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龍谷大学 犯罪学研究センター(CrimRC)は、2022年7月7日(木)に、研究会(2022年度第1回)を開催しました。当日は当センターの関係者を中心に14名が参加しました。
研究会では、谷家優子氏(公認心理師、CrimRC「治療法学」ユニットメンバー)および札埜和男准教授(本学文学部、「法教育・法情報」ユニットメンバー)が報告し、津島昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター長)が司会進行を務めました。

はじめに、津島教授より開会のあいさつと趣旨説明が行われました。津島教授は「コロナ禍の影響により、長らく対面での研究会を開催することは困難だったが、今年度より再開する。今回はまだ試行的に関係者のみで行っているが、今後も継続開催を検討したい」と述べました。


津島昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター長)

報告1. 「大学生が抱く薬物依存の当事者に対するイメージの研究報告」


谷家 優子氏(公認心理師、CrimRC「治療法学」ユニットメンバー、
兵庫教育大学カウンセラー、京都文教大学非常勤講師・回復支援の会理事)

谷家氏は、京都文教大学で行った講義の受講生を対象とした「薬物依存の当事者と回復に関するスティグマ調査」*1について報告しました。谷家氏は講義で、薬物を取り巻く現状について、さまざまな観点(福祉・医療・教育・法制度)から、諸外国と国内の薬物政策を紹介。さらに、受講生に対し、薬物依存の当事者やその家族を支援する専門家による講演、施設見学やグループワークを通してダルクスタッフや入寮者と交流をする機会を設けました。そして、薬物依存症者を対象とした調査研究の成果を示しながら*2、受講生とともに「なぜ薬物を使用するに至ったのか」、その背景を理解することに努めました。谷家氏は、薬物使用に限らず、何らかの罪をおかした人の多くが、自身では解決できない問題(さまざまな暴力被害、被差別、貧困など)について、「自分が悪い」と自罰的で無力感に支配されるトラウマを抱えているとし、「そのような環境・プロセスにおいて生じたストレスに対処する(ストレスコーピング)ために、薬物依存や犯罪行為といった方法を選ばざるを得ない人たちがいることを理解しなければならない」と指摘。全15回の講義の受講生は、薬物依存に対するイメージがどのように変化したのでしょうか。
谷家氏は、依存症者に対するイメージが大きく変化したものとして「怖い」「乱暴」「挙動不審」など、変化しなかったものとして「ストレス耐性が弱い」「不健康」といった選択肢をあげました。そして薬物依存からの回復のイメージについて、講義初日には「一度でも薬物に手を出したら人生が破滅する」と考えていた受講生が大半でしたが、講義最終日には、「そうは思わない」と考える学生の割合が最多になりました。また、「薬物乱用防止教育に効果的と考える内容」という項目について、選択肢の中で「依存症の正確な知識の提供・学習」が1番に選択されたことは、講義前と講義後とで変化しませんでした。しかし、講義前には2番目に数の多かった「薬物依存の怖さや悲惨さのアピール」を選ぶ学生が講義後には減り、代わりに「回復の希望の提示」や「医療情報の提供」という選択肢が、2番目に多く選ばれるといった変化がみられました。そして、講義のグループワークの様子を映した動画を参加者に共有しながら、谷家氏は「今回の講義には一定の効果があったようだ」と述べ報告を終えました。
参加者から「講義の期間中に相談にくる受講生がいたのか」について質問がありました。谷家氏は「非常勤講師ということもあり、悩みの相談にのれる体制ではなかった」と述べました。他には、「ダメ。ゼッタイ。」*3運動から漏れる対象者(向精神薬や市販薬に依存している学生)が多数いるのではないかといった意見や、教育現場では防止教育に重きをおいているものの、薬物依存における薬物とは何かについて定義があいまいなまま対応していることへの危惧などの情報が共有されました。


谷家研究員による報告の様子

報告2.「犯罪方言学事始 -狂暴で反人権、時に砦そして笑い-」


札埜 和男准教授(本学文学部・CrimRC「法教育・法情報」ユニットメンバー)

