東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長による女性を蔑視する発言が、社会に大きな波紋を投げかけています。
今回の発言は人権尊重の観点から極めて不適切で、残念な気持ちでいっぱいです。ただ、これは個人の問題ではなく、私たちの組織や社会に現在もなお根強い差別や偏見があることを示しています。発言の背景にあるのは、マイノリティはマジョリティに従う、弱者は強者に従うべきという、同調を善とし多様性を排除する潜在意識、そして根拠なくステレオタイプに見る固定観念ではないでしょうか。つまり、性別だけでなく、人種、民族、国籍、ルーツ、宗教、信条、社会的立場、年齢、性的指向、性自認、障がいの有無、経済格差など、さまざまな人権課題の一部が現出したに過ぎません。
龍谷大学は、人権に関する基本方針の前文で、“さまざまな人権侵害を克服するためには、加害者だけの問題として済ませるのではなく、加害者を取り巻く社会構造や背景、つまり社会が抱える問題認識とそれらを解決するための取り組みが欠かせません。人権の問題や差別は、意図的な行為だけでなく、無意識のうちに自己中心の見方によって引き起こされることにも注意を向ける必要があるでしょう。たとえば、人の個性は一人ひとり違っていて、性のあり方も多様です。その理解が不十分で、画一的な観念や固定的な性別役割に囚われていると、知らず知らずのうちに相手を傷つけることがあります。無知や無関心、そして多数者への迎合による「無意識の差別」についても、その自覚と克服の努力が必要でしょう。”と明記しています。
残念ながら、私たちの大学や日常生活においても様々な人権課題があります。この問題は、社会全体の問題であると同時に、私たち一人ひとりの問題でもあるのです。
見えにくい差別に対しても鋭敏な感覚を醸成し、自他を平等に見ようとする眼差しを涵養することが、私たちの責務です。一人ひとりの力は弱くても、より良く変えていこうと努める姿勢を示し続けることこそ、人権が尊重される社会に向けた最も重要な実現過程だといえます。
誰一人取り残さない社会の実現にむけて、気づくこと、気づいたときに行動すること、一人ひとりが変る勇気を持つこと。
いま、「私」自身が問われています。
2021年2月16日
龍谷大学人権問題研究委員会