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犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、作田 誠一郎 准教授(佛教大学社会学部・犯罪学研究センター 嘱託研究員)のコラムを紹介します。

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流行病と犯罪動向――COVID-19とスペイン風邪を通じて
歴史社会学の視点から


 この数カ月でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、私たちの生活を一変させた。中国で発症したというニュースが伝えられた直後は、他国で起こった伝染病の一種であり時期が来れば収まるものと多くの人は考えていただろう。しかし、瞬く間に世界各国に伝染し、多くの感染者と死亡者を生みだした。感染は日本でも全国的に広がりをみせ、政府の自粛要請の中で「3密」(「密閉空間」「密集場所」「密接場面」)を避けた生活を余儀なくされている。この自粛は、感染の拡大を防止するものであるが、一方では中小企業の倒産や雇止めによる失業などが経済的な影響として問題視されはじめている。
 本稿では、政治や経済とは異なり流行病が蔓延する社会と犯罪現象に注目してみたい。日本においてCOVID-19は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が本年2月3日に横浜港へ到着し、船内における感染者の存在が公表されたことにより多くの人びとに周知された。その後、2月25日に「新型コロナウイルス感染対策本部」が政府により設置され、COVID-19に対する基本方針が打ち出された。続いて4月7日に「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が出され、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」のもとで不要不急の外出や施設等の使用制限が要請された。そして、現状としては緩和されつつも「3密」を回避した生活が継続されている。このような社会状況下における犯罪現象に着目しつつ、今回のCOVID-19と同様に世界各国で猛威を振るった「スペイン風邪」(1918~1921年)を取りあげ、歴史社会学的な視点から今後の犯罪動向について考えてみることが本稿の目的である。
 はじめに警察庁の『犯罪統計』(令和2年1月~4月)の資料から現状の犯罪動向について確認する。今年の1月から4月の期間と昨年の同期間の認知件数を比較すると、表1のとおり刑法犯の総数は、234,693件から209,334件とその増減率が-10.8ポイントと減少している。また罪種別の増減率に注目すると、「凶悪犯」では「殺人」が-13.7ポイント、「放火」が-12.1ポイントである。一方で、「強盗」が14.8ポイントと増加している傾向がみてとれる。この増加の傾向は、様々な要因が考えられるが、そのひとつとして本来窃盗目的で侵入したケースが在宅していた被害者と対面して強盗に至った事案も含まれているのではないだろうか。また罪種別で最もその件数が多い「窃盗犯」では、「侵入盗」が-5.9ポイント、「乗り物盗」が-11.9ポイント、「非侵入盗」が-12.1ポイントとなっている。「粗暴犯」では、「傷害」(-11.8)や「恐喝」(-13.0)など、全体的に減少していることがわかる。この刑法犯の認知件数の減少は、自粛による在宅率の高さや外出を控えることによって犯罪被害の機会が減ったことが多少なりとも関連していると考えられる。


