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2019年9月27日、「龍谷大学法学会 特別講演」を本学深草キャンパス至心館で開催し、本学の法学部の教員・学生を中心にあわせて約20名が参加しました(犯罪学研究センター協力)。
講師にドイツのコンスタンツ大学より、リアーネ・ヴェルナー教授*1をお招きし、「転轍手(Der Weichensteller)4.0 自動化された運転システムのプログラマーの実体的系法的責任」というタイトルで「自動運転*2とディレンマ状況」をテーマに講演していただきました*3
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-4108.html



ドイツは一部の州で自動運転のバスの試行運転が行われるなど*4、自動運転の分野において世界のトップランナーの一つに数えられる国です。現在のドイツにおいて、何が問題となっているのでしようか。
はじめに、ヴェルナー教授は、2016年のテスラ車*5、2018年のウーバー車*6の事故を挙げ、これらの事故がきっかけで、刑事責任の問題に広く一般の関心が向けられるようになったといいます。しかし、自動運転システムの下で、いかに刑事責任が配分されるべきかについては、争いがあると述べます。それは、ある一方を選べば他方を犠牲にせざるを得ないような状況の中から一つを選ぶしかないという「ディレンマ状況」に対応するために、自動運転のシステムを作成するプログラマーは、何を優先させるべきかという問題です。ヴェルナー教授は、まず、古典的な事例(Der Weichensteller1.0)*7 を確認したうえで、自動運転のシステムを作成するプログラマーの事例(Der Weichensteller4. 0)を批判的に考察していきます。


リアーネ・ヴェルナー教授(ドイツ・コンスタンツ大学)

リアーネ・ヴェルナー教授(ドイツ・コンスタンツ大学)


通訳を担当する金 尚均教授(本学法学部)

通訳を担当する金 尚均教授(本学法学部)

ヴェルナー教授が、解釈論上の解決の前提条件として提示するのは「人間の尊厳」です。ディレンマ状況の解決には「ヨーロッパ的な人間像ないしそれに応じて規定された人間の尊厳に関する理解に依拠」しなければならないと述べます。ドイツにおける理解では「人間の生命の比較衡量を許さない」という条件が含意されています*8。このような前提に立った場合、ドイツにおける緊急避難の規定34条(正当化的緊急避難)、35条(免責的緊急避難)によって、ディレンマ状況に関するプログラミングをしたプログラマーの責任や違法性は阻却されるでしょうか。ヴェルナー教授は、要件の一つひとつを例示とともに検討しながら*9、結論として「プログラマーは緊急避難による不可罰を主張できない」と述べました。このような結論に対し「『許された危険の法理』*10を援用したり、救助される利益をランダムに決定する装置を導入することで無関係の第三者を犠牲にしたりすることは、パンドラの箱を開けるようなものである」と重ねて主張。最後に「すべての人がそれでもなお自動運転を目指すのか。生命の保護に関する根本問題を個別事例ごとに解決し、また実証的なアンケート結果に基づいて解決して良いのか *11、自らに問わなければならない」と締めくくり、講演を終えました。


リアーネ・ヴェルナー教授による講演のようす

リアーネ・ヴェルナー教授による講演のようす


資料翻訳を担当した玄 守道教授(本学法学部)

資料翻訳を担当した玄 守道教授(本学法学部)

その後の質疑応答で、玄 守道教授(本学法学部)から「ドイツ基本法の『人間の尊厳の不可侵性』について、そのような憲法を持たない他国でも同様の話が展開する可能性があるのか。また、グローバル・スタンダードとなるようなプログラムが必要なのではないか」という質問が挙がりました。
これに対しヴェルナー教授は「カントに由来する『人間の尊厳は不可侵である』という考えは、ヨーロッパ人権条約を見ての通り、ヨーロッパにおいては浸透している。これに対し、アメリカは功利主義的な考え*12で、この考えで作られたプログラムが欧州に持ち込まれた場合に受け入れられるかどうかは、懐疑的あると考える」と返答。つづけて「メルセデス・ベンツの工場では、全車にGPSを搭載して走行環境をITでつないで共有できるようにしている。それによって様々な制御システムが構築できることを期待してのことだ。一方、アメリカの場合は、1台1台の車を特定するレベルでのGPS把握については、プライバシーや検閲の観点から難色を示すであろう」と説明し、「各国の法文化の違いのすり合わせには、まだまだ課題が山積している」と述べました。


