龍谷大学 You, Unlimited

Need Help?

  • 入試・オープンキャンパス arrow_forward_ios
  • 学部・大学院 arrow_forward_ios
  • 大学紹介・研究 arrow_forward_ios
  • 学生生活・就職支援 arrow_forward_ios
  • ニュースセンター arrow_forward_ios

市場経済が
見過ごしてきた
価値を今、
社会に取り戻すために
Vol.
October
2026
16

Overview

市場経済が発展し、私たちの生活を豊かにする一方で、自然、農業、地域の関係性、文化、人間の身体性など、利益や効率を重視する評価軸からこぼれ、相対的にその価値を低く見積もられてきたものがある。龍谷大学副学長の深尾昌峰教授は、こうした状態を、社会的・経済的な評価が引き下げられてきたという意味で、鍵括弧付きの「減価」と表現する。生きづらさや分断が意識されるなか、これらの価値を見直す動きが各所で生まれている。しかし懐かしむだけでは、現実に選べる道、すなわち社会の選択肢にはなりえない。必要なのは、減価されてきた価値を現代の技術や事業、金融、制度などと結び直すことだ。その手法として、大学、企業、行政、金融機関、当事者など多様な主体が共通の社会像のもとに協働する「コレクティブ・インパクト」が注目されている。全3回シリーズの第1回となる本記事では、何が「減価」されてきたのか、トレードオフに陥らない価値の回復とは何かを、コレクティブ・インパクトがもつ可能性とともに考える。

Opinions

監修 深尾 昌峰 / 龍谷大学副学長・政策学部教授

1. 市場の評価軸から外れて「減価」されてきたものとは

高度経済成長期の日本では、都市への人口移動が進み、効率性や均質な労働力が求められた。その過程で、農業などの第一次産業や自然との関わり、近隣とのつながりは、「古い」「儲からない」ものとして扱われるようになった。「農村では『こんな仕事に就かずに東京で一旗揚げてこい』と、子どもを都会へ送り出してきた。時代のなかで『減価』されてきたということです」と深尾教授は語る。

「減価」とは、ある時代の評価軸によって、社会的・経済的な位置づけが引き下げられてきた状態を指す。当時の都市化や成長を一律に誤りとするわけではない。「時代の要請があり、その時々の判断が間違っていたわけでもない。問題は、ひとつの方向へ進み続けた結果、別の価値が必要以上に低く評価されてきたことにあります」。

減価された価値は、消えたわけではない。農業の現場や地域の老舗企業、地域文化を支える営みの中で守られてきた領域もあるが、担い手自身が社会の評価を内面化してしまう現実もある。「自分が一生懸命やっている仕事を、子どもに『儲からないから継ぐな』『しんどいから継ぐな』と言って育てなければならない社会は、やはり間違っていると思うんです」。いま起きているのは、まったく新しい価値の創造というより、守られてきた価値を、それを表す言葉や社会につなぐ手段とともに再発見する動きと言える。

2. 過去に戻るのではなく、現代社会の中に価値を回復する

減価された価値の回復とは、必ずしも都市生活や現在の技術、経済活動を捨てて、昔の暮らしに戻ることではない。昔からある知恵や生業、文化、関係性を、現代の技術や事業の仕組みと組み合わせて「第三の道」をつくる。それが深尾教授の考える回復のかたちだ。

たとえば同じ「田植え=1万円」という文字列があったとする。「農業のしんどさを知っている人は、田植えのバイトに来てもらうための1万円だと捉えます。ところが都市部の若い親御さんたちに見せると、1万円を払って子どもに田植えを体験させてもらえる、と受け取る。同じ文字なのに、捉え方がまったく違うんです」。このように、同じ行為にも、立場によって労働、教育、体験といった異なる価値が見いだされる。無農薬の農作物と、それを求める消費者をEコマースが結ぶように、これまで経済的に成立しにくかった価値も、現在の技術と組み合わせることで、事業として成り立つ土壌が生まれつつある。「環境か成長か」「市場か市場の外か」という二者択一ではなく、異なる価値を結び直すこと。それが、トレードオフを超えた価値の回復のかたちだ。

3. 共通の社会像から始めるコレクティブ・インパクト

価値が社会に定着するには、「選択肢」として認められる必要がある。たとえば教育の領域においては、フリースクールの例がわかりやすい。当初は、義務教育の場からこぼれた子どもの「逃げ場」と見られていたが、今ではひとつの選択肢として認識されるようになっている。ただし、こうした実践や研究が「点」のまま孤立している状態では、選択肢として定着するまでに時間がかかることもまた事実だ。

解決策になりうる手法として注目されているのが、大学を含む多様な主体がひとつのビジョンに向けて協働する「コレクティブ・インパクト」だ。企業の個別ニーズに大学の知見で応える従来型の産学連携とは異なり、「どのような社会をつくりたいか」という問いを起点に、大学、企業、行政、金融機関、当事者が専門知や資源を持ち寄る。鍵は、共有する社会像をどこまで具体化できるかにある。各参加者が自らの専門性に基づいて具体的なイメージを描き、目指す方向を共有して初めて、実効性のある動きが生まれる。

コレクティブ・インパクトと従来の産学連携では、大学に求められる役割も変わる。「これまで大学は、知を社会に『還元』するという言い方をよくしてきました。しかし知を一方的に社会に還元するだけではなく、一緒に考える土俵をつくること。多様な主体と交わり、越境しながら価値やその回復手段を発見し続けることに共創の意味があります」。

