「自分にとって一番遠い世界に行きなさい」
ボランティアの歴史や役割について研究をされている仁平典宏さん(東京大学准教授)は学生時代、教員から言われたこの一言がきっかけとなって福祉ボランティアの現場に飛び込んだことを、あるインタビューのなかで感慨をもって語っておられます*。
一番遠い世界に行くこと。それは一見、自分とは無関係であり、縁遠いと思う世界にこそ新たな自分を発見するカギがある。そのような学びや体験のもつ不思議なはたらきを表したものといえるでしょう。
私もまた十数年前、20代後半の時期に自死(自殺)対策のNPOを仲間と立ち上げました。「死にたい」とまで悩む人は特別な人、心が弱い人。当時、そのような自死に対するイメージが社会に広がっていました(これらはすべて偏見です)。しかし当時の私もまた、文字通り自死の問題は私とは無関係のものと思い込んでいたのです。
その思い込みを捨てるきっかけとなったのは、電話相談の現場に思い切って飛び込んだことでした。電話の回線を通してつらい思いを抱えた方と対話するなかで、自死は特別な人がする特別な死ではないこと、私もまた状況によって直面する問題であること、そして私たちの生きる社会全体と深く関わる問題であることに、大きく視野が広がっていきました。「他人ごと」から「自分ごと」へ。その転換が起こったのは、まさに「遠い世界に飛び込んでみた」からだったのだと、今あらためて実感しています。
龍谷大学の「将来ビジョン」には、「まごころ」ある市民を育み、あらゆる「壁」や「違い」を乗り越える社会をつくりあげていくことがうたわれています。この社会の声にならない声に向き合うことによって自分と他人とを隔てる壁が少しずつ取り払われていく。そして私もまた、他者の苦悩を支えることを通して自らの存在の意味や役割に気付かされていく。そうした「遠い世界」と「近い世界」(自らの世界)との往還を通して、「誰ひとり取り残されない社会」がかたちづくられていくものと思います。
本センターでは現在、100名を超える学生さんたちによって災害支援など多くの取り組みが主体的に進められています。みなさまのご支援、何卒よろしくお願いいたします。
ボランティア・NPO活動センター長
野呂 靖
*出典:東京大学「UTOKYO VOICES 065」
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices065.html(閲覧日時:2025/04/1)