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Vol.02 December 2023
ソーシャルビジネスに学ぶ、 理想を実装へとつなげる サバイバル術

Overview

ビジネスの領域に存在しながらも経済利益の追求を第一とせず、社会課題の解決に軸足を置く「ソーシャルビジネス」。課題解決を目指すなかで、前例やノウハウの少なさから行き詰まりを感じたり、ときには主張自体が理解を得られず批判されたりと、悩みに直面する人は少なくない。この摩擦に耐えながら苦しい局面を乗り越え、ビジネスとして持続可能なかたちで社会実装を実現するために、わたしたちはなにを知っておくべきなのか。専門家に聞く「今、ソーシャルビジネスに必要な話」。

この摩擦に耐えながら苦しい局面を乗り越え、ビジネスとして持続可能なかたちで社会実装を実現するために、わたしたちはなにを知っておくべきなのか。

Suggestion

監修 深尾 昌峰 / 龍谷大学 政策学部 政策学科 教授

00.その問題は社会課題か?自己責任か?

「社会課題」とは読んで字のごとく、社会における課題を指す。反対に、個人における課題は「自己責任」の言葉で片付けられる。では「子どもが学校に行かない」のは、社会課題だろうか、自己責任だろうか?「生理用ナプキンを買うお金がない」こと、「寝泊まりする場所がない」ことは?

社会課題と自己責任。その境界線を社会に問い直すことが、ソーシャルビジネスにおける第一の主戦場であり、問題意識が社会にとってフレッシュなものであればあるほど、生じる摩擦は増大する。

「ソーシャルな取り組みの歴史は、 おしなべて困難と苦労の上に築かれています」と語るのは、ソーシャル領域について15年以上研究を続け、自身も数々の現場に携わる龍谷大学政策学部・深尾昌峰教授。

「たとえば不登校について。かつては登校拒否と呼ばれ、親や子どもの落ち度かのように考えられていました。今でこそ学校や校則のあり方を問う方向へとシフトしつつありますが、振り返れば、社会に責任を押し付けるな、と当事者は石を投げられてきた歴史がある。その歴史を重ねた先に今があるのです」。

ソーシャルグッドの実現は、前進と後退を螺旋のように繰り返しながらも、歩みを止めなかった先にある。「泥臭く地道。それが『ソーシャル』の本質です」

01.思想を越え、目的で連帯する

石を投げられながら歩き続けるのは苦しい。孤独であればなおさらで、乗り越えるためには、同じ課題意識をもつ仲間との連帯がカギとなる。しかし深尾教授は、ここに大きな「落とし穴」があると指摘する。チーム内での思想の一致を過度に追求した結果、分断が生じるケースだ。

「社会を良くしたい情熱がつながりの核になっているゆえに、思想の相違が許容できず、バラバラになるケースは多々存在しています。しかしそれで共倒れしてしまっては本末転倒です。最終ゴールは善悪のジャッジではなく、課題を少しでも改善することなのだ、というマクロな視点をもち、互いが受容できるラインや第三の道を諦めない姿勢こそが、持続的な推進力を生み出すのではないでしょうか」

02.諦めを溶かし、ニーズを発掘する

問題が世の中に認知され、社会の価値観が変わり、制度や社会サービスが充実する──。これは、課題解決のための正統な手順ではあるものの、膨大な時間と労力を要する道筋であるのも事実だ。しかしソーシャルビジネスという手段をとる場合には、ニーズ発掘という下流からのアプローチが可能になる。それこそがビジネスの形態をとるメリットだと、深尾教授は語る。

「問題を懸命に訴えても、社会の制度や価値観はなかなか変わらない。多くの場合、困っている本人ですら、現状を『そういうもの』として受け止めています。しかし、具体的なモノやサービスが現れることで、自分の困りごとには解決の可能性があると気がつく。諦めていた当事者たちが変われば、ニーズが生まれ、やがて市場が形成されます。そうして問題が可視化されると、制度や価値観も変わっていくのです」

多くの当事者は困っていながら、同時に「仕方がない」と諦めてもいる。その「諦め」を溶かし、ニーズに変えることが、ビジネスとしての持続可能性を高めるとともに、社会を変える力を生み出していく。

03.“普通の人”を味方に変える

ソーシャルビジネスを続けるうえで、今よりもっと仲間を増やす必要を感じたら?「自分たちの取り組みが、社会をどのように変えるのか」というストーリーを広く発信することで、より多くの人々の行動を変容させられる可能性がある。深尾教授が携わる取り組みにおいても、当事者でも支援者でもない周縁の人々、いわゆる“普通の人”が支援者に転じるケースは多いという。

