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2019年3月2日、龍谷大学 犯罪学研究センターは、本学 響都ホールにおいて公開シンポジウム「死刑、いま命にどう向き合うか ~京都コングレス2020に向けて~」を共催しました。2020年には京都で「第14回国際連合犯罪防止刑事司法会議(以下、京都コングレス)」が開催され、ホスト国である日本の刑事司法制度のあり方が、世界中の刑事司法関係者から注目されることになります。本シンポジウムは日本弁護士連合会、京都弁護士会により「日本の死刑制度は本当に必要なのか? 死刑制度と命の問題について市民をまじえ広く考える機会を」と企画されました。

当日は午前・午後の部に分けて行い、午前の部では映画「三度目の殺人」(監督:是枝裕和 主演:福山雅治)を上映。午後の部では国内外からジャーナリストや宗教家、政治家の方々をお招きし、講演・対談・パネルディスカッションを行いました。壇上からさまざまな立場や経験、観点からの意見が発信され、約300名の参加者は興味深く耳を傾けていました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3201.html



午後の部の冒頭では京都弁護士会 会長の浅野 則明氏が開会の挨拶に立ち、本シンポジウムの位置づけについて説明しました。その後、福井弁護士会所属の太田 宏史氏が「京都コングレスに向け、日本は開催国として国際的なレベルでの法の支配の実現に向け、主導的な立場を発揮することが期待されている」と基調報告を行いました。


浅野 則明氏(京都弁護士会 会長)

浅野 則明氏(京都弁護士会 会長)


太田 宏史氏(福井弁護士会所属・日弁連死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部事務局 次長)

太田 宏史氏(福井弁護士会所属・日弁連死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部事務局 次長)

つづいて、国会議員2名によるスピーチがありました。
衆議院議員 遠山 清彦氏は、自身が幹事長を務める超党派の議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」について、50名超の議員が意見を交わす場となっていることを報告。立法府でのさらなる議論活発化に向けて尽力していきたいと述べました。
衆議院議員 藤野 保史氏は、2018年にオウム真理教事件に関与した元教団幹部13名を含む、計15名の死刑が執行されたことにふれ「今、多くの国民が死刑制度について考えを深めているのではないか。刑事司法のあり方について、国会でも党派を超えた積極的な活動をしていく」と決意を語りました。


遠山 清彦氏(衆議院議員・議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」幹事長)

遠山 清彦氏(衆議院議員・議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」幹事長)


藤野 保史氏(衆議院議員)

藤野 保史氏(衆議院議員)

また、仏教、キリスト教それぞれの立場から見た死刑制度について、宗教家2名がスピーチしました。
ローマカトリック教会枢機卿 前田 万葉氏は、死刑制度を考えるうえで根元となるのは「命の尊厳」であるとし、「たとえ国家であっても人を殺すことはできない。みんながそう理解できる社会になることを祈ります」と話しました。つづいて、公益財団法人全日本仏教会の顧問弁護士を務める長谷川 正浩氏は、同会では死刑および関連する刑罰制度の改革への本格的な取り組みが進んでいることを報告。「命の尊厳と人権的見地から、宗教者は死刑をどのように捉えるべきか」について、2019年中に方針が固まる予定であると伝えました。


前田 万葉氏(ローマカトリック教会枢機卿)

前田 万葉氏(ローマカトリック教会枢機卿)


長谷川 正浩氏(東京弁護士会所属・公益財団法人全日本仏教会 顧問弁護士)

長谷川 正浩氏(東京弁護士会所属・公益財団法人全日本仏教会 顧問弁護士)


アリスター・カーマイケル氏(英国国会議員)

アリスター・カーマイケル氏(英国国会議員)

つづいて登壇したのは、英国国会議員で弁護士でもあるアリスター・カーマイケル氏です。世界人権宣言の存在や、日本弁護士連合会が支援する袴田事件の再審請求に言及したカーマイケル氏は、「英国では世論の反対を押し切る形で死刑廃止に至ったが、今ではもう死刑を必要とする意見は少数派。世論が変わるのを待つのではなく、積極的に変化を起こしていくべき」と演説しました。

