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Vol.08 December 2024
復興力を地域に宿す。 人口減少時代の地域レジリエンス入門

人口減少社会における復興は「量より質」へ。重視されるのは、地域の人々の満足度だ。

Overview

地震などの自然災害が頻発する日本。防潮堤整備や建物の耐震性向上など、ハード面の整備に重点が置かれていたのが従来の「復興」のあり方だった。
しかし現在では、復興はハード面による量的整備からソフト面も含めた質的な満足度への転換が図られている。1995年の阪神・淡路大震災以降、災害を未然に防ぐ「防災」だけではなく、災害が起きることを前提に、ダメージを最小限に抑えようとする「減災」の考え方が普及した。さらに2011年の東日本大震災を契機に日本で注目されるようになったのが「地域レジリエンス」という考え方だ。日本語では「地域回復力」と訳され、地域がリスクを予見し、危機に対して、持続可能な状態を維持しながら乗り越えていく力のことを指す。
龍谷大学政策学部の石原凌河准教授は、地域レジリエンスを高めるには、住民の満足度を重視して復興にあたること、そして、地域外のサポーターの復興参加度を高めることが大切だと提唱する。

Opinions

監修 石原 凌河 / 龍谷大学 政策学部准教授

数値には表れない「満足度」という復興目標

「地域レジリエンス」が目指すのは、災害に強く、持続可能な社会をつくること。「災害に強い」とは、どのような状態なのか。前提として、人口増やハード面の堅牢さを指標としていた過去の復興観から脱却することがまず必要だと石原准教授は言う。「2024年の能登半島地震では、被災した多くの地域が過疎に見舞われていました。元々人口が減少していた地域の場合、人口という指標で回復度は測れません。これからの復興で重視すべきは『この地域に住み続けられてよかった』と住民が誇りに思えるかどうか、という満足度の部分でしょう」。
大切なのは、復興後の地域社会が、そこに暮らす人々にとって良い状態で持続することだ。その先例が、1925年に発生した北但馬地震による火災で焼け野原となった城崎温泉にある。「温泉街は復興の際、防火のために鉄筋コンクリート造の建物を要所要所に建設し、ほとんどの旅館は焼ける前と同様に木造で再建されました。火災リスクを認めながら、それでも温泉地域の文化と情緒、生活を尊重したのは、住民の意思を重視してのこと。命を守ることはもちろん大切ですが、人は災害だけを考えて生きているわけではないのです」。

必要なものは、地域に入ってこそ見えてくる

持続可能で満足度の高い復興のために、(すなわち地域レジリエンスを高めるために、)コミュニティに必要なものは何か。その答えは地域ごとに異なる。
「能登半島のとある被災地では、地域固有の文化である『祭り』を通したつながりが、地域レジリエンスの向上に強力に寄与していました」と石原准教授は言う。その地で何が回復力になるのか、石原准教授は、地域ごとに異なるファクターを現場の人々とともにリサーチするアクションリサーチ(=研究者と実践者が協力して、実践的な問題を解決する手法)を重視する。「ここで大事なのは、一緒にリサーチをする人々や現場の人々との信頼関係です。学生とともに地域の現場で防災に関する実践的な取り組みを行っていますが、学生達が地域の防災力を高める取り組みを提案しても、現場の人々からは最初はまったく聞き入れてもらえません。しかし学生が祭りの手伝いに行ったり、一緒にご飯を作ったりするなど、両者が何気なく過ごすうちに次第に波長が合い、最終的には学生からの提案を受け入れてもらうようになります。同じことを提案するにしても『何を話すか』よりも『誰から話してもらうか』が大事なことってありますよね」。
同じ釜の飯を食べるような交流を経て、調査は深まり、提案は形になる。その積み重ねが、地域レジリエンスの向上につながるのだ。

復興を「みんなの自分ごと」にするために

「住民が減少していても、地域外のサポーターとのつながりを増やすことで、地域レジリエンスを高められます」と石原准教授は言う。観光や趣味のために訪れた人が地域を好きになり、災害時に頼れる"仲間"になるケースは多い。つながりの核は、地域への愛着や共感だ。
「2004年に起きた中越地震の被災者が、能登半島地震の被災地を支援する動きも見られます。被災地同士の共感が支援の輪を広げた好例でしょう」。つながりの力を最大化するには、地域に入りやすくする"お膳立て"も有用だ。龍谷大学では、大学から被災地にバスを出し、学生たちが集団でボランティア活動に参加できる仕組みを整備している。学生側の参加ハードルが下がるだけでなく、同じ大学から継続して訪れることで、地域の安心と信頼が高まるという。
また、これらの応援を適切に受け入れるための「受援体制」の整備を日頃からつくっておくことは、各地域で事前にできる備えのひとつだ。

