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2023.04.07

2022年度人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会・開催レポート後編【研究部】

“学際研究”、“国際発信”、“産官学連携” 総合大学・龍谷大学の組織的研究力の最前線

人間・科学・宗教総合研究センター(人間総研)は、本学の建学の精神に基づき、本学の所有する資源を活かして、本学らしい特色ある研究を推進し、世界に発信することを目的としています。本研究センターにおいては、上記の目的に鑑み、研究プロジェクトを選定し、全学部横断型・複合型・異分野融合型等の学際的研究を推進しています。

2023年3月29日(水)13:00~17:00、 深草キャンパス 和顔館4階会議室2において「2022年度人間・科学・宗教総合研究センター研究交流会」が開催され、11センターの代表者が各センターの設立経緯や目的、活動状況、そして研究成果や本学の共同研究へ還元しうる知見について報告しました。

※本レポートでは、主に活動から得られた知見について、キーワードと共に一部抜粋して紹介します。設立経緯や活動状況の詳細は、各研究センターのHPを参照ください。

生物多様性科学研究センター
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)
◎報告キーワード:環境DNA・産官学連携・外部資金
国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)には17のゴールが掲げられていますが、その中には生物多様性に関連するものが多く含まれています。2017年度開設の生物多様性科学研究センターは、新規の生態系モニタリング手法である環境DNA分析を主軸となる技術にすえ、生物多様性保全に向けた各種の活動や政策判断に高解像度の生物多様性データを提供することで、SDGsの達成に向けた社会貢献を目指しています。
山中准教授は報告の冒頭において、「観測からデータの活用に至る社会システム(生物多様性情報共有プラットフォーム)を市民・企業・行政との協働体制で進め、資金的にも持続可能な『環境DNAびわ湖モデル』の構築を目指す。」と事業目的を述べました。この目的に基づき2022年度に行ったの主な活動として、①びわ湖100地点環境DNA調査、②内水面漁協の事業効率化支援、③養魚場における感染症コントロール支援、④環境教育・高大連携の4点から報告。とりわけ、2021年度より滋賀県との共催でスタートした年に1度の市民参加型の全県一斉調査「びわ湖100地点環境DNA調査」については、一般市民や市民団体、地元企業の有志が調査に参加したほか、2022年度は2社から協賛金をいただくなど、継続的な調査実施・データの蓄積に加え、資金的にも持続可能な体制確立に向けて活動を展開していることを紹介しました。
また、生物多様性に関わる技術と知識の普及、環境保全に対する意識・意欲の醸成を企図して、出張講義や出前実験教室、ラボ見学の受け入れなどの教育的側面にも尽力していることを報告しました。
【→関連News】2022.12.06 2022年度 びわ湖の日滋賀県提携 龍谷講座に山中裕樹センター長が登壇
【→関連News】2023.02.02 光泉カトリック高等学校において環境DNA実験教室を実施。山中裕樹センター長が登壇


山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)

山中裕樹(生物多様性科学研究センター長/先端理工学部・准教授)