その後、ジャーナリスト 安田 純平氏をゲストに迎えた対談が行われました。テーマは「対テロ戦争における命」。聞き手は、同じくジャーナリストとして活躍する堀川 惠子氏です。安田氏は、自身の取材テーマである「対テロ戦争」に関して、「外」からテロリストと呼ばれている人々の実情は現地で取材してみないとわからないというエピソードを通じ、ジャーナリストとしての信条を語りました。真実がわからないまま「外」の社会がテロリスト=凶悪な存在としてカテゴライズすることで、人々が漠然と「排除してよいもの・殺してよいもの」と認識してしまう風潮に疑問を呈し、「当シンポジウムのテーマに共通性を感じる」と話しました。話題は2015年からシリアで3年4ヵ月にわたり拘束されていた間の過酷な状況、当時の心境にもおよび、堀川氏は、明日をもわからない状況で拘禁されることについて「袴田事件の袴田巌さんが、50年近く拘留されていたことを思い出さずにはいられない」と語り、後のパネルディスカッションへ話題を繋ぐこととなりました。


写真左:堀川 惠子氏(ジャーナリスト)/右:安田 純平氏(ジャーナリスト)

写真左:堀川 惠子氏(ジャーナリスト)/右:安田 純平氏(ジャーナリスト)

次いで登壇したのは、2019年2月に著作『国家が人を殺すとき 死刑を廃止すべき理由』(須藤正美訳、日本評論社、2019)の邦訳版を上梓したばかりのドイツ人ジャーナリスト ヘルムート・オルトナー氏。「死刑廃止は国際社会において推奨されるべきことである」と訴えかけました。
オルトナー氏はシンポジウム前日の3月1日、龍谷大学 深草キャンパスにおいて「海外ジャーナリストから見た日本の刑事司法・刑罰制度」と題した講演会でも登壇しました。その様子は以下でレポートしています。
【イベントレポート>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3308.html


ヘルムート・オルトナー氏(ドイツ人ジャーナリスト・編集者・著述家)

ヘルムート・オルトナー氏(ドイツ人ジャーナリスト・編集者・著述家)

さいごに、安田 純平氏、堀川 惠子氏、そして犯罪学研究センターで国際部門長を務める浜井 浩一(本学法学部教授)をパネリストに迎え、パネルディスカッションが行われました。昨今の日本では死刑と戦争について「死のリアリティ」が薄れているのではないか、という点に関して議論が進みました。
浜井教授は「死刑囚というと、まるで凶悪なモンスターのような人物像を想像しがちです。しかし、たとえばオウム真理教事件では、普通に暮らしていた若者たちが状況に流されるまま教団に入信し、罪をおかしてしまった経緯がある。その人たちへの死刑執行に対する社会の関心の薄さに危機感を覚えます」と語りました。それを受けて、長く死刑制度の取材を続ける堀川氏は「リアリティのなさは、情報が伝えられていないことが原因ではないでしょうか」と、テレビ局勤務時代に死刑の話題を取り上げることが困難だったことや、近年コラム執筆を依頼された際に「死刑の話題はNG」と条件がついたエピソードを紹介しました。安田氏は先の対談からの話題をつなぎ「いわゆる『対テロ戦争』に対する世間でのリアリティのなさは、『テロリスト』と一括りに表現する点に問題性があると思います」と指摘。浜井教授の発言に重ね「紛争地では戦争によって元の暮らしを破壊され、望まぬまま戦争に参加してしまっている人もいます。なのに、わかりやすい構図を示すために『テロリスト』というモンスター集団に仕立て上げることで、その存在から人間らしさを消している。人々が、紛争地に暮らす人のリアルな背景や死を考える機会を奪っていると感じます」とメディアの報道のあり方について疑問を投げかけました。
死刑制度の廃止に向けての課題として、堀川氏は死刑に携わる刑務官や教誨師の存在、また被害者遺族や元死刑囚の遺族が社会から孤立しがちな現状を取り上げ、「死刑について考えることは、私たちがどのような社会を築いていくかという問題でもあります」と語り、安田氏は「私は拘禁がいつまで続くかわからない状況だった時は、死んだ方がマシではないかと思いました。本人から自由を奪い続ける処罰という意味では、終身刑の方が残虐な部分もある」とし、死刑に代わり終身刑を検討するにも慎重な議論が必要であることを示唆。さいごに浜井教授が「死刑廃止は、国民が議論するだけでは実質的な制度改革にはつながりません。国際的な批判も高まっているなか、国家への信頼性の損失という面においても死刑制度を存置するメリットはない。死刑廃止を訴える政治家の方たちの、より一層の活躍に期待します」と語りました。

