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Vol.01 October 2023
メンタルヘルスの オルタナティブ・ ストーリー

メンタルヘルス(=心の健康)向上のためには、どのようなアプローチが可能だろうか。ひとつは、身体的な病気と同様に“治療”を試みるやり方だ。個人の内面に焦点を当て、問題の原因を特定して治す。これが現在のメインストリームであるとすれば、心理学の世界には別の“流派”も存在する。

「原因→結果」の直線的な因果関係を前提とするメインストリームとは対照的に、オルタナティブはかかわり方の相互関係を検討しようとする。個人と周囲の関係性における相互作用に着目し、その相互作用の連鎖から「問題」として認識される「状態」が形成されると考えるのである。ここでは、個人の特質に原因を探すのではなく、全体の関係性を対象としたアプローチによって、問題の解消が試みられる。

「前提から違うから、邪道だと捉えられる」と、自らも“邪道”を進む1人として、龍谷大学心理学部学部長・吉川悟は語る。時に邪道とされながらも、新たな地平を開こうする「メンタルヘルスのオルタナティブ・ストーリー」。その現在地を探る。

個人と周囲の関係性における相互作用に着目する。個人の特質に原因を探すのではなく、全体の関係性を対象としたアプローチによって、問題の解消を試みる。

Opinions

本人の来院が難しい不登校やひきこもりのケースが、家族や隣人とのやりとりだけで好転した事例は、“邪道”の力をわかりやすく示している。しかし実績があっても、新たな「ものの見方」の浸透は容易ではない。医療者が教育段階で学ぶ科学的な認識が、「原因→結果」の因果関係を前提するものであることに加え、日本の医療制度のあり方もブレーキになっていると、吉川教授は分析する。「アメリカは“邪道”の浸透度が比較的高いが、背景には専門性による医療における分業の徹底がある。日本では診断と処方がワンセットのため『病理の発見→対応する薬の処方』という流れが固定化し、別のアプローチに目が向きにくい」。

柔軟な視点をもつ支援者が増加することで、“邪道”なアプローチが広く有効活用され、そのアプローチにより好転した人がまた、周囲の人々のウェルビーイング向上に寄与する、そんな好循環を起こしたいと語る吉川教授。実際、総合病院に専門の心理士を設置するといった試みを行うと、現場からその効果に驚く声が上がるという。医師だけではない多様な支援者が、診察室の外で立ち話をして患者を“治療”する、この光景が「当たり前」となる未来をオルタナティブ・ストーリーは描いている。

Another View 精神医療の現場における
“邪道”の現在地とは?

精神医療の現実を捉えた、理想論ではない取り組みに期待

患者さんを社会的存在として捉える視点自体は、邪道というより「本道」だと、僕は思っています。実際、対人関係のなかで治療を行うべきということは現場でも30年以上言われ続けてきました。問題はそれが理想論にとどまっていること。患者の周り含めて継続的にコミュニケーションをとっていては診療報酬が上がらず医院が回らない。そもそも医者を目指す人や大学で彼らを教える先生のなかに、対人関係に関心のある人がとても少ない。医療の枠組み自体が薬で治す、切って治すのが医者の本分だという考え方に立脚していて、精神医療もそこを脱することができていないのが現実だと感じます。だからこそ、吉川先生の現場における実践や龍大心理学部の先生方の積極的な姿勢は、極めて稀で真摯に感じます。そこで人が育ち、現場に入ってくれば、必ず大きなパワーになる。きれいごとだけが掲げられてきた精神医療のあり方の改善に、本気で着手する存在になるのではないでしょうか。

名越 康文 / 龍谷大学心理学部・客員教授
/ 精神科医(専門:思春期精神医学、精神療法)

大阪府立精神医療センターにて精神科救急病棟の設立、責任者を務めた後、現在は引き続き臨床に携わりながら、コメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。

メンタルヘルスのオルタナティブたち

会社、家族、地域など、さまざまな枠組みで関係性を捉える「メンタルヘルスのオルタナティブ」として、
龍谷大学心理学部に所属する6人の研究者を紹介。

  • ビジネスの場に
    心理学の
    知見を活かす
    Opinion. 01

    組織と個人の双方に作用する「心理的安全性」を軸に、ビジネスでの関係性を扱うコーチング心理学を研究。疾患や障がいの有無を越え、すべての人に還元可能な学問として心理学に取り組む。

    水口 政人 龍谷大学 心理学部 教授
  • 対話による
    問題解決手法を
    開発
    Opinion. 02

    現実を対話により再構築可能なものと考える社会構成主義を前提に、問題が形成されるコミュニケーションの分析、解決が形成されるコミュニケーション方法の開発を研究。

    東 豊 龍谷大学 心理学部 教授
  • 当事者不在でも
    可能なアプローチを
    提案
    Opinion. 03

    家族療法などを専門とし、当事者不在でも可能な、周囲の支援者を通じたアプローチを提案。非言語コミュニケーションの分析にも力を入れ、多様な視点から関係性を捉える。

    赤津 玲子 龍谷大学 心理学部 教授
  • 親個人の特質に
    問題を求めない
    虐待予防
    Opinion. 04

    児童虐待を、親個人の特質ではなく、家族全体、地域、社会の関係性の問題として捉え直す視点から、対立構造を作らず関係に介入し、虐待を予防する手法の開発に取り組む。

    髙林 学 龍谷大学 心理学部 教授
  • 関係性から
    医療と学校の
    現場を捉える
    Opinion. 05

    臨床や学校教育でのコミュニケーションに注目し、模擬心理面接による分析を実施。一対一のみならず、家族・関係者を含む複数人をクライアントとする形式にも目を向ける。

    伊東 秀章 龍谷大学 心理学部 准教授
  • 支援者の連携と
    協働による
    就労支援促進
    Opinion. 06

    発達障がいのある成人の就労支援と、多職種連携に焦点を当てる。家族、地域、職場などとの積極的な関係構築による就労支援や定着支援の促進手法を追究する。

    志田 望 龍谷大学 心理学部 講師

Learn More 研究者が選ぶ、
「ものの見方」を
更新するためのリソース集

この社会に生きているかぎり、わたしたちは「相互作用の網の目」であることから逃れられない。
自分や組織のあり方を考える上で、オルタナティブな視点はもはやすべての人の必需品となる。
心理療法の専門家でなくとも手にとりたい、メンタルヘルスをめぐる「ものの見方」を更新する7冊を紹介。

総合監修

吉川 悟(よしかわ・さとる)
/ 龍谷大学心理学部・教授 / 博士(臨床心理学)

大学の教員としてだけでなく、臨床心理士、公認心理師として日々多数のケースに奔走。関連する学会や臨床に関する研修会、講演において「システムズアプローチ」の有用性を提言しつつ、ゴルフにも奔走中!

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BEiNG

社会と自己の在り方を問うメディア

急速に変化するイマを見つめ、社会課題の本質にフォーカス。
多角的な視点で一つひとつの事象を掘り下げ、現代における自己の在り方(=being)を問う新しいメディアです。

BEiNGに込めた想い

BEiNG=在り方、存在が由来。
また、文字の中心を小文字のiと表記し、時代と向き合う自己(=i)を表すとともに、本メディアにさまざまな気づきや発見が隠れている(=!)という意味を込めています。