表1 刑法犯罪種別にみる成人および少年の認知件数

表1 刑法犯罪種別にみる成人および少年の認知件数


 さらに同表を用いて、認知件数のうち少年のデータに注目する。少年の認知件数の増減率をみると-2.7ポイントと若干ではあるが減少傾向にある。特に「詐欺」は-17.7ポイントと減少しており、特殊詐欺における受け子や出し子に関わる非行事案が問題視されている中で、被害者の振込に際して外出自粛の影響が減少傾向としてあらわれているかもしれない。しかし「凶悪犯」に該当する「殺人」(71.4)や「強盜」(71.4)、「放火」(100.0)や「強制性交等」(12.5)は、いずれも増加している。その他、「粗暴犯」に該当する「脅迫」(36.6)や「恐喝」(16.3)も増加しており、成人の「殺人」(-13.7)や「放火」(-12.1)、「恐喝」(-13.0)が減少している点で、少年犯罪の特徴的な動向として注目される。
 これらの犯罪動向が「コロナ禍」と呼ばれる生活状況および経済状況の変化とどれほど関連しているのかは現時点ではデータの不足も含めて具体的に示すことができない。しかし、今後の犯罪動向について大局的な視点から考察することは可能だと考える。大局的と述べたが、COVID-19と同様に日本において甚大な被害を出した感染症が過去に存在する。それは、1918年から1921年にかけて世界的に大流行した「スペイン風邪(流行性感冒)」である。今日では、「インフルエンザ」と呼ばれ、予防接種を含めてその対策が講じられている。ここで、この「スペイン風邪」が流行した当時の史料からその被害状況と犯罪動向についてみてみたい。
 「スペイン風邪」に関しては、当時の内務省衛生局の記録(1922)からその被害を知ることができる。本書の巻頭には、「全世界を風靡したる流行性感冒は大正七年秋季以来本邦に波及し爾来大正十年の秋季に亘り継続的に三回の流行を来し総計約二千三百八十余万人の患者と約三十八万八千余人の死者とを出し疫学上稀に見るの惨状を呈したり」(内務省衛生局編1922)とある1)
 この記述から、日本における「スペイン風邪」は3回にわたり流行し、多くの患者と死者を出したことがわかる。
 第1回目の流行(大正7年8月~8年7月)は、特に10月から12月に大流行し、患者数が21,168,398人、死者は257,363人に上った。この患者数は全人口の三分の一に達する値であり、死者は人口1000人に対して4.50人であった2)。その対策としては、マスクの使用を励行することや注意喚起の印刷物等を配布する、患者は隔離して全治するまで外出を遠慮し、流行地に於いては多数の集合を避ける等が講じられた。また内務省は「悪性感冒の予防に関する件依命通牒(内務省発第196号)」として、各省庁に注意喚起している。

 次に第2回目の流行(大正8年10月~9年7月)は、患者数が2,412,097人、死者数127,666人であり、第1回目の流行で感染していない者が多く罹患した。第2回目の特徴としては、「患者数は前流行に比し約其の十分の一に過ぎざるも其病性は遙に猛烈にして患者に対する死亡率非常に高く三、四月の如きは10%以上に上り全流行を通して平均五・二九%にして前回の約四倍半に当れり」(同書:88)と報告されている。つまり、2回目の流行の感染者数は、1回目の流行時の約10%と少なかったが、死亡率は前回の約4倍と高い値であった。予防策によって感染者数は減少したが、死亡者数が増加したことが2回目の特徴といえる。最後の第3回目の流行(大正9年8月~10年7月)は、感染者数224,174人、死者数3,698人であり、これまでの2回の流行の被害の中では、感染者数および死者数ともに最も少ない値であった。
 さらに同調査の結果をみると、年齢別の死者の比較として、「各年齢級死亡比例は大体に於て老幼年者に高率を示せり、男女の比較に於て六歳より三十歳まで及び六十一歳以上は女は男より其率稍高く特に二十一歳より三十歳の間及び七十一歳より九十歳の間に大なる差異あるは注意すべき所なるべし」(同書:94)とある。死者に関しては、特に高齢者や未満児といった年代が多かったことが窺える。
 ここまでは、当時の「スペイン風邪」の被害とその対応を中心にみてみたが、本稿が注目する日本の犯罪動向はどのような状況にあったのだろうか。その特徴を知るために当時の統計資料から探っていきたい。表2は、当時の『日本帝国統計年鑑』を用いて「警察検挙人員」、「受刑者」および「刑事被告人」の総計および増減率をまとめた結果である。