安田氏はシンポジウム翌日の3月3日(日)、龍谷大学 深草キャンパスにおいて「対テロ戦争における『いのち』~シリア拘束40か月の安田純平さんが、いま、京都で語る~」と題した公開講演会にも登壇しました。その様子は以下でレポートしています。
【イベントレポート>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3356.html


写真右より安田 純平氏(ジャーナリスト)/堀川 惠子氏(ジャーナリスト)/浜井 浩一(本学法学部教授・犯罪学研究センター 国際部門長)/安西 敦氏(弁護士)

写真右より安田 純平氏(ジャーナリスト)/堀川 惠子氏(ジャーナリスト)/浜井 浩一(本学法学部教授・犯罪学研究センター 国際部門長)/安西 敦氏(弁護士)


菊池 裕太郎氏(日本弁護士連合会 会長)

菊池 裕太郎氏(日本弁護士連合会 会長)

シンポジウムの締めくくりとして日本弁護士連合会 会長の菊池 裕太郎氏が閉会の挨拶に立ち、登壇者・参加者への謝辞を述べるとともに、「今後も専門家や政治家の方々と連携しながら死刑廃止への気運を高めていく」と宣言し、本シンポジウムが終了しました。
死刑制度のあり方についてさまざまな見地からの意見が交わされ、一人ひとりの命の尊厳を通し、社会のあり方について考える有意義なシンポジウムとなりました。


【本件のポイント】
・龍谷大学FD※1フォーラムの実施。今回で14回目。
・教育改革、教育改革の事例紹介を行い、教育改善に繋げていく。

【本件の概要】
 高等教育が目指すべき姿として、中央教育審議会 答申「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」で示されているように、「何を教えたか」から「何を学び、身に付けることができたのか」への学修者本位の教育への転換が今後ますます求められるようになってきます。
 本学では、教育改革・教育改善に資する取組を選定し、支援するための事業として、龍谷IP(Inventive
Program)・龍谷GP(Good Practice)事業を行っています。本フォーラムでは、同事業に選定されたものから、学修者本位の教育への転換をテーマにルーブリック※2やアクティブラーニングの取組で得た成果や課題を参加者の皆様と共有し、教育改善に繋げたいと考えています。

日時 :2019年3月25日(月) 13:30~16:15 (13:00受付開始)

場所 :龍谷大学深草学舎 和顔館 地下1階 B101室      

プログラム(予定):
 13:30~13:35 開会挨拶・趣旨説明 藤田和弘 学修支援・教育開発センター長
 13:35~14:20 学長挨拶      入澤 崇 学長
 13:40~14:20 事例報告①(文学部)「卒業論文ルーブリック※2の再検討~卒業論文はこのままでよいか~」 
 出羽孝行(文学部教務主任)・郷式 徹(文学部教授)
 14:20~15:00 事例報告②(法学部) 「法学部版アクティブラーニング推進事業~出口を意識した教育改革に向けて~」牛尾洋也(法学部教授)
 15:00~15:40 事例報告③(理工学部)「グローバル人材育成を目指すASEAN体感プログラム~ベトナムおよびシンガポールの大学・企業をめぐる理工系スタディツアー~」 宮武智弘(理工学部教授)
 15:55~16:10 その他報告(学修支援・教育開発センター)「龍谷大学における教学IRの取り組みについて」藤田和弘(学修支援・教育開発センター長)
 16:10~16:15 開会挨拶

※1 ファカルティ・ディベロプメント 、教育内容・方法等をはじめとする研究や研修を大学全体として組織的に行うこと
※2 学習到達度を示す評価基準を観点と尺度からなる表として示したもの

問い合わせ先…教学企画部  担当:木村、荒木   Tel 075-645-2163


 2018年3月13日(水)に、2018年度卒業論文ポスターセッションが、龍谷大学大宮キャンパス東黌1階 多目的エリアで開催されました。

 文学部では、異なる学科・専攻に所属する文学部関係者が互いの学びの成果を共有することで、学科・専攻の垣根を越えた知を獲得し、学部全体の活性化につなげることを目的として、卒業論文ポスターセッションを実施しております。今年度は真宗学科・仏教学科・哲学専攻・教育学専攻・日本語日本文学科から計6件の発表がありました。発表者および卒業論文テーマは次のとおりです。