札埜准教授より、刑事手続における捜査や取調べ、裁判の段階で現れる方言に焦点を当てた研究報告が行われました。犯罪方言学とはどのようなものなのでしょうか。札埜准教授は研究のきっかけとして、山田悦子*4氏の「虚偽自白、えん罪は方言のやりとりから生まれる」という証言をあげ、犯罪方言学は、「過去の行為の責任を追及すること(刑法学)にとどまらず、被害と加害で成り立つ現象を科学的に記述・分析し、将来に向かって悲劇を防止すること(犯罪学)を目指す。そのための手法として方言学の知見を活用する」と述べました。
札埜准教授は、これまでに刑事手続にかかわる関係者(警察、検察官、弁護士、そして被疑者・被告人)に聞き取り調査を行ってきました。結果、捜査側は相手の社会的地位・状況を見ながら「特殊な信頼に基づく人間関係を構築することを重要視する。そのための有効な手段として、比較的警察官は方言を多用する」傾向が明らかになりました。供述調書の録取においても、記述される文書にリアリティを与えるものとして、方言が重要視されます*5。しかし、一方で弁護士や取調を受けた人の立場からは、特殊な信頼関係、胸襟を開いて対象者から証言を引き出そうと方言を駆使するテクニックは、捜査側による心理的支配に他ならず、被疑者に対して「自分のことを親身に考えてくれているんだ、と思い込ませる偏った状況をつくる危険性がある」という証言があることも紹介しました。他の問題点として、「方言をめぐる解釈の違い」が取り上げられました。「同じ文化圏においても地域によって方言が違ったり、転勤で赴任してくる裁判官や検察官など、さまざまな要因が絡んで、迫真性を担保するための方言が、逆に真実を覆い隠してしまう落とし穴になる。今後の展望として、方言学、犯罪学、心理学などの研究チームを組織し、全都道府県の『取調べの方言』調査研究を進めたい」と札埜准教授は述べます。最後に、方言を利用したユニークな防犯啓発ポスターや警察官募集ポスターなどが紹介され、方言のもつ魅力や奥深さが参加者に共有されました。


札埜研究員による報告の様子

[脚注]
*1 谷家優子=松田美枝=加藤武士「薬物依存の当事者に対するイメージとその変化についての研究」『地域協働研究ジャーナル』第1巻(京都文教大学地域協働研究教育センター、2022年)19 – 31頁
http://id.nii.ac.jp/1431/00003264/ (京都文教大学・京都文教短期大学学術情報リポジトリ)

*2 谷家優子=加藤武士=石塚伸一「ダルクにおける利用者同士及び利用者とスタッフとの「良好な関係性」に関する研究」『龍谷法学』第54号第4号(龍谷大学法学会、2022年)447-500頁
https://mylibrary.ryukoku.ac.jp/iwjs0005opc/TD32162825 (龍谷大学学術機関リポジトリ)

*3「ダメ。ゼッタイ。」普及運動:​​1987年に、国連の「国際麻薬会議」において6月26日を「国際麻薬乱用撲滅デー」とすることが決定された。日本では、毎年6月20日から7月19日に周知キャンペーンが行われている。「ダメ。ゼッタイ。」の標語は、「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」が啓発活動推進のため策定した。
参照:
薬物乱用防止に関する情報(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/index.html#h2_free4
令和4年度『ダメ。ゼッタイ。』普及運動」報道発表資料(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000211828_00007.html
「ダメ。ゼッタイ。」普及運動とは(公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター)
https://www.dapc.or.jp/torikumi/01_spreading.html
「ダメ。ゼッタイ。」はダメなのか? 薬物乱用防止の標語で意見対立、反対派・擁護派に聞く(JIJI.com、2021年7月13日記事)
https://www.jiji.com/sp/v4?id=202107damezettai0001