個別の状況について考察

個別の状況について考察

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)から記念品の贈呈も

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)から記念品の贈呈も

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【補注】
*1 Prof. Dr. Liane Wörner
リアーネ・ヴェルナー教授(ドイツ・コンスタンツ大学HP)
https://www.jura.uni-konstanz.de/woerner/personen/prof-dr-liane-woerner-llm-uw-madison/

*2 自動運転
自動運転とは、車に搭載された何らかのシステムによって運転を制御することである。どの範囲までシステムを用いてサポートするかによって、1から5までレベルが分けられている。人間が運転操作を行わないで完全にシステム側で管理し自動車を運転する「完全自動運転」はレベル5とされ、前の車について走る(ACC)や自動ブレーキなどの「運転支援」は、レベル1相当とされる。運転手本人の責任が問われるのは、レベル2までであり、それ以上のレベルはシステム側の責任となる(レベル3については、運転手に帰責が及ぶ場合がある)。
参考:官民ITSロードマップ2018  https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20180615/siryou9.pdf

*3 講演テーマに関する参考資料
Von Prof. Dr. Liane Wörner, LL.M. (UW-Madison), Konstanz
Der Weichensteller 4.0 Zur strafrechtlichen Verantwortlichkeit des Programmierers im Notstand für Vorgaben an autonome Fahrzeuge
http://www.zis-online.com/dat/artikel/2019_1_1263.pdf
(Zeitschrift fur Internationale Strafrechtsdogmatik,1/2019, S. 41 - 48)

*4 ドイツにおける試行運転
ドイツでは2017年に初めて自動運転バスの試験運行が行われ、2019年10月7日 ドイツ南部バイエルン州バートビルンバッハで、国内初の自動運転による公共バスが運行した。
参考記事:
「乗り心地は? ドイツ初の自動運転バス、新路線を走行」(AFP BB news,2019年10月9日)
https://www.afpbb.com/articles/-/3248451
「いち早く「無人バス元年」へ…ドイツ、自動運転バスの試験続々!」(自動運転LAB. ,2019年8月19日)
https://jidounten-lab.com/x_germany-autonomous-bus

* 5 テスラ車の自動運転による事故
2016年5月に起きたアメリカで初の「自動運転による死亡事故」。テスラ「Model S」に乗車していた運転者は、オートパイロットモードの状態で、長時間にわたってハンドルに手を添えずに走行した(その間、幾度か、車載システムからは警告が発せられていた)ところ、信号のない交差点を通過していたトレーラートラックと衝突して死亡した。このケースは、一義的な責任は運転手にある「レベル2の自動運転」の事故であり、アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の報告によると、車には欠陥がなかったとのことである。
https://www.ntsb.gov/news/press-releases/Pages/PR20170619.aspx (NSTB)

*6 ウーバー車の自動運転による事故
2018年3月にアメリカで、ウーバー・テクノロジーズが自動運転の公道試験中(レベル4に相当する自動運転のテスト)に、自転車を押しながら車道を渡っていた歩行者と衝突したケース(被害者は死亡)。アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)の調査の結果、緊急ブレーキが作動する設定になっていない、セーフティドライバーに警告を発する仕組みが備えられてないない、テストドライバーが事故発生時に携帯電話でテレビ番組を視聴していた、などの事実が明るみになった。この事故を受け、アリゾナ州は、ウーバーに対し、州内で自動運転車運用の無期限停止を命じた。
https://www.ntsb.gov/news/press-releases/Pages/NR20180524.aspx (NSTB)