表2 大正期の警察の検挙人員、受刑者数、刑事被告人数、新受刑者数および各増減率

表2 大正期の警察の検挙人員、受刑者数、刑事被告人数、新受刑者数および各増減率


 同表から警察の検挙人員をみると、大正7年までその増減率は増加傾向にあったが、大正8年は-4.1ポイント、大正9年は-5.2ポイント、大正10年は-22.8ポイントと減少傾向にあったことがわかる。その後、「スペイン風邪」が終息した大正11年に検挙人員は増加に転じている。
 一方、受刑者数をみると、大正7年では2.8ポイントの増加であったが、その後は大正8年が-2.2ポイント、大正9年は-7.3ポイント、大正10年が-9.2ポイントと減少傾向にあったことが読みとれる。また刑事被告人の増減をみると、大正7年は47.7ポイントと大幅に増加しているが、翌8年には-45.0ポイントと減少している。この極端な増減が数値的に最も影響したと思われる罪種は「騒擾」である。
 この「騒擾」に関する出来事として「米騒動」があげられる。大正7年に米価が高騰しつづけ、民衆の生活に直撃した。富山県新川郡の漁村の騒動が全国的に波及して、東京市では官庁や銀行、会社や交番などが襲撃されて焼き討ちされる事態になった。その対応として、東京では警察をはじめ軍隊が動員されて270名が起訴され有罪となった(源川2007)。この騒動は、社会運動を進展させる大きな転機となったが、警察も「警察の民衆化と民衆の警察化」を掲げ「親切丁寧主義」に立った警察活動が進められる。一方で、この「騒動」に対する政府(内務省)の危機感は警察力の拡張に繋がり、警察官数は大正5年の45,761名から大正10年に55,482名へ増加している(大日方1987)。一般的に、警察官を増員すれば逮捕者、つまり検挙人員や刑事被告人は増加しそうである。しかし、表2をみると「スペイン風邪」が流行した大正7年をピークに、検挙人員および刑事被告人の総数は減少している。
 また新受刑者の罪種別増減率に着目すると、「強盗」は、減少傾向にあるが「殺人」は、小さな振れ幅であるが増減を繰り返している。また「傷害」をみると、大正8年に9.5ポイント増加しているが、翌年の9年には-10.3ポイント減少し、大正10年も-9.2ポイントと減少していることがわかる。「窃盗」は、大正7年に2.7ポイントと僅かに増加したが、大正8年は-10.9、翌9年は-18.9とそのポイントは減少している。判決が言い渡されるまでの時間を考慮する必要はあるが、新受刑者数の総数をみると大正7年は3.2ポイント増加しているが、その翌年は-8.2ポイント、大正9年に至っては-21.4ポイントと大きな減少が認められる。「スペイン風邪」が収まった大正10年においても-19.1ポイントと継続して減少している。判決までの日数等を考慮すると、この新受刑者の大きな減少は、当時猛威を振るった「スペイン風邪」と関連がありそうである。
 次に18歳未満の新受刑者数を「初犯」「再犯」「三犯以上」に類別してみた。「初犯」に関しては、その増減率をみると大正元年より減少傾向ではあるが、大正8年が-22.4ポイント、大正9年は-20.4ポイントと大きな減少が認められる。この減少傾向は、「再犯」および「三犯」にも認められ、全体的な動向として合計をみると大正8年が-22.0ポイント、大正9年が-23.0ポイントと大きく減少していることがわかる。


表3 大正期における18歳未満の新受刑者数および増減率

表3 大正期における18歳未満の新受刑者数および増減率


 ここまで警察の検挙人員、受刑者数、刑事被告人数、新受刑者数、18歳未満の新受刑者の増減率に注目してみてきたが、全体的に「スペイン風邪」が大流行した時期に犯罪傾向が減少に転じていることが各総計から明らかになった。しかし、罪種別にみると「殺人」は増減を繰り返すなど異なる特徴が認められた。
 最後に、当時の新聞報道から「スペイン風邪」と関連する具体的な事件をみてみたい。この分析にあたり当時の新聞報道を調べてみたが、犯罪と「スペイン風邪」を関連付ける記事が掲載されていなかった。つまり、事件報道においては、流行病が蔓延していない平時と同様の報道がおこなわれていたことが特徴ともいえる。その少ない事例として、「二児を絞殺し更に妻を倒す――流感に侵され発狂の結果、凶行後は素っ裸で墓地を彷徨う」(『読売新聞』1920.1.31朝刊)は、流行性感冒で療養中の父親(31歳)が高熱のために精神に異常をきたして長女(6歳)、次女(2歳)を絞殺し、妻(30歳)を斧で斬り付けて重傷を負わせる事件である。このケースは、罹患した加害者が起こした殺傷事件として報道されている。
 また「感冒で重体の兄を共同便所で殺す――取引に窮しての凶行、入院させると騙して連出す」(『読売新聞』1919.2.8朝刊)は、弟(46歳)が兄(50歳)を撲殺した事件である。被害者の兄は、平素より酒癖が悪く他人に迷惑をかけており流行性感冒に罹ってから人力車の稼ぎが途絶え家賃も払えない状態になっていた。さらに、容体が悪化したため弟に引き取ってもらうように大家が交渉したが弟も生計が厳しい状況であった。そこで大家と共謀して病院に連れていくと称して兄を共同便所において石で撲殺したという事件である。このケースは、被害者が罹患して殺された事件であった。
 ここまで世界各国で猛威を振るった「スペイン風邪」と犯罪動向について考察してきた。犯罪事案の減少傾向がどこまで「スペイン風邪」と関連があるのかは、今後さらなる資料の収集と分析が必要である。しかし、約2,380万人が罹患し、約39万人の死者を出す大きな感染症が約100年前の日本社会を襲った事実は、現在のCOVID-19の猛威と重なる部分が多いと思われる。このように目に見えない感染症による社会や経済が混乱する状況では、社会情勢を敏感に反映する犯罪現象に対して歴史的、大局的な視点から分析する試みが今後の日本における犯罪現象の動向を掴むひとつの手立てとして有効ではないだろうか。「スペイン風邪」の流行後、犯罪現象は増加に転じた。この歴史的事実を重視して、COVID-19収束後の犯罪傾向を注視していく必要があるだろう。