*4  1974年3月兵庫県西宮市の知的障がい者施設・甲山学園で園児2人が死亡したいわゆる「甲山事件」において、当時、保母として当直をしていた山田さんが殺人容疑で逮捕された。事件発生から25年が経過し、1999年9月に大阪高裁で三度目の無罪判決が確定した。えん罪被害者である山田さんの雪冤には、起訴から21年の長い歳月を費やした。この事件では警察の強引な取調べ、犯罪報道の在り方などが問題となった。
参考文献:上田勝=山田悦子『甲山事件 えん罪のつくられ方』(現代人文社、2008年)

*5 水野谷幸夫=城祐一郎『Q&A実例 取調べの実際』(立花書房、2011年)70頁

【CrimRC関連News】:
2021.11.01  第27回「CrimRC公開研究会」開催レポート【犯罪学研究センター】
多角的な視点から性に関する知見を共有し、コミュニケーションとしての「同意」を考える。


2022.01.12 第2回オンライン高校生模擬裁判選手権 観戦レポート【犯罪学研究センター後援】
文学模擬裁判を通じて、人間や社会を考える眼差しを深める


2022年7月30日(土)、大垣書店(京都本店)にて「HANNA瀬田」の試飲会を開催しました。

「HANNA瀬田」は、龍谷大学の農学部と経営学部生による「香りブランディングプロジェクト」で開発したオリジナルブレンド紅茶です。
穏やかで優しく、秘めた情熱を持つ瀬田の学生たちのイメージを完熟りんごフレーバーで、緑豊かな瀬田キャンパスをサワーサップで、龍谷大学の持つ歴史や伝統をジャスミンで表現しています。

試飲会当日の京都はとても暑かったのですが、多くの方に来場いただき、爽やかなフレーバーを楽しんでいただきました。
学生たちは、本紅茶に込めた想いを説明し、「HANNA瀬田」を試飲した方からは「さっぱりとしていて暑い時期に良いですね」「とても爽やかでいい香りですね」などの意見をいただきました。

「HANNA瀬田」の販売については、大垣書店(京都本店)、近鉄百貨店(草津店)1階「近江路」にて販売しています。ぜひ足を運んでみてください。

【商品詳細】
商品名: 龍谷大学オリジナル紅茶『HANNA瀬田』
価 格: 1袋162円(税込)
内容量: 2.5g×一包

★大垣書店(京都本店)アクセス:https://www.books-ogaki.co.jp/stores/kyoto-honten/
 Twitter:https://twitter.com/k_honten_ogaki
 Instagram:https://www.instagram.com/p/CgcFzEkvyhn/?hl=ja

★近鉄百貨店(草津店):http://www.d-kintetsu.co.jp/store/kusatsu/






【本件のポイント】

  • 本学教員によるシーズ発表会「REC BIZ-NET(※1)研究会」を開催し、様々な分野にわたる最先端のシーズに触れていただく機会を提供
  • 野菜の園芸学を専門とし、受粉しなくても果実を形成する単為結果について、遺伝学的に取り組んでいる本学農学部の滝澤講師と、遺伝育種科学、統計科学を専門とし、ビッグデータから遺伝的パターンを抽出する研究をしている小野木准教授が講演


【本件の概要】
 私たちが日々口にしている農作物は、より美味しくより作りやすくするために様々な品種改良が行われています。品種改良の方法には、自然に発生した有用系統の選抜、有用系統同士の交配による交雑育種や遺伝子組み換えなどがあります。
 現在、最も利用されているのは交雑育種で、性質の異なる系統同士を交配して、その中から目的の性質を持つものを選抜します。しかし、品種改良には非常に長い時間がかかり、新しい品種ができるまでに数年から十数年かかることもあります。一方、現在、生命の設計図である全DNA配列情報を解析する技術の開発が進み、品種改良の方法も大きく変わりつつあります。
 本講演では、品種改良の効率化のために開発されたDNAマーカーやゲノミックセレクションといった技術について事例を交え、講演します。