「普段、問題を意識せず過ごしているからこそ、ファーストタッチの衝撃が大きいのでしょう。そのショックに背中を押され、寄付などの行動を起こしてくれる例も少なくありません」

多くの人々が「社会を良くしたい」という思いを心に抱えている。あなたが語るストーリーに共感し、「自分にもできることがある」と知ったとき、彼らは心強い仲間となってくれるはずだ。

Action

ソーシャルビジネスが育つ土壌をつくる

各々が有用なサバイバルナレッジを獲得することに加え、全体としてより良い社会に近づくための取り組みも活発化している。市場原理が支配するビジネスの世界に、社会性という別の評価軸を構築するルールメイキング的アプローチとして、深尾教授と龍谷大学が携わる3つの事例を紹介する。

ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター
社会変革のハブとなる大学を目指す

貧しい人々の自立を支援する「マイクロ・クレジット」を創始し、ノーベル平和賞を受賞したことで知られるムハマド・ユヌス博士との会談を経て、2019年に龍谷大学が設立した「ユヌスソーシャルビジネスセンター」。センターを通じて「社会変革のハブ」となる大学を目指し、ソーシャルビジネスの地域実装化につながる研究活動や社会活動の支援・教育に取り組んでいる。2023年7月には、ユヌス博⼠への名誉学位授与を記念し、龍谷大学にて博士の記念講演を開催。「あなたが創りたい世界を考え続け、 恐れずに小さな一歩を踏み出してほしい」と学生にエールを送った。

ソーシャル企業認証制度
企業の社会性を可視化する

2021年4月にスタートした、社会課題解決を目指す企業を対象に評価・認証をおこなう「ソーシャル企業認証制度」。地域金融機関と龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター(YSBRC)連携のもと、従来の財務中心の評価では取りこぼされていた企業の社会的価値を可視化することで、ソーシャルな取り組みを行う企業への融資を促進する。YSBRC下に設置された、認証を担う第三者委員会には、大学の各分野の専門家、経営、会計、行政の有識者のほか、龍谷大学の学生も名を連ねている。

コミュニティ財団
「ソーシャル前夜」をコミュニティで支える

地域課題の多様化が進む現代において、税収に解決をゆだねる伝統的なやり方は限界を迎えている。とりわけ、課題の社会的認知が低いフェーズにおいては、行政の対応範囲外にならざるを得ない。このフェーズをコミュニティの力によって支えることを目指し「お金の流れ」をデザインする試みが、日本初のコミュニティ財団「京都地域創造基金」設立へとつながった。このアイデアは各地に広がり、現在は「全国コミュニティ財団協会」に約40団体が所属。自分たちの手によって社会を良くしたいと考える人々の受け皿になり、連携のもと地域課題の解決に取り組んでいる。

プラスソーシャルインベストメント株式会社
社会的投資により地域づくりへの参加機会を創出する

2016年の設立から2020年までの4年にわたり深尾教授が代表を務めた「プラスソーシャルインベストメント株式会社」。「社会的投資の仕組みを創り出す会社」をスローガンに掲げ、地域内のインパクト投資を促すエコシステムの構築に取り組む。地域証券の販売などを通じて、地域社会にポジティブな影響をもたらす事業を可視化し、それらの地域事業の持続・成長を支援するとともに、誰もが投資家として地域課題の解決に貢献できる機会の提供により、地域づくりに参加できる窓口として、投資者と事業者をつなぐ役割を果たしている。

総合監修

深尾 昌峰(ふかお・まさたか)
/ 龍谷大学政策学部・教授 / 教育学修士

「きょうとNPOセンター」「公益財団法人京都地域創造基金」などの設立・運営に携わり、地域社会の活性化や非営利組織の持続可能なあり方をテーマに活動を行う。内閣府「共助社会づくり懇談会」の委員なども努めた。

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BEiNG

社会と自己の在り方を問うメディア

急速に変化するイマを見つめ、社会課題の本質にフォーカス。
多角的な視点で一つひとつの事象を掘り下げ、現代における自己の在り方(=being)を問う新しいメディアです。

BEiNGに込めた想い

BEiNG=在り方、存在が由来。
また、文字の中心を小文字のiと表記し、時代と向き合う自己(=i)を表すとともに、本メディアにさまざまな気づきや発見が隠れている(=!)という意味を込めています。