• HOME
  • > 最新情報

最新情報

さまざまな生息地がみんな違っていてしかも互いに「ほどほど」に繋がっていることが 自然のバランスを保つカギ 理工学部 近藤 倫生 教授らが世界で初めて解明

  • Twitterに投稿する
  • Facebookでシェアする

2016年4月13日

龍谷大学理工学部の 近藤 倫生 教授と島根大学生物資源科学部の 舞木 昭彦 准教授は、多種からなる生態系のバランスを保つために、生物の棲む生息地はどのような特徴を備えているべきかを世界で初めて理論的に突き止めました。この研究によると、①たくさんの生息地があってそれらの環境がみな異なっていること、②これらの生息地が互いにつながっていて生物が行き来できること、③しかし生息地間の行き来が生物にとって容易すぎないこと、これら3つの条件がそろわないと、多様な生物からなる生態系は自ずと不安定になって壊れてしまう可能性があることが理論的に示されました。本研究成果は、日本時間の2016年4月13日午後18時(英国時間午前10時)発行の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。
自然界では、多種多様な生物たちが他の生物を食べるなど互いに関係しあいながら、共存しています。そこでは、一種類の生物だけが他を圧倒してしまったりすることなく、「自然のバランス」が保たれているように見えます。しかし、これは少なくとも理論的には「あたりまえのこと」ではありませんでした。1972年、理論生態学の権威ロバート・メイ博士は、単純な数理モデル(注1)に基づいて、「生物の種類が増えるほど、そして、生物間の関わり合いが複雑になるほど、生態系は不安定になり維持されにくくなる」とする理論予測を発表しました。しかし、現実には極めて複雑な生態系が維持されており、メイ博士の理論予測に反しているように見えます。これは「生物多様性のパラドクス」と呼ばれています。それから半世紀ものあいだ、この理論と現実の矛盾(パラドクス)は解消されず、自然界で生物多様性が維持される仕組みは、未解決のまま残された大きな謎でした。
本研究グループは、従来の研究では見逃されてきた「生息地の複雑性」を考慮に入れた数理モデル(注1)を世界にさきがけて開発・解析しました。これにより、「多様な生息地が存在し、かつそれらの間を多様な生物がほどほどに行き来できる」ということがあれば、メイ博士の理論予測を逆転させられる(複雑な生態系ほど安定化する)ことを理論的につきとめました。これは、裏を返せば、人間活動によって生息地の数が少なくなったり、同じような均質な環境ばかりになったり、生息地の間の行き来が生物にとって困難になると、生物それ自体に人間が手をくださなくとも、それだけで自然のバランスは崩れて、生物多様性が失われてしまう危険性を示唆しています。


■発表論文について
英文タイトル:Food-web complexity, meta-community complexity and community stability
和訳:食物網の複雑性、メタ群集の複雑性、そして生物群集の安定性
掲載誌:Scientific Reports
著者:舞木 昭彦 (島根大学) ・ 近藤 倫生 (龍谷大学)


<研究の背景>
人類は、多種多様な生物から構成される自然生態系から生息環境および食料などの恩恵を受けています。一方で、現在、人間活動が原因となって、生物種の多様性は急速に失われ続けています。生物多様性の崩壊は生態系サービス(注2)の喪失を進行させ、人類の存続を脅かしていると考えられています。このようななかで、生物多様性を保全し、回復させるための技術開発・方策の策定が強く求められています。この生物多様性保全(注3)を成功させるには、自然生態系が維持されている仕組みの解明が不可欠です。

複雑な自然生態系には、生物個体数の大きな変動を抑制する何らかの自己調節機構が備わっていると考えられます。なぜなら、農地などの単純な人工生態系では、害虫などの大発生がしばしば生じる一方で、多くの種類の生物種が互いに関わり合いながら共存している複雑な自然生態系では、特定の生物種が突然に大発生したり、生物種が次々に絶滅したりといった、個体数の大きな変動はあまり生じないからです。この自然生態系に内在する「安定化の仕組み(自然のバランスの仕組み)」が分かれば、世界的な大問題「人間活動に伴う生物多様性の喪失」を食い止めることが可能になるかもしれません。しかし、この「安定性」の仕組みの正体は生態学における未解決問題の一つです。