1.開催日時  2022年9月2日(金)15:00~17:00
2.開催方法  ハイブリッド開催(Web+対面)
対面で参加される場合は、本学瀬田キャンパスRECホールへお越しください。
(先着20名限定)
※新型コロナウイルス感染拡大状況により対面での開催が取り止めになる場合があります。
3.テーマ  育種の可能性を切り拓く-ゲノム解析・データサイエンス技術を駆使して-

●講演1
タイトル:品種改良のためのDNAマーカー開発
講演者 :龍谷大学農学部 資源生物科学科 講師 滝澤 理仁
内 容 :DNAマーカーは、ある特定領域のDNAの塩基配列の違いを識別することにより、品種や個体を識別できるゲノム上の目印です。DNAマーカーを利用することにより、ある目的とする性質を有する個体を選抜したり、品種の系統解析を行うことができます。本講演では、講演者が研究対象としている「単為結果性」という性質を例に、DNAマーカーの開発方法と品種育成での利用例について紹介します。
滝澤講師の研究内容等は以下からご覧いただけます。
https://www.agr.ryukoku.ac.jp/teacher/takisawa.html

●講演2
タイトル:品種改良を加速するデータサイエンス 
講演者 :龍谷大学農学部 植物生命科学科 准教授 小野木 章雄 
内 容 :品種改良とは今より良いものを作るということ。そのためにはどれがいいか選ぶ必要があり、選択のためには栽培したり飼育したりする必要があります。しかし作物も家畜も生き物、実際に栽培・飼育するのは大変です。では栽培・飼育を「ゲノム情報からの予測」で置き換えることができれば・・・。本講演ではゲノム情報などのデータを使って品種改良を加速するデータサイエンス的アプローチについて、その理論や最先端の研究例、社会実装を紹介します。
小野木准教授の研究内容等は以下からご覧いただけます。
https://www.agr.ryukoku.ac.jp/teacher/onogi.html


5.申込方法     お問い合わせ先までご連絡ください。

※1 REC BIZ-NET(RECビジネスネットワーククラブ)とは
龍谷大学エクステンションセンター(REC)では、産学連携のマッチングや共同研究・プロジェクトの創成に向けて、地域の中小企業・ベンチャー企業を対象としたREC ビジネスネットワーク(REC BIZ-NET)を組織・運営しています。
REC BIZ-NETでは、定期的なセミナーの開催や課題別研究会の編成・プロジェクトの運営、RECフェローやコーディネータによる技術相談・経営相談等を通じて、会員企業と本学の産学連携や、会員企業間の交流の場を提供しています。
過年度の開催実績は以下からご覧ください。
https://rec.seta.ryukoku.ac.jp/iag/biznet/study_group.html


お問い合わせ先 : 龍谷エクステンションセンター(REC)滋賀 (担当者:高田)
[Tel] 077-544-7299  [E-Mail] rec@ad.ryukoku.ac.jp


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チラシ 第2回 REC BIZ-NET研究会「育種の可能性を切り拓く-ゲノム解析・データサイエンス技術を駆使して-」


龍谷大学 犯罪学研究センター(CrimRC)は、刑事司法・刑事弁護をテーマに、2022年7月11日、公開研究会・シリーズ「鴨志田祐美の弁護士放浪記」をオンラインで共催しました。本企画には約60名が参加しました。進行は、石塚伸一教授(法学部/犯罪学研究センター)がつとめました。
本企画は、大崎事件再審弁護団事務局長、日本弁護士連合会「再審法改正に関する特別部会」部会長をつとめる、鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)によるものです。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10719.html


鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)

鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)


はじめに
第2回のテーマは、「再審弁護とは~「針の穴にラクダ」を通すための手練手管~」です。はじめに石塚教授より「大崎事件の第4次再審請求に対する鹿児島地裁の決定は非常に残念な結果となりました。再審制度が“針の穴にラクダを通す”ほど大変な作業になっているという状況を含めて、鴨志田先生の体験をお話していただきたいと思います」という企画趣旨が述べられ、講演が始まりました。