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1)漢字は旧字体を新字体に、カタカナはひらがなに改めている。以後、同様。
2)本稿に示した患者数に関しては、同書でも「本調査より漏れたる患者多数あるべきを以て実際の患者数は遙に多数なりしならん」(同書:89-90)と指摘するように、その数値は当時の流行を知るための目安として提示している。

引用・参考文献
・大日方純夫,1987,『天皇制警察と民衆』日本評論社
・内務省衛生局編,1922,『流行性感冒』
・立川昭二,1971,『病気の社会史――文明に探る病因』日本放送出版協会
・警察庁,2020,『犯罪統計』(https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html アクセス2020.5.31)
・内閣統計局編,1924,『第四十二回日本帝国統計年鑑』
・内閣統計局編, 1926,『第四十六回日本帝国統計年鑑』
・速水融,2006,『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』藤原書店
・源川真希,2007,『東京市政――首都の近現代史』日本経済評論社


作田 誠一郎 准教授(佛教大学社会学部・犯罪学研究センター 嘱託研究員)

作田 誠一郎 准教授(佛教大学社会学部・犯罪学研究センター 嘱託研究員)


作田 誠一郎(さくた せいいちろう)
佛教大学社会学部准教授・犯罪学研究センター 嘱託研究員
<プロフィール>
佛教大学社会学部准教授。法務省法務教官、山口大学非常勤講師、北九州市立大学非常勤講師、山梨学院短期大学准教授を経て、現職。専門は、少年非行論、犯罪社会学、教育社会学、歴史社会学。近著に『いじめと規範意識の社会学 調査からみた規範意識の特徴と変化 佛教大学研究叢書』(2020年3月, 佛教大学)がある。

関連記事:
2020年1月に本学で開催された日本犯罪社会学会の講座「犯罪学」において、作田准教授が「トピックス:犯罪・非行の歴史社会学的アプローチ」の授業を担当した。
>>日本犯罪社会学会 講座「犯罪学」を開催【犯罪学研究センター共催】

【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/


新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている学生の支援のために立ち上がった学生応援方策検討ワーキングの活動の一環として、一人暮らしの学生、留学生を対象に昼、夜2食、7日分の食材を提供しました。

今回も時間を分けて3回の食材配布を行い、お米に加えて生鮮食品やレトルト食品などの多彩な食材に3日分のレシピをつけて、メッセージを送りました。
今回も食材の仕分けや配布には、教職員ボランティアが多数参加しました。学生による食材配布アルバイトもしていただいてます。

訪れた学生からは、次のような声をいただきました。
「実家にも帰ることができず、貯金を切り崩していたのでとても助かっている」
「レシピが入っているので、これを機会に料理に挑戦しようと思う。」
「アルバイトにもあまり行けない状態なので食材を提供してくれてありがたい」