*7 ドイツ刑法学の古典的事例:
カール・エンギッシュが定立し、ハンス・ヴェルツェルによって具体化されたドイツ刑法学の古典的事例は、以下の通り。
「谷底で2、3両の貨車が勢いよく列車へと向かっていく状況で、事故が起きたことに気がついた鉄道職員は、そのまま放っておくと列車内の多数の乗客の命が危険に去れされると考え、唯一の側線へと移動させるため(しかしそちら側には数名の保線作業員がいる)、転轍機(分岐器。一線から他線へ鉄道車両を転線させる装置)を保線作業員の命が危険にさらされることを知りながら、ギリギリのところで操作した。結果、列車内の多数の乗客の命を救ったが、保線作業員は貨車と衝突して死亡した」

*8 ドイツ連邦共和国基本法における間の人尊厳の不可侵性
ドイツ連邦共和国基本法(ドイツにおいて憲法と同等に扱われる法)の1条において、人間の尊厳の不可侵性を規定している。ドイツ連邦憲法裁判所が2006年2月15日、自爆テロを目的にハイジャックされた航空機を連邦空軍などが撃墜できるように規定された航空安全関連法の条項は違憲であり、無効にすべきだとの判断を下した事例にもヴェルナー教授は言及した。https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/EN/2006/02/rs20060215_1bvr035705en.html (BVerfGE 128、325-326)

*9 補足
*3のヴェルナー教授の論文を参照。また、参考文献として下記
冨川雅滿『「ロボットと法」シリーズの論文紹介(3・完)-4 : アルミン・エングレーダー「自動運転自動車とジレンマ状況の克服」』千葉大学法学論集第32巻1・2号(千葉大学法学会、2017)157頁〜185頁
http://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/104157/
アルミン・エングレンダー(翻訳:田村 翔)「ジレンマ状況における自動走行車−トロリー問題4.0−」ノモス43巻(関西大学法学研究所、2018)117頁〜124頁
http://www.kansai-u.ac.jp/ILS/publication/nomos.html

*10 許された危険の法理
「すべての危険を禁ずれば社会は静止する」という標語の下に、法益侵害の危険を伴う行為の遂行を、社会有用性を根拠にして、一定の条件の下に許容するという考え方。

*11 関連するものとして興味深い記事
全卓樹「トロッコ問題の射程」南国科学通信/あさひてらす(朝日出版ウェブマガジン、2019年7月26日)
https://webzine.asahipress.com/posts/2237

*12 補足
ヴェルナー教授の指摘するところでは、英米法領域においては、ディレンマ状況は、大抵「トロッコ 問題」として議論され功利主義的なアプローチがとられている。
「トロッコ 問題(trolley problem)」は、フィリッパ・フットが提起した「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という倫理学の思考実験。ここでは、法的な責任は問われず、あくまでも道徳的に見て「許される」か、「許されない」かが問題とされる。



企画趣旨:
2016年12月に再犯の防止等に関する法律が制定され、現在地方自治体では、国が策定した「再犯防止推進計画」をもとに、推進計画策定の動きがあります。その理念は、犯罪者・受刑者等に向けた再犯防止に向けた教育・職業訓練・社会における職業・住居の確保、再犯防止推進の人的・物的基盤の整備、再犯防止推進の啓発と民間団体の活動援助などが掲げられています。そして、この取り組みが現実的かつ効果的に推進されるためには、元受刑者等の当事者から社会復帰における様々な苦労や厳しい実態を聴くことが極めて重要です。
本研修会では、NPO法人マザーハウス*1で社会復帰に取り組む元受刑者の皆さんと、更生保護の活動に携わる専門職との対話と意見交流を行い、社会復帰を阻む厳しい実態に学び、かつそれを克服する具体的方法を、緩やかなミーティングと対話のスタイルで考え合いたいと思います。

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一般社団法人 京都社会福祉士会 公開研修会
再犯防止と社会復帰の現状と課題 ~マザーハウスと語ろう~


スタイル:
・全員参加型グループミーティング
・受刑経験者の語りと参加者からの「何でも質問コーナー」
・再犯防止、社会復帰のアイデアを出し合おう(えんたく)*2

日程:2019年11月2日(土)10:00-12:30
会場:龍谷大学(深草キャンパス)紫光館4階 法廷教室(>>アクセス方法)
参加費:無料(NPO法人マザーハウスの活動に対するカンパを募ります)
定員:100名(定員に達し次第締め切ります)
申込期限:2019年10月28日(月)