光泉カトリック高等学校での環境DNA実験教室の実施風景

光泉カトリック高等学校での環境DNA実験教室の実施風景

アディクション・トランス・アドヴォカシー・ネットワーク(ATA-net)
→センターHP】【→研究メンバー
石塚教授は報告の冒頭、直前の山中准教授の報告内で紹介のあった環境DNA分析の魚病診断(発生の検知)への活用事例における『菌数と魚のへい死数の推移グラフ』に、強くインスパイアを受けたことに言及しました。石塚教授は「研究領域は異なるが、グラフで提示されたように投薬による病原菌の適切なコントロールについては、犯罪統制と警察統計で発表される犯罪認知件数との関係にも通じるものがある。」と述べ、ATA-netで扱う薬物事犯(薬物使用者)の現状について説明しました。
日本の薬物事犯は被害者なき犯罪の当事者であり、その多くが違法薬物の自己使用によって罪に問われた人たちです。石塚教授は現況として、使用薬物の多くは覚せい剤で、収監される人の多くが50歳以上であること、若年層の覚せい剤使用者は激減している一方で合法薬物である風邪薬等の過剰摂取(オーバードーズ)が問題になっていることを紹介。そして、ここ20年の間に世界の薬物政策の潮流が「厳罰化から治療へ」と変遷していることから、日本の薬物政策においても多様な視点からの議論が期待されること、アディクションからの回復には当事者や家族、周囲の支援者などのステークホルダーとの関わりが必要であることを強調し、これまでATA-netが開発してきた会議スキーム・課題共有型“えんたく”を用いて、様々な社会実装活動を行ってきたことを紹介しました。
2021年度からタイとの二国間交流事業共同研究(日本学術振興会 二国間交流事業共同研究・セミナー「麻酔薬物をめぐる政策、法律および法執行に関する比較研究:タイと日本の国際比較」)を開始し、2022年度には現地調査や国際シンポジウムを実施しました。
ATA-net研究センターとしての活動は2022年度で終了しますが、石塚教授は「2023年度からは本学の社会的孤立回復支援センター内のユニットとして国際的な研究を継続するほか、社会実装の担い手組織である(一社)刑事司法未来での活動に力を注いでいく。」と抱負を述べ、報告を締めくくりました。
【→関連News】2023.03.07 特集「動く薬物政策2022―薬物政策革命前夜のタイを訪問して」に寄稿
【→関連News】2023.03.23 “ウィズコロナの環境における子どもたちの居場所”について考える研修会@舞鶴市を実施


石塚伸一(ATA-netセンター長/法学部・教授)

石塚伸一(ATA-netセンター長/法学部・教授)


石塚教授と2022年10月に本学を訪問したタイの研究チーム

石塚教授と2022年10月に本学を訪問したタイの研究チーム

ジェンダーと宗教研究センター(GRRC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:岩田真美(GRRCセンター長/文学部・准教授)
◎報告キーワード:ジェンダー・多様性・仏教SDGs
仏教をはじめとする宗教研究の知見から、ジェンダー平等の実現に取り組むことを目的として2020年4月に発足したGRRCは、日本初となる“ジェンダーを基軸とした宗教研究の拠点”です。
ジェンダーは「社会的・文化的性差」を意味し、社会や文化と深く関わる宗教は、その社会におけるジェンダーの在り方を形成し、維持、変容に影響を与えてきた要素のひとつと言えます。岩田准教授は報告の冒頭で「宗教はジェンダーを作り上げ、それに正統性と正当性を与える役目を担っているのである。」という本の一節を引用し、問題提起しました。そして、仏典における「女性性の否定」言説をどう理解するのかに関する複数の研究者の見解や、近現代の本願寺教団史における女性の立場のありよう等について紹介しました。
岩田准教授は、「女性や性的マイノリティへのまなざしをもって、誰一人取り残さない社会の実現をめざすことは本学が推進する『仏教SDGs』につながるもので、その実現に向けては多様性を許容し、開かれた対話と議論を促すことが必要ではないか。」と述べ、報告を終えました。
GRRCは重点強化型研究推進事業による活動は2022年度で終えますが、2023年度からは世界仏教文化研究センター(応用研究部門)の傘下のセンターとして、さらなる研究活動を展開していく予定です。
【→関連Interview】ReTACTION「日本初 “ジェンダーを基軸とした宗教研究拠点”とは」
【→関連News】2023.01.06 連続ワークショップ『性なる仏教』第4回「ルッキズムな仏教」を開催


岩田真美(GRRCセンター長/文学部・准教授)

岩田真美(GRRCセンター長/文学部・准教授)