大崎事件とは
1975年10月15日、鹿児島県大崎町で原口アヤ子さんの義弟(仮名:四郎)が、自宅横の牛小屋の堆肥の中から遺体で発見されました。事件直後、被害者の長兄(仮名:一郎)と次兄(仮名:二郎)が犯行を自認して逮捕されました。当初の自白は殺人・死体遺棄ともに2人の犯行という内容でしたが、その後、殺人についてはアヤ子さんの指示によるもので、死体遺棄は次兄の長男(仮名:太郎)も加えた4人によるものだという内容に大きく変遷しました。この共犯者らの供述を支える客観証拠はほとんどありませんでしたが、共犯者らは公判でも争わず有罪となり、控訴することなく服役しました。一方、アヤ子さんは一貫して犯行を否認しましたが、1980年3月31日、懲役10年の有罪判決を受けました。控訴、上告ともに棄却され、アヤ子さんは満期服役しました。


大崎事件の人物関係図

大崎事件の人物関係図

確定判決で認定された「犯行ストーリー」は、次の通りです。アヤ子さんは一家を取り仕切る存在でしたが、被害者の四郎は日ごろから酒癖が悪く、一家は四郎の存在を快く思っていませんでした。1975年10月12日、アヤ子さんは親族の結婚式に一郎、二郎、太郎とともに出席して午後7時ころに帰宅しました。一方、結婚式に出席しなかった四郎は、朝から飲酒をしており、夕方ころ一人で自転車に乗って食料品店にでかけ、買い物をして帰る途中、自転車ごと側溝に転落しました。そして何者かによって引き上げられ、道路に寝かされているところを午後8時ころに発見されました。この様子を知らされた近隣住民2名(IとT)は、軽トラックで四郎を迎えに行き、荷台に乗せて四郎方まで送り届け、上半身ずぶ濡れ、下半身裸の四郎を玄関土間において帰りました。午後9時ころ、IとTから連絡を受けたアヤ子さんはI方に行って四郎の様子を聞き、礼を言って午後10時30分ころ、Tとともに帰宅する途中、四郎の様子を見るために四郎方に寄りました。土間で泥酔して前後不覚になっている四郎を見て、アヤ子さんは日ごろからの恨みが募り、この機会に殺害しようと決意し、一郎と二郎に持ちかけると両名が承諾しました。午後11時ころ、四郎を殺害し、翌13日午前4時ころに4名で死体を牛小屋の堆肥の中に遺棄しました。
本事件の特徴は4つあります。1つ目はアヤ子さんの自白がないことです。取調べ段階から今日に至るまで、一貫して犯行を否認してきました。2つ目は「近親者による保険金目的の殺人」という思い込み捜査です。遺体発見直後から、「殺人事件」として捜査が開始され、さらにアヤ子さんが一族に生命保険をかけていたことから、「保険金目的の殺人」であるという思い込みで捜査がすすめられました。そのため四郎の「自転車事故」等の情報が捜査対象になりませんでした。3つ目は自白事件として扱われた共犯者らの公判手続きが同時並行で処理されたことです。アヤ子さんと共犯者らの公判手続きは形式的には分離されましたが、同じ裁判体で同時並行審理されました。そのため共犯者らが自白した犯行態様と遺体の解剖所見との矛盾、共犯者らの自白の信用性等が実質的にアヤ子さんの審理から欠落しました。4つ目は知的障がい者に対する配慮に欠けた審理であった点です。共犯者らはいずれも知的・精神的障がいを抱え、自己を防衛する能力を十分にもっていませんでしたが、確定判決審では障がいへの配慮に欠けた審理をすすめました。

4度の再審請求、3度の再審開始決定
アヤ子さんは服役中に仮釈放の申請を拒否して満期服役した後、現在に至るまで4度の再審請求(裁判のやり直しを求めること)を行っています。仮釈放の申請をするためには「罪を認めて反省する」必要があります。アヤ子さんは「犯していない罪について反省することはできない」と言って仮釈放の申請を拒否しました。


