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犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、武田 俊信教授(本学文学部/犯罪学研究センター「司法心理学」ユニット長)に尋ねました。
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Q1.武田先生が現在取り組まれている研究とは?
「私は成人のADHD(※1)を中心に臨床研究しています。研究のツールとしてスクリーニング(※2)尺度などのツールを作成します。くわえて、実際に日常生活において、どのような支障があるのかといったことを調査できる尺度も作成しています。例えば片付けとか、忘れ物があるかとか、そういった生活の支障、あるいは家庭内での状況、家族の変化ですね。あと職場でうまくやっているかというようなことです。
今は成人のADHD用の尺度の作成を大体終えたので、次は本人にどうやって介入するかという段階に入りました。きちんとしたツールがあると、介入前と介入後でどういった変化があるかを見ることができ、介入の有効性が確かめられます」
※1 ADHD(Attention-deficit hyperactivity disorder):注意欠如・多動症
※2 スクリーニング:集団から、目的とする疾患に関する発症者や発症が予測される人を選別すること
Q2.研究のために、どのような調査をしていますか?
「質問紙が主ですが、例外的に、有名なアニメキャラクターをテーマにしたら皆に親しみがあるかなと思い、サザエさんの行動を題材として、ADHDについて学生さんにお話したことがあります。この調査では、『おっちょこちょい』と言われる人と、ADHDと言われる人がどう違うのかということを示しました。確かにサザエさんはおっちょこちょいでうっかり間違いが多いですが、主婦として何とかやっていけているわけです。一方で彼女はケアレスミスが多少なりともあるので、スペクトラムの真ん中ぐらいにいるという言い方もできるかもしれません。全然症状がない人から、典型的な人まで、いわゆる定型発達(※3)から障害(症)レベルの状態が断絶なく連なっているんだよということを、発表しました。」
※3 定型発達:発達障害でない人々(あるいはそのような状態)を意味する用語
Q3.現在の臨床研究は、将来どのようなことに役立つと思いますか?
「“臨床”とつく学科にいるからには、日常生活に支障がある人たちの大変さ、困難な点を改善していきたいですね。一般社会、特に企業がケアレスミスをせず、コミュニケーションに長けた人を求めているため、これらを苦手とする人は困った目にあっています。そのような困難を抱えた人たちがどうやって生き抜いていくかを、一緒に考えていきたいと思っています。
同時に、社会においてもダイバーシティを見据えた個々人の多様性を認めていくような流れを作ることが大切です。今後スティグマ(※4)なども扱い、本人や周りの人への介入だけではなく、社会通念を変えていくという方向性も併せてやっていけたらいいなと考えています。」
※4 スティグマ:他者や社会集団によって個人に押し付けられた負の表象・烙印。
Q4.研究をされる意味、意義とは何ですか?