◆申込・連絡先 
一般社団法人 京都社会福祉士会
[TEL] 075-803-1574 [FAX] 075-803-1575
[E-mail]cswkyoto@mediawars.ne.jp

共催:APS研究会 | NPO法人マザーハウス | 京都社会福祉士会
協力:龍谷大学 犯罪学研究センター(Criminology Research Center) | 龍谷大学ATA-net研究センター

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【補注】
*1 NPO法人マザーハウス:
受刑者・元受刑者の社会復帰支援を行う団体として2012年に設立され、2014年にNPO法人となりました。理事長をはじめスタッフも刑事施設経験者が多く、当事者視点・当事者体験に基づいて支援活動を展開しています。
https://motherhouse-jp.org

*2 えんたく:
”えんたく”とは、ATA-netが開発した課題共有型のフォーカス・ミーティングの方式で、メイン・スピーカーが問題状況について 15分程度の話題提供をし、これを受けて、ファーストテーブルのスピーカーが自分の持っている情報を順に話します。その後、相互に追加 情報を提供し、その後に他の参加者と共に3名程度のグループを作って話し会います。再度、ファーストテーブル・スピーカーが情報交換をして、それぞれの考えたこと、感じたことなどを分かち合います。当事者を中心にした参加型・課題共有型の議論スキームです。


龍谷大学(深草キャンパス)紫光館

龍谷大学(深草キャンパス)紫光館


紫光館4階 法廷教室

紫光館4階 法廷教室



2019年10月6日(日)、深草キャンパス和顔館地下1階にて、第9回AIDS文化フォーラムが開催され、「アディクションと偏見、そしてコミュニティへ」をテーマに、講演と課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”(*1)が行われました。(主催:AIDS文化フォーラムin京都 共催:龍谷大学犯罪学研究センターJST/RISTEX「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」領域「多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築」ATA-net

AIDS文化フォーラムは、1994年に横浜で開催された「第10回国際エイズ会議」をきっかけに発足しました。以降、全国各地でHIV/AIDSに取り組む団体・個人の発表・交流の場として、また、多くの市民、特に若者に向けた啓発の場として定着しています。
また、欧米では多くの国が「ハーム・リダクション(harm reduction)」(*2)の考えに基づく施策を導入しています。これは薬物使用に関連する公衆衛生的な諸実践の中から生まれたもので、HIV予防対策との結びつきの中で広まり、現在では薬物問題やHIV対策以外の分野にも普及しつつある社会的な支援策です。

【イベント・プログラム>>】http://hiv-kyoto.com/program/
【NEWS Release>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-4115.html



はじめに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)が趣旨説明を行った上で、依存症者への偏見について紹介しました。日本では、メディアによる薬物事犯への過剰な報道やドラマでの過激な表現、民放連による啓蒙広告のキャッチコピー「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?」などの影響から、「依存症者は危ない人だ」という偏見を持たれがちです。そのため、回復支援施設等の建設に地域の住民が反対運動をする、という光景がしばしば見られるようになりました。石塚教授は「依存症者は孤立してしまうことが1番の問題。だからこそ、回復のためには地域住民とのつながりが必要だ。ダイバーシティを認めるということが、社会への課題である」と、依存症者の問題を共有・浸透させ、何か問題が起きた時に応えることができる、社会の保水力の重要性を述べました。


石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長、ATA-net代表)


つぎに、石塚教授による講師紹介があり、その後、田代まさし氏(日本ダルク)の講演が行われました。田代氏は曲にのせて自身の薬物依存の体験談を語り、依存症やDARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)について説明しました。田代氏は「薬物依存者というイメージが一度でも社会に浸透してしまうと、回復後であっても周囲の人々からの疑いがエスカレートする。私はそうした偏見こそが回復を遅くしていると思う。依存症の理解は難しいものだが、回復のためには地域社会の理解が必要だ」と、依存症者と地域社会のつながりについて主張しました。そして「『笑い』を交えて講演をすることは、自分にしかできないこと。それで皆が笑顔になることが、自分の中で1番回復につながると信じています」と述べ、講演を終えました。