第1次再審~第3次再審の経過

第1次再審~第3次再審の経過

上にある通り、第1次再審請求では2002年3月26日の鹿児島地裁、第3次再審請求では2017年6月28日の鹿児島地裁、2018年3月12日の福岡高裁宮崎支部の検察官即時抗告の棄却(再審開始維持)と3つの裁判所が再審開始を支持しています。
第1次再審請求での主な新証拠は、法医学鑑定でした。確定審で司法解剖を担当して法医学鑑定を行った城哲男教授が「四郎の死因は頸部圧迫による窒息死」という自らの鑑定を修正し、事故死の可能性を示唆する法医学鑑定を行いました(城新鑑定)。請求審で鹿児島地裁は、城新鑑定の証明力を肯定して新旧全証拠の総合評価により再審開始決定を出しました(笹野決定)。しかし検察官が即時抗告を行い、即時抗告審で福岡高裁宮崎支部は城新証拠の証明力を否定しました。そして原決定の明白性判断の誤りを理由に開始決定を取り消し、請求が棄却されました(岡村決定)。
第2次再審請求での主な新証拠は、法医学鑑定と供述心理鑑定でした。供述心理鑑定では大橋靖史教授・高木光太郎教授が自白の心理の観点から、共犯者らの自白について「スキーマ・アプローチ」(供述者の語り方の特徴から、その供述が自らの体験に基づいて語られたものであるかどうかを分析する手法)を用いて鑑定しました(大橋・高木鑑定)。請求審で鹿児島地裁は鑑定人への尋問も、証拠開示に向けた訴訟指揮も行うことなく再審請求を棄却しました(中牟田決定)。しかし弁護側が即時抗告を行い、即時抗告審で福岡高裁宮崎支部が証拠開示勧告を行ったところ、213点の証拠が開示されました。さらに法医学・供述心理学の鑑定人に証人尋問を実施して、大橋・高木鑑定について証明力を肯定し、一郎・二郎の自白の信用性を「必ずしも/決して高くない」と判断しました。しかし、二郎の妻であるハナの目撃供述は信用できるとして、自白の信用性も肯定し、即時抗告は棄却されました(原田決定)。
第3次再審請求での主な新証拠は、法医学鑑定と供述心理鑑定でした。法医学鑑定で吉田謙一氏は四郎の遺体に死斑・血液就下がなく、頚椎椎体前の出血は窒息死の所見ではないと鑑定し、四郎の死因が「出血性ショック」であるとして死因を明確に示しました(吉田鑑定)。供述心理鑑定ではハナの目撃証言についてスキーマ・アプローチで供述の鑑定を行い、ハナの供述には非体験性兆候(証人が自らが体験していないことを証言しているときに見られる特徴)があると鑑定しました(大橋・高木新鑑定)。請求審で鹿児島地裁は吉田鑑定、大橋・高木新鑑定のいずれにも明白性を肯定し、再審開始決定を出しました。しかし検察官が即時抗告を行い、即時抗告審で福岡高裁宮崎支部は大橋・高木新鑑定の証拠能力を否定したものの、吉田鑑定の証明力を高く評価し、四郎は自宅到着時に死亡or瀕死の可能性があったとしました。そして「生きている四郎を土間に置いた」というIとTの供述の信用性が減殺され、「アヤ子さんが土間で四郎を目撃して殺意を生じたところから始まる確定判決の犯行ストーリーは成り立たない」として検察官の即時抗告を棄却、再審開始を維持しました(根本決定)。これに対し検察官が特別抗告を行い、特別抗告審で最高裁第一小法廷は検察官の特別抗告について「判例違反をいう点を含め、実質は法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない」としました。しかし最高裁は事実調べをすることなく職権で調査を行って吉田鑑定の明白性を否定し、再審開始決定を破棄するだけでなく、再審請求を棄却しました(小池決定)。
確定判決による犯行ストーリーが成立する絶対的条件は、午後10時半の時点で「生きている」四郎が土間にいることです。そこで第4次再審請求では、①四郎は午後10時半より前に死亡していたこと、②「生きている四郎を四郎方土間に置いて帰った」というIとTの供述が虚偽であることを明らかにすることを目指しました。①について澤野誠教授による医学鑑定(澤野鑑定)、②については稲葉光行教授による供述鑑定(稲葉鑑定)と大橋教授・高木教授による供述心理鑑定(大橋・高木鑑定)を提出しました。澤野鑑定では救命救急医の観点から、四郎の死因は非閉塞性腸管虚血(腸閉塞が存在しないにもかかわらず腸管に血流障害が起こる疾患)による広範な小腸腸管壊死であり、また、IとTによる不適切な搬送によって、四郎が転落事故時に負った頚髄損傷がさらに悪化し、四郎方到着より前に呼吸停止に陥り死亡したことが確実であると鑑定しました。これは四郎の死因を「窒息死」とした城旧鑑定とIとTの供述の証明力を大幅に減殺しています。また「生きている」四郎を四郎方に置いてきたとするIとTの供述について稲葉鑑定のテキストマイニング(証言についてコンピュータを用いて数量的に解析する手法)と大橋・高木鑑定の結果は非体験性兆候があるとして結論が一致しており、IとTの供述の証明力を減殺しています。さらにIとTによる四郎の搬送状況の実写再現ビデオと四郎を送り届けた場面の3DCG再現を新証拠として提出し、視覚的にわかりやすい説明を目指しました。

