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犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)のコラムを紹介します。

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COVID-19現象をめぐるフェイクニュース
~ 経済至上主義の危うさ ~


社会においてリスクが極度に高まり、それが現実化すると、―コロナウイルス問題であれば―その終結がいつなのかを見通しがたたないがために極端に社会的な不安が高まる時があります。先が見えない怖さです。このような状況に社会が置かれた時、人々は「安全・治安」対「人権」という対立構図を無批判的に受け入れてしまう恐れがあります。その際、前者が至上の価値であるかのように喧伝されるのです。本来、人間の尊厳を人権の中核としながら個人の生命や自由は国家からの不当な干渉を受けず、かつ同時に国家はこれらを保障することこそが近代立憲主義国家の根本的理念であるはずです。ここでは、国家の下に市民がいるのではありません。市民がいてこその国家なのです。しかし、緊急状況の中では、「国家からの自由」ではなく、「国家による安全そして自由」という、国家への求心が生じることがあります。しかも安全が自由に優越するのです。同時に国家への従順も生じます。そこで政府は危機の克服と称して、行政権力を行使して様々な制限を設けます。このような制限が必要性や相当性など、合理性について(国会などでの)議論を経ることなく「緊急事態」の名のもとに矢継ぎ早に行われてしまうと、安全の名のもとに社会の決定システムとしての民主主義が無意識のうちに瓦解してしまいます。

民主主義制度は、自由で対等かつ平等な市民の参加を前提とします。しかし民主主義が瓦解ないし骨抜きにされてしまうと、自由で対等な立場で発言する人や行動する人はむしろ社会の「敵」と見なされてしまいます。緊急事態における政府による例外的とされる措置や立法こそに権力の本質が表れるのではないでしょうか。この敵探しにより事態の本質は見えなくなります。その敵とはウイルスではなく、特定の人や場所へとすり替わっていきます。感染者、感染者が出た店、感染者の多い地域というように。私たちは無意識のうちに権利とは市民が享受するもので、敵は排除の対象と考えています。そうすると、無批判的に、はたまた善意から官民協力でリスト化とマッピングが行われ、その情報を提供するためのアプリなどを登場するのではないでしょうか。このリスク・コロナウイルス問題は個人ではどうしようもない、簡単に言えば私たちの自然環境資源搾取型の生活・スタイルに起源があり、これを解決しないと本来的に問題はなくなりません。しかし、これに市民が気づいてしまうと企業やこれに支えられた政権にとっては都合が悪い。彼らの基盤が危うくなるからです。つまり、今自分たちの意向通りにお金が、経済が、社会が動いている人たちにとっては、自然環境などは自分たちの生産道具に過ぎないのです。だから自然改造などと平気で言ってしまいます。

このような認識では、そもそもウイルスの発生がジャングルの伐採などに根本的に端を発するなどとは考えず、いま目に見える発生源、中国の海鮮市場や感染者とその周辺の人という形でターゲットがずらされ、リスクなのは「お金」ではなく特定の「危険な人」と認識転換が生じる恐れがあります。コロナウイルス問題では生命が関わりますから、いのちの名のもとに良心から差別が生じる恐れがあります。庇うべきはコロナウイルスに感染した人・被害者なのに、彼らが社会の危険分子・敵に変わってしまいます。

オリンピックはお金の塊のようなイベントです。東京での開催延期が発表されるまでは、日本における感染者数も死亡者数も極端に少なかった。しかし、延期が発表された直後に増えてくる。日本人って真面目ですね。「病気になりません、勝つまでは」。これはフェイクニュースです。政権や東京都が自分たちに都合よくウイルス蔓延の原因を日本社会の中で隠しているのが現状です。


金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)


金 尚均(きむ さんぎゅん)
本学法学部教授、犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット
<プロフィール>
差別問題を研究し、著書に『差別表現の法的規制:排除社会へのプレリュードとしてのヘイト・スピーチ』(法律文化社)などがあるほか、講演会や勉強会、シンポジウムでも精力的に発表を行っている。