「自分を試すことですね。そして、研究の結果として、社会や将来の世代に貢献できるというのが魅力的だなと思います。私は主に英語の論文を書いているのですが、その論文を専門雑誌に投稿すると、日本の研究者なんか全く知らないようなその道のエキスパートたちが私の論文を評価するのです。論文の内容そのものによって、見ず知らずの海外の方にも評価されうる点が、私にとっての研究の醍醐味です。」
武田 俊信(たけだ としのぶ)
本学文学部教授・犯罪学研究センター「司法心理学」ユニット長
<プロフィール>
本学文学部・臨床心理学科教授。研究分野は精神医学、発達障害で、現在は成人期のADHDの研究が中心。また医療施設で発達障害専門外来の精神科医師として診療も行なう。
【>>ユニット長インタビュー記事】
2019年9月26日、龍谷大学犯罪学研究センターは第12回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約15名の方に参加いただきました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3955.html
今回の研究会では、武田俊信教授(「司法心理学」ユニット長 / 文学部教授)、中村有利子氏(「法教育・法情報」ユニットメンバー / 法学部教務課ローライブラリアン)、石塚伸一教授(センター長、「治療法学」・「法教育・法情報」ユニット長 / 法学部教授)の3名による研究の進捗報告が行われました。
はじめに、武田俊信教授による「司法心理学」ユニット研究の進捗報告が行われました。本ユニットでは精神医学、発達障害、ADHDなどを切り口に、司法・矯正分野においてどのように心理学が貢献できるかを検討しています。現在、(1)心理学専攻の学生の司法・矯正分野への興味・知識の実態調査、(2)医療観察法通院処遇の問題点に関する施設へのアンケート調査、(3)ニューロフィードバックの司法分野への応用に向けての予備的研究、の3つのプロジェクトが進行中です。今回の研究会では特に、(1)の心理学専攻の学生に対するアンケート調査の結果の一部が報告されました。
アンケートでは、①公認心理師資格取得希望の有無、司法・犯罪領域への興味、就職意欲、②大学での司法・犯罪領域の講義開講状況の知識、③公認心理師の職域や、司法・犯罪領域の職種・就職方法の知識について尋ねました。調査対象は本学の1、2、回生で、心理学に関する講義を受講する120名(うち2名は記入漏れにより除外)でした。このうち公認心理師資格取得を希望したのは60名で、さらに司法・犯罪領域に興味を持っているのは29名でした。結果を分析したところ、公認心理師を目指し、司法・犯罪領域に興味を持つ学生たちの中で、関連講義を実際に受講したり、関連職種への就職を希望したりする者は少なく、一方で、司法・犯罪領域の施設見学を希望する者は非常に多く、興味を持ったきっかけが本やメディアであることから、学生の「体験」への希望は大きいということがわかりました。また講義の開講状況についての知識は興味のありなしで大差はないものの、講義受講から司法・犯罪領域に興味を持った学生も少なからずいることから、学生の学びを深めるためにも講義のあり方は重要なキーとなりえることもわかりました。これらのことから講義では、学生が司法・犯罪領域へより興味を持てるようなイントロダクションがポイントで、たとえば矯正施設・更生保護施設の参観や関連職種の方のお話をうかがうような「体験」型の題材*1を導入することで、学生の知的好奇心が喚起されると考えられます。本ユニットでは今後、3つのプロジェクトの集計・解析・発表を継続していく予定であるとのことでした。
つぎに、中村有利子氏による「法教育・法情報」ユニットにおける研究の進捗報告が行われました。本ユニットは、2001年に設立した「龍谷大学法情報研究会」の活動を引き継ぎ、法情報の研究と活用、市民向け法教育の普及、法情報・法教育に関心を持つ研究者等のネットワーク構築を目指して研究活動が行われています。
本年度は、法情報研究会、法教育無料出張授業(札埜プロジェクト)の開催を行ったことが報告されました。法情報研究会は、法情報の研究と教育に関する研究会で、法令、文献等の法情報データベースの開発や法教育研究を行っています。本年度は既に2回開催しており、11月にも開催予定であるとのことでした。法教育無料出張授業では、模擬裁判授業に関わる教員・生徒への指導、法教育全般に関わる教員・生徒へのディープアクティブ・ラーニング指導、高校生模擬裁判選手権の指導を行っています。本年度は模擬裁判選手権に参加した岡山・創志学園高等学校への支援及び指導、授業実践を行っており、さらに岐阜、兵庫、京都、千葉、岡山でも授業を開催予定であるとのことでした。また本年8月には公開シンポジウム「裁判員裁判と情報、報道のあり方を考える―裁判員制度10年を契機に」を東京で開催しました。新聞記者やテレビメディア関係者を招聘し、裁判員制度の課題について報道に焦点を当てた検討を行いました。本年10月には第2回目の公開シンポジウムを予定しているとのことでした。さらに、12月1日には、京都府立図書館と協力し、法教育フェスタを開催する予定で準備が進められているとの報告がありました。