第4次再審鹿児島地裁(中田)決定とその問題点
2022年1月28日に検察官が最終意見書を提出し(弁護団は法廷で最終プレゼンテーションを行い)、第4次請求審の審理は終結しました。ところが2022年6月22日、鹿児島地裁は再審請求を棄却しました(中田幹人裁判長)。中田決定は「澤野鑑定、稲葉鑑定、大橋・高木鑑定の内容を総合して考慮しても、IとTの供述の信用性が減殺されるとはいえず、客観的状況からも事実の推認は左右されない」と判断しました。
中田決定には問題点が4点あります。1つ目は科学的証拠の証明力評価の誤りです。澤野鑑定の「転落時に生じた頚髄損傷がIとTの搬送によりさらに悪化し、数分で呼吸停止により死に至った」可能性を中田決定は認めています。にもかかわらずIとTの供述や共犯者らの自白の信用性が減殺されないという結論はありえません。2つ目は明白性判断の方法論の誤りです。澤野鑑定の証明力を認めている以上、その明白性判断は「新旧全証拠の総合評価」によって行うべきです。「立証命題に関連する他の証拠」としか対比させていない中田決定は判例違反と言えます。3つ目は累次の再審で旧証拠の証明力が減殺されていることを無視している点です。「共犯者」自白の信用性、ハナの目撃供述の信用性、IとTの供述の信用性は第1次~第3次の再審請求で既に減殺されています。累次の再審の証拠も総合評価に加えず無視することは認められません。4つ目は「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則を無視している点です。澤野鑑定によって別の死の機序が具体的に示されています。しかし中田鑑定は「ひとつの可能性に過ぎない」として証明力を矮小化する一方、IとTが死体遺棄を行った可能性については「およそ考え難い」として思考上の可能性のみで決めつけています。
証拠開示手続き規定がないことで再審請求審には裁判所によって格差があること、3度も再審開始決定が出ているにもかかわらず検察官の再審妨害によって再審が行われないこと、など、大崎事件からは再審制度の問題点を改めて感じざるを得ません。大崎事件弁護団の闘いは続きます。今回の決定を教訓に、車の両輪として、再審法の改正を一刻も早く実現させる必要があります。

第3回のテーマは、「非法律的スキル」~弁護団のマネージメント、マスコミ戦略~です。
是非、ご参加ください。

【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10860.html​】

当日の記録映像をYouTubeにて公開しています。ぜひレポートとあわせてご覧ください。
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