同ワーキンググループによる学生支援活動は、先日創設された学生支援募金を財源にして、これからも続きます。今後もご支援の程よろしくお願いいたします。

なお、食生活の緊急支援について[6月27日(土)追加募集分]のご案内について
食生活の緊急支援について[6月30日(火)・7月4日(土)提供分]の申込フォームを、ポータルサイトの「アンケート」欄にアップしました。
ご確認ください。
記載内容確認の上、ご希望の方は6月25日(木)14:00までにお申し込みください。

(参考)URL 第2回・第3回の食材提供の取組みを開催【学生応援方策検討ワーキンググループ】
(参考)URL 大阪王将が龍谷大学の行う学生への食材支援に参画【学生支援特別推進室】
(参考)URL 新型コロナ感染症拡大に伴う緊急支援策
(参考)URL 一人暮らしの学生を対象にした食材支援の取り組みがテレビ等で報道されました【学生応援方策検討ワーキンググループ】
(参考)URL 【学生・保護者のみなさまへ】新型コロナウイルス感染症による新たな経済的支援制度について






 6月19日に、社会学部の科目「社会共生実習(大学は社会共生に何ができるのか―文化財から“マネー”を創出する―)」(担当教員:社会学科 髙田満彦、猪瀬優理)にて、小畑博正氏(嵯峨美術大学 芸術学部デザイン学科 観光デザイン領域 教授)を招いてオンライン授業が開講されました。


授業の様子

 小畑氏はもともと、大手旅行代理店にお勤めされていたご経験があり、その時の企画やプライベートでの観光に関するユーモラスなお話を冒頭にご紹介くださり、まずは、どんなものでも観光資源になり得ることを教えてくださいました。

 また、一見、その地域に関係ないものや他の地域の真似で始まったものでも、地元の方が大切に育むことでその土地の観光資源、しいては“観光文化”(観光によって創出された文化)となり得ることを教えてくださいました。

 例えば、小畑氏が考える日本最強の“観光文化”は、世界で唯一無二の劇団である「宝塚歌劇団」だそうです。これは、創設者である小林一三氏が阪急電鉄の鉄道を起点に都市開発のために生み出したものでしたが、100年以上かけて地元住民に愛されることで立派な“観光文化”といえるものになりました。

 また、海外で生み出された“観光文化”の例として、近年話題となっているバスクチーズケーキ(通称:バスチー)で有名なスペイン北東部の都市であるサン・セバスティアンのこともご紹介くださいました。地元の特産品を生かし、新しい調理法を果敢に取り入れた「ヌエバ・コシーナ」(新しい食運動)という地元の料理人たちの運動が実を結び、「美食世界一」という無形の“観光文化”を生み出したそうです。

 最後に、これらの事例をヒントにすると、滋賀県において「文化財からマネーを創出する」には、他地域の方から見ると珍しく、日常とは異なるものと受け取ることのできるものを、地域の日常や当たり前の食、気質、精神、風土などの「滋賀県の日常」のなかから、再発見していくことが必要であると指摘されました。そして、地域にストーリを作り出す「質の観光」を目指すことを提案してくださいました。


小畑博正氏


資料を用いて丁寧に説明してくださいました

 小畑氏のご講話を受けて、本プロジェクトの受講生からは、「滋賀県民は“観光文化”となり得るものが滋賀県にはないと思っている人が多いように感じる。その認識をどのようにして変化させればよいか」、「“観光文化”を育むためには長期にわたって取り組む必要がありそうだが、短期戦に持ち込むにはどうすればよいのか」、「地域の中でも人によって“観光文化”にしたい資源がさまざまに分かれると思うが、どうすればよいのか」などといった質問が相次ぎ、それぞれに小畑氏流の回答をいただきました。

 受講生らは、こうした問いに今後の本プロジェクトの活動の中で自分なりの答えを見出していくことになるのだと思いますが、今回、小畑氏による新たなアプローチ方法を勉強したことで、より良い答えを導いてくれるのではないかと期待しています。

社会学部「社会共生実習」について、詳しくはこちらの【専用ページ】をご覧ください。


2020年5月14日、犯罪学研究センターは、第19回「CrimRC(犯罪学研究センター)研究会」をオンライン上で開催し、25名が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-5496.html