田代まさし氏(日本ダルク)

田代まさし氏(日本ダルク)


さいごに、同テーマで“えんたく”が行われました。“えんたく”とは、アディクション当事者(嗜癖・嗜虐行動のある人)の主体性をもとに、当事者をとりまく課題をめぐる情報をもつ多様なステークホルダーと参加者が集まり、話し合いを通じて課題を共有し(あるいは課題の解決を目指し)、緩やかなネットワークを構築していく話し合いの場を指します。センターテーブルには、石塚教授・田代氏をはじめ、金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)や木津川ダルク代表、京都ダルク代表、会場有志の方が壇上のテーブルに集まり、前半は他の参加者とともに、問題を共有しました。その中で依存症を社会に正しく理解してもらう大切さ、方法が話し合いの場に挙がりました。
石塚教授は心理学者のブルース・アレグサンダー博士による「ラットパーク実験」(*3)を用いて、「孤立した依存症者も地域社会の住人である。周りとのつながりの中で、共に生きていくということを、当事者も地域住民も理解する必要がある」と、つながりの大切さを強く主張。また金教授は、2016年に成立した障害者差別解消法・ヘイトスピーチ解消法・部落差別解消法の3つの人権に関する法律を挙げ、「地域社会からの排除を煽るような薬物依存症リハビリ施設の建設反対運動は、差別にあたる。日本はまだまだハンディキャップがある方への理解が足りない」と、ヘイトクライムの観点からの意見を述べました。


課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”のようす

課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”のようす


金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

“えんたく”の後半、参加者は3人1組になり、「依存症者と地域社会はどうつながるべきか」ということをグループで話し合いました。参加者からは「何かを共に体験する」といった、回復している姿を見せることによって、依存者に対する偏見を払拭出来るのではという案が挙げられました。そして、新しい課題として「当事者は事実を伝え、非当事者は事実を事実として認識する」といった、情報を発信し続け、誤解されているイメージを変えていかなければならないということが挙げられました。その他にも多くの案・課題が挙げられ、石塚教授司会のもと、共有されました。
(※下記の画像は参加者から寄せられた紙の一部)



第9回AIDS文化フォーラムでは“えんたく”の他にも多くのワークショップが開催されました。アディクションについて、沢山の人と意見や思いを共有し、知見を広げることが出来る良い機会となりました。会場は学生から一般の方まで多くが集い、大盛況のうちに終了しました。



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【補注】
*1 課題共有型(課題解決指向型)円卓会議“えんたく”:
“えんたく”は、依存問題の解決に際してどのような問題や課題があるかの共有を目的としています。アディクション(嗜癖・嗜虐)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、回復を支える様々な人が集まり、課題を共有し解決につなげるためのゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの「場」が必要です。
ATA-net(代表・石塚伸一)では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を「えんたく」と名づけ、さまざまなアディクション問題解決に役立てることを目指しています。
https://ata-net.jp/

*2 ハーム・リダクション(harm reduction):
文字通り「被害を減らす」ことを目的とした施策。その根底として、個人の違法薬物の所持や使用を罰するだけでは使用者やコミュニティへの悪影響は減らず、問題解決にならないという考えがあります。国際的なNGO「Harm Reduction International」は、ハーム・リダクションを「薬物の使用問題において、必ずしも使用量が減ること/使用を中止することを目指すものではなく、使用による健康・社会・経済的な悪影響が減少することを目指す政策、プログラムとその実践である」と定義しています。具体的には、鎮痛剤メタドンを投与する「メタドン維持療法」や、安全な注射器の配布・交換、注射室の設置のほか、住居や医療に関する相談や手続き支援もあります。1980年代にHIVの流行が社会問題化した際「ハーム・リダクション・アプローチ」の有効性が認められ、現在欧州の多くの国が何らかの形でハーム・リダクションを薬物政策に採り入れています。