□安武 慶哉(真宗学科)
【テーマ】ハワイ開教の実情と今後の展望

□中野 遼太郎(仏教学科)
【テーマ】庚申信仰と青面金剛

□楠 美幸(哲学科哲学専攻)
【テーマ】功利主義的自由論と死ぬ権利

□谷 すみれ(哲学科教育学専攻)
【テーマ】虚記憶の生起を減少させる反復と判断時間に関する検討
     弁別性の高さを操作したDRM課題を用いて

□長澤 敦士(哲学科教育学専攻)
【テーマ】学習支援ボランティアのエスノグラフィ
     学校外における学習支援の現場に着目して

□中村 実咲(日本語日本文学科)
【テーマ】平安女性の恋愛・婚姻における立場―『源氏物語』紫の上から見る理想の女性像―

 なお、3月24日(日)に、春のオープンキャンパスが龍谷大学深草キャンパスにて開催されます。そちらに今回の卒業論文ポスターセッションの内容を展示いたします。是非お越しいただきご覧ください。

 URL Ryukoku University Open Campus 2019
 
 URL 春のオープンキャンパス 学部学科紹介イベント 文学部






【本件のポイント】
・八幡市を訪れる外国人観光客に対して、コミュニケーションを取る方法として、「指さし会話集」を村田和代ゼミ生が作成
・八幡市と龍谷大学政策学部 村田和代ゼミが連携するインバウンドプロジェクト対応事業
・作成した「指さし会話集」を八幡市長に贈呈する贈呈式を挙行

 龍谷大学政策学部村田ゼミでは、2017(平成29)年度より八幡市と連携し、学生と外国人留学生等参加のモニターツアーの実施や外国語によるSNS発信により、インバウンド向けに八幡市のPRを行っています。八幡市の市内観光施設へニーズを調査した上で、外国人観光客が観光施設を訪れた際に、対応できるような施設の説明を含む観光案内や「指さし会話集」等の作成を行いました。

【「指さし会話集」の八幡市長への贈呈式 概要】
1.日 時
 2019(平成31)年3月29日(金) 午前11時~ (20~30分程度)

2.場 所
 八幡市役所(京都府八幡市八幡園内75)

3.贈呈式当日スケジュール
 ・学生からの「指さし会話集」完成の報告
 ・市長との意見交換会

4.「指さし会話集」について
 指さし会話集は、英語・繁体(はんたい)字(じ)・簡体(かんたい)字(じ)・韓国語の4言語で作成しています。作成にあたっては、学生が八幡市駅前観光案内所、松花堂庭園・美術館へ直接、聞き取りを行い、ニーズにあったものを分かりやすくまとめました。(「指さし会話集」は下記リンクよりご覧いただけます。)


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問い合わせ先:
 龍谷大学 政策学部教務課 担当:奥村・石倉 TEL:075-645-2285


龍谷大学 犯罪学研究センター(Criminology Research Center)では、犯罪をめぐる多様な〈知〉の融合と体系化を目的とし、現在14のユニットでの研究活動が行われています。
研究ユニットの1つである「政策評価」ユニットでは、浜井 浩一 ユニット長(本学法学部教授)のもと、犯罪学(犯罪防止)における科学的エビデンスの構築と共有を目的として、2000年に国際研究プロジェクトとして始まったキャンベル共同計画(Campbell Collaboration: C2)に協力した政策評価研究が行われています。

このたび犯罪学研究センター「政策評価」ユニットの2018年度の活動成果物として、龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号を発行しました。
同時に 犯罪学研究センターのウェブサイトでもPDFデータを公開いたします。
<掲載コンテンツ>
1. 虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア
2. 先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付


今回のレビューを通じて、エビデンスについて考える機会や成果を活用する機会が増える一助となることを期待しています。


「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。

「キャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)」は、社会、行動、教育の分野における介入の効果に関して、人々が正しい情報に基づいた判断を行うための援助することを目的する国際的な非営利団体です。


龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

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【PDFデータ】龍谷‐キャンベルシリーズ「キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー」第13号