今回の研究会では、ディビッド・ブルースター氏(犯罪学研究センター・博士研究員)と牧野雅子氏(犯罪学研究センター・博士研究員)の2名から報告がありました。



はじめに、ディビッド・ブルースター氏から「交渉された秩序:家族と違法薬物使用のはじまり」の報告がありました。

近年、違法薬物使用者の高い再犯率が注目されています。再犯率を減らすために、一部執行猶予などの法改正にとどまらず、SMAAPP*1をはじめとして、リハビリ・治療に対する需要が高まっています。その一方で、依然として司法や教育の現場においては、ゼロ・トレランス*2の方針によって違法薬物使用者に対して厳しく、スティグマ*3を与えてしまう可能性が懸念されています。ディビッド氏は「心理学・精神医学の知見、依存症に対する治療は確かに目覚ましいが、再犯率を減らすにはこれだけではまだ不十分である」と指摘。薬物使用者個人の体験に関するインタビュー調査*4を通して違法薬物使用者と家族の関係性に着目しなぜ違法薬物を使用したのか、社会的要因を分析しています。

まずディビッド氏は、研究の理論的な枠組みとして、「交渉された秩序(negotiated orders)*5」を用い、犯罪行為に対する「トップダウン*6」「ボトムアップ*7」という2つの視点の統合化の試みを提示。そして公式の秩序(学校や職場、刑務所、病院)、非公式の秩序(家族、友人、コミュニティ)を通じて個人はアイデンティティを形成しているが、社会関係の中でつまずきを抱え、社会適応がうまく出来ないことによって逸脱行動にいたってしまうサイクルを説明しました。一度非行少年というレッテルを貼られたら、周囲の大人からはそのような人格であるとみなされ、「規制秩序の気質を示さない」として社会から孤立してしまうと表現。ディビッド氏は「社会において人はお互いにラベリングをします。それは時にポジティブであり、またネガティブなものです。若者の非行が問題になりますが、大抵は軽微で若者の成長過程においては普通のことです。重要なのは若者に対してネガティブなレッテルを貼ったまま放置しないということです。レッテルにとらわれない自由な社会を目指すことが重要だと考えている。しかし、逸脱行為の背景を分析しないと、さらなる懲罰や社会的排除を助長する可能性がある」と懸念点を挙げ、社会の秩序と適応のバランスをとることの難しさを述べました。

つづいて、日本ではどのように社会秩序が形成されているかを分析。この中で家族が果たす役割に着目しました。「自分の子どもが高学歴に目指すことができるようサポートし、家庭において親が子を甘やかすような関係」というふうに、戦後の民主化を経て家族のあり方がそれ以前の時代と現代とでは少なからず変化したものの、「日本は家庭・家族という概念・要因が一番人格に影響しており、家族を通して社会と交渉していると言える」と考察しました。また少子化問題に関連して、「LGBTは生産的でない」という言説や、女性に家庭の責任を一方的に押し付けるという保守的な日本社会の考え方についても指摘しました。ディビッド氏は「ポイントは、先に述べた現状が「理想の子ども」の概念を生み出し、そしてジェンダーや社会階級などの社会文化的な次元によって形成されるということです。また、家族のメンバーが社会の中でどのように位置づけられているかによっても形成されます。つまり、「良い家族」、「男らしさ」、「真面目な子供」などについてのより広い社会的な考えを受け入れる家庭があるということです。その結果、社会的に受け入れられている成功の基準(例えば、高学歴・学力向上)のために、子供を強く励ましたり、圧力をかけたりすることになるかもしれません。また、他の目標を重視する家庭もあるでしょう。」と述べます。
そうした結論に至った裏づけとして、自身が行ったインタビュー調査の内容から一部を紹介。そこでは元薬物使用者が多感な年頃に受けたさまざまな傷、たとえば親からの将来についての過度な期待・重圧や、周囲の環境、虐待を理由とした家出など、家族にまつわる問題が多数存在していました。

