龍谷大学 You, Unlimited

Need Help?

  • 入試・オープンキャンパス arrow_forward_ios
  • 学部・大学院 arrow_forward_ios
  • 大学紹介・研究 arrow_forward_ios
  • 学生生活・就職支援 arrow_forward_ios
  • ニュースセンター arrow_forward_ios

Vol.13 March 2026
「初対面の他者」として、自然の声に耳を澄ます。 100年単位の自然共生

Overview

「持続可能性」という言葉が社会に定着して久しい。しかし、その解決策を模索する中で、私たちは無意識のうちに自然を「管理可能な資源」と見なし、コントロール下に置こうとしてはいないだろうか。森林生態学者・横田岳人准教授は、この認識の背景に、現代社会の短期的なサイクルと自然の営みのあいだに存在する「時間軸のズレ」と、自然に対する「身体感覚・想像力の欠如」があると指摘する。企業の計画が数年単位で動く一方、森の営みは50年、100年という、人の寿命を超えるサイクルで動く。かつての日本には、目先の利益を越え、数世代先の未来を見据えたシステムが存在していた。今必要なのは、自然を人間の都合でコントロールすることではなく、「他者」として対峙し、その声に耳を傾ける姿勢への転換だ。龍谷の森や大台ヶ原での実践を通じ、自然に対する「想像力」を取り戻すための視座を紐解く。

Opinions

監修 横田 岳人 / 龍谷大学 先端理工学部・准教授

1. 自然共生を考えるための長期的視点

現代の環境問題を考える上で大きな壁となるのが、社会システムと自然界のタイムスケールの乖離だ。「行政や企業の計画は5年から10年、長くても20年という時間軸で行われることがほとんど。しかし、森の営みは50年〜100年という、人の寿命を超えるサイクルで動いていくものです」と横田准教授は指摘する。

自然とともにある営みは、この長い時間軸に身を置くことが前提となる。そのあり方を私たちに示してくれるのが、かつての林業の姿だ。木を育てるという行為は、孫やひ孫の世代まで見据えた50〜100年単位の視野がなければ成立しない。かつての人々は自分の寿命を超える時間軸を当然のものとして受け入れ、未来の世代への資産継承を経済活動の中に組み込んでいた。 伊勢神宮の式年遷宮では、現在も20年ごとの遷宮のために約200年先を見据えて木を育てるなど、技術や素材を継承する超長期的な枠組みが継承されている。こうした「100年の計」が失われつつある今、人間中心の短期的な視点を省み、長期的な時間軸を再び社会システムにどう組み込むかが問われている。

2. 目指すべきは「復元」ではなく「再生」

長期的な視座に立つとき、必要なのは、自然を「元の状態に戻す」という「復元」の視点だけではなく、現在の環境に合わせてより良くしていく「再生」の視点だ。 たとえば横田准教授が携わる大台ヶ原の自然再生においては、伊勢湾台風以前、すなわち昭和30年代頃の植生に戻すことを一つの目安としている。しかし温暖化が進んだ現在、かつてのトウヒ林などを完全に復元することは困難になりつつある。「無理に過去の姿を取り戻そうとするのではなく、気候変動に伴う植生変化などの『自然の推移』を無視するべきではないでしょう」。他方で、大台ヶ原の変化には、台風後の処理や観光開発、シカの増加、大気汚染など、複数の人為的要因が複合している。自然の遷移を尊重しつつも、人間が関与した結果としての荒廃に対しては、「関わった以上、責任を持って関わり続ける」という姿勢が不可欠だ。短期的な成果を求める現代社会において、この「責任ある継続的な関わり」を評価するのは難しい。近年増加する企業のCSR活動などを一時的なトレンドで終わらせず、長期スパンの活動として定着させるためには、画一的な数値目標だけでなく、各地の「自然の多様性」を正当に評価できる新たな「ものさし」が必要となる。