補足として、本ユニット長である石塚伸一教授より、日本の司法改革による弁護士の人員増加の現状や課題が報告され、法教育の必要性が提唱されました。また、裁判員制度における一般市民に対する法教育、確定記録などの法情報を一般市民へ提供する必要性が報告されました。さらにこれまでの成果として、当事者主体のフラットな課題共有スキームとして“えんたく”の実施、児童劇「カルデモンメのどろぼうたち」の公演などの積み重ねがあり、こうした活動が法教育につながっていくとの報告でした。
さいごに、石塚伸一教授による「治療法学」ユニットの研究の進捗状況が報告されました。本ユニットでは(1)“えんたく”の開発・普及、(2)アディクション対策スキームの開発、(3)アディクション一般理論の構築、(4)ATA-netの社会実装、(5)実証的評価指標による検証の5つの目標を設定しています。
アルコール・薬物への依存、DVや虐待など多様なアディクション(嗜癖・嗜虐行為)の背景要因には「孤立」があります。したがってアディクション(孤立)からの回復には、コネクション(連携)の回復が不可欠です。また、支援や治療、再構築をサポートする「公/私」の支援者も分断されていて、個別対応に終始しています。そこで本ユニットでは、多様化する嗜癖・嗜虐行動を新たな視座の下で再定義することを目指しています。具体的には“えんたく”というアプローチを活用して、当事者を中心とする支援者ネットワークを形成し、「公」と「私」の間にあらたな公共圏として「ゆるやかなネットワーク(Addiction Trans-Advocacy network:ATA-net)の構築を目指しています。“えんたく”は、アディクション当事者を中心に、家族、福祉など支援者だけでなく、警察や検察など司法機関も含めた多様な関係者が取り組む、問題共有型および問題解決型の「円卓会議方式のサークル」です。本ユニットでの“えんたく“は、アディクション当事者による話し合い(Addict)、当事者の回復を支えるネットワークのための話し合い(Bonds)、当事者の課題を社会の課題として共有する話し合い(Collaboration)において活用されています。現在、アディクションをめぐるステークホルダーの課題共有のプログラムを構築するため、“えんたく”トライアルや、大規模課題共有型“えんたく”を開催していることが報告されました。これによって社会的認知度、コンセプトの社会実装状況の向上につとめており、“えんたく”の担い手(コーディネーター、ファシリテーター)の育成と運営のスキルアップを目指していることが報告されました。こうした手法を世界にひろげるため、国際交流も積極的に行っているとのことでした。
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【補注】
*1 龍谷大学「矯正・保護課程」:
龍谷大学では、戦前からの長い歴史と伝統を持つ浄土真宗本願寺派の宗教教誨を基盤としながら、日本で唯一の刑事政策に特化した教育プログラムとして、1977年に法学部が中心となって特別研修講座「矯正課程」(現在の「矯正・保護課程」)を開設しています。
現在も刑務所・少年院・少年鑑別所などで働く矯正職員を目指す学生や、犯罪をおかしたり非行をおこなった人たちの社会復帰を手助けする保護観察官等の専門職やボランティアを養成するために実務に即した教育プログラムを提供しています。
https://rcrc.ryukoku.ac.jp/educate/study.html
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「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」は、犯罪学研究センターに関わる研究者間の情報共有はもとより、その最新の研究活動について、学内の研究員・学生などさまざまな方に知っていただく機会として、公開スタイルで開催しています。
今後もおおよそ月1回のペースで開催し、「龍谷・犯罪学」に関する活発な情報交換の場を設けていきます。
【次回開催予定】
>>第13回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」
日程:2019年10月28日(月)18:30~20:00
報告予定の研究ユニット:
・「科学鑑定」(古川原明子ユニット長)
・「対話的コミュニケーション」(吉川悟ユニット長)
(参加費無料・事前申込不要)
ぜひふるってご参加ください。