*3 ラットパーク実験:
サイモン・フレーザー大学(カナダ)の研究者ブルース・アレグサンダー博士が1980年に行った実験。アレクサンダー博士は、32匹のネズミをランダムに16匹づつ2つのグループに分け、一方のネズミは1匹づつ金網の檻に隔離され、他方は広々とした場所に雌雄一緒に入れました。この両方のネズミにふつうの水とモルヒネ水を与え、57日間観察した結果、檻のネズミの多くが頻繁に大量のモルヒネ水を飲み、1日酩酊状態にあったとされています。それに対し、楽園ネズミの多くは他のネズミと遊ぶことに夢中で、なかなかモルヒネ水を飲みませんでした。以上の実験より、薬物中毒は外部的要因(生活環境)が原因で引き起こされるということがわかっています。

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▼関連記事もあわせてご覧ください
第9回AIDS文化フォーラムin京都プレイベント「これからの依存症予防教育」を開催【犯罪学研究センター】
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-4196.html



森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)

森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)

2019年9月28日(土)、立命館大学大阪いばらきキャンパスにて、「日本の刑務所における治療共同体の可能性」と題し、ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル*1の特別試写とパネル・トークが行われました(犯罪学研究センター共催)*2。今回の催しは、120人限定の事前申込制で行われましたが、募集早々に定員に達し、当日は活発な議論が交わされる実りの多いものとなりました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3787.html

主催者を代表して、森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)より開会挨拶がなされたのち、本邦初の刑務所内TC*3 における受刑者たちの回復の過程を追ったドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』が上映されました。受刑者に対するプライヴァシーの配慮や、矯正職員の業務の都合など、様々な理由により、刑務所の中にカメラを持ち込んで撮影することは、日本では非常に難しい現状があります。監督である坂上香氏がこの映画を製作するために要した時間はおよそ10年。法務省から取材の許可が下りるまでに6年、撮影期間が2年、編集に2年というものです。
映画の舞台は、日本で4番目に開設された、官民協働の刑務所(PFI刑務所)である「島根あさひ社会復帰促進センター*4です。ここでは教育プログラムの一環として2009年よりTCが導入されています。このプログラムには、「支援員」として臨床心理士やソーシャルワーカーが関わり、共同体の活動のサポートをします。TCのカリキュラムは週3日、午前・午後のどちらかの3時間を2つのグループ(計58名)に分けて行われます。プログラム中は、メンバーは番号ではなく、名前で呼び合い、ミーティングを中心に自由な発言が許されています。映画では3人の人物に焦点があてられ、刑務所での活動の様子やインタビューを通して、彼らがどのような経緯で刑務所に入ることになったのか、今までの人生を振り返って何を考えるのか、を克明に記録し、TCプログラムの活動の理解を大きく進めてくれるものとなっています。この映画を鑑賞した人は、「犯罪者」や「刑務所」のイメージが大きく変わることでしょう。


パネル・トークのようす

パネル・トークのようす


休憩を挟んだのち、壇上に、アメリカにおいてTCプログラムを行なっているNPO団体Amity Foundation*5 の創設者ナヤ・アービター氏とロッド・ムレン氏、坂上香氏(out of frame代表/映画監督)、藤岡淳子教授(大阪大学大学院・人間科学研究科)、森久智江教授(立命館大学・法学部)、司会進行に毛利真弓准教授(同志社大学・心理学部)、通訳として水藤昌彦教授(山口県立大学・社会福祉学部)を迎え、パネル・トークが行われました。