岩田准教授の報告資料より

岩田准教授の報告資料より

発酵醸造微生物リソース研究センター
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)
◎報告キーワード:国際ジャーナル・データベース・産学連携
発酵醸造微生物リソース研究センターは、微生物研究を通して、滋賀県の発酵醸造産業を支援することを目指して2021年度に開設。発酵醸造に有用な微生物の収集とデータベースの構築、およびそれらを活用した応用研究の展開を目的として研究活動を行っています。
<微生物リソースを活用した研究>では、発酵における微生物間相互作用のメカニズムを明らかにすることを目指して、2022年度には2つの研究成果を国際ジャーナルに投稿・掲載されました(※詳細は以下Newsリンクを参照)。また、<社会への貢献>では、共同研究および発酵醸造産業への成果の還元を目指して、近江麦酒に酵母を提供し、大津市産の材料にこだわって作られた究極の地産地消クラフトビールが販売されるなどの成果をあげています。
これら研究活動の起点となる微生物収集にあたっては、田邊教授が自らフィールドに赴き、主に滋賀県の食品や自然環境から、麹菌、酵母、乳酸菌を網羅的に探索・収集し、保存していることを、現地の写真とともに紹介しました(滋賀県高島市でのニゴロブナの採取や琵琶湖博物館でのフナズシ製造実験など)。ローカルな研究対象から世界を見据えた成果発表、そして地域の産業への還元と、まさにグローカルな研究活動が展開されていることが共有されました。
【→関連News】2022.09.22 滋賀県の伝統的な発酵食品・鮒寿司製造における乳酸菌の優占種を見出す
【→関連News】2023.03.06 日本酒の発酵プロセスにおいて乳酸が酵母の発酵特性を調節する可能性を示唆


田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)

田邊公一(発酵醸造微生物リソース研究センター長/農学部・教授)


田邊教授の報告資料より

田邊教授の報告資料より

社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)
→センターHP】【→研究メンバー
◎報告者:黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)
◎報告キーワード:コロナ禍・社会的孤立・回復支援・社会実践
2022年度に発足したSIRCは、with/afterコロナ時代においても顕著な 「社会的孤立 」を研究対象とし、個々の孤独から社会的孤立に至るメカニズムの解明や 、回復のための理論仮説の検証 、支援ネットワークの構築などに取り組んでいます。現在、臨床心理、政策、社会福祉、保育、刑法、刑事政策を専門とする研究メンバーによる8ユニットで構成。HPのビジュアルは、8ユニットのパズルのピースが手を取り合い、枠外にある社会的孤立のピースを支える様子を表しています。
黒川教授は報告において、トラウマを抱える当事者や支援者の立ち位置を示したモデルである「環状島」(出典:宮地尚子 編『環状島へようこそ』(日本評論社, 2021年))を引用しながら、SIRCの研究について説明しました。社会的孤立の状況にある人は、環状島の内海に沈む物言えぬ人や内斜面で支援を求める人々です。支援者は外斜面から尾根に登っていき、支援しようとします。そして外海には傍観者、無関心な人、出来事が起こったことすら知らない人がいます。黒川教授は「当センターでは、環状島の物言えぬ犠牲者や当事者への支援のための研究、支援者の養成、問題に対して無関心な人を作らないためのシステム等、ミクロ、メゾ、マクロの領域で研究を行っている。社会的孤立という課題に対して、多領域の研究チームでアプローチしていきたい。」と述べました。
2022年後期には、西本願寺において「新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方の追悼会」を開催したほか、現在は京都府自死対策カレッジ会議に学生と参画し、若者の自死自殺対策について検討を進めています。今後は、学生による活動「龍谷オープンコミュニティ(ROC)」とも連携し、学生生活実態アンケート結果の公開や継続実施等に向けて活動を展開していく予定です。
【→関連News】2022.07.21 「社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)キックオフ・シンポジウム」開催レポート
【→関連News】2023.03.15 西本願寺において「新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方の追悼会」を開催


黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)

黒川 雅代子(SIRCセンター長/短期大学部・教授)


黒川教授の報告の様子

黒川教授の報告の様子

閉会/挨拶 宮武智弘 研究部長
全研究センターの報告後、閉会挨拶に立った宮武智弘 研究部長(本学先端理工学部・教授)は、「学際的な共同研究というと皆で1つの研究課題に対して力を寄せ合って進めるようなイメージがあるが、本日の石塚先生のように異なる研究領域の考え方にインスパイアされて個々の研究課題が進むようなこともあると思う。私自身も各センターの研究課題への姿勢や考え方に触発される点が多くあった。」と述べ、研究交流会は盛会のうちに終了しました。