最後にディビッド氏は、「日本は、家族や親を通して社会とつながっている傾向が強いことから、家庭環境の悪化が逸脱的な行為へと駆り立てるアイデンティティを形成する原因となり、その結果として社会から孤立して排除されてしまう。薬物使用の害を防ぎ、軽減するためには、家族が抱える問題の悪化をいかに防ぎ解決するかが重要となる」と述べ、解決には親のワークライフバランスや教育制度を見直す必要があるとまとめました。そして今後の展望として「当事者だけではなく違法薬物に関する実務家を調査対象とし、2つの研究プロジェクトから得た知見を組み合わせて新しい理論を作りたい」と述べ、報告を終えました。
 

つぎに、牧野雅子氏から「電車内痴漢言説の変遷――戦後大衆誌の分析から――」の報告がありました。この報告は著書『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス、2019)の第2部「痴漢の社会史 痴漢はどう語られてきたのか」を中心に行われました。
【参照】https://etcbooks.co.jp/book/chikan/

痴漢についての語りは、語り手のジェンダーや世代、地域によって大きく異なります。現在一般的なメディアで目にする痴漢についての認識が、かつても同様だったというわけでもありません。要因や被害者に対するセカンドレイプの問題も含め、痴漢という性暴力は、加害者個人の行動だけが問題なのではなく社会の問題、つまり、その構成員たるわたしたちの問題でもあります。牧野氏は、「性暴力の防止や被害者支援を考えていくためにも、これまでの痴漢認識を振り返り、共有することが必要だ」と主張し、その一助とすべく、本研究は行われました。*8
分析には電車内痴漢に言及した戦後の新聞・雑誌記事を扱っています。雑誌記事索引や新聞のデータベースを用いて、痴漢に関連するワードで記事の検索を行い、そこから電車内痴漢に言及したものを抽出し、関連記事や書籍を加えて分析対象としました。

電車内痴漢は、戦前からあり、電車内のいたずらといった表記で記録が残っています。当時から、痴漢行為は女性たちにとって深刻な性被害でした。戦後、働く女性の増加に伴い、電車の中での痴漢は、女性にとって日常生活上の切実な問題となっていきます。女性誌では、痴漢撃退法や体験談を共有する特集がしばしば組まれるようになった一方で、男性誌では、痴漢の多い路線情報、痴漢加害者による体験談、痴漢テクニックの紹介等、さながら痴漢のススメとでも言うべき記事が多く掲載されています。痴漢被害体験記は、女性は痴漢を喜んでいるのだと解釈されてポルノのように読まれ、作家や漫画家による痴漢を肯定する論考も頻繁に掲載されました。そこでは、女性は痴漢の共犯者であるとか、痴漢被害に遭うことは女性として評価されたと思うべき、痴漢行為は女性に対するサービスである等と、女性の被害性を否定し男性に都合のよい解釈がなされていました。加えて、男性はみな痴漢であるかのような言い方も、当然のように男性によってされていました。

1980年代になると、男性誌の痴漢記事の内容はエスカレートし、痴漢テクニックを学べるAVの紹介や、具体的な痴漢の仕方や狙いの定め方、捕まった場合のいいわけ等、常習者の痴漢技を教える記事が多く書かれ、気鋭のクリエイターによる痴漢特集も組まれるほどでした。女性記者やタレントが、実際に電車に乗って痴漢被害を体験してレポートする企画も多く見られます。女性タレントに被害体験を語らせる企画も人気でした。女性にとって、自らの性被害を告白することは、当時も不利益を被ることでしたが、痴漢の被害であれば許容されるのは、痴漢が性被害と見なされていなかったということを意味しています。

1990年代に入ると、メディアにおける痴漢の扱いはより過激になり、痴漢ブームとでも言うべき様相を呈します。男性誌には痴漢を扱った記事が非常に多く掲載され、痴漢体験記、痴漢マニュアル、痴漢常習者による手記が刊行された他、痴漢専門誌までもが創刊されました。この頃は、有名人が痴漢加害体験を公言することは、不名誉なことではなく、タレントやミュージシャン、作家たちが、痴漢加害経験を誇らしくノスタルジックに語っています。濡れ衣を晴らそうとする人を揶揄して笑いものにするような風潮も見受けられ、今でいう痴漢えん罪は、男性にとっての笑いの対象であったことが窺えます。女性たちは、この痴漢ブームに手をこまねいていたわけではなく、問題図書の発売に抗議したり、警察や交通機関へ対策の申し入れ*9や被害調査等を行いました。警察の痴漢取締りに力が入れられていくのも、この頃のことです。