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はしがき

2016年6月、龍谷大学は、「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界に海外にアピールすることを目指し、犯罪学研究センターを開設した。同センターは文部科学省私立大学研究ブランディング事業に採択された。これまで、『Ryukoku-Campbell Series』は、龍谷大学矯正・保護総合センターの研究プロジェクトの一つとして第11号まで発刊してきたが、その研究内容に鑑み、今後は、政策評価に関する研究プロジェクトの活動として犯罪学研究センターが引継ぐこととなり、本号がその2号目である。
このプロジェクトの目的の一つは、刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共同計画(Campbell Collaboration)と協力し、その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は、社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め、評価し、広めることを目的としている。龍谷大学では、これまでもキャンベル共同計画の日本代表である静岡県立大学の津富宏教授と協力し、キャンベル共同計画の成果の中でも「矯正・保護」、つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に、評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。
今後は、犯罪学研究センターの開設を契機として、キャンベル共同計画の日本語版ホームページの運用を含め更に連携を強化することとなった。そして、政策決定者、実務家、研究者に対して、その成果をより身近なものとして活用してもらうために発刊してきたブックレット『Ryukoku-Campbell Series』についても、犯罪者処遇だけでなくより幅広い犯罪対策をカバーして発刊する予定である。
本号に掲載するレビューとして選んだのは、「虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア」と「先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付」の2本である。前者は、虐待のために自宅から離された子どもの安全性、永続性、幸福感において、「親族を里親とした場合」と「非親族を里親とした場合」とで差があるのかどうかを検証したもので、後者は、貧しく恵まれていない家庭への金銭的援助は、相対的な貧困の状態を改善し、子どもの健康、福祉、学業上の習熟度を向上することにつながるかどうかを検証したものである。どちらも刑事政策ではなく、社会福祉政策を対象としたものであるが、少年司法と児童福祉とは密接に関係した領域であり、私たちにとっても重要な示唆を含んだ内容となっている。ぜひご一読願いたい。

各レビューのポイントを簡単に紹介する。
一つ目は、「虐待により家庭から保護された児童の安全、養育の永続性、ウェルビーイングのための親族ケア」である。これは、最近、欧米において、虐待によって親から引き離された子どもを、親族を里親として預けることが増加していることを背景に、里親が親族の場合と、そうでない場合とで子どもの安全性、永続性、幸福感(ウェルビーイング)に差があるかどうかを検証したものである。結論から言うと、虐待のために自宅から離されざるを得なかった子どもの安全性、安定性、幸福感を確保する観点からは、親族を里親とした子どもは、そうでない子どもよりも行動面や精神面の状態が優れていることが明らかとなった。親族が里親の場合には、全体に問題行動が少なく、行動も適応し、精神障害が少なく、感情面も良好であった。また、親族が里親の場合には、より安定し永続的な生活が経験でき、非親族の場合の子どもよりも組織的虐待を受けにくい傾向も指摘された。レビューでは、親族が里親の場合のほうが、そうでない場合よりも支援が少なくて済むことが明らかとなったが、最終的には、養子縁組か生みの親の元に戻ることが好ましい最終目標であると結論づけている。
二つ目は、「先進国の、低収入や社会的に不利な立場におかれた家族への小児保健および福利のための金銭的給付」である。このレビューは、恵まれていない家庭への金銭的援助が、相対的な貧困の状態を改善し、子どもの健康、福祉、学業上の習熟度を向上することにつながるかどうかを検証したものである。結論から言うと、金銭的援助だけではあまり効果は期待できなさそうである。少なくとも、レビューでは、金銭的利益を提供することが、子どもの健康や福祉を向上させる介入としてすぐに効果があると確信を持って言うことは出来ないと書かれている。ただし、支給された現金の使い道に制限が無かったことや、受給方法において厳格な条件をもうけていたことを考慮すると、この結論は一般化できないとも指摘されている。金銭的な福祉プログラムについては、直接的な金銭的援助よりも財政的なアクセスや財政に関する啓蒙的なアプローチのほうが効果的であるという研究もあり、貧困家庭などに対してどのような形での支援が効果的か、今後の成果が待たれる。
これまでのブックレットで津富宏教授が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー)ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。

龍谷大学犯罪学研究センター 政策評価ユニット長 浜井浩一


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