市場の評価軸に偏重せず、目指す社会像を起点に議論を始められる大学は、協働のハブになりうる。「龍谷大学には、仏教に根差した建学の精神と、人がどう生きるかを何千年も考え続けてきた知恵の蓄積がある。この知恵こそが、共創の基盤をつくると考えています」。

4. 誰もが何かの当事者。微力は無力ではない

共通の社会像があっても、善意だけでは価値はなかなか定着しない。「みんな、これは良いことだと頭では分かっているんです。でも、いざ銀行と交渉すると『そんなことより儲けましょうよ』となる。投融資という血液が回らなければ、従来のやり方に引っ張られざるを得ない」。必要なのは、善意だけに頼らず、減価されてきたものの価値を回復する取り組みをどう持続可能なものにするかだ。行き過ぎた動きを抑えつつ、別の選択肢を後押しするために、深尾教授は共存の条件を金融面から整える試みにも力を入れている。

しかし手を尽くしたとしても、社会の変化には時間がかかる。「手ごわい課題ほど、頑張っている人は無力感に苛まれます。全員がプレイヤーになる必要はない。応援する、寄付する、『こうだったらいいのに』を言葉にすることも参加であり、追い風を生む力になります」。フォロワーシップは、課題に気づき、行動する当事者を孤立させない参加のかたちなのだ。

「自分の中の当事者性に気づくこと。ネガティブな話ではなく、ポジティブに自分の可能性を知るということ。『自分は無力だ』と思ってしまいますが、そうではない。無力はゼロですが、微力はゼロではないからです」。小さな参加を受け止める設計もまた、減価されてきた価値を回復し、社会の選択肢として定着させるために重要だ。

Learn More

新たな選択肢をつくる共創の取り組み

領域を越えた越境により、トレードオフではない価値創造を実践する取り組みとして、深尾教授が着目する4事例を紹介。

事例1:前田建設ファンタジー営業部
ワクワクの力で「夢」を「選択肢」に変える

総合建設会社の前田建設工業が展開する「前田建設ファンタジー営業部」。アニメの架空の建造物を現実の技術で本気で設計し、実現可能性を検証する。単なる課題対応にとどまらず、「こんな未来なら面白い」というワクワクを起点に『マジンガーZ』の地下格納庫などを題材として扱う。専門家や企業、地域の人々が共創して斬新な発想を生み出し、描いた理想を単なる夢で終わらせず、持続可能な事業や現実の選択肢へと作り上げる。

事例2:ネイチャープレナージャパン
自然再生を「食べていける仕事」にするために

ネイチャーポジティブの担い手を応援・育成することを目的に、2025年に設立された財団。「ネイチャープレナー」という呼称は自然(Nature)と起業家(Entrepreneur)を組み合わせたもので、自然再生を事業として成立させ、新しい価値を生み出していく人を指す。財団は各地でそうした人を見つけ出し、助成金を出して事業が軌道に乗るまで伴走する。企業から集めた資金や研究者の知見を現場に届け、自然の再生が経済の成長にもつながるようにしていこうという考えだ。支援先には、能登の森づくりや千葉・印旛沼流域のグリーンインフラなどがある。

事例3:環境価値創出・オフセット実装モデル(カーボンオフセット)
「環境に良いことをすれば得をする」仕組みづくり

マイボトルを使うといった日々の行動は、効果を実感しづらく、なかなか続かない。龍谷大学が日本GXグループと開発しているのは、そうした行動によるCO2削減量を記録し、それに応じた「ソーシャルクレジット」を学内通貨として使える仕組みだ。地域の自然資本を守る活動もソーシャルクレジットの変換対象に加える予定で、環境サステナビリティ学部では、学習の一環として、学生自身がこの仕組みを地域に広げる設計に参画する。

事例4:共創HUB京都(仮称)
全てのひとの、挑戦を支える新たな拠点

2028年春、龍谷大学、京都信用金庫、大阪ガス都市開発の三者連携のもと、JR京都駅近くに開業予定の「共創HUB京都(仮称)」。龍谷大学がサテライトキャンパスを構えて学びの場を開き、京都信用金庫が起業や新規事業への挑戦を支え、大阪ガス都市開発が交流型の賃貸住宅を用意する。「学ぶ」「挑戦する」「住む」を一つの建物に集めることで、社会課題の解決につながる事業や人材、コミュニティを育てることを目指す。開業に先立ち、イベントなどの取り組みもすでに試行的に始めている。

総合監修

深尾 昌峰(ふかお まさたか)
/ 龍谷大学副学長・ 龍谷大学政策学部・教授 / 教育学修士

「きょうとNPOセンター」「公益財団法人京都地域創造基金」などの設立・運営に携わり、地域社会の活性化や非営利組織の持続可能なあり方をテーマに活動を行う。内閣府「共助社会づくり懇談会」の委員なども努めた。

監修者の紹介ページへ
取材申込・お問い合わせへ

BEiNG

社会と自己の在り方を問うメディア

急速に変化するイマを見つめ、社会課題の本質にフォーカス。
多角的な視点で一つひとつの事象を掘り下げ、現代における自己の在り方(=being)を問う新しいメディアです。

BEiNGに込めた想い

BEiNG=在り方、存在が由来。
また、文字の中心を小文字のiと表記し、時代と向き合う自己(=i)を表すとともに、本メディアにさまざまな気づきや発見が隠れている(=!)という意味を込めています。