関連記事:
>>【犯罪学研究センター】ヘイト・クライムユニット長 インタビュー
>>Interview with Hate Crime Unit Director | Criminology Research Center, Ryukoku University


【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/


Prof. Masahiro TSUSHIMA

Prof. Masahiro TSUSHIMA


Prof. Masahiro TSUSHIMA
Professor, Faculty of Sociology, Ryukoku University; Director, Research Section; Director, Sociological Criminology Unit, and Quantitative and Qualitative Methodologies Unit, Criminology Research Center
[Profile]:
Prof. Tsushima specializes in sociological criminology and social statistics and has an established reputation for the use of statistics in research. His current focus of research includes crime victimization surveys.

Grasping the Realities of the World through Social Study
Criminology approaches issues of crime from various academic disciplines, including psychology, sociology, and biology. At our research unit, we use questionnaires to conduct surveys based on a belief that crime is a product of society. These surveys allow us to analyze responses from randomly extracted samples (survey participants) in a target group and then to make statistical inferences about the tendencies of that target group.

What We Learned from the Survey on Violence against Women
In Japan, crime statistics are mainly based on police statistics collected from cases already known to the police or from other public institutions. Police statistics do not contain unrecorded crimes that the victim did not report to the police for whatever reason. This makes it difficult to ascertain an accurate picture of crime events and annual trends based on police statistics. One method of circumventing this problem is by using questionnaires to conduct a survey of crime victimization. Crime victimization surveys ask people whether they have experienced victimization, and for each crime incident, ask the victims whether the crime was reported to police, thereby giving us a good idea of what proportion of crimes go unreported. Crimes not included in police statistics are called the “dark figure” of crime. An important part of criminology research involves checking for this dark figure in order to truly understand the situation.
The “Survey of Violence against Women” we conducted in 2016 is one example of a study that illustrates this dark figure. The survey collected 741 responses from a target sample of 2448 women residing in the Kinki region of Japan. Of these 741 women, 126 (17%) said they had experienced physical violence or sexual violence. Of those 126 women, 53 said they experienced violence by a partner, such as a husband or a boyfriend, and when asked if they reported it to the police none of them said that they had. By contrast, of the 59 women who experienced violence by someone other than a partner, 7 (12%) reported it to the police. This showed that the majority of violence experienced by women, and especially violence by a partner, does not appear in police statistics. An identical survey conducted in the European Union (EU) in 2012 found that 14 % of women who experienced violence by a partner, and 13 % of women who experienced violence by someone other than a partner reported it to the police. This reveals a huge difference between Japan and the EU in terms of the ratio of partner violence reported to the police.
We can hypothesize that owing to aspects of Japanese culture in which family issues are ‘kept under one’s own roof’, this leads to a tendency not to reveal the violence that occurs in intimate relationships.

A New Initiative to Study the Perpetrators of Crime
The International Self-Report Delinquency Study (ISRD) is a large-scale international comparative research study currently ongoing with teams participating in 35 countries. Started in 1990, the ISRD is an ambitious international project which conducts standardized self-report questionnaires on delinquency among middle school students throughout the world and to compare the results across countries. Self-report surveys are said to be useful for revealing the characteristics and backgrounds of perpetrators of crime and for testing criminological theories. As in the above-mentioned survey of violence against women, the cross-national data analysis can also reveal similarities and differences between Japan and other countries. Despite this, Japan has not yet participated in the ISRD study. By representing Japan as a participant in the ISRD, the Criminology Research Center hopes to increase international awareness of both Japanese criminology and Ryukoku University.

In summary, by studying the victims and the perpetrators of crime, our research unit attempts to identify family and social environments closely linked to crime and delinquency, and to carry out research useful for predicting and controlling crime and delinquency. In addition, young scholars who join our unit will learn the knowledge and skills required to conduct self-report delinquency surveys, and develop an international career through firsthand experience in collaborative research with foreign researchers and presenting at international meetings and conferences. As such, our unit serves to foster criminologists for the next generation who will be responsible for leading Japanese criminology in the future.




