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理工学部 物質化学科 内田欣吾教授がハスの葉のダブルラフネス構造を模倣したセルフクリーニング機能を光照射と温度制御のみで再現できるシステムを開発

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2016年8月24日

龍谷大学理工学部物質化学科の 内田欣吾 研究室は、光を照射すると色を可逆的に変える「フォトクロミック化合物」において、ハスの葉と同様の細かい凹凸のある「ダブルラフネス構造」を光で再現し、バウンシング現象(弾きかえす作用)が発現するシステムの作成に成功しました。光制御による表面の結晶成長でこのような複雑な表面構造を作るのは世界で初めてです。
内田研究室では、20年余りにわたってジアリールエテンと呼ばれるフォトクロミック化合物を用いた研究をおこなってきました。この化合物は、無色の開環体と呼ばれる状態に紫外光を照射すると分子中心部が閉環し、着色した閉環体を与えます。これに可視光を照射すると元の開環体を再生します。
内田研究室では、これまでにハスの葉のように水滴の接触角が150°以上になり、水を転がす性質をもつロータス効果を示す光応答膜を報告してきましたが、これまで作成してきた「超撥水性表面」には、落下する水滴をバウンシングする(弾き返す)能力はありませんでした。今回、光照射と温度制御を組み合わせることで、ハスの葉と同様の細かい凹凸のある「ダブルラフネス構造」を光で再現し、セルフクリーニングの原点になる水滴のバウンシング現象が発現するシステムの作成に成功しました。
今回開発したダブルラフネス構造でバウンジング現象を再現するシステムは、自然の植物や昆虫などの体表面構造を理解するのに役立つだけでなく、コーティングすることにより工業的なスマートマテリアル(超撥水材料、センサー、高感度電極)などへの応用が期待できます。
なお、本研究成果は、2016年8月17日付けで米国ジャーナル「Journal of the American Chemical Society」138巻32号pp10299-10303に掲載されました。

■発表論文について
英文タイトル:Fractal Surfaces of Molecular Crystals Mimicking Lotus Leaf with Phototunable Double Roughness Structures
和訳:光で制御可能なハスの葉をまねたダブルラフネス構造をもつ分子結晶のフラクタル表面
掲載誌:Journal of the American Chemical Society (アメリカ化学会誌)
著者:内田 欣吾 他8名


<研究の背景>
ハスの葉においてロータス効果がみられる原因は、ボン大学のW. Barthlott教授らの表面形状観測により明らかにされた。天然のハスの葉表面は、直径10マイクロメートルの半球状の突起で埋め尽くされ、その各々の突起の表面は直径0.1-0.2マイクロメートルの円柱状の植物ワックスの針で覆われている。これをダブルラフネス構造という。この構造のためにハスの葉は、雨が降れば表面の汚れを洗い落とし、有効な光合成面積を保持できる。このような、表面構造の研究はシリコン基板をリソグラフィーで作成した凸凹表面にハスの葉から抽出したワックスなどを蒸着するなどの方法やエッチング法等で作成が試みられてきた。
我々は、光を照射すると色を可逆的に変えるフォトクロミック化合物、特に熱的な安定性を有するジアリールエテンという一群の化合物を用いて光を照射して表面形状を制御する研究を行ってきた。ジアリールエテンは、無色の開環体と呼ばれる状態に紫外光を照射すると分子中心部が閉環し、着色した閉環体を与える。これに可視光を照射すると元の開環体を再生する。この化合物の特徴は、開環体と閉環体という二つの状態が共に安定であること、光で何回も閉環・開環反応を繰り返せること、更に結晶状態でもフォトクロミズムができることである。内田研究室では2006年に、開環体の結晶表面に紫外光を照射すると表面に閉環体の針状結晶が成長し、表面が超撥水性になることを報告した。超撥水性とは、そこに落とした水滴の接触角が150°以上になり、ハスの葉の様に水を転がす性質である。この複雑な構造のため、落下する水滴をも弾き返すことができ、それがセルフクリーニング効果を発現する要因になっている。我々は、2006年、2010年にシングルラフネス構造をもつ超撥水性表面を作成してきたが、落下する水滴をバウンシングする(弾きかえす)能力は無かった。今回、光照射と温度制御を組み合わせることで、ハスの葉と同様のダブルラフネス構造を光で再生し、セルフクリーニングの原点になるバウンシング現象が発現するシステムの作成に成功した。光制御による表面の結晶成長でこのような複雑な表面構造を作るのは世界初である。


<研究の結果>
今回ジアリールエテン微結晶薄膜上に作成したダブルラフネス構造をボックスカウンティング法というフラクタル解析法で解析すると、天然のハスの葉のダブルラフネス構造とほぼ同様の粗さ分布をしていることが分かった。これに水滴を落下させると、前述のシングルラフネス構造の膜では水滴は表面に接着してしまうのに対し、ハスの葉同様に水滴がバウンシングすることが確認された(参考図)。このダブルラフネス構造は、可視光を照射すると消失し、紫外光照射により復活する光応答機能も併せ持つ。光照射時間や保持温度を制御することで結晶サイズや長さを調整することができ、天然のモデルに応じて各種のバリエーションを作成することも可能である。


<研究の意義と今後の展開>
現在、「自然に学ぶモノづくり」という観点から、多くの研究がおこなわれている。ハスの葉に限らず水上を走るアメンボの肢などにもダブルラフネス構造がある。ハスの葉のダブルラフネス構造は、葉の汚れを防ぐために自然が与えた知恵であるが、その機能を解明するために光照射と加熱という操作だけで、任意のダブルラフネス構造を作成する手法を見出したことは、今後の自然の仕組みを理解するうえで画期的なツールとなろう。事実、J. Am. Chem. Soc.の審査員は、UVランプとホットプレートだけで、このような複雑な構造が自己組織化を利用して作れるとは!と驚いていた。本研究の成果のもう一つの意義として、このように自己組織化という自然現象を自在に活用すれば、高価で大がかりな装置や手法を用いなくとも、複雑な構造を容易で簡便な方法で作成できることを示した点も強調したい。
自然界の複雑な構造を形成するのも自己組織化であろう。同じ手法で天然の構造を作成できることは、自然のメカニズムを理解する上で画期的な情報を与えてくれるものと信じている。


<参考図>

図1 ハスの葉表面(上)、シングル粗さ構造をもつジアリールエテン微結晶薄膜表面(中)、ダブル粗さ構造をもつジアリールエテン微結晶薄膜表面(下)での水滴の跳ね返り挙動。


図2 ダブルラフネス表面の作成手順と表面の電子顕微鏡写真



<発表論文>
Fractal Surfaces of Molecular Crystals Mimicking Lotus Leaf with Phototunable Double Roughness Structures
Ryo Nishimura, Kengo Hyodo, Haruna Sawaguchi, Yoshiaki Yamamoto, Yoshimune Nonomura, Hiroyuki Mayama, Satoshi Yokojima, Shinichiro Nakamura, Kingo Uchida
Journal of the American Chemical Society (J. Am. Chem. Soc.), 2016, 138 (32), 10299-10303.
DOI: 10.1021/jacs.6b05562
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.6b05562


<研究に関する問い合わせ先>
520-2194 大津市瀬田大江町横谷1-5
龍谷大学理工学部・教授 内田欣吾
Tel: 077-543-7462 / Mail: uchida@rins.ryukoku.ac.jp

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