3. 「初対面の他者」として自然と向き合う

こうした社会的な「ものさし」の更新とともに問われるのが、私たち自身の自然に対峙する態度だ。制度がいかに整おうとも、現場で向き合う人間が自然をコントロール可能な対象と見なしている限り、本質的な共生は叶わない。では、私たちはどのような姿勢で自然へと入っていくべきか。横田准教授は、自然を「何を考えているかわからない初対面の他人」と同様にとらえるべきだと話す。「初対面の相手をいきなりコントロールしようとするのが無作法であるように、自然に対しても、まずは観察し、相手を知ろうとする『お付き合い』の姿勢が求められます」。森に入ると、人はつい「調査」や「整備」といった「何をするか」という点に意識を向けがちだ。しかし重要なのは、鳥の声や風の音、動物の痕跡といった「自然からのメッセージ」に対し五感を開くことだと、横田准教授は語る。わからないことをわからないまま受け止めたうえで、目の前の現象に対して「なぜこうなっているのか」と問い、自然の循環に思考を巡らせること。それこそが、自然との関わり合い方を見つめ直し、人と自然が共生するための第一歩となる。

4. 相対化で育む循環への想像力

都市生活のなかで自然の循環に想いを馳せるのは難しい。蛇口をひねれば水が出る環境では、水がどこから来ているのかというプロセスは見えず、環境への「想像力」が働きづらくなっている。自分を取り巻く環境から感覚を切り離してしまう態度は、都市生活全体に広がっていると言える。 こうした状況に対して有効なのが、週末だけでも物理的に場所を変えるなど、最適化された環境以外に身をおくことだ。現在の自分が暮らす環境を相対化して捉えることで、凝り固まった感覚を解きほぐすことができる。身近な里山で自然の複雑さに触れ、その先に、水源地である奥山や、森と都市をつなぐ大きな資源循環へと想像を広げていくこと。こうした経験を通じて、自然の循環を思い描き、自分の生活とのつながりをイメージできる人を増やしていくことが、持続可能な社会につながる道筋となるはずだ。

Learn More

現場に学び、自然への想像力を取り戻す

横田准教授が注目する各地の実践から考える、自然との向き合い方

水源地の村づくり(奈良県川上村)

水源地の村として、流域全体を見つめた環境保全の願いと決意を宣言として発したもの。水環境、自然と共にある産業、自然に触れ合う仕組み、教育、見本となる姿勢がコンパクトにまとめられている。約30年前の宣言だが、古さを感じさせない、SDGsの地域宣言ともいえる。恵みをしっかりと受け止めているため、その恵みを分かち合う姿勢が明確であり、短い宣言ではあるが、この宣言から学ぶべきことは多い。

速水林業

江戸時代に創業した企業で、林業という業態を通じて100年以上先を見つめた経営が行われており、環境配慮型の森林経営に取り組んでいる国内のリーディングカンパニー。ヒノキやスギ以外の広葉樹の低木や下草を生やし、表面土壌の流失を防ぐことで土壌を維持し、間伐を欠かさず陽の光を林内に入れて明るい林を造ることで、生物の多様性を確保しようと取り組んでいる。FSC認証を国内で初めて取得するなど、高い評価を得ている。

大阪自然史博物館

地域の自然の現状を把握して取りまとめる仕事の中心にあるのは地域の自然を扱う博物館である。その中でも大阪市立自然史博物館は近畿圏の自然情報の集積地として重要な役割を果たしている。特定の年齢層の学生を相手にしている多くの大学とは異なり、幅広い専門性と年齢層が集う地域の博物館は、地域のことを実感を持って考える場として重要なだけでなく、生涯教育の場としてもその役割が増している。

総合監修

横田 岳人(よこた たけと)
/ 龍谷大学先端理工学部・准教授

森林科学・環境保全学が専門。現場に足を運び問題を肌で感じることをモットーとする。地域の自然環境を支えてきた人々の営みに感謝しつつ、そうした関わりが失われた先に自然の荒廃があるのを感じ、地域活性化にも力を注ぐ。

監修者の紹介ページへ
取材申込・お問い合わせへ

BEiNG

社会と自己の在り方を問うメディア

急速に変化するイマを見つめ、社会課題の本質にフォーカス。
多角的な視点で一つひとつの事象を掘り下げ、現代における自己の在り方(=being)を問う新しいメディアです。

BEiNGに込めた想い

BEiNG=在り方、存在が由来。
また、文字の中心を小文字のiと表記し、時代と向き合う自己(=i)を表すとともに、本メディアにさまざまな気づきや発見が隠れている(=!)という意味を込めています。