ロバート・メイの理論(注4)(1972年発表)は、私たちの予想に反し、生物種の数が多いほど、そして生物種どうしの関係の数が多いほど、つまり複雑なほど、生態系が不安定になり保たれにくくなることを予測しています。複雑になるほど生態系は不安定になるとしたこの理論予測は、複雑な自然生態系が実際には存続しているという観察事実と矛盾しており、自然生態系においては生物多様性の維持を促進する何らかの未知の仕組みが備わっていることを示唆しています。メイの理論の発表後、「生態系の安定性の仕組み」を解明しようとする研究が、半世紀に渡り数多くの研究者によって盛んに行われてきましたが、未だにその仕組みはよくわかっていませんでした。

<研究の内容>
本研究では、複雑な生態系が保たれる仕組みを解明するため、従来の研究では見逃されてきた「生息空間の複雑性」の役割に着目しました。生物は、他の生物を食料として利用するだけでなく、生息場所がなければ生きていけません。さらに、動物のほとんどは、常に同じ場所で生活しているわけではなく、例えば食料を求めて生息地の間を移動しています。そして、そのような生息地はすべて少しずつ違っているのが普通で、どれ一つとして同じではありません。このことから、生態系は、少しずつ特徴の異なった多様な生息場所が互いに連結された、「生息地のネットワーク」としてみることができます(図1)。これまでの研究では注目されることのなかったこのような生息地ネットワークの複雑性こそが、複雑な生態系を保つ鍵なのではないか、というのが本研究の基本的なアイデアです。

しかし、生息空間の複雑さが複雑な生態系の安定性にどのような影響をもたらすかを研究した例は過去にはありません。そこで、生息空間の複雑性が生態系の安定性にもたらす影響を評価するために、数学を利用した自然生態系の模型(数理モデル)を作成しました。この数理モデルでは、たくさんの種類の生物が互いに「食う-食われる」の関係を持っており、その影響により生物の個体数が増減する様子が再現されています。ロバート・メイが利用した数理モデルがこの数理モデルの基礎になっていますが、私たちの数理モデルは、複数の生息空間を考え、さらにそれらが生物の移動を通してつながるようにしました。さらにそれら生物の「移動率」をいろいろに変えることで、生息地間の行き来のしやすさを変えられるという従来のモデルにはない新しい特徴を備えています。

このモデルの解析の結果、確かに生息空間の複雑さが、生態系の安定性に大きな影響をもたらすことが分かりました。具体的には、2つの重要な影響を発見しました。第1に、生息空間のあいだを生物がほどほどに行き来でき、多様な生息地を利用できるときほど、多種の共存が容易になる(生態系が維持されやすくなる)ことがわかりました(図2)。生息地間が分断されすぎて移動ができなかったり、逆に生息地間の移動が簡単すぎたりすると、生態系における各生物の個体数変動は不安定になってしまいました。

第2に、生息空間のネットワークが複雑であれば(生息空間が複数あり、それらが複数連結している)、これまで生態系のバランスを崩すと信じられてきた生態系の複雑性(種数が多い、生物種どうしの関係の数が多い)が、全く逆の効果を持つことが分かりました(図3)。すなわち、種数が多いほど、生物種どうしの関係の数が多いほど、各生物の個体数変動が小さくなり、生態系の安定性が高まるのです。自然生態系にみられる多様な生息空間と多様な生物種、それら多様な環境からなる生態系は、その複雑さそのものによって保たれている可能性があります。このような生態系では、生息地の複雑性が生態系の崩壊につながってしまう危険性を示唆しています。なぜなら生息地の複雑性が失われると、生態系の複雑性は生態系を安定化させるのではなく、メイの予測通り安定性を低下させるようになってしまうためです。


図2. 生息地の間のつながり(行き来のしやすさ)が中程度の時に、生態系は最も安定になる。生息地がたがいに分断していたり(孤立した生態系)、あるいは逆に、行き来が簡単すぎたり(強く連結した生態系)すると、生態系は不安定になってしまう。




図3. 生息空間の複雑性が生態系の複雑性-安定性関係に及ぼす影響。生息地の数が少なかったり、たがいに分断されている「生息空間の複雑性」の高い環境では、種の数が多かったり、種間関係の数が多い「複雑な生態系」ほど、生態系は不安定になる(最も左のパネル)。逆に、たくさんの生息地がたがいにつながりあった「生息空間の複雑性」の高い環境では、「複雑な生態系」ほど、生態系は安定になる(最も右のパネル)。