2020年3月、犯罪学研究センターは、第17回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約10名が参加しました。

今回の研究会では、「エラスムス・プラス(Erasmus+)」*1を利用して2020年2月〜3月に龍谷大学へ短期留学したマイケル・コリアンドリス(Michael Coliandris)氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)、2019年から龍谷大学犯罪研究センターで研究活動を行っているシャンタル・ピヨーク(Chantal PIOCH)氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)の2名による研究報告が行われました。


マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)

マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)

はじめに、マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)による「イングランドとウェールズでのドローンテクノロジーと警察活動」”Drone Technology and Policing in England & Wales”の報告が行われました。コリアンドリス氏はまず、イギリスのイングランドとウェールズ地方を中心に警察組織がどのようにドローンを活用しようとしているのか、そのプロセスについて紹介しました。

イギリスでのドローンの使用は、民間航空局(Civil Aviation Authority: CAA)によって規制されています。しかし、ドローンによる犯罪が新たな脅威として認識されるなかで、立法の整備が行われています。ドローンは経済的・社会的利益をもたらす一方で、新たな脅威やリスクをもたらします。コリアンドリス氏の研究対象は、以下の2つです。
 1.警察によるドローン利用の文脈についての分析
 2.警察組織のなかでイノベーションが起こる方法と理由の分析
コリアンドリス氏は、「警察は、犯罪への対応、円滑な資源の投入、それらが公にアピールできているかなどの諸問題解決のために、常にイノベーションを求めている」と述べます。ドローンはデータ収集技術が優れており、パトロールや捜査、救助などの場面で活用されています。しかし課題点として、パイロットの育成に時間がかかる点や多額の費用がかかる点、技術的にまだ発展途上である点など、本格的に警察活動機能を担うには難しい側面が多いと説明します。


イギリス国内で警察が運用しているドローンの数

イギリス国内で警察が運用しているドローンの数


そのため、コリアンドリス氏は「即時的にドローンなどの新しい手法が全土に導入されるわけではない」として、イノベーションが社会システムの構成員の間で伝達される過程に着目します。コリアンドリス氏は「Innovation Curve(イノベーションS字曲線)」*2を用いながら「アーリーアダプター(初期採用層)がどのように警察組織の内部で生まれ、周囲に働きかけるのかという点に関心を寄せている」と述べます。
コリアンドリス氏は、これまで1年かけてさまざまな場所に赴き、関係者にインタビューを重ね①警察は何を達成したいのか?、②新しい試みがうまく行かないときにはどのようにするのか?、③従来の方法よりも新しい試みを採用しようとするのはなぜなのか?について調査しました。しかし、イギリスにおいて警察研究は伝統的に困難が伴うことに言及。警察組織の「閉鎖された階級」と「部外者を疑うという体質」によって、情報を得るにはいろいろな制約があるからです。また、警察研究をする上で「私は警察のために研究をしているのか?それとも警察について研究をしているのか?」といった研究者としての姿勢が常に問われる、と言います。
さいごに、コリアンドリス氏は、「①イギリスの警察が“学習”と“安全”という文化を重視し、絶え間ないスキルアップのプロセスをもっていること、②そのスキルアッププログラムの成功は、プログラムを成功させるための資源とそれに対応できる個人(アーリーアダプター)に依存する可能性があること、そして③イノベーションは単に“発生する”のではなく、関係機関や世論、政治、等さまざまな外部との“交渉”によって成し遂げられる」と述べ、報告を終えました。


シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)

シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)