2000年、痴漢事件で無罪判決が相次ぎ、痴漢えん罪が社会問題となると、それまで男性誌で圧倒的なボリュームを誇っていた痴漢を扱った記事(沿線情報、被害者の写真付きで紹介される被害体験記、常習者の手口の紹介等)は、ほぼ姿を消します。被害者の保護や女性運動によってではなく、男性が「痴漢えん罪被害」に遭うことへの怖れから、痴漢ブームが終焉。代わりに、痴漢えん罪問題についての記事が多く掲載されるようになりました。かつての痴漢記事として表出していたものは、痴漢えん罪を託ったミソジニー言説と変化していきました。

戦後大衆誌の痴漢に関する記事の分析のまとめとして、牧野氏は、「言説生産者であるメディアやそれを無批判に受容してきた読者層の問題を問うことなく、施策についての議論はできない」と述べ、報告を終えました。

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【補注】
*1 SMAAPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program):
せりがや覚せい剤依存再発防止プログラム(SMARPP)とは、神奈川県立精神医療センターのせりがや病院にて松本俊彦医師が中心となって開発された、精神刺激薬である覚醒剤への薬物依存症を主な対象とし、認知行動療法の志向をもつ外来の治療プログラムのこと。8週間全21回という短期集中セッションの形式で開始されたが、現在は週1回24週のプログラムとして実施されている。

*2 ゼロ・トレランス
割れ窓理論に依拠し、軽微な犯罪・非行に対して厳格に対応する処置。
割れ窓理論(Broken Windows Theory)は、地域の状況から犯罪や予防を考察する環境犯罪学の立場からアメリカで提唱された。落書きなど小さな秩序違反を放置すると、住民の地域に対する愛着が薄れ、人心が荒廃して犯罪が増加するというサイクルをフィールド実験等で実証した。この理論に基づく日本における近年の取り組みとして注目されているものに、東京足立区の『ビューティフル・ウィンドウズ運動』がある。
詳細:https://www.city.adachi.tokyo.jp/kikikanri/ku/koho/b-windows.html (足立区HP)

*3 スティグマ
他者や社会集団によって個人に押し付けられた負の表象・烙印。

*4 本調査は、下記の研究助成によるものです。
松下幸之助記念志財団(2018年度研究助成:助成番号18-G48)
研究題目「Illegal Drug Abuse Control in Japan」
http://matsushita-konosuke-zaidan.or.jp/works/research/promotion_research_02_2018.html

*5 交渉された秩序(negotiated orders):
社会学のアプローチのひとつ。本報告では、McAra and McVie(2012)を参考に社会における様々な要因(公式・非公式の秩序)によって個人のアイデンティティ・人格が形成される過程に着目し、既存の犯罪学理論の統合を試みている。

*6 トップダウン(top-down)型
ミシェル・フーコー(Michel Foucault)の統治性概念をベースに統制や体制、権力構造という側面から犯罪行為について考える立場。

*7 ボトムアップ(bottom-up)型
犯罪社会学における社会相互作用の側面から犯罪行為について考える立場。アメリカの社会学者であるハワード・ベッカー(Howard S. Becker)やD. マッツァ(David Matza)、アーヴィング・ゴッフマン(Erving Goffman)の提唱した理論を念頭においている。

*8 本研究は、JSPS科研費JP16K02033の助成を受けたものです。

*9 地下鉄御堂筋事件
1988年に大阪市営地下鉄御堂筋線の車内で痴漢を目撃し、それを咎めた女性が、痴漢をしていた男二人から因縁をつけられうえ拉致され、性暴力被害にあった事件。この事件を機に「性暴力を許さない女の会」が発足。同団体は、性暴力被害をなくすため、車内広告やアナウンスなどのPR、見回りの強化など、警察や交通各社に対し対策強化を申し入れた。
参考:第1回公開研究会「性暴力・セクシュアルハラスメントを考えるために――性暴力の顕在化・概念化・犯罪化」を開催【犯罪学研究センター】
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-2304.html


6月19日起,残障学生支援室的使用方法,请参照如下内容。
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