<今後の展開>
本研究の結果は、「何が複雑な自然生態系のバランスを保っているのか」という未解決の大問題に「生息空間の複雑性」という1つの答えを提供しています。自然生態系における生物多様性の保全を進める際には、「生物どうしのつながり」のみならず、「生息地どうしのつながり」に着目する必要があることを示している点も重要です。現在、生息地破壊および温暖化などにより生息空間が分断化されたり、逆に今まで容易には行き来できなかった生息地同士がつながったり、環境が一様化されはじめています。本研究はこれらすべての環境変化が、生態系の破壊につながることを示唆しています。実際、生息地破壊が生物多様性を減少させる例が知られています。生物多様性の保全のためには、多様な生物の性質やそれら生物どうしの関係性を知るだけでなく、生息場所の環境およびそれら場所どうしのつながりかたを明らかにするなどして、「生物多様性」と同時に「空間多様性」、
すなわち「生態系多様性」を維持するための方策について考える必要があります。


<用語解説>
(注1)数理モデル
直接的な実験や観察が困難なときには、しばしば模型が利用されます。例えば、車の安全性能を調べる衝突実験には、本当の人間ではなくて、人間の特徴を備えた「衝突実験用模型」を利用するのが普通です。自然科学の研究においても、研究対象とする現象や系の注目する特徴を抽出し、そのような特徴を備えた数式を使って研究を進めることが可能です。このような数学を利用した模型のことを数理モデルと呼びます。本研究では、たくさんの生物種が互いに助け合ったり、食べたり、食べられたりすることで個体数を変動させる様子をとらえた数理モデルを利用しています。

(注2)生態系サービス
生物と物理・化学的環境が相互に関係して作り上げているシステムを生態系と呼びます。生態系は私たち人類に多大な利益・サービスを提供しており、これを生態系サービスと呼びます。例えば、食料や燃料、木材などの提供、水の浄化や気候の調節、宗教や文化的生活の基盤の提供、酸素の生産や土壌の形成などはみな生態系サービスの一種です。生物多様性はこの生態系サービスの基盤であり、生物多様性が失われることで生態系サービスの劣化が生じることが知られています。

(注3)生物多様性保全
自然生態系の1つの重要な特徴は、そこにバリエーションが存在することです。例えば、種の多様性は生態系を構成する生物種のバリエーションをさしています。種の多様性は生態系が人間に与える恩恵(生態系サービス)を支えていると考えられています。現在、人間活動によって生物多様性が急速に失われており、これを防ぐための方策を講じることが求められています。自然生態系において多種が共存する仕組みの解明は、生物多様性保全の有効な手法の開発に貢献することが期待されます。

(注4)ロバート・メイの理論(あるいはメイの理論)
Robert May(ロバート・メイ)は1973年に生態系の複雑性と安定性の関係についてそれまでの考え方を覆す重要な理論予測を発表しました。種間関係によって生物の個体数が増減する様子をとらえた数理モデルを利用して、種の数が多い生態系ほど、そして関係を結んでいる種ペアの数が多い生態系ほど、個体数の時間変化が不安定になることを理論的に予測したのです。それまで、自然生態系において自然のバランスが保たれているのは生態系が複雑だからだと期待されてきましたが、それとは全く逆の予測をもたらしたのです。この理論予測は、自然は複雑だからこそバランスがとれているのだと信じていた当時の生態学者に驚きを持って迎えられました。この理論予測が登場することで、複雑な生態系(種数が多く、種間の関係の多い生態系)がどのような仕組みで維持されているかを解明しようとする研究が盛んに行われるようになりました。


<発表論文>
英文タイトル:Food-web complexity, meta-community complexity and community stability
和訳:食物網の複雑性、メタ群集の複雑性、そして生物群集の安定性
掲載ジャーナル: Scientific Reports
著者:舞木 昭彦 (島根大学) ・ 近藤 倫生 (龍谷大学)


<研究に関する問い合わせ先>
近藤 倫生(コンドウ ミチオ)
龍谷大学理工学部・教授
〒520-2194 大津市瀬田大江町横谷1-5
Tel: 077-544-7111 / Email: mkondoh@rins.ryukoku.ac.jp

舞木 昭彦(モウギ アキヒコ)
島根大学生物資源科学部・准教授
〒690-8504 松江市西川津町1060
Tel: 085-232-6430 / Email: amougi@gmail.com


一覧ページへ戻る >>

このページのトップへ戻る