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Vol.09 March 2025
子どもを取り巻く環境変化に、 家族はどう対応する?

家族療法の第一人者に聞く、家庭内にポジティブな循環をつくるコツ

Overview

卒業や入学など、春は子どもの環境が大きく変化する季節。子どもの心に揺らぎや不安があった時、「親として、家族として、子どもに何をしてあげればいいか?」という不安を感じる保護者も多いだろう。家族療法を専門とする龍谷大学心理学部の東豊教授が研究している「システムズアプローチ」は、人と人の相互作用から、職場や家庭の人間関係をとらえようとするもの。セラピストとして40年以上、多くの家族に向き合ってきた教授は、関係性を改善するための視点を、「P(ポジティブ)循環・N(ネガティブ)循環」という概念を用いて伝えてきた。東教授は、「問題のある子ども」「問題のある親」がいるのではなく、家族という「システム」のなかで解決が必要な状況が生み出されていると考え、そこから、状況改善の糸口を見つけることができるという。入学や卒業など、子どもの環境が大きく変化する時期、保護者としてもいろいろと不安を感じてしまうもの。しかし見方を変えれば、それは「家族というシステムのあり方を見直すチャンス」でもある。困りごとの「犯人」探しではなく、家族全員のポジティブな変化を促し、好ましい方向性を求めていきたい。進むべき方向性を「灯台」のように示すカウンセリングのあり方を、提言、実践してきた東教授。教授自身の臨床における実例をもとに話を聞いた。

Opinions

監修 東 豊 / 龍谷大学心理学部・教授 / 博士(医学)

1 問題の“犯人探し”ではなく、関係性に目を配る

東豊教授が研究している「システムズアプローチ」は、「現象を決めているのは、人間関係の中のいろいろな相互作用」だという見地に立つ。そのため、心理的な問題の「原因」を特定し、個人に対して「治療」を施す、という方法論は採用しない。問題を個人の内面だけに求めず、家族や職場など、集団内で人と人とが相互に与えあう心理的な作用を全体として理解し、状況改善へと切り込んでいく。したがって、カウンセリングで目指すのも、家族や学校など、集団全体を対象とした「システムの変化」。過去、東教授のもとに「息子が包丁を振り回して暴れる。精神病に違いない」と訴える父親が訪れたことがあった。しかし丁寧に状況を振り返ってみると、毎回、口論が激化し、互いの感情がエスカレートした結果、そのような事態に至っていると判明。父親自身がこの「悪循環」に気づき、対応を変えることで状況は改善したのだそう。問題の「犯人」を突き止めようとするのではない、包括的で根本的な臨床心理学ならではアプローチだ。

2 P(ポジティブ)循環が「自らの力でよくなる」状況を生む

ひとつの問題が起きる背景には、家族、医療者、学校と、さまざまな相互作用の存在がある。「問題維持システム」と呼ばれる構造が出来上がってしまっているとき、そこに変化を起こすためのツールとして、東教授が提唱するのが、P(ポジティブ)循環、N(ネガティブ)循環というアイデアだ。楽しい気持ちのときは体調も良好で、悩んでいるときには身体にも不調を感じる。「心身交互作用」として提唱されるこのメカニズムだが、人間関係でも同様のことが言えるという。明るく人と関わっていると、それが周囲に連鎖して明るい雰囲気が広がっていく、という経験をした人は多いだろう。N循環から抜け出し、P循環をつくるためには、相手に「ありがとう」「うれしい」「たすかる」など、シンプルでも良いので、ポジティブな言葉を投げかけることから始めてみるのがおすすめだ。東教授はこの3つの言葉の頭文字をとって、P循環を生み出す「心のアウター」と呼んでいる。「システムを内部から変えるのは簡単なことではありません。家族や集団が問題に気づき、自らの力で良い状態になる。そのためのツールとして、P循環・N循環の考え方を用いてもらえたら」。

3 子供を変えるのではなく、自分が変わることで状況を変える

子どもの様子に不安を感じたとき、保護者としては「この子はどうしたら変わってくれるのか、この子に何をしてあげれば良いのか」と悩んでしまうもの。しかし「システムズアプローチ」の観点から見れば、問題は子どもだけにあるわけではなく、着目すべきは子どもと家族や環境との相互関係だ。「問題行動が見られたときには、その子が“悪い子”なのではなく、そのように振る舞わざるを得なくなっている状況を、システムが作り出しているのかもしれないと考えてみるのです」と東教授。状況を変えるためにはどうしたらいいか。「まず、相手ではなくこっちが変わってみること」。自分が変わることによって、相手が変化し、それがP循環としてフィードバックされ、家族の空気が変わってくる。そのような事例を東教授は数多く経験してきたと言う。「環境が変わり、子どもをめぐる困りごとが生じたら、それは家族のあり方を見直すチャンスです。家族がより良い状態になるためのきっかけとして、ポジティブに捉えてほしいと思います」。

4 子どもを思うからこそ、時間がかかって当然。焦らず気長な取り組みを

関係性をポジティブな状態に持っていくために、カウンセラーやセラピストが用いる「ジョイニング」と言う手法がある。保護者の話に耳を傾けることで信頼を得て、距離を縮める。そこで大切なのは、肯定すること。それによって緊張が緩和され、「何故あんなに一生懸命、心配してたんだろう」と、こだわりを持っていた状態から解放されて子どもを信じる余裕が生まれる。『心配しても仕方がない。良い意味で、なるようになる』。そんな境地です。信頼関係を構築するには、まずは子どもを、心配して叱責するのではなく信じること。そして選択の自由を与えることが大切です」。子どもの自由を尊重したことで、改善した事例は少なくない。その一例として、中学進学をきっかけに不登校になり、家で暴れるようになった子どもについて相談しにきた一家のことが、東教授の印象に残っていると語る。「お子さんに厳しく接し、学校復帰を強く求めるお父さんと、内心、お父さんのやり方に反対しつつも言い出せないお母さん。双方の話を聞いたうえで、私は子どもの気持ちに寄り添うお母さんの立場を支持しました。お父さんには一時的に直接の関わりを控えてもらい、子どもの選択を見守る姿勢へと変化を促すことで、状況は少しずつ変わっていき、塾通いを経て高校からは通学も再開。以前よりずっと明るい表情を見せるようになったお子さんを見て、お父さんもハッとしたようでした」。とはいえ、子どもを気にかけるほど、自由にさせるのは難しいもの。「わかっていてもできないのが普通ですから、変われないからといって自分を責めないでほしい」と東教授。先の事例でも、一進一退を繰り返しながら、安定した状態に至るまでには3年の時間をかけたと言う。システムを変えるためには、時間がかかる。ポジティブな変化を目指すべき灯台として見つめ、焦らず気長に取り組みたい。

Learn More 関係変化によって困りごとを解決するための副読本

悩みを抱える子どもや家族に向けた、東教授の著作を紹介。関係変化によって困りごとに対処する方法を詳しく、わかりやすく描いた3冊。

総合監修

東 豊(ひがし ゆたか)
/ 龍谷大学心理学部・教授 / 博士(医学)

家族療法を中心に、効果的なカウンセリングの方法についての研究・実践および指導を生業としている。趣味はクラシック音楽鑑賞、料理(週に3〜7回)、神社参拝。特技は犬の調教。大切にしていることは先祖供養。

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