アービター氏とムレン氏は、刑務所の内外に共通する問題として「人が様々な苦難によって悪循環に陥っている状況をいかに解決するのか」という点を挙げました。つづけて「犯罪をおかした人々は拘禁され、人間扱いされないような状況に陥りやすい。しかし、単に罰を与えるだけでは、人はどのように行動すれば良いのか学習することができない。悪循環からの回復過程において必要なのは、支援の枠組みと安全な空間の提供である」と主張し、TCプログラムの実際の状況を紹介しました。両氏は、「参加者は、はじめて他人と一緒に自分を取り巻く問題について考え、学びを共有するという機会を与えられることによって“より善き人に変わりたい”と実感するようになり、人間性の変化や成長を促される。そのため、出所後に家族や親しい人々(恋人や隣人)に対して、より良い影響を波及させることにつながっていく。今回の『プリズン・サークル』のようにTCの様子がドキュメンタリー映画として一般に公開されることで、“受刑者に必要なものは何か”を社会全体で課題を共有することには、大きな意義があるのでしょう」と述べました。

両氏のコメントを受けて坂上氏は、「日本の刑務所の現状からも“沈黙を強いる文化”が日本の文化・社会の特徴として挙げられるのではないか。いまの日本社会で、どれだけ本音で語れる場があるのか」と指摘しました。藤岡教授や森久教授は、それぞれの専門の立場からTCについての意義、課題について述べました。この他にも、TCを受講した元受刑者や会場の参加者を交えて活発な意見交換が行われました。


映画『プリズン・サークル』の今後の上映予定については、公式サイトにてご確認ください。

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【補注】
*1 映画『プリズン・サークル』
製作:out of frame 監督・プロデューサー:坂上香 配給:東風
https://prison-circle.com/
>>その他参考記事(クラウンド・ファンディングの呼びかけ/募集終了):https://motion-gallery.net/projects/prisoncircle

*2 本イベントの主催関係
主催:平成30年度科研費(基盤B)助成事業「危険社会における終身刑拘禁者の社会復帰についての総合的研究」(研究代表:石塚伸一、科研番号:17H02466)
共催:立命館大学人間科学研究所、龍谷大学犯罪学研究センター、社会技術研究開発(RISTEX)研究開発領域・戦略的想像研究推進事業「多様化する嗜癖・嗜虐行動をめぐるトランス・アドヴォカシー・ネットワークの構築とその理論化」(代表:石塚伸一)
協力:NPO out of frame

*3 治療共同体(Therapeutic Community : TC)
TCプログラムとは、薬物依存や精神疾患等の生きづらさ抱えた人たちがともに暮らし、平等で対話のある共同体を自分たちで創りあげ、グループ内における各自の役割・責任の遂行を重ねることによって、人間性の発達・回復を促すことを目的とする。

*4島根あさひ社会復帰促進センター
公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図る政策PFI(Private Finance Initiative)方式の官民協働刑務所として2008年10月に開所された。職員は刑務官(国家公務員)約200人、民間社員約350人で構成され、犯罪傾向の進行していない(A指標)男子の受刑者2000名(収容定員。この中には、軽度の身体・知的・精神障害のある受刑者も含む)を収容している。
http://www.shimaneasahi-rpc.go.jp/

*5 Amity Foundation(アミティ)
アメリカ・アリゾナ州を拠点に、ナヤ・アービター氏、ロッド・マレン氏と共同で創設し、1980年代より活動。
https://www.amityfdn.org/


2019年10月17日(木)1~ 3講時「調理学実習Ⅱ」において、農学部がある滋賀県の食を学ぶ機会として、近江八幡のひさご寿し料理長の川西豪志氏を講師として招聘し、授業をおこなっていただきました。この授業では、滋賀県各地の食文化が育ってきた歴史的背景や地域の特産品の成り立ちについて詳しく学びます。実習では、希少な琵琶湖の魚貝類を用いた料理として、ビワマスを用いたアメノウオご飯や「たてぼし」という貝と丁字麩を使った辛子和え、うなぎのじゅんじゅん、加茂瓜のお椀をつくりました。めずらしい呼び名のじゅんじゅんは、魚を用いたすき焼きのようなお料理です。
普段は食卓に並ばないような食材を使った郷土料理を学ぶことで、地元の特産品やその成り立ちを知るだけでなく、その土地の農作物、水産物などを知る機会にもつながっています。農学部生には、本実習を通して滋賀県の食文化に加え、郷土料理や伝承すべき料理に興味を持ってもらえたらと思います。






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