoku.ac.jp/org/society.html
・「犯罪と科学」https://crimrc.ryukoku.ac.jp/org/science.html
・「公募型プロジェクト」https://crimrc.ryukoku.ac.jp/org/research.html
[関連]
・犯罪学研究センターユニット長へのインタビュー等 https://crimrc.ryukoku.ac.jp/activity/
・政策評価ユニット(キャンベル共同計画) https://crimrc.ryukoku.ac.jp/campbell/
・科学鑑定ユニット対談
 1.https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3612.html
 2.https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-4044.html
・犯罪社会学・意識調査ユニット(ISRD−Japan)https://crimrc.ryukoku.ac.jp/isrd-japan/

*2 龍谷・犯罪学のルーツのひとつに本学の母体である浄土真宗本願寺派が深く関わっている「教誨師」があげられる。本学は「教誨活動」を通して得た知見やネットワークをもとに「矯正・保護課程」を開設し、犯罪学研究の発展に寄与した。詳細は下記の記事も参照のこと
[参考]第32回 龍谷大学 新春技術講演会 ポスターセッションに参加【犯罪学研究センター】
龍谷発“つまずき”からの“立ち直り”支援〜明るい未来創造プロジェクト〜
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-7463.html

*3 [参照]龍谷大学におけるSDGsの取り組み https://www.ryukoku.ac.jp/sdgs/
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた17の目標のこと。2015年9月の国連サミットで採択された。龍谷大学は、SDGsと仏教の精神を結びつける「仏教SDGs」というコンセプトを2019年に提示。研究および社会への還元や社会との協働のプロセスを通して様々な組織と連携を図ることで、コレクティブ・インパクトの創出をめざし、社会変革の中核的担い手となることを推進することを目標にすえる。

*4意識調査・犯罪社会学ユニット(ISRD−Japan)や科学鑑定ユニット、そして治療法学ユニットは、アジア犯罪学会第12回年次大会に参加しテーマセッションを設け、その研究成果の一部を報告しました
[参照]ACS2020Program[PDF] https://acs2020.org/dl/ACS2020Program_June2021.pdf
科学鑑定ユニット:TS-02-1 Families under Surveillance: Child Abuse and Risks in Our Society
犯罪社会学・意識調査ユニット: TS11 First Results of the International Self-Report Delinquency Study (ISRD3) in Japan Overview
治療法学ユニット: TS18 An examination of legislative mechanism for cannabis control between Thailand and Japan: A cross-country comparison and analysis

*5 [関連]
「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」第2部開催レポート【犯罪学研究センター】国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)の歴史と開催意義を考える
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8180.html

*6 [関連]
「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」第3部開催レポート【犯罪学研究センター】対人支援によって再犯防止をめざす、市民の、市民による、市民のための 龍谷独自の刑事政策構想の構築に向けて
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8181.html

【参照】法務省トップページ  >  政策・審議会等  >  刑事政策  >  我が国の刑事司法について,国内外からの様々なご指摘やご疑問にお答えします。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200120QandA.html
「人質司法」の誤解アピール法務省、ゴーン事件受け世界へ動画発信(産経新聞、2021年3月7日記事)
https://www.sankei.com/affairs/news/210307/afr2103070013-n1.html

*7 [参考]
・「国連の人権巡る勧告、日本は死刑廃止など拒否 見解公表」(朝日新聞、2018年3月6日記事)
 https://www.asahi.com/articles/ASL357WL1L35UHBI05D.html
・UPR(普遍的・定期的レビュー)の概要(外務省)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_002899.html