つづいて、シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)による「日本における特有な2つの現象の学際的研究」”TRANSDISCIPLINARY STUDY OF A DOUBLE PHENOMENON UNIQUE IN JAPAN”の報告が行われました。ピヨーク氏は、日本では性的暴力による犯罪が少なく、カナダと比べて11倍もの差があった(1つ目の日本特有の現象)ことを知ったことがきっかけで、日本に興味を覚え、カナダとの比較研究をするために来日しました。

ピヨーク氏は「カナダとの比較調査を経てわかったことは、データ上は相違点よりも類似点の方が多いということ。この観察データだけでは日本の性暴力率の低さを説明するのに十分ではないと考えるに至った」と述べます。つづいて、日本では男性向けの性的な素材が公共空間の中で突出していること(2つ目の日本特有の現象)に言及。ピヨーク氏は「この実態は、性暴力がポルノの影響を受けていることは自明的であるとする仮説と矛盾しているのではないか」とカナダの実態と比較して指摘します。そこで研究対象を少し修正して、「男性の性事情および公共空間についての調査を行っている」とピヨーク氏自身の研究について説明しました。
研究手法は、グラウンデッド・セオリー*3を用いての調査です。ピヨーク氏は「この手法は出発点である仮説を設けず、価値判断や偏見や先入観を持たず、可能な限りオープンに共感を持って観察し、積極的に聞くことが推奨される継続的で反復的な分析プロセスである」と説明。公共空間の掲示物、マスメディア、ソーシャルメディア、雑誌等いろいろな媒体やデータを収集・分析中であるとし、実際報告の中で紹介された資料の内容は多岐にわたるものでした。そして、「現在は、日本人男性を対象にビデオ形式やテキスト形式でのインタビュー調査中で、引き続き日本人男性および日本文化、公共空間について研究を続行する」と報告を締め括りました。

さいごに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)より、コリアンドリス氏へ記念品の贈呈がなされました。コリアンドリス氏は、「エラスムス・プラス(Erasmus+)」*1を利用してカーディフ大学から本学へ約1ヵ月留学されていました。この度、本研究会をもって帰国されることとなりました。今後のコリアンドリス氏のさらなるご活躍をお祈りしています。



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【補注】
*1「エラスムス・プラス(Erasmus+)」
欧州連合代表部が主宰するEUの教育助成プログラム。欧州とそれ以外の地域との学生・研究者の交流を通して、大学間の連携を強化し、欧州の高等教育の質と競争力を改善することを目的としたプログラム。
留学を支援する「国際単位移動制度(International Credit Mobility-ICM)」において、欧州外の学生は、欧州内の大学と欧州外の大学との間の協定に基づいた3カ月〜12カ月までの単位認定留学プログラムに参加可能。留学先の大学(ホスト校)で取得した単位が在籍校で認定される。教員・職員の場合、欧州のパートナー大学で5日〜2カ月まで教えたり研修に参加したりすることが可能。なお、2015〜2018年の間にこの制度を利用して日本と欧州間で約2,000人の学生とスタッフが留学、研修、教育に参加している。

*2 「Innovation Curve(イノベーションS字曲線)」
1962年、社会学者のエヴェリット・ロジャースが著書“Diffusion of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』)で提唱した普及学(Diffusion of innovations)で使用されるグラフ。新しいアイデアや技術が社会にどのように普及するかを、普及率(縦)と時間(横)の軸を用いてグラフ化すると、S字型の曲線を描くため「イノベーションS字曲線」と呼ばれる。派生した領域にイノベーター理論がある。

*3グラウンデッド・セオリー(GTA)
グラウンデッド・セオリーとは、1996年に社会学者のバーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって提唱された、質的な社会調査の一つの手法である。具体的には、データを文章化し、その文章を基にカテゴリーをつけ、客観的にそれぞれの事象から理論又は仮説を組み立てる。
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【関連記事】
>>2018.3.23 英・カーディフ大学にて現地スタッフと犯罪学研究センターの交流セミナーを開催
>>2019.04.12 EU推進の留学・学術交流プログラム「エラスムス・プラス」により龍谷大学とカーディフ大学(英国)が協定を締結


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