多層的な「つながり」を結び、回復力を生み出す

事前に強化しておきたい「つながり」には、地域内部における組織間の連携もあげられる。平常時・災害時を問わず1人あたりの負担が高まる人口減少社会において、災害時に対応する組織を新たに立ち上げ、そこですべてを担おうとするのは現実的なやり方ではない。「だからこそ、PTAや町内会・自治会など、すでに地域で活動している組織同士がつながり、リソースを共有することが重要です」。
人口の絶対数が減少するなかで、災害時の対応力を総体的に高めるためには災害が起こる前からのつながり、つまり「協働」と、地域固有の「文化」の存在の姿勢がますます重要になると語る石原准教授。自身もつなぎ役になりたいと、地域に足を運ぶ日々だ。「地域内外で多層的にパートナーシップを結ぶために、どんな仕組みやコミュニケーションが必要なのか。それを考えながらアクションを起こしていくことで、社会全体の回復力を高められると考えています」。

Action

地域に入り、レジリエンスを共創

大学や研究者は、地域に対してどのような関わり方ができるのか。龍谷大学と石原准教授が携わる事例から、理論をアクションへ落とし込むための視点を探る。

ボランティア・NPO活動センター
継続的な活動で、地域との信頼関係を築く

近年、ボランティアセンターを設置する大学が増加している。
この流れに先立ち、龍谷大学では2001年にボランティア・NPO活動センターを設立。専任のボランティアコーディネーターが、学生スタッフと共に学内外からのボランティアに関する相談対応を行っている。学内では活動先紹介や研修、学習プログラムなどの様々な事業を展開。学生と教職員が共に被災地で活動する災害支援ボランティアの企画や、災害支援ボランティア活動に参加する学生が利用できる活動助成金制度など、被災地での活動についても、センター独自の取り組みを積極的に行っているのが特徴のひとつだ。
そのなかには、東日本大震災や能登半島地震の復興支援活動など、発災以降、長期にわたって継続的に実施している取り組みもある。こうした活動の積み重ねが、地域との関係を密に築くことに繋がっている。

地区防災計画の策定
地域の人が「やってよかった」と思える計画をつくる

これまで石原准教授が地区防災計画の策定や改定に携わった地域は、滋賀県草津市の小学校区を中心に10以上。災害時に地域コミュニティが効果を発揮するための計画策定に、防災のプロとして参画する。
石原准教授いわく、専門家に求められるのは「専門知識の押し付けではなく、地域の声を引き出す力」。「計画はいざというときに活用できなければ意味がない」ということを前提に、人々から「どうありたいか」「なにをやりたいのか」をまず引き出し、それを実現するためのハードルを取り除いていくことで、実効性の高い計画の策定を目指す。

※石原准教授は矢倉学区、笠縫学区、志津学区、老上学区の地区防災計画策定に参画

防災教育出前授業
子どもをハブに、地域全体のリテラシーを底上げする

石原准教授のゼミでは、毎年、南海トラフ地震による被害が懸念される徳島県の小学校に赴き、防災の出前授業を実施している。地域レジリエンス強化のためには各種地域コミュニティやPTAなどの「今あるつながり」を活用することが重要だと考える石原准教授。
これまでの授業では、学んだ内容をもとに児童に家族に向けた「手紙」を書いてもらうなど、家族も「つながり」のひとつと捉え、より広く防災・減災のための知識を波及させるための工夫を行ってきた。これらの「繋ぐ・深まる防災教育」をコンセプトにした実践的な取り組みが評価され、2022年度には「ぼうさい甲子園」で大学生部門の大賞を受賞した。

Information 龍大の学びと取り組み

総合監修

石原 凌河(いしはら・りょうが)
/ 龍谷大学 政策学部・准教授 / 博士(工学)

「臨床防災学」を標榜し、現場の方々との対話を重視しながら地域の防災に関する研究や実践に日々取り組んでいる。大学生の時、防災のゼミにたまたま所属したことがきっかけに、防災研究の奥深さに目覚める。自分自身の防災意識向上のため日々精進している。

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BEiNG

社会と自己の在り方を問うメディア

急速に変化するイマを見つめ、社会課題の本質にフォーカス。
多角的な視点で一つひとつの事象を掘り下げ、現代における自己の在り方(=being)を